戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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投稿頻度は酷く悪いと思われます。


八七話

東西戦線で塹壕を駆け抜けていた頃、自分は何を思って走っていたのだろう。

 

時折、夢にトラウマとして出てくる事がある。

 

西側と東側。両方で走った身ではあるが、どちらも変わらない。絶えず死臭が立ち込め、毎日の魔導砲撃で吹っ飛ばされない事を祈りながら待避壕の中で縮こまる。

 

初め、戦線が近づくにつれて感じたなんとも言えない匂い。野菜や魚を腐らせたとも違うその匂い。その正体を知った時、吐きそうになってしまった。

初めは戦場に行く事に喜びを覚える彼らであったが、その戦場(地獄)を見た時。全員がここに来た事を後悔していた。

 

何せ中世紀の……戦争が貴族しかできない特別なものだった時代から一気に変わってしまった戦争だ。

 

そう、この世界に日露戦争は存在しない。

 

その為、この世界にとってこの戦争が世界初の近代戦なのだ。無線や電信を使ったネットワーク網を駆使した戦争は以前にもあったそうだが、塹壕を掘り進め、五十メートル進むのに五百名以上の戦死者が出る戦争はこれが初めてだった。

 

それが俺たちが呼ばれるまで四年。それから三年続いた。

 

今はもうこの世界に来て四年目に入った。年齢的には全員が二十歳を迎えた。今、軍隊は盛大に軍縮傾向にあり、本来であれば新規の武器なんて与えられない

 

 

 

……筈だった。

 

 

 

すべての歯車が狂ったのはそう、戦争末期の頃。初めは共和国内部でのとある噂から始まったとされている。

 

共和国の一部の部隊が禁術を使用した可能性がある。

 

軍部内での噂は瞬く間に広がり、遂にゴシップ誌にも掲載されるほど話題を呼んだ。当時の戦線は膠着しており、その戦局を打開するために禁術の一つであった転移魔法を使用した。実に辻褄があっているため様々な妄想が膨らみ、有りとあらゆる情報機関から錯綜していた。

そしてそれらの混乱が戦争敗北に繋がったとする説もある。混乱は戦場に置いて致命傷にもなりうる毒だ。軍事行動に支障をきたす恐れがある。

 

そしてそれらの混乱、そして用意周到な帝国の綿密に練られた作戦と準備期間をかけて行われた一大作戦ニョルニル作戦に置いてこの戦争は終結した。

その期間まさに二年、その間戦線は動かない戦略を練っていた。当時、マーチバル攻勢において師団を丸ごと葬り去れる魔導砲撃を可能とする魔導士の出現に帝国は驚愕していた。

 

中心部にはクレーターが出来るほどの大爆発。座標を間違えたのか味方にも被害が出るほどの巨大な被害を齎した。何せ今まで掘っていた塹壕や待避壕、大量の武器弾薬がダメになったのだ。まだ弾薬集積場に引火しなかった分だけマシなのかもしれない。

 

そして帝国はその甚大な被害を齎した魔導士の捜索を開始した。その為に当時はエースとして名を馳せた魔導兵の最高傑作と言われる様になっていた兵士までも敵地に送り込んで……。

 

 

 

 

 

そして暫くの調査後、その魔導士に近い人物から情報を得る事に成功。それとほぼ同時期に転移魔法の使用がほぼ明らかとなり、帝国は独自に調査を続行。転移者の捜索と()()を求めた。

 

そう、保護。あらゆる外敵から転移者を守る為の措置として、軍令部は転移者の()()ではなく保護を求めたのだ。しかし、極秘でと言う前提がつくが……。

転移者から情報を聞く目的もあるが、何より転移魔法の装置を狙っていた。ある意味では戦利品に近いだろう。思うと自分達はそれほど戦利品を受け取っていない様な気もする……。まぁ、そもそも自分達の任務は終わってはいないのだから戦利品をもらうチャンスなぞ色々とあるわけなのだが……。

 

戦後、帝国は共和国にロール地方の領土の割譲と賠償金を受け取った。しかし、その賠償金に不満を持つ連中が居ないわけではない。賠償金の少なさは勝利と言う名には相応しくないと後方で何もして来なかった貴族がデモを起こしていた。

 

しかし、現状としては共和国の首都を占領しての辛勝と言うのが正しい。つまり、向こう側には徹底抗戦できる兵力は残されていたと言う事だ。その事も最近の報道ではされており、共和国との融和ムードが行われていた。その最もな理由は終戦協定と共に締結された『軍需物資等貿易に関する条約』と共和国内で結成された抵抗軍や帝国内の反対勢力の存在があったから。

 

それぞれの国でそれぞれの団体が暴れている為に警察も軍も対応に追われる始末だ。各地でテロ行為を行う彼らに、二国は手を取り合う選択を取った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

正暦一九四〇年 一月二〇日

ライヒ帝国 レルリン

 

「少佐殿、情報がやっと回ってきました」

「そうか……」

 

プーマのキューポラ。顔を覗かせていたディルクはコンラートに声をかけられる。此処はレルリン市内の裏路地。人目につかぬ様光学迷彩魔法まで展開している状況。第五〇〇部隊は緊急で招集を受けていた。

 

そう、緊急招集。

現在、我々は抵抗軍を追って転移魔法装置の追跡を主任務としており、帝国と共和国の合同対策本部とはまた別で動いていた。しかし、そんな我々だが当分は帝都から動けそうにも無さそうだ。その理由は……。

 

「まさか、此処にきて強硬派が動き出すとは……」

 

そう呟きながらディルクは遠くに幾多ものスポットライトを当てられている統合作戦本部があった。

その下では多くの帝都周辺の部隊が集結し、電話を使って交渉をしていた。

 

 

 

 

 

ーー数時間前

統合作戦本部 陸軍参謀長室

 

その日もペッツは戦時中に比べて格段に少なくなった書類を片付け、コーヒーにスプーン四杯の粉砂糖と牛乳を入れる。普段から飲んでおり、家内やコルネリウスまでもドン引きするが、これが一番美味いコーヒーの飲み方だ。

この前、部下であるディルク少佐にも勧めてみたものの、断られてしまった。彼はあまり甘いものが好みではない様だ。

 

「……」

 

目下、対策班の部隊が抵抗軍の拠点を追跡中ではあるものの彼らの本拠地は無い。白い悪魔を捕え、目の届く場所でその魔導士を管理する。それが二国間の平和をもたらすとペッツは考えていた。

何せ、マーチバル攻勢にて双方四個師団を葬った純白の魔導砲撃を行った魔導士だ。その男が行方不明と言う時点で、いつ何処であの魔導砲撃が行われるか分からない。

あの時は共和国製一五五ミリカノン砲だった為に威力もそれだけ大きかった。だが、一五五ミリカノン砲であれだ。もし、軽迫撃砲やパンツァーファウストなどで攻撃を受けたその日には……。

 

「あの魔導士であれば此処をまとめて吹き飛ばす事も可能であろう」

 

現に、抵抗軍によるゲリラ攻撃によって国内の治安が悪い上に敵は恐らく教国から仕入れたのであろうハイパーバズーカを装備していた。それらを使い、彼らは潤沢な武器で武装してテロ行為をしていた。

 

「やれやれ、いつになったら終わるか……」

 

思わず吐露してしまうと、部屋の扉を誰かがノックする。

 

「……入れ」

 

この時間に誰かが入ってくる予定はなかった筈だが……。

そう疑問に思いながら部屋に一人の兵を通す。

 

「閣下、至急確認をして貰いたい書類が……」

 

そう言い、その一兵はペッツの前にボードと書類を差し出す。

 

「……」

 

ペッツはそのややぎこちない動きに少し目を細めつつも書類を吟味し、顔を顰めた。

 

「何だ、この書類は……ふざけているのか?」

 

その書類にはこの様な事が書かれていたと言う。

 

 

 

『終戦条約の改訂に関する書類』

 

 

 

内容は貴族院から出された物だと言う。それすなわち……

 

「(貴族がしゃしゃり出てきたか……)」

 

ペッツは恐ろしく激しい頭痛を覚えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

帝国という名の通り、この国は皇帝が頂点に君臨しており。その下には当然貴族もいる。

現在の王朝となっておよそ三百年。既に皇帝は貴族の傀儡と化し、一五〇年前に民主化した現在では没落した貴族も多い。既に皇帝は余程の緊急時以外は政治に手を出さないと言う憲法の条約があるくらいだ。

 

 

 

民主院と貴族院からなる帝国議会は一五〇前に起こった立憲革命において絶対君主制から立憲君主制へと移行し、その時に議会も開設された。

議会は当時の皇帝がその十年前に共和国で起こった革命で王族全員がギロチンに掛けられたのを知っていた為、民衆の怒りを鎮める為に民主院の方を優遇していた。

今思うと正しい判断であったと思う話だが、それに不満を持ったのが貴族だった。当然だろう、自分達が政治に口出ししてもそれが反映されないのだから。

それからと言うもの、帝国の貴族院と民主院は基本的に仲が悪い。だが、議会は民主院が優遇されいるので民主院の法律は採択され易いのに対し、貴族院の法律は通りにくかった。

 

「(厄介な話を持ってきたもんだ……)」

 

ペッツは今すぐにでもこの紙を暖炉に放り投げたい気分だ。今日は雪が降る、温まるのには丁度いい。

 

「既に終戦協定は締結された。今更改訂なんぞ無理だ」

 

そもそも終戦協定を改訂するなんて聴いた事がない。そんなこと出来るわけが無かろう。

 

「君の上司に突き返して来い。こんな物が通るわけ無かろう」

 

そう言い、ボードを返すとその兵は口を開く。

 

「これはお願いではありません……命令なのです」

「……」

 

ペッツはテーブルに常に隠している拳銃に手を取ろうとした時、その兵はペッツに拳銃を向けた。

 

「動かないで頂きましょう閣下」

「それは子供の扱う玩具ではないぞ」

「ええ、分かっておりますとも」

 

すると執務室に小銃を持った兵が自分を囲う様に入ってきた。

 

「閣下には我々の交渉材料となっていただきます」

「……」

 

厄介な事になったとペッツは内心恐怖よりも頭痛を覚えた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「貴族の馬鹿どもが司令部を占拠してからどのくらい経った?」

「およそ六時間です」

 

演算機で屋上に上がり、ディルクは双眼鏡で総長室のある場所を見る。

 

「ありゃりゃ、こりゃ囲まれているな」

「数のほどは……」

「見てみな」

 

そう言い、コンラートに双眼鏡を渡すと彼も同じ場所を見て苦笑してしまった。

 

「総長室には六名の兵ですか……」

 

そこには小銃を持って参謀総長の周辺を囲っている複数の兵士が居た。現在、統合作戦本部は共和国との終戦条約に反対する貴族出の強硬派によって占拠された。人質となっているのはペッツ参謀総長を筆頭に当時勤務していた職員。そして……

 

「コルネリウス情報参謀長とその秘書カミラ大尉……」

 

報告を聞き、ディルクは頭が痛くなった。




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