戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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九一話

統合作戦本部の貴族の強硬派による占拠事件は瞬く間にあらゆる情報媒体を駆使して広がり、翌日には大陸全土に広がっていた。

当然、帝国全土にも広がっており、彼らの要求内容も同時に報じられた。

それらを聞いた、国民の意見は実に様々であった。

 

ーー要求内容に呆れる者。

ーー賠償金に疑問を持ち始める者。

ーー参謀長の退任要求に驚く者。

 

実に様々な反応を示した国民であったが、そんな中でも一致していた事は『戦争はもう懲り懲り』という感情であった。

連日の報道で共和国にはまだ戦える戦力があり、また戦争から帰還した兵士の体験談をまとめた本などが多く出版され、戦争反対を想う国民が大半を占めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

午前十時頃

帝都レルリン市内の公園

 

マンリヒャー率いる部隊は交渉の末、中に残されている職員の一部解放を取り付けた。

続々と解放されていく職員らを保護する様子は記者達に撮影され、夕刊の見出しは決まった事だろう。

その中にはコルネリウスの実娘カミラの姿もあった。

 

「(結局私は彼らの交渉には必要なかったわけですか……)」

 

内心そう感じながら彼女は解放されていく職員に混ざって司令部を後にしていた。

 

「(取り敢えずディルクと連絡を取らないと……)」

 

と言っても彼のことだからすでに動いている可能性がある。だが、これだけは伝えなければならないだろう。

 

 

 

貴族によるクーデター。

 

 

 

できるだけ早くこの情報を伝えなければならない。単なる人質事件かと思っていたが、それは違うと言う事実を伝えなければ……

 

「義姉さん?」

 

人混みの中、ふと聞きなれた声が聞こえる。その声のした方を見ると、そこにh一人の軍人がカミラを見ていた。

 

「……ディルク」

 

その人物を見て思わずそう呟くと、カミラは彼の近くに歩み寄った。

初めて会った頃は自分と同じくらいでったが、今では頭一つ違うほど成長した彼の体はガッチリとした体躯をしていた。

 

「無事でよかったです」

 

彼はそう端的に言うと、カミラも短く頷いた。

 

「ええ、貴方もね」

 

そう言い、大きく騒ぐこともなく、二人は静かに抱き合って無事だったことに安堵していた。

 

 

 

 

 

司令部から離れ、帝都の自宅まで戻る途中。ディルクとカミラは再会して間も無いが、情報交換をしていた。

 

「なるほど…クーデターですか……」

「もう外の指揮官がグルだと言うのは掴んでいたのね……」

 

現在、中に残されているのは軍の参謀達であり義姉が解放される際に別の場所に移動しされたそうだ。

 

「監視をしやすくする為でしょうね」

「ごめんなさい。どこに連れて行かれたか見られればよかったのだけれど……」

「いえ、移動したと言う情報が手に入ったのであればそれだけで色々と考えられます」

 

借りてきた車で自宅まで送る最中、ディルクは制服を着たまま話す。首には柏葉付騎士鉄十字章をつけていた。黒いバツ印の上に付けられた柏葉章参謀本部内での派閥争いには大いに活躍した為に今の参謀本部はテオドール派の者しかなかった。それ故に起こった今回の事件。

東西戦争が終結して半年、事態は拗れかけていた。

 

「義姉はこのまま自宅で待機をしていて下さい。信頼できる者に護衛をさせます」

「ええ、分かったわ」

 

そう言うと、二人を乗せた車は自宅の前で停車し、デニスが反対側に回って扉を開けた。そしてカミラが車を降りるとディルクは言う。

 

「では、自分はこれで」

「ええ、気をつけて」

「はい」

 

そう答え、彼は車に乗り込むとそのまま走り去って行き。カミラは義弟の無事を願っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「状況はどうなっている?」

 

義姉を自宅に連れて行き、そのまま戦闘服に着替えて戻って来たディルクは無線で地下鉄坑道に向かっている第三中隊に問いかける。地下にいると言うこともあり、雑音が混ざっていた。

 

『今、地下鉄坑道を進んで地下発電室に向かっている』

「了解した」

『地上の様子はどうなっている?』

「間も無く部隊が到着するはずだ」

 

そう言うとディルクは背中に演算機を背負い、マイクを付け直す。

 

「こちらの合図があるまで大きく動くな」

『了解』

 

そう言い、地下部隊との無線が切れると次に地上部隊から連絡があった。

 

『こちら第四、お客さんが到着した』

「了解した。此方でも部隊の到着を視認した」

 

そう言い、市内に入ってくる戦車や装甲車、装甲兵員輸送車を視認する。その内の一台Sd.Kfz. 250/3が道路脇に居た自分の近くに来ると一人の軍人が車から降りて来た。

 

「お久しぶりです。ロンネル中将閣下」

 

そう言うと、その将軍……帝国軍第七機甲師団師団長エドウィン・ロンネル中将は何処か満足げな表情でディルクに話しかける。

 

「陸軍対策本部からの()()を受信した。第七機甲師団はこれより統合作戦本部に立て籠る強硬派並びにそれらに関連する人物の拘束を行う」

 

そう言うと、少し歯を見せて悪い笑みを作った。そんな彼にディルクは一枚のテープと書類を渡す。

 

「此方が証拠です。自分が渡すより、閣下から渡された方が憲兵隊も動きやすいかと……」

 

そう言いロンネルは渡された紙を読み、テープの内容を聞くと軽く頷いて言う。

 

「了解した。これならば憲兵も簡単に動かせられるであろう」

「新進気鋭の第七機甲師団の応援に感謝します」

 

そう言うとディルクはロンネルと詳しい情報交換をしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「憲兵隊だ!全員其処を動くな!」

 

現場指揮官のいる公園のテント。其処に憲兵と警察官が殺到し、彼らに銃を向けた。

 

「何事だっ!?」

 

一人がそう叫ぶと、憲兵の一人が礼状を抱えながら叫ぶ。

 

「あなた方には情報漏洩並びに犯罪援助の容疑かかけられています。御同行願います」

「何だとっ!?」

「貴様!何を根拠に……っ!!」

 

将官や高級警官が驚きと混乱の様相を呈しているとそのテントに一人の男が顔を覗かせた。

 

「証拠なら此方にありますよ」

 

そう言い、片手に紙と磁気テープを持った男を見てマンリヒャー達は驚いた。

 

「ロンネル!?」

「馬鹿なっ!?」

「南方の演習場まで二四〇キロはあるぞ!!どうやって此処まで……!?」

「速度は自分たちの十八番なのでね……さ、皆様方を待っているのは冷たい鉄格子でしょうが……」

 

そう言い、ロンネルはマンリヒャー達を通すと憲兵に捕えられた将官達は喚きながら公園に停められていた車に乗せられて消えて行った。

連行される途中、市内に展開中の機甲師団の識別マークを見たマンリヒャー達は驚愕していた。

 

「第七機甲師団……」

 

彼らは南方の演習場にて訓練を行なっており、此処に到着するのに数日はかかるはずだ。それなのに翌日にはこの帝都に展開していたのだ。

 

此処に第七機甲師団が後に幽霊師団と呼ばれる所以が誕生していた。

 

 

 

 

 

ドナドナされて行く将官等に驚く一般兵等であったが、代わりに指揮を引き継いだロンネルの話やマンリヒャー達の話を聞き、大いに湧き立った。

 

ロンネル将軍の噂は帝国のみならず共和国まで轟いている。ミョルニル作戦の際、共和国の国境付近を僅か二日で制圧し、他国の火事場泥棒を許さなかった逸話や捕虜に対する手厚い保護など、共和国でも人気のあった彼はまず初めにディルクに指揮権を引き継いだ旨を伝える。

 

「此方の邪魔者は排除したよ」

『有難うございます。閣下』

「この前、私の誕生日に最高級カメラを贈ったお礼だ」

 

そう言うと、ロンネル達は先ほど貴族軍人から奪った指揮所に入り、本当の意味で人質事件の交渉を始めた。

周囲はロンネルが信用に値する人員で配置され、警察も先の不祥事に追われてこの事件に積極的に協力を申し出ていた。ある意味で尻拭いに近かった。

 

 

 

 

 

後に幽霊師団と呼ばれる事となる第七機甲師団のこの時の動きはとても単純であった。

まずアウトバーン公社にデニスが連絡を入れ、第七機甲師団が最短で帝都に向かうアウトバーンを通行止めにしたのだ。帝都周辺は元々閉鎖されていただけに簡単に帝都に辿り着くことができた。

 

「ニョルニル作戦時よりも早く目的地に辿り着いたな!!」

 

帝都に到着した時、ロンネルはそう言ったそうだ。そりゃそうだ、今回は補給のことを考えずに進めるのだから爆走出来ただろう。

とても夜通しアウトバーンを突っ走ったとは思えぬ程溌剌とした顔で彼らは帝都に展開していた歩兵師団を蹴散らして中に展開した。

事前に司令部が貴族の強硬派によって占拠された話は聞いており、ロンネル自身も動きたい一心であったのだが、命令が届いて動くことが出来ず詳しい状況すら知れなかったが、個人番号であのディルク少佐から連絡があった時は全速で帝都に向かった。

 

 

 

第七機甲師団はニョルニル作戦時に同時に発令された夜鷹作戦と呼ばれる転移者捜索の為の特別作戦の関係で、ディルク少佐の部隊の事も知っていた。戦後の事は良く知らないが、噂では抵抗軍の対処に当たっているとか何とか……。

 

「(まぁ、詳しく知る事はないだろうな……)」

 

何処となく底なし沼に足を突っ込みそうな予感を感じていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

外が何やら騒がしい。何かあったようだ。

司令部三階の食堂に集められたコルネリウス達各軍部の参謀長達はそう感じる。他の参謀長等は落ち着かない様子であった。無理もない、事件が発生してからすでに二日が経過しようとしている。一向に解決しない様子のクーデターに焦りも混ざっているのだろう。

此処にペッツは居ない。恐らく参謀総長執務室に居るままなのだろう。

 

「(……)」

 

しかし、騒がしいのはどうやら外も同じようで、先ほどから音が聞こえていた。恐らく音の感じから戦車や装甲車が到着したのだろう。

 

「(機甲師団を呼んだか……)」

 

現在は帝国内に十個ある機甲師団。その内、Ⅳ号戦車などの旧式兵器で固められた機甲師団は新型戦車の配備が整うとそれ等は全て諸外国に販売や解体をしていた。

 

「(どこの師団を呼んだのやら……)」

 

向こう側も其処までのことを予想していなかったのか、走り回っている様子があった。

 

『誰だ!戦車を呼んだのは!?』

『どうやら外の連中が捕まったらしい』

『何だとっ!?何処の師団がやった?!』

 

聞き耳を立てると今までグルだった外の連中が憲兵に捕まったようで、代わりの交渉係が付いたらしい。

 

『くそっ、どう言うことだ?!』

『クーデターだとっ!?』

 

彼らはクーデターと言う言葉に驚きの声をあげていた。どう言うことだ?これはクーデターでは無いのか……?

予想と違う行動にコルネリウスはやや混乱していた。




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