戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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九〇話

正暦一九四〇年 一月二一日 午前四時頃

ライヒ帝国 レルリン郊外

 

早朝に濃霧の中を進む一列の車列。大型トラックで構成されたその車両群は郊外の道路脇に停車する。

 

「よぅ」

 

降りてきたのは一号車の車長を務める厚木が降りてきて待っていた茂と挨拶を交わす。

 

彼らは今日の為に共和国の拠点から呼び出した第五〇〇部隊所属の第四、第五中隊だ。

主に輸送と後方支援を目的とした特殊戦闘艇を主装備とし、直接的なCQC(近接戦闘)を主とする第一から第三中隊を支援する部隊であった。

八八ミリ砲を搭載するMボートは絶大な破壊力を有し、それがこの部隊にはこの前は入った分を含めると六台配備された。

こちらにはプーマとトラック三台ほどと言う弱すぎる武装しかなかった上に人員も少なかった。

 

「思っていたよりも早い到着だったな」

「まぁな。深夜に走ったから車も少なかったんだ」

「なるほど」

 

そう呟き、茂は納得すると現在はトラックに化けている特殊車両を見た。

 

 

 

 

 

集合した第五〇〇部隊は山道沿いの道路脇に停車し、会議を開いていた。

 

「さて、諸君らも知っての通り。現在司令部は貴族の馬鹿どもが占拠し、おまけに交渉役の人間もグルと来た」

 

はっきりと言った物言いに会議に参加した各隊長は苦笑する。ここまではっきりと言うとかえってなんとやらと言うが……。

 

「彼らの目的は終戦条約の改訂と、陸軍全参謀長の退任。交渉役はおそらく役に立たないと考え、要求が皇帝陛下に届いて辞令が出るまでの時間を考慮すると期限は二〇時までだ」

「あと十六時間ほどしか無いじゃ無いですか」

 

そう言い、時計を確認したハインリムが苦言を呈すとディルクは頷いた。

 

「そう、我々には時間が無い」

 

そう言うとディルクは指を二本立てた。

 

「我々はそれまで『現場指揮官の逮捕』と『司令部の突入作戦』を行う必要がある」

「二つ同時にですか?」

 

そこで立川……今はオードリー・モレロと名乗る彼女が聞いてくる。

 

「そうだ、二つを同時進行で行う。そのために部隊を分ける」

 

そう言うと、ディルクは地図を広げながら指を刺して指示を飛ばす。

 

「第一、第二、第三中隊は司令部突入作戦を行う。第四、第五中隊は現場指揮官のマンリヒャーを捕える任務だ」

「「「「「はっ!」」」」」

 

五名は敬礼をする。それぞれに成すべきを成す。五つある部隊をそれぞれ満遍なく動かす必要が今回はありそうだ。

 

「詳しい話をする。カセリーヌ中尉とオードリー中尉は残ってくれ」

「はい」「了解」

 

そう言い、残った二人はそこで間入れずにディルクから指示を受ける。

 

「二人の部隊は市内に入り、現場指揮官の無線機の盗聴と憲兵隊への連絡をして欲しい」

「「了解(です)」」

 

返事を聞き、ディルクは言う。

 

「この作戦が失敗すると、我々の主任務も停止する。それ即ち、転移魔法装置の捜索中断となる」

「「っ!!」」

 

転移魔法装置の捜索が中止されると言う事は、即ち自分達の作戦に重大な危機が訪れると言う事になる。

 

「だからミスの無いよう、気を引き締めてくれ」

 

そう忠告し、ディルクは二人に作戦概要を伝えた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「んで、俺たちがここに呼ばれた理由って?」

 

移動中、Mボートに乗る築城が聞いてくる。それに反応したのは同じ車両の車長を務める前橋だった。

 

「あんた聞いてなかったの?」

「いやぁ、聞いてはいたけどいまいち聞き取れなかったんだよ」

 

そう言うと、前橋は軽く息を吐くと教えた。

 

「うちらの目的はグルになって人質事件の指揮をとっている指揮官の悪事を暴いて憲兵隊に連絡する事」

「それが重要なのか?」

「じゃなきゃウチらは帰れなくなるってことよ」

 

そう答えると、今度は同乗している横田が聞いてきた。

 

「どう言うことだ?帰れない?」

 

その疑問に前橋は答える。

 

「ウチらがこうやって抵抗軍の後を追っていられるのも、全部しげ……ディルク少佐の上司のお陰なの」

「ふーん」

「で、その上司が今起こっている人質事件で解任されると私たちは後ろ盾を失う訳」

「あぁ、それでか」

 

わかりやすい解説を聞いて納得した二人は軽く頷いた。

 

「それで、まずはグルになっている現場指揮官をとっちめて突入する部隊の援護をするってこと」

「その方が動きやすいのか」

「そう言うこと」

 

作戦の意義を聞き、果然やる気の湧く彼らはそのまま市内の道路に停車する。

 

「すげぇ……」

 

展開中の部隊や厳戒態勢のレルリンを見て彼らは既視感を覚えた。

 

「なんか……」

「クーデター見たいだな」

「あっ、お前らも思った?」

 

転移魔法に巻き込まれる少し前、とある国で軍事クーデターの脱走兵のニュースが話題になっていた為に、その時のクーデターの状況とよく似ていると思っていた。

しかし今は時間が命、そんな事を言っている暇はなかった。

 

「さっ、行くわよ。時間が無いから」

「「了解」」

 

そして彼らは帝国軍の軍服を着たまま半自動小銃や短機関銃、必要な装備を持ってトラックを降りて行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

あれから一夜が経った。

一向に交渉役との進展は進まない。それもそのはずで、司令部を囲んでいる将軍たちは貴族強硬派の連中でそもそも彼らと交渉する予定すら無かった。

ただ、対外的には仕事をしているように装わなければならなかった為にこうして今でも電話をして交渉を続けていた。

帝都警察もこの計画には加わっており、交渉役などの仕事は彼らに一任していた。

 

「全く、いつになれば終わるのだ」

 

待機中、一人の司令官がぼやく。彼らはただ外で待っているだけで何もしないのが仕事だ。そして他の部隊を帝都に寄せ付けないのが彼らに課された任務であった。

 

「中の状況は?」

 

そんな中、マンリヒャーが問うと一人が答える。

 

「中では一向に交渉が進んでいないそうです。誰もあの席を降ろす気が無いそうで……」

 

すると一人が机を叩いて意見を叫んだ。

 

「一人くらいを射殺して脅せば良いのだ。そうすればあの老人も頷くだろう」

「何を言っておる。彼らはは東西戦争を終結させた英雄達……おまけに国民の人気もある。そんな彼らが強硬派の手で死亡したとなればどうなる事か……」

 

一人の将校はそう口にすると、テントの中で意見の言い合いが始まった。

 

「何を言っておる!そのような行動など、軍を率いて平定すれば良い!」

「それが無謀だと言っているのだ。国民の貴族に対する目線は厳しい。ただでさえ燃えている焚き火に貴様は油を注ぐ気か?」

「これだから臆病者は……」

 

そんな意見が飛び交う中、マンリヒャーは焦っていた。

 

 

 

 

 

ディルク・フォン・ゲーリッツ

 

現在、人質となっている情報参謀総長コルネリウス・フォン・ゲーリッツの息子である。

彼の出自は帝国の田舎の出であり、ゲーリッツ家とは養子の間柄ではあるが、戦場において卓越した才能を発揮し、帝国の武器規格統一法や新戦術の考案。さらには新型戦車の開発まで行ったと言う、帝国が誇る軍人であった。

その噂は自分が参謀本部に来た時にも聞いていた。なんなら、東西戦争を終結に導いたミョルニル作戦の初期案は彼の構想であるとも言われている。

おまけに彼は魔法兵としての才能も持ち合わせ、黒い天使、帝国の黒いダイヤなど、実に様々な二つ名を持つエースでもあると言われている。

 

だからこそ手元の監視できる場所に置きたかった。しかし、彼を本部に置くことはしたく無かった。彼の卓越した才能で我々の計画を邪魔される可能性があったからだ。

 

あくまでも噂程度でしか無いが、ペッツやコルネリウスなどの今の参謀本部がクーデターを起こす可能性があると言う話だ。目的は貴族院の廃止と推定されていた。

そんな事になれば、我々はただのお飾りとなってしまう。これ以上政治に干渉できなくなる恐怖に軍人貴族は恐れ慄いた。だから、終戦条約の賠償金に不満を持つ者達と合同でこの作戦を決行していた。これは決して()()()()()()()()()のだ。あくまでも脅しである。

 

長となってもらったのは処刑されても腹の痛まぬ没落した公爵の人間を使って……。

 

そして、ディルクを監視する為の憲兵隊が倒され。彼は行方不明の現在、マンリヒャーは彼がどのような行動に移るかが不明だったからこそ恐ろしかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、統合作戦本部の中でも困惑と怒りの声が沸々と出始めていた。

 

『どうやら参謀総長は一向に意見を変えないらしいぞ』

『どうするんだ?このままでは……』

『外の連中は何をしておるのだ!?』

 

部屋の外、監視のための兵士が叫んでいるのが聞こえる。それを聞き、事実上の軟禁を受けているコルネリウスとカミラは銃を持って自分達を監視する兵士に問いかける。

 

「君たち」

「何だ?」

 

明らかにこちらを敵視する目で返してくるその兵に、コルネリウスは言う。

 

「私たちはいつまでこの状態なのかね?」

 

そう言い、コルネリウスはソファに座るカミラを見る。もうかれこれ一日が経ち、昨夜は満足に寝ることができなかった。

ここの情報参謀執務室には一名の兵士が中に常駐し、外には二人の兵士が警備をしていた。下手に動けばすぐに撃たれるだろう。

 

「テオドール・ペッツ参謀総長が我々の意見を呑むまでです」

 

そう答えると、その強硬派の……おそらく貴族出身の兵士はハリのある声で答える。

 

「我々は正しい帝国の道を守る為にここにいるのです」

 

それを聞き、コルネリウスは内心厄介だと感じる。

 

「(此奴らにとってこれは()()()()()なのか……)」

 

クーデターとなると、おそらく外に展開している部隊も彼らの仲間という事になるのか……

 

「(ここは修羅場だぞ。ディルク……)」

 

少なくとも帝都一体が彼らの敵であると認識したコルネリウスは自分達を救う手立てを考えている筈の息子を想っていた。

 

 

 

昨日の夕方くらい、ふと見上げたダクトに我々も知るディルクの戦友デニス中尉の姿があった。彼のその後の消息は不明だが、捕まったという話は聞かないのでおそらくは脱出したと見ていいだろう。

 

「(彼らの目的がクーデターである事を認識してくれると良いが……)」

 

聡明な子だ。おそらく勘づいているだろうと思いながらコルネリウスはその時を待っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同時刻

帝国幹線道路某所

 

東西戦争以前に不況であった帝国の、国内経済活性化を目論んだ公共事業の一つアウトバーン。

直線的に設計されたその道路は臨時の滑走路としても考えられており、コンクリートで舗装されていた。戦争が終わり、今では物流の要となっていた。

 

 

 

そしてその上を爆走する車列があった。

 

「閣下、もう間も無くであります」

 

そのうちの一台、Sd.Kfz. 250/3に乗って双眼鏡で都市を確認した一人の男は部下から報告を受けると軽く頷いた。

 

「うむ、順路は至って順調であったな」

「はっ!」

「では、これからが楽しみだ」

 

そう答える人物の車両には黄色い逆さY字の識別マークが記されていた。




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