八六話
正暦一九四〇年 一月六日
帝都 第五〇駐屯地
新年明け早々にディルクは自分の勤務する駐屯地で年明けの書類を片付けながら、他の隊員が出勤して来るのを待っていた。正式に集まるのは七日からであるが、早く来る人がいるのだ。特に独り身のハインリム大尉はなんとビックリ去年は二日に駐屯地に来ていた。
しかし、今年はハインリム大尉は来ないのかと思っていたが、ふとそこで思い出す。
「あぁ、そう言えば大尉は結婚したんだったな……」
そう言えば戦争が終わった後に実家の婚約者と式をあげたのを思い出す。そう、大尉は死亡フラグをへし折った人間だ。戦争中のその話は一切していなかったが、いきなり結婚したなんて言ったもんだからこっちは慌てて贈り物をしたな……
戦争が終わり、国内で結婚式をする家族が増えたと前にニュースを見たことがあるが、それは戦後の日本でも起こっていた。いわゆる第一次ベビーブームだ。これから帝国内の国民は増えるばかりかなと思いつつ、ディルクは年明けの仕事を片付け終えるとある場所に電話を掛けた。
一〇分後
帝都のカフェ
時たま食べたくなるこの店のプレッツェル。戦争が終わって物資統制が終わったおかげか良い小麦粉を使った美味いやつが食える。
「……」
片手にコーヒーカップを持って店で待っていると、席にやや呆れた様子で一人の軍人が片手に封筒を持ってやって来る。
「全く、新年早々お呼び出しかよ……」
「良いだろう?仕事を抜け出す良い機会じゃ無いか?」
「いやぁ…まぁ……うん。そうなんだけどさ……」
そう言い、ディルクが呼び出したデニスを見ると、ディルクはデニスをそのまま席に座らせるとコーヒーとソーセージを注文する。
「おいおい、朝っぱらからソーセージかよ……」
「良いんだよ。昨日碌に飯も食ってねぇからな」
「おぉ、流石は本庁勤め。忙しいですなぁ……」
「部隊丸ごと年末休み貰えて…本当、ここにナイフがあったらお前を刺しそうだよ……」
そう言いながら、出てきたソーセージをナイフで切って口に放り込みデニス。あぁ、こりゃ完全に疲れている証拠だな…病院行かせた方がいいかもしれない……
新年早々にお疲れのデニスだが。彼は年末ギリギリまで仕事詰めで、昨日から仕事始めだった人間だ。今は仕事を恐らく部下か誰かに呼び出しを受けたと言って押し付けてここに来ている。この前大尉になった記念も兼ねて今日ばかりは奢ってあげようと思いながら、デニスと話す。
「昨日から仕事だったらしいが……どうだ、調子は?」
「お前さんの部隊が教国で暴れたお陰でこっちはどえらい事よ。教皇庁で爆発があったのはこっちでも掴んでいたから、ヒヤヒヤしたもんよ」
「こっちもさ、まさか抵抗軍があの地下施設にいるとは聞いていなかったからな……」
「それに、デニスでお前がMボートで撃った抵抗軍の運送会社の事も調べたぜ」
「おぉ、そうなのか?」
予想外に仕事が早いと思っていると、デニスは愚痴りながら言う。
「あぁ、追いかけるのは大変だったが、抵抗軍関連だからな。合同対策本部に回せば終わりだ。それで分かった結果がこれだ」
そう言うとデニスは封筒を机に置く。ディルクは書類を受け取ると、そのまま中に入った資料を確認する。
「呼ばれたついでに渡しておく。こりゃ、相当面倒だぞ?」
「あぁ、そうか……」
「少なくとも俺はこれ以上突っ込もうとは思わんな…幾ら運輸科が暇とは言えな……」
戦争が終わり、超過密シフトでダイヤを組まされたの頃とは違い、工場で生産された物資を駐屯地に回すトラックや列車の調整で終わる実に楽な仕事ではあるが、ペッツ参謀の指示で弾薬を抵抗軍に売り飛ばす仕事をしたのもデニスが主にやっていた。
戦時中よりも色んな場所に飛ばされている気がすると言って文句を溢すデニスは一皿食い終わった後、ディルクを見ながら聞く。
「んで、ディルクはまた共和国に行くのか?」
「そうだな…俺は一応彼等の監視責任者だしな……」
「やれやれ、同い年を相手するのも面倒な物だな……」
そう言い、デニスは席を立つと最後にデニスから話しかけられる。
「あぁ、デニス。ちょっと聞いてほしい話があるんだが……歩きながらで良い。良いか?」
「おぅ、どんな話だ?」
そう言うと、ディルクは代金を払い終えた後にデニスと共に街を歩き始めた。
年明けの仕事を片付け、ディルクは先に家に帰る。今日は誰か来ているのかを確認するのと、仕事を片付けるだけだったので実に早く帰ることができた。時刻は午後三時、まだまだ両親が帰ってくるのは遅かった。
「さて…少し調べ物をしましょうかね」
そう呟くと、ディルクは家の中で少し気になった事を調べ始めた。
同時刻
共和国 ルテティア
同じ頃、共和国で生活をする蓮子達転移者グループは年明けのイベントを終え。その片付けも終え、命令を待つだけだった。
何せ、自分たちの上官は今は帝国に戻って引き取ってもらった家族と楽しげなクリスマスを楽しんだのだろう。
「良いなぁ…家族か……」
ふと室内で舞鶴が呟くと他の面々も少し思った事があり、思わず軽く俯いてしまった。
彼等に取って家族を最後に見たのは転移魔法前に出かけた時、もう三年は会っていない。
「俺…下手に母さんと喧嘩しなきゃよかったな……」
築城がそう呟くと、さらに雰囲気は沈んでいく。誰しもが思う、くだらないことで喧嘩するんじゃなかった……親に行ってきますとか挨拶をしとけば良かった。
まさかこんな事になるなんて思っていなかった。今までは何とかなってきたが、やはり家族といるのが一番だ。
街に出ている子供なんかを見て今まで思ってきたが、今まで言葉にすることは無かった。
一回悲観的になるとどんどん不安は増幅していき、三沢がふと不安になりながら聞く。
「それで…私たちは本当に帰れるのかな……?」
「三沢…何を言って……」
厚木が思わず三沢に聞くと、彼女は不安になりながら聞く。
「私達…南部君の計画を聞いたけどさ……帰れるって言う保証はあるのかな…?」
「そんなの……」
前橋は答えようとしたが、思わず言葉に詰まってしまった。計画は聞いたのだが、それが確実に日本に帰れる保証は聞いていなかった。
今ここに茂はいない。今頃は帝国で次の任務を聞いている頃合いだろう。帰って来たら詳しく問い詰めてみたい所だ。
全員が思わず不安になる中、立川が手を叩いて気を向けさせると皆に向かって言う。
「皆んなよく聞きな。確かに、南部君から聞いた話に確実に日本に帰れる話は聞いていない。……だけど、私達が帰る為にはその方法しかないと言うのも事実。その方法しか帰る可能性があるのは無いんだから。腹括って掛けるしかないでしょう」
そう言うと、全員は立川の話を聞き改めてそうするしか無いと理解し、そのまま次の任務に備えて準備を始めようとした時。ふと、松本が疑問に思って聞く。
「……小野寺君は?」
「え?」
すると、松本は疑問を投げかける。
「小野寺君は……どうするの?連れて行くの?それとも、置いて行くの?」
「え、えっと……」
ここにいる全員は小野寺の豹変を見た。しかし、心の奥底に残った良心が働き、松本は疑問に思う。少なくとも、南部は殺す気満々で彼に銃を向けた。だから彼に向かって引き金を引いた。
小野寺の本性を知った様な気分で、正直彼を連れて行くのは気が引ける。だけど、彼もまたクラスメイトの一人。彼の処置をどうするべきなのか、彼等は疑問に思っていた。
どうすれば良いのか困惑している中、座っていた大湊が口を開く。
「……取り敢えず、小野寺の一件は南部に任せるしかないだろう。俺達は南部ほど権力を持っているわけでもないからな。その証拠に、彼奴に監視の目は無いからな」
そう言い、全員は取り敢えず全部南部が帰って来てから決めようと判断することにした。ちっぽけな自分達に出来ることなんて皆無に等しいし、内心は南部に決めて貰わないと下手に行動が出来ない。藪をつついて蛇を出すくらいなら動かない方が賢明であると思っていた。
皆が全部南部に任せるしか無いと思って判断し、それぞれ部屋を出て行き買い物なんかに行く中。蓮子は屋上に移動する。
今日は木枯らしが吹く寒い季節。屋上に溜まった雪を踏みながら、蓮子は厚木をして白いコートを着て外に出る。
茂が休暇で帝都に行く前に買ってくれた一品だ。相当良い給料なのか、高級品を送ってくれた。色違いで立川にも買っており、少しだけ悔しくもあったが……
「何してんの?」
そう言い、同じく屋上に上がって来たのは灰色の茂に買ってもらったコートを着る立川だった。彼女も蓮子と同じく、茂が帰る前に同じ会社のコートを買ってもらっていた。流石は高級品とだけあって暖かく、真冬の外に出ても足が震える様な事もなかった。
「ん?いやぁ、いつ茂君が帰って来るかなぁって……」
「そうね…年明けまで向こうにいるらしいから…もう少し先でしょうね……」
そう言い、二人は屋上の柵に手を当てて街を眺める。周りは今までに降った雪で真っ白になっており、青色が特徴の屋根は白い雪化粧に覆われていた。下では多くの人が歩き、仕事や休みを堪能していた。
そんな街の景色を見ながらふと蓮子は軽く不満げになりながら呟く。
「はぁ…皆んな茂君の判断に任せる……だってさ。無責任にも程があるじゃ無いの……!!」
「皆んな怖いのよ。自分で判断して、その判断で取り返しのつかないミスをしてしまうんじゃ無いかってね……」
「でも…あれじゃあ、茂君には重すぎる」
そう言い、蓮子は茂にのしかかっている負担を見て思わずそう溢してしまう。
「そうね…でも、自分達に困った事を全部誰かがやってくれるんじゃ無いか。そしてその揉め事を全て解決してくれる人が居てくれたら……と思うのが人よ?」
「でも、それで生まれるのは何?何事も解決してくれる神様みたいな事をするのが良いことだと?身を削ってまで?」
「そんな訳ないわよ。ただ、私は今まで人がして来たことを振り返っただけ」
「……」
蓮子は立川とそんな話しをしていると、立川が少し思う事があるのだろう。やや含みある言い方で呟く。
「でも、私たちに出来るのは彼の負担を和らげる為に助言とかをしたりするくらいしか出来ないんだけどね……」
「内面的な事には何も出来ないのが何ともやるせ無いわね……」
「えぇ、全くね……」
そう言うと、二人は帝都で仕事を片付けているであろう人を待っていた。
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