戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

89 / 150
八九話

「愚か者がっ!!」

 

公園のテントでマンリヒャーは怒鳴る。其れはとある報告を聞いた事にあった。

 

「あの若造を取り逃しただと?!」

 

其れはディルクを拘束しに向かった憲兵が強襲を受けて本人が行方不明となった事にあった。

 

「くそっ」

 

悪態を吐きながらマンリヒャーはテントに戻る。周囲の多くの兵は首を傾げながら作業を続けていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

トラックの荷台を開け、ディルクは問いかける。

 

「どうだ?」

「この通りさ」

 

そう答え、デニスは腕を軽く動かしていた。

 

ここはレルリン郊外の丘の麓。厳戒態勢が敷かれている市街を出た第五〇〇部隊はそこで治療を終えたデニスから話を聞いていた。

腹の傷が治り、治癒魔法の副作用で高くなった体温の中、当時の状況を思い返しながら話す。

 

「強硬派の襲撃があった時、俺は地下の資料室で仕事をしていたんだが……」

 

事は突然起こったと、彼は言う。

 

 

 

 

 

地下の資料室でデニスは今までの抵抗軍の行動履歴と、ディルクに頼まれた仕事をしていると外を走る多くの兵の足音を聞いていた。

今、此処の資料室にいるのは自分のみ。そして外の兵の走った先は地下の武器庫のある場所だった。

 

「……」

 

曲がりなりにもあの戦場で友と共に生き残ったからこそ感じる嫌な予感。

 

『急げ!』

『武器を持ち出せ!』

 

そう叫び、地下の武器庫から小銃や弾薬を運び出す音が聞こえる。確か武器庫は管理人の許可が出ない限り持ち出しすら許されない筈だ。それに、こうも焦っている声が聞こえる。

息を殺して目の前を複数の兵士が走って行くのを見届けた後、上から数発の銃声と怒声。走る音が聞こえた。

 

「これは……」

 

何かしらの攻撃があったと言う事。先程武器を持ち出していた理由はこの為だったか……。

 

「(抵抗軍のテロ行為なのか?)」

 

まず初めにそう考えた。抵抗軍のテロ行為はもはや見境なく暴動を起こしており、帝国でも共和国でも同じ様にテロ行為を起こしていた。

デニスは今回のこの襲撃も抵抗軍による一連の行動かと思い、慎重に行動すべきであると判断した。兎に角外に出て状況を知らせるべきであると思い、直ぐに脱出を考えた。頼るべきはディルクの本拠地、第五〇駐屯地。帝都郊外だが此処を抜け出せれば問題ない。

 

「(幸いにも逃げ道はある)」

 

此処の統合作戦本部の極秘の施設。転移魔法特別対策班の為に用意された一定の順路を通らなければ入れない地下室。そこは横を地下鉄の路線が通り、貫通路も作られていた。

地図にも設計図にも載っていない、ペッツ参謀総長より招集された魔法兵……主に第五〇〇部隊の兵士達がせっせか魔法やスコップで掘り開けた穴だ。当然と言えば当然だ。自分も土の入ったバケツを持って捨てに行ったからな。

作戦が終わればあの掘った穴は埋めると言うから川に捨てられないのがなんとも……。

 

「(脱出するにしたってなぁ……)」

 

今いる資料室からその地下室まで結構複雑な順路を通らねばならない。

 

「……」

 

こっそり扉を開けて外を見ると、そこには二人の兵士が片手に小銃を持って待ち構えていた。

 

「(無理だな……)」

 

今の自分は丸腰だ。とてもじゃ無いが敵っこ無い。かと言って別のルートで行くには……。

 

「ーーあぁ」

 

良い物を見つけた。デニスはそこで資料室の部屋の上にある金網で仕切られたダクトの蓋を開けた。

伊達に本部勤めの運輸課をやってきたわけでは無い。此処の構造はバッチリと覚えている。

ダクトは基本的のどの部屋にもつながっており、上手く行けば外にも出られる仕組みだ。

 

「ただ、周辺は封鎖されているだろうがな」

 

ダクトを匍匐前進で進み、例の地下室を目指す。あそこはボイラー室と繋がっているので、そこを目指せば良い。

 

「(しかし、敵も気になる所だ)」

 

幾らか情報を仕入れればディルクの助けにもなるかも知れない。おまけに少々音を立てても此処は屋根の上にある上に下は大忙しなのでバレる事もなさそうだ。

 

 

 

 

 

「ーーーで、俺はそのままダクトと階段を上手く使って登ってった訳」

「……」

 

顔を引き攣らせながらディルクは話を聞いていた。常日頃お前はやばいと言われてきた身だが、お前も大概やぞ。メタ○ギアじゃねえんだぞ……。

 

「其れで?その時に収穫はあったのか?」

「おぅ、あったよ」

 

そう言い、彼は更に教えてくれた。

 

「あの後ダクトを通ってコルネリウス情報参謀総長、ペッツ参謀総長の安否を確認した。二人とも無事だった」

「そうか……」

「カミラ秘書も無事だった。銃を構えた兵士が護衛をしていて救出は無理だったが……」

「いや、無事が確認できたなら。今は其れで十分だ」

 

そう言い、ディルクは軽く胸を撫で下ろす。此処からでは義父や義姉の部屋は見えづらく、安否を確認できなかった。

それでその後、脱出する際に強硬派にバレて銃弾を受け、なんとか逃げた先があの路地裏だったという。

 

「司令部を襲撃した犯人はこちらでも確認している。……よくやってくれた。今度ビールを奢ってやるよ」

「そいつぁ、良いな。良い酒場をこの前見つけたんだ」

 

そう言い、治療を終えたデニスは最後にディルクに最も話したかった事を言う。

 

「其れからディルク……お前()()に話したい事がある」

「……」

 

デニスの眼を見てディルクは軽く頷くと、彼を治療した医療兵に軽く目配せをしてトラックから出ていく。それを見たデニスはディルクの耳元に囁いた。

 

「この事件、だいぶ恐ろしいぜ」

「え?」

 

一瞬驚くディルクにデニスは言う。

 

「消音魔法を周辺に展開できるか?」

「あ、あぁ……」

 

そして演算機を使って消音魔法を展開するとデニスは少し息を吐いてから言った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

執務室にノック無しで襲って来た無礼者どもは半自動小銃を持って部屋に六人いた。強硬派の面々の要求は終戦条約の改訂。そして……

 

「我々の要求は受け入れられないと?」

「それが妥当とは、君も思わんのかね?」

 

そう言い、椅子に座ったままのペッツと面と向かって話す一人の青年を見ていた。

 

ハイラル・ヘルマン・フォン・ブランデンブルク

それが今回このような騒動を起こした張本人……と言う事になっている。なっていると言うのはつまり、祭り上げられたということだ。

今回の騒動を起こした面々は主にこの前の終戦条約に不満を持つ貴族や一部の市民からなっている。まぁ、その市民も大半が貴族の関係者だったりするのだが……。

 

「私がこの席を離れる時は、私の訃報が届いた時であろうな」

 

この強硬派の要求は条約改定の他に、自分たちを含めた陸軍参謀本部全員の退任であった。いよいよバレたかと内心感じていた。

 

現在、ペッツ率いる陸軍の参謀はその殆どが市民出の者で構成されている。それはなぜか……

 

 

 

理由は簡単。

ペッツはこの国で民主革命を起こそうと考えていた。革命と言っても共和国のような暴力的なものではなく、貴族院の解体を目的とした完全民主制への移行を目的とした民主化クーデターである。

今回の戦争で貴族院は目の上のたんこぶであり、戦後処理の際に平和的交渉をぶち壊されかけた諸悪の根源であった。そう、共和国に禁術使用の疑いをかけて賠償金を跳ね上げさせたあの外交官だ。

 

戦時中も散々貴族の御子息の安否を確認してきたり、後方に回せだの色々と文句を言ってきた彼らは作戦を担当していた将官が頭を抱える問題でもあった。

特にマーチバル攻勢の際に予備兵力として貴族の子息で主に構成された師団を配置した際は猛反発をくらい、結局他の戦域から戦力を抽出せざるを得なかったと言う苦渋を舐めさせられた事があった。その際、皇帝の勅命を持って来られては反対できなかったのだ。

だから戦後処理の際に皇帝に謁見して勅命をもらった時は心底胸が晴れやかであった。

 

そして、ペッツや陸軍は思った

 

 

 

『もうこの国に貴族はいらない』

 

 

 

と……少なくとも軍部の作戦行動。それも戦争の勝敗を決める作戦の開始直前に口出ししてくるような連中に我々は腸が煮えくり返る勢いであった。

すでに空軍と折り合いはつけていた。元々陸軍から派生した軍なだけあってペッツの意見にも賛同してくれた。

あとは海軍の将官を味方に付ければ良かった所をこの様だ。

 

「他の連中に聞いても同じであろうよ。我々は席を降りるつもりは無い」

「そうですか……」

 

ハイラルは残念そうに言うと、そのまま執務室を後にしていった。

ここで自分達を国家反逆罪で突き出さないのは確証を持てる証拠を持っていないからであろう。無理も無い、すでに陸軍参謀本部全体が加担するこの計画はほとんど進んでいない為に、計画書も証拠も何も無いのだから……。

 

「(しかし、外の連中がグルだったとは予想外だ)」

 

ペッツは内心、呆れながら軟禁状態の現状に待ちくたびれていた。

貴族出であの地獄の戦場を経験していない戦争童貞だった為に、彼らは執務室の天井裏に隠れていた一人の兵士に気づいていない様子であった。

 

「(そろそろ情報は届いた頃合いだろうか……?)」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「なるほど、あの少将が俺を追い出した理由が理解できたよ」

 

トラックの中、デニスから話を聞いたディルクは納得した。なんでも無線でマンリヒャーと司令部を占拠した代表の男が話しているのをダクト越しに聞いていたそうだ。貴族のお粗末さに呆れると同時に、ディルクは納得した。

自分が少将に偉く嫌われていたのはどうやら俺の悪評を聞いていたからでは無いようだ。

 

あそこに居た将校らにとって俺は邪魔な存在だったのだろう。彼らの目的は条約改訂と陸軍参謀本部全員の退任。

特にペッツ参謀総長は東西戦争を終わらせた英雄として国民の間で絶大な人気を誇っている。そのような人物を退任させるのに最も効果的だと貴族が思ったのはこの人質事件なのだろう。

 

「しかし、あの少将がグルだとちょいと面倒だな……」

「そうだな。現場指揮官の交渉役が向こう側の要求を鵜呑みにしてしまう……皇帝にその話が行く前」

「つまり最短でも明日には事件を解決しなきゃならないって事か……」

 

制限時間が二人の間で設けられ、反射的に時計で時間を確認する。

 

「今は二十時か……」

「どうするんだ?」

 

デニスはディルクに聞くと、彼は少し考えを巡らせてまず初めにしなくてはならない事を順に並べた。

 

「まずは現場指揮官を引きずり下ろすところからだな」

 

 

 

 

 




お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。