戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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九二話

「はい…はい…了解です。有難うございました。では……」

 

話を終え、受話器を置いたデニスは其処で軽く息を吐いた。つい先程、連絡したアウトバーン公社に道路封鎖解除の連絡を受けたばかりであった。

治療を終えたデニスはそのまま運輸課の男としてデニスの計画に則って第七機甲師団を帝都まで最短距離で送る為の手筈を整えていた。

 

緊急事態である事を説明した上で、夕方から早朝の時間帯を通行止めにしてもらって第七師団を最短で届けてもらっていた。途中の全てのガソリンスタンドに連絡をし、経路を移動中の第七機甲師団に電話で報告など色々と手筈を整えていた。

公社に居る知り合いに頼み込んで道路を開けてもらって、最短で師団を送り届けることができた。この知り合いは皆、戦時中に色々と世話になった人たちばかりであった。

 

「全く、病み上がりに酷使しやがって……」

 

全部の責任をディルクが負うと言う形でデニスや他の隊員達も動いていた。恐らく、こう言う大胆さと図太さがあるから自分達は彼に恐怖するし、尊敬出来るのだろう。と言うか普通少佐が中将と仲良しという時点でおかしな話だ。

 

「(失敗したらクビどころじゃ無いかも知れんな……)」

 

そう思っているとデニスに一人の隊員が軽い飲み物を渡す。

 

「お疲れ様です」

「あ、あぁ…すまねぇ……」

 

渡してきたのは瓶詰めのジュースで、確かカセリーヌ中尉だったか……。

 

去年に増員された第五〇〇部隊の部隊があの噂の転移者である事はデニスも特別班に入っているから知っている。初め聞いた頃は何かの間違いであったかと思いたかった。だって元は共和国軍の兵士として戦っていた人物だ。背後からブスリと刺される可能性が非常に高いと思っていた。

しかしディルクは『大丈夫大丈夫、何かあったら俺がクビになるだけだろうし』と言っていた。こいつに恐怖と言う言葉を徹底的に叩き込みたいと心底思った。

 

「……」

 

デニスは渡された瓶の蓋を開けて軽く匂いを嗅いだ後に一口飲んだ。変な毒とか入れてなさそうだ。

 

 

 

 

 

その後、幾つかの作戦行動を第五〇〇部隊と共にしていたが彼らに反乱の意識は無い。それは此方でも確認している。年末からこっち、共和国に設置した拠点に於いても不審な動きは確認されていなかった。

 

「(ディルクの言っていた通りだな……)」

 

 

 

従順な飼い犬。

 

 

 

ディルクは前に彼らの事をそう表現した。事実、その通りのように彼らは飼い犬のように従順で、与えられた仕事を完璧にこなしていた。それが何だかロボットのようで気味が悪かった。

 

「(あの異世界人の故郷はこう言うロボットみたいな人間ばかりが集まっているのだろうか?)」

 

ただ、命令通りに動く事から事務職には向いていそうだと思っていた。

事実、デニスの事務仕事に一個小隊が手伝い。残りは情報収集の為に街に繰り出し、将官達の会議の盗聴と警察署やそれ等の自宅に隠されていたであろう書類を一夜で掻き集めてきていた。

 

「(今度運輸課にでも誘ってみようかな……?)」

 

いや情報部の方が良いかもしれない。だって盗聴の腕も情報収集の腕も良いし。

 

「(ついでのコルネリウス総長は情報部だし、色々と融通が効くだろう)」

 

だってディルクの親父だし。

デニスは半分感心した目で今は地図を眺めている彼らを見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

今までのやる気の無い交渉とは違い、本気で強硬派の連中と長い話し合いをする事となったエドウィン・ロンネル中将率いる第七機甲師団は司令部を包囲し、接近する記者達を遠ざけ。司令部を囲う至る所に狙撃兵を配備した。

戦車や自走砲で包囲されている現状、逃げ出す事もできないだろう。しかし、司令部は混乱していた。

 

「クーデターの意思はないだぁっ?!ふざけてんのか!!」

 

ロンネルはわざわざ帝都まで出て来てのこの有様に怒鳴り散らした。すると周りの閣僚達も困惑を隠せない様子で口にする。

 

「どう言う事だ?」

「どうやら内地に引きこもっていた貴族様はクーデターと狩猟の境目が分かっていないようで」

「訳が分からん……」

 

現場指揮官を務めるロンネルは首を傾げながら無線を取り出す。

 

「少佐、準備はどうかね?」

『現在、地下に展開した部隊が司令部地下の発電所に侵入を試みています』

「そうか……」

 

報告を聞き、ロンネルは一瞬間を置いた後に口を開いた。

 

「先程、会議で決断された。今日の深夜八時までに交渉に進展がない場合、陸軍に完全移管され。君の部隊を突入させる」

『……了解です』

「君の意見が欲しい。至急此方に来れるか?」

『?了解』

 

ディルクは首を傾げながら魔法やスコップで司令部の地下に繋がるトンネルを無音で掘っていた。

 

 

 

レルリンやその周辺は魔導レーダーが隙間無く設置され、地上で魔法を使えば一瞬で場所もバレてしまう。デニスに使用した治癒魔法も後で報告書を上げなければならないのだ。

ただ、それらレーダーが地下に届かないのと同様。魔導レーダーも地下の監視はできなかった。その欠点を知っているからこそ、ディルク達は地下で遠慮なく魔法を使っていた。

 

レルリン地下鉄は司令部近くを通る路線は現在は運行を止めており、他の人目につくこともない。

隊員達は機密の関係上、転移魔法対策本部の本拠地を知られるわけには行かないのでこうやってディルクの指示の元、地下発電室に繋がる穴を掘り進めていた。

 

「悪い、上から呼び出しだ」

「はっ!此処はお任せを」

 

短く会話をするとディルクは戦闘服のまま地上に上がった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……申し訳ありません。どう言うことでしょうか?」

 

指揮所に帰ったディルクは首を傾げた。すると其処でロンネルも困惑した表情で言う。

昨日の夕方は追い出された身だが、今いる人員のほとんどは東西戦争の時に知り合った面々だ。その為、俺を見ても腫れ物を見るような目をしていなかった。

 

「悪い、俺たちも困惑してるから呼んだんだ」

「クーデターではない……?向こうが混乱をさせるために仕組んだ策でしょうか?」

「その割には焦ってたけどな」

「……」

 

周りの指揮官達も混乱する様子が伺え、周辺の兵士も首を傾げていた。

 

「では我々はどうすれば……」

 

今絶賛地下から入る為の工作をしているのはどうすべきかと問うとロンネル閣下は答える。

 

「そのまま続行してもらって構わない。ただ、周囲の音には注意しろ」

「分かっております」

 

指揮官がロンネル閣下に変わってから動きがハキハキとしている。元々交渉する気がなかっただけにその違いは一瞬で見て取れた。

 

「情報収集も進み、閣下が何処に向ったかの動向も大凡把握できた」

「何処でありますか?」

 

そう問うとロンネル閣下は司令部の階層図を指差しながら言う。

 

「三階の食堂だ。情報参謀長含め、陸軍参謀総長以外の人質は皆此処に集められている」

「テオドール閣下は……?」

「恐らく最後に確認された執務室から動いていないだろう」

「了解しました」

 

するとロンネル閣下は自分達突入要員に言う。

 

「今回の事件、なるべく死傷者は出したくない。それが上からのお達だ」

「……」

「その為、やむを得ない場合以外。敵の強硬派の射殺は禁ずる」

 

苦虫を潰した顔でロンネル閣下はそう言う。周りの幹部らも同様に眉を顰めていた。

 

「それは……」

「無論無茶なのは承知している。だが、全員射殺というのもまずい上に敵の数は予想外に多かった」

「いかほどですか……?」

 

ディルクは敵の数を聞くと、ロンネル閣下は現状で判明している兵士の人数を教えてくれた。

 

「敵の数はおよそ六十から八十……いずれも分散している」

「八十……」

 

思いの外馬鹿は多かったらしい。それだけの数を相手に的確に総長達を救出するには……。

 

「直接突入するしかありませんね」

「そうだな。君の所の演算機の出番だな」

 

そう言うとロンネル閣下は自分を見て歯を見せた。それだけ期待していると同時に責任も倍増だと思いながら一瞬だけ背中に背負った演算機を見て聞く。

 

「作戦の方は……?」

「ほぼ確定した。後は時を待つのみだ」

「了解です」

 

ディルクは其処で敬礼するとロンネル閣下は言う。

 

「今の時代、総長らは必要不可欠だ。他の者を差し引いても、必ず救出してくれ」

「はっ!!」

 

そして、敬礼をしたディルクはロンネルにとある注文をした。

 

「閣下、作戦遂行に合わせ支給準備して頂きたい物が……」

 

そう言い、彼の注文した内容にロンネル閣下達は首を傾げつつも、納得してくれた。

 

「それが欲しいのか?」

「はい、間に合いますでしょうか?」

「恐らくあるぞ。この前の戦争で鹵獲品が余っているはずだ」

「ありがとうございます」

「場所は……確か此処だ。此処に向かえばあると思う」

「分かりました」

 

そう言い、頭を軽く下げると彼はそのままテントを後にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

指揮所を後にし、ディルクは漆黒の戦闘服に同じく漆黒の降下猟兵用シュターヘルムを被ったまま裏路地に入る。

 

ロンネル閣下は新たに増援で入った第四、第五中隊の存在を知らない。Mボートは噂程度には聞いているかもしれないが、少なくともあの人が欲しがりそうではないのは見ていて分かる。ただ、彼らが転移者である事を知られぬ様なるべく隠密に行動する必要があった。

演算機の無線を合わせ、ディルクはマイクに口を近づけて言う。

 

「全隊に告げる」

 

無線は常に付けているので全員が耳揃えて自分の話を聞く。

 

「現場指揮官より指示が出た。二十時までに交渉に進展がなかった場合、突入作戦を開始。突入の際、やむを得ない場合を除き射殺を禁ずる」

『『『っ!?』』』

 

その指示に一瞬どよめきが走る。無理も無い。この状況下で救出任務の際に死者が出る可能性があるのは明白だ。だから無茶であると全員が思った。

 

「今、現場指揮官に作戦遂行のために必要な装備を注文した。第四中隊はそれら装備を集積ポイントに行って回収、及び配布を命ずる。第五中隊はそれら装備の配布を一九三〇時までに完遂しろ」

『『『了解』』』

 

やや不満げな様子の声も聞こえるが、仕方あるまい。

 

「第三中隊、作戦決行までに間に合いそうか?」

『はい、あと少しで司令部外壁が貫通します』

「了解した。地下発電室に侵入次第、報告を上げろ」

『はっ!』

 

次にディルクは地上班に聞く。

 

「突入班、状況は?」

『問題ありません。情報が入り次第、移動を行います』

「今から自分もそっちに向かう。情報共有を行いたい」

『了解です』

 

地上で大騒ぎとなっている間、見えない部分では黙々と突入のための準備が始められていた。

 

 

 

 

 




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