ベニスに入った茂はMボートの貨物室に入ってそこで装備を整えていた。
元々、八輪トラックを改造(シャーシ以外ほとんど新造)した物のため中は広い部分があり、砲弾を満載しなければ中に荷物を置く事ができた。
普段は幌を下ろしている影響で荷台部分は真っ暗だし、運転席に乗っている奴しか外の日光を浴びれないと言う欠点もあった。
しかし、元々偽装特殊艇のため致し方がないにしろ。これは中々にキツイ。幌を出している時はキャノピーですら開けられないのだからまぁまぁ不便だ。
「よし、そろそろ目的地よ」
「了解」
前橋がそう言うと、茂は貨物室からハッチを開けて上に上がる。乗ってきたビートルは郊外の駐車場に止め、人目に付かない裏路地でトラックを直接水面に下ろしていた。今は船として航行しているので非常に速度は遅く、ゆったりとした速度で水路を進んでいた。
この町では水陸両用車が至る所を走っており、陸地の部分には水路沿いに路面電車が走り回っていた。
この街は道が細い上に観光客が多いので車は基本的に郊外に停めて、市内移動は路面電車か水上バスがメインであった。水路の中でも広い主水路はタンカー船が並列で走れるくらい広かった。
そして、四台のMボートはそのまま市内の水路を進み、細い水路を通るとそのままコンクリート製の坂を登り、そのまま水を流しながらトラックは市内に戻った。因みに水上航行の時はこっそり演算機を起動させ、無理矢理反対方向に進ませていた。教国は共和国や帝国のように魔導レーダーを実用化させておらず、ベニスに市内全域をカバーするほどの魔導レーダーは設置されていなかった。
「よし、此処なら大丈夫だろう」
そう呟くと茂は荷台から飛び出し、そのまま三七式魔法演算機を使って上に飛ぶ。片手にはフェドロフがあり、いつも通りの漆黒の降下猟兵の軍服を身に纏っていた。よく見る光景となったが、時折思う事がある。
南部茂は自分達をどう思っているのだろうか。
そんなの、たいして興味がなかったと言うかもしれないが。自分達が気になっているのはそこでは無い。
南部茂は自分達をどう見ているのか。
嘗て、小野寺親衛隊は主に南部茂を虐めていた。しかし、小野寺のあの凶変した顔を見て、誰を信頼するべきか分からなくなっていた。
正直、立川が突き落とされた事実から小野寺に対して疑心感が生まれていたが、ルテティアでのあの一件で完全に小野寺はヤバい奴認識へと変わった。そして、事実上のトップを失った自分達は新たに自分達を導いてくれる存在として藁おも縋る思いで南部茂に頼った。正直、相手にされないと思っていたが、彼はそんな自分達を率いてくれた。だからこそ、怖い部分もあった。どうしてそこまで自分達を受け入れてくれるのかと……
正直、南部茂が何を考えているのか分からない。だけど、彼の計画を聞いて自分達はそれに賭ける選択を取った。生き残る確率は五分五分であるが、それしか方法がないのだ。この世界に残りたいとは思わない。なぜなら、幾ら能力が高いといっても顔の特異的な作りから差別と言うものがやはり残っており、生活しづらかったからだ。
この世界に日本人のような平べったい顔のパーツを持つ人は殆ど見かけない。それはつまり、普通の人とは違う顔つきであると言う事。そして、歴史上少数の勢力は多数の勢力に負けてしまう。それは、民族浄化ほどでは無いが、差別の対象になる訳であった。
それに、自分達は本来は違法な方法でやって来たいわば大罪人。この世界で処刑されるくらいならとっとと帰りたいのが根底にあった。
『こちら、エンジェル。配置についた』
「了解、こっちはいつでも砲撃が出来る」
そして砲口に消音魔法を多重展開し、中には炸薬を減らした亜音速砲弾を装填。街の駐車場に前向き駐車された一台のMボートは幌を外して砲撃姿勢をとる。他の車両はビルに近づいて停車し、蓮子率いる偵察部隊などのバックアップを担当する予定だ。
周囲に人影なし、いつでも砲撃可能だ。
魔法ってのはこんな大砲の音ですら消してくれる便利な能力だと思いながら二号車車長の厚木は双眼鏡で前に映るビルを眺める。
「ふぅ〜……撃て!」
その瞬間、無音の不気味な発砲炎から飛び出した一発の徹甲榴弾はそのまま街の上を直進し、そのまま街の一つのビルに着弾する。その瞬間、ビルの上が丸ごと爆発していた。
厚木の車両の砲撃で抵抗軍の保有する港湾ビルに穴が開く。軽く瓦礫が散乱し、慌てて周囲にいた人たちは逃げ始める。死人が出ないように大きな瓦礫は魔法で破壊している。此処は陸地と水路の境目で陸にに逃げる道が多く存在した。すぐに走って逃げられるだろう。
「突入!」
そして、蓮子達と共に中に『突撃!今日の強襲!!』をして中に入る。そして真上を駆け上がり、そのまま砲撃行った部屋まで上がる。蓮子達は周りで警察が来るのを警戒していた。
埃が充満する中、茂は部屋を漁る。此処に今日は会合があったのは確認済み。と言うか会合を狙って撃ったのだが……
「死体は…無いか……」
そこには人がいた痕跡はなく。結構派手に騒動を起こしたので警察が来るのも時間の問題。残った資料をかき集めていると不思議なメモを見つけた。
それは破壊された机の棚の割れ口に挟まっており、茂は何故かそのメモが気になってしまった。
「これは……?」
そしてメモを見ようとした時、蓮子から無線が入る。
『五時方向から警察が来たわ』
「了解、撤収する」
収穫は殆ど無しだったかと思いながら茂は穴から逃げ出していた。
今日の天候は快晴。サンサンに照る太陽がほんのり暖かいと感じながらベニス市内の屋根を一つの影が飛ぶ。先ほどの攻撃でゾロゾロと警察が集まっているのを見ながら茂は屋根上から駐車場に停まっていた撤退用のMボートに乗り込む。
「お疲れ」
「ああ……離れるぞ」
「了解」
立川が茂を出迎えるとそのままMボートは街の郊外に向けて走り出す。合流地点は伝えた、後は街からさっさと逃げて共和国に帰れば良い話。
あそこが抵抗軍の拠点である事は次第に判明するはずだ。とすると、教国側は混乱するはずだからその隙に出国する手筈だった。そして、あの爆発も事故か、抵抗軍同士の揉め事として片付けられるだろう。
帰る道の途中、Mボートの貨物室で先ほど回収した気になったメモを見る。
『艦ノ煤煙ラシキモノ見ユ』
その下には『タタタタタタタモ一二八OTセ』と書かれていた。その文面だけを読むと、茂の脳裏には日本海海戦の前に偵察を行なっていた信濃丸が司令部に送った電文が脳裏に過ぎる。少なくともこんな暗号を作るなんてどんな意味があるのか……
いや、それよりもこんな物を書いたのは誰なのか…まぁ、一人しかいないのだが……
「(どう言う意味だ……?)」
茂はMボートの貨物室で疑問に思いながら装備を外していた。
大隊長は何を考えているのか分からない。
それは、部隊内では最早当たり前の事と化している現象だが、側から見ればとんでも無いことなのだろう。だが、作戦行動中の話では無い。一般の……所謂作戦状態では無い時間帯での話だ。
あの人は良く我々に思いもよらない方法でチェスの大番狂せをする事が多々ある。それは大隊長の戦闘にも出ており、あの人は敵のど真ん中に速度を生かして突入するのだ。そしてフェドロフで敵を撃ち抜く。魔法兵が居ようが、保有する桁違いの魔力を詰めて超臨界状態の魔法弾でまとめて撃ち抜く。あの銃撃の耐えられる魔法兵は居ないだろう。
「パパ?」
「ん?どうした」
休暇中のコンラートは娘に呼ばれて意識が戻ると、聞き返す。すると、娘のマリーはコンラートに少し不思議そうに聞く。
「パパ、何か考えていた?」
「あぁ、少しな……」
そういえば、あの大隊長はまだ結婚の予定とかあるのだろうか?まぁ、コルネリウス参謀の子だから見合いの人とか多そうだ……
戦争が終わり、多くの兵士が辞めて通常の仕事に戻っていく中。職業軍人の我々はまだ、軍に勤務していた。
戦争が終わって半年、国内にはテロリストである抵抗軍がテロ行為を行い、国内の不安は高まっていた。詳しい事情を知っているが、家族に言うことは許されない。書類上、第五〇〇降下猟兵部隊は解体されており、自分は再編された部隊の中隊長を務めていた。
しかし、テロ組織と戦っている事は長年自分と生活していたからか、妻も分かっているようだ。だから、毎回家を出る時は戦時と変わらず毎回ハグをして出かける。
こうして、家族に会える頻度が増えたのも戦争が終わった証拠であるが、自分達の戦争はまだ終わった訳では無い。第一、今でも少佐が仕事をしているのに部下が休暇を取っているのも後ろめたい話だ。家族にも申し訳なく思ってしまうし、自分も戦争から帰って来た時に娘の成長ぶりを見て少し驚いてしまった物だ。
あの人はこの前新編された第四、第五中隊を率いて抵抗軍の調査をしていると言うでは無いか。詳しく話してもらえないのが癪ではあるが……
少佐はニョルニル作戦時に捕らえた転移者達を自分達の休暇中に突貫で訓練を行い、自分の部隊に組み込んでいた。正直、何を考えているのか初めは分からなかった。流石にこれには少佐を問い詰めてしまう程疑問に思っていた。
「(一体、何をするつもりなのか……)」
コンラートは家で久しぶりの休暇だと言うのに仕事の事を考えていると、奥から出て来た女性。妻のダイナにやや不満げに声をかけられる。
「また、仕事の事ですか?」
「ん?そう見えるか?」
「えぇ、顔に浮かんでいましたから」
「……すまない」
コンラートはダイナに謝りながら、彼女の淹れたコーヒーを口にすると。ダイナはコンラートを見ながら、少しだけ心配も含めた目で問いかける。
「仕事の程は如何ですか?」
「まぁ…色々と苦労しているよ……」
少なくとも、上司の考えていることが分からないから胃が痛い。
そう内心呟くと、ダイナは椅子に座り、少しダンマリした後にコンラートに言う。
「仕事…頑張ってね……」
少しゆっくりとしたダイナの言い方に、コンラートは少しだけ申し訳なく思ってしまった。
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