戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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九三話

「ここ?」

「その様だな」

 

ディルクに言われ、必要な物資を取りに行くためにトラックを動かすカセリーヌは地図で再度場所を確認する。

間も無く行われる突入作戦に際し、極力貴族のボンボンを殺すなと言うお達しがあった為。それに必要な装備の回収の為に彼に指定された場所にきていた。

それは帝都のとある倉庫であり、入り口の門は開けられていた。中に入り、言われた物を探していると……

 

「あった」

 

ライトを照らしてカセリーヌはその物を見つける。それは箱の中にやや乱雑に入っており、所々汚い部分もあった。

それを見て横にいた大湊がやや驚いた声を出した。

 

「こいつは……共和国のリボルバー拳銃だな」

「恐らく、東西戦争時代の鹵獲品ね……」

 

そう言い、自分達は慣れ親しんだ見た目をした拳銃を確認すると付いて来た松本が言う。

 

「こっちにあったよ」

 

そう言い、明かりを照らした先には弾薬の入った箱があった。

 

 

 

 

 

此処は鹵獲品なんかを一時的に保管している倉庫。作戦に際し、彼らはその鹵獲品である共和国製リボルバー拳銃(MAS 1892)とその弾薬……正確に言うと気絶弾を回収しに来ていた。

ディルクの指示通り、必要な数を運び出してトラックに積み込み。移動中にその気絶弾を薬室に装填し、それらを待機中の突入班に配る。

 

「なるほど、共和国のリボルバーね……」

 

弾倉をスライドして中に弾薬が装填されているのを確認したゲルハルトはそのまま弾倉を元の位置に戻す。突入する全員に一丁ずつ配られ、予備の弾薬は無かった。

 

「まぁ、気絶弾ならそれも必要ないしな」

「再利用できるものな」

 

気絶弾は通常の魔法弾と違い、火薬は一切使用しない。その為再利用も可能であった。

 

「全員銃は受け取ったか?」

 

其処でディルクが確認をすると全員が頷いた。

此処は司令部が見える帝都の建物の屋根の上。陽は沈み、漆黒の戦闘服は月の明かりに照らされて辛うじて互いの存在が見える程度であった。

下では機甲師団の車両が停車し、先程発行された夕刊には現場指揮官がグルだった事が報道され、市民の驚いた声が上がっていた。そして英雄の来訪に歓喜していた。

 

「では、詳しい作戦行動を説明する」

 

そう言うと、ディルクは持って来た地図を指差しながら詳しい行動パターンを話す。

 

「突入の合図があり次第、まず初めに第一中隊は三階の食堂の窓より侵入。内部の敵を相当した後、守りを固めろ」

「了解」

「第二中隊は総長執務室前の屋上より侵入し、参謀総長閣下を保護を最優先。敵の守りは恐らく此処が一番硬い。中隊を二つに分け、片方は窓から侵入せよ」

「はっ!」

 

詳しい順序を話していき、ディルクは最後に地下にいる部隊に連絡する。

 

「第三中隊」

『はっ!』

「第三中隊は作戦開始とともに通電設備を破壊。敵の誘因を行ってくれ。第四、第五はその援護を」

『『『了解(です)』』』

 

確認を終え、ディルクは最後に全員に言う。

 

「作戦時、周囲は常闇となるだろう。全員、作戦時は暗視魔法を展開し、誤射に要注意せよ」

 

そう言い、最後に注意をして彼はその時を待った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一月二一日 十九時五五分

 

時刻は間も無く二十時、突入までのタイムリミットまで残り五分を切った。

元々の作戦が狂い、元の現場指揮官が更迭され、強硬派は総長等を人質に司令部に立て籠るクーデター部隊と市井には思われており、新聞も更迭された現場指揮官の話や自分を英雄と誇張して報道していた。余計なお世話だ。

 

「彼らの目的は何だったのでしょう?」

「さぁな、俺に聞かれても……」

 

ふと師団の通信将校が聞いてくる。今回、これだけの大騒動を起こした彼らの目的。一般的には終戦条約の改訂と陸軍の全参謀長の解任と思われる。

ただ、彼らはクーデターを企てているわけではないと言った。それが自分達を最も困惑させていた。これだけの大騒動に参謀長の解任要求。クーデターと捉えられる証拠しかないと言うのに……。

 

「まぁ、事件が終われば全て分かるだろう」

 

ロンネルは突入準備をすでに完了させたと言う、帝国切手の天才の持って帰ってくる戦果に期待していた。

 

「交渉はどうだ?」

 

通信将校が問うと、新たに派遣された交渉役の書記係が言う。

 

「ダメですね。奴さん、計画が崩れたのをやっと把握したみたいで……言ってる事がもうはちゃめちゃですよ……」

 

表情からしてそれはもう酷いと言う事がよく理解できた。

 

「はぁ…これだから馬鹿の相手はやってられん……」

 

ロンネルも戦時中に貴族の横暴に苦しめられた一人だからこそ分かる。彼は中産階級出身である為、中央ではかなり毛嫌いされて来た身だ。元々現場主義だからあまり気にすることもなかったが……。

 

「戦争を知らん馬鹿ども目が……」

 

後方で呑気に物資を運び、戦線を走るをやめた貴族。何百年も前の銃がマスケットの時代では貴族の嗜みであり仕事であった戦争はいつの間にか立場が逆転していた。

 

昔は率先して前線に突撃し、騎士道を貫いて戦場の華であった帝国貴族も今では後方でぬくぬくと国内産業に手をつけて戦争継続を叫ぶ……はっきり言ってただの害悪と化していた。

 

「(あの戦争で何もかも変わってしまったな……)」

 

ロンネルはそう感じざるを得なかった。

 

 

 

 

 

塹壕戦

化学兵器

潜水艦

電撃戦

 

これ等は全て東西戦争に際して発明された新たな新兵器、新戦術だ。戦車や航空機はその前の戦争時に投入され、大陸の軍事史を大きく変容させた。

海を隔てた向こう側には新大陸と呼ばれる場所があり、其処にも幾つかの国家が存在していた。

 

戦争終結よりおよそ半年。終戦協定に不満を持った貴族によるクーデター。だとすると疑問が残る。

 

「(彼らはなぜ真っ先に参謀長を殺さなかったのだろうか……?)」

 

邪魔な存在であれば一発銃弾を眉間に撃ち込めば終わる話だ。それなのに彼らはなぜそれをしなかったのか……。

 

「(まぁ、全てはこれからの作戦で変わってくるか……)」

 

時計の秒針を眺め、ロンネルはその時を見る。

 

5…4…3…2…1……

 

 

 

 

時刻は午後二十時を回った。時刻を確認に、通信将校が言う。

 

「閣下、時刻が二十時を超えました」

「うむ……突入部隊に通達してくれ。作戦を開始せよ」

「はっ!」

 

警察から陸軍に権限が完全移管された今、ロンネル達は突入作戦を決行しようとした……その時。

 

「閣下っ!」

 

一本の連絡が現場指揮所に届いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

時計を確認し、ディルク達突入要員は焦ったく待つ。

 

「(まだ合図は来ないか……)」

 

現在の時刻は二〇〇五、本来であれば突入の合図が届いてもいい頃合いだ。

 

「(何が起こったんだ……?)」

 

あのせっかちを人型にしたようなロンネル閣下が此処まで遅いと言うことは……何かしらの問題があったと言うことになる。すると通信員から報告が入る。

 

「隊長、ロンネル閣下より通信です」

「変われ」

「はっ!」

 

そして無線を優先で接続すると無線機からロンネル閣下からメッセージが届く。

 

『少佐、突入作戦は一旦中止せよ』

「……何がありましたか?」

『上からのストップだ』

「上……?」

『帝室から交渉の時間を伸ばせと言う命令だ』

「……」

 

話を聞き、ディルクは天を仰いでしまう。よりにもよって帝室が出て来たのか……。

 

『何でも中にいる貴族のお子様方を殺されたくないらしい』

「それが本音ですか……」

 

厄介なことしやがって……と言葉には出さなかったが閣下も同じ事を思ったのだろう軽くため息を吐いた後に追って伝える。

 

『帝室は中の連中の意見を一切受け入れない代わりに交渉を伸ばして欲しいと言って来た』

「……信頼出来ます?」

 

帝室は貴族の傀儡となっていることは皆が知っている。だから貴族の意見でひょいひょい方針を変える事も知っている。だからと言って貴族以外の者の意見も聞いてしまう事から今まで帝国で革命が起こっていなかった訳なのだが……。

 

『なぁに、そんときゃ録音テープをラジオ局に送るだけさ』

「あぁ…それは強いですね」

 

ペンは剣より強しって言うしな。ってかラジオ局って言ってる辺り、時代を感じる……。

 

『今思うと……もうちっと情報規制をしときゃよかったと後悔しているよ』

 

情報操作はロンネル閣下の苦手な分野ではある。今回の事件、おそらく貴族の大半が関わっているのかもしれない。グルだった現場指揮官が更迭され、計画が破綻し、戦果のおこぼれを貰おうと子供を送り出した連中は子供達が殺されるかもと焦って帝室に縋ったのだろう。

 

「面倒な事を……」

『俺もだ。今、交渉係が電話で出てこいと話している所だ』

「……」

 

疲れている様子がひしひしと伝わって来る。何度か食料供給の為に強硬派と接触しているが、明らかに中の参謀長達は憔悴しているだろう。

 

『だから、暫くそっちは待ってくれ』

「……了解です」

 

するとロンネル閣下は言う。

 

『少佐、作戦を練り直す。一瞬だけ指揮所に戻って来てくれ』

「はい……」

 

半分疲れた声で返事をするとそのまま無線が切れる。

無線は部隊全員にオープンとなっており、全員が……特に転移者以外全員が半分呆れた表情でコチラを見ていた。

 

「皆聞いていたな。別命あるまでその場で待機」

「了解」

 

そう言い、第五〇〇部隊は地上と地下に分けられて待機する事となった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「全員待機ですか……」

 

司令部地下。

消音魔法で音を消しながら必死にスコップとつるはしで掘り終えた穴の先の地下発電室。其処に待機する第三、第四中隊はディルクの命令を受けて待機していた。掘った土は地下鉄の線路脇に積み上げられ、司令部地下の発電所と直接連結した。

これも一重に魔法があったからこそ出来た所業だと感じながらカセリーヌはその真っ暗な発電所の中で他の隊員と共に待機していた。

三個中隊、四四名が詰めている現状。酸欠が心配になる所だが……。

 

「地下を制圧したいな」

 

地下の部隊を指揮するハインリムが呟く。確かに、発電所に四四人はキッチキチで一部は地下鉄路線の方で待機している。飛び出すと言ってもその前に色々と限界が来そうだ。第五中隊はMボートの護衛の為に地上に戻っており、此処には居なかった。

 

「ったく、貴族の我儘にも呆れるしかないな」

「貴族?」

 

カセリーヌが首を傾げると近くに居た隊員がハッとなった様子で言う。

 

「そうか…お前達は知らないもんな」

 

転移者である彼らは帝国貴族の我儘を知らない。まぁ、知らない方が良いだろう。そう思い、ハインリムは彼らに言う。

 

「まぁ、知らない方が幸せな話もあるんだ」

 

そう言うと彼はこの話題を断ち切っていた。




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