戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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九六話

正暦一九四〇年 一月二一日 二二時二〇分

 

司令部の占拠事件が起こってから三日目に突入した。元々こう言った占拠事件に慣れていない上に、いつ襲われるかもわからぬ恐怖から貴族を中心とした強硬派は徐々に憔悴していた。

 

彼等貴族の多くは近衛第一師団やペッツの計らいで戦争初期はバラバラに配属されていたが、貴族の実家からの()()()()()()を受け一箇所に纏められ後方の仕事に従事ていた。その為、戦場の惨劇は知っていても実際に戦ったわけではないので砲撃の中、自分達がいつ死ぬかもわからない恐怖に晒されたわけではなかった。

 

極一部の様はディルクの様な貴族でも前線を走っていた貴族などはそもそもこの占拠事件に参加なんてしていなかった。むしろPTSDに苦しんでいる兵士もいたくらいだ。

 

「……」

 

今回の事件を主導したハイラル公爵子息は自分の持っていた帝国製拳銃(ザウエル&ゾーン 38H)を持っていた右手が震えるのを確認する。

 

如何してこうなったのか……。

 

彼は苦悩する。自分は元々東西戦争でも後方要員として補給物資の管理をしていた身ではあるが、こんな暴動の首魁として祭り上げられるとは聞いていない。

本当であれば今にも逃げ出したい。だってこんな逆賊の様な行動は望んでいないし求めていない。

外を囲む第七機甲師団は新進気鋭、獅子奮迅の活躍をニョルニル作戦の際に見せた帝国陸軍最強の機甲師団だ。そんな部隊が今、自分達に照準を向けているなど想像するだけで恐ろしい。

 

しかし、逃げ出そうにも周りにいる人間がそうはさせ無い。この計画の目的は終戦条約の改訂……そして、謀反を画策していると言う今のテオドール陸軍参謀総長の真意を聞き、解任させる事。

しかし、テオドール参謀総長は東西戦争終戦の英雄。そんな人物を簡単に解任させれば国民の反発を招く事は必須。他の参謀だってそうだ。彼等は皆、東西戦争終結の立役者。未だ終戦の英雄として国民の人気のある彼等を解任など……

 

「無理に決まっている」

 

ふと小さく彼は呟く。今、外では帝室からの命令で軍は動けないと言う。

 

これで時間稼ぎはできた。

 

だが、何をするべきか決まっていない。

 

一部の人間は人質全員を毒殺するべきと主張していた。だが、それでは国民から恨みを余計に買うだけの愚策であると判断したから辞めさせた。外にいた仲間であった筈の指揮官は更迭され、既に計画は破綻していると言うのに……。

 

「(もうどうにでもなれ)」

 

どうせ自分が処刑される事に変わり無いんだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……」

 

食堂で人質となっている現状、コルネリウスは他の陸軍参謀と固まって監視を受けていた。どうやら我々の動きは貴族の強硬派に加担していた者達から誘導をされていた様で、事件が起こった当時。全ての陸軍参謀長は一堂に介していた。

 

「(今後の人事を変えなければならんな)」

 

わざわざ自分から人質になりに行くとは思えない為、今回の事件で人事参謀長に責が行くかどうかは怪しいかも知れない。ただ、それでも幾らかの責任は取らなければならないだろう。

 

「……ん?」

 

そう思っていた時、ふと見張りの人員が別の者に変わった。持っているのはここに居る人員が持っている半自動小銃(Gew43)短機関銃(MP40)で装備しており、ディルク達の様な第五〇〇部隊が今の所試験的に装備している突撃銃(StG44)は無かった。

 

終戦末期に開発された突撃銃……初めは新型短機関銃と言う意味を込めてMPという愛称であったが、弾薬が小銃弾を切り詰めた弾薬である為に新たな枠を設け、突撃銃と言う愛称になった。

 

現在、自分達はこの新たな銃の有用性を見極めている最中だ。前線からの反応は好調であり、抵抗軍もどこから仕入れたか分からないが突撃銃を装備していた。だから今はそれ等武器の置き換えの為に装備を突撃銃に変えたい所ではあるが、軍縮の影響でほぼ進んでいないのが現状だ。

 

「(それにしても、いつになれば終わるのやら……)」

 

事件が始まってからもう三日目に突入した。人質事件というのは時間がかかる。それはコルネリウスとて知っている。それは共和国の歴史を見れば明らかだ。まさか自分が人質となるのは予想外であったが……。

 

今度の監視役は女性士官の様だ。彼女は窓辺に近づき、窓を背にして短機関銃をぶら下げて立つ。

 

「……」

 

しかし、その動きにコルネリウスは不審に思う。彼女は窓辺のカーテンを少し開けると後ろ手で何かしら作業をしていた。カーテン裏の行動で分からなかった。

 

「(なんと……っ!?)」

 

それを見てコルネリウスは表に出さない驚きを見せた。おそらく彼女は突入したディルクの部隊の隊員。隠密戦に特化している事から恐らくは転移者を徹底的に鍛えたと言っていたあの部隊だ。

 

「(既に準備が進んでいるのか……?)」

 

周囲の人間が気づいている様子は無い。気にするそぶりもない事からおそらく認識阻害の魔法を展開しているのだろう。魔導レーダーに引っかからない程の上手い魔法を駆使して……。

 

「(つくづく転移者と言うのは恐ろしいな)」

 

異世界から召喚された少年少女達。彼等の持つ能力はまさにこう言った隠密戦や砲兵としては強力であった。だからこそ、こう言った脅威が生み出される上に一歩間違うと世界が消滅する可能性のある転移魔法は存在そのものを消さなければならないのだが……。

 

 

 

彼等の住んでいたニホンと言う国家は八十年近くも戦争の無い平和な国家だと言う。憲法で軍を持つ事を禁じたと言う頭がイカれた様な国だ。

 

「(少なくとも我々の感覚ではありえん事だな)」

 

詳しく聞くとその世界で、彼等の暮らしていた国家はかつて戦争に負たそうだ。

 

「(負けた国は普通は征服され、領土に取り込まれるものであるが……)」

 

少なくとも少し前までの時代であればそうだ。だが、よくよく聞くとニホンはアメリカという国に安全保障条約という事実上の属国化を受けたと言う。

 

「(いつの時代も負けるというのは散々な事だな……)」

 

しかもそれを彼等は属国化と思っていないのが恐ろしい話だ。要は管理された平和だというのに……。一応、ジエイタイと言う自国を守るための警備隊に似た組織はあるそうだ。ただ、警備隊と言うには軍艦や戦車、戦闘機を持っているそうだが……。

 

 

 

我が帝国も共和国に勝った。しかしそれは辛勝に近いものであり、いわば博打に近かった。今回の作戦、やはりロンネル中将が瞬く間に国境地帯の占領をしたのが大きいだろう。それにより、共和国首脳はすぐに逃げることができなかった。

 

逃げる先に新大陸は幾つもの国家があるものの、それぞれが内戦を繰り広げているせいで逃げようにも安全が担保されない。亡命政府の樹立なんてもってのほかだ。

だから国境付近を制圧され、逃げ出せなかったから共和国も首都を制圧された時点で降伏したのだろう。まだ徹底抗戦できる余力はあったと言うのに……。だから我々は賭けに勝ったとも言える。

 

「(もう終わって欲しいものだな……)」

 

少なくともこんな人質のいる場所に隊員が潜り込んだ時点で強硬派は負けている。そう感じていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

司令部を占拠した強硬派の大きなミスとしては数多くあるが、大きなものとしては烏合の衆であり、ノリと勢いで司令所を占拠したことだろう。

それと計画が破綻してその後のトップが何もしなかった事だろう。

 

「……」

 

双眼鏡を見たゲルハルトはその先に映る食堂の窓。そこで指文字を作るカセリーヌの合図を確認した。司令所には電気がまだ通っており、窓に映る影は外からもよく見えた。

 

「信号を確認。無線で連絡」

「はっ!」

 

中隊に一人必ず配属される無線を持った通信員。それ等人員の無線の向かう先はロンネル閣下のいる司令所に向かう。

 

「閣下、連絡がありました」

「よし、電力会社に連絡してくれ」

「はっ!」

 

元々の作戦通り、ロンネルは指示を出す。

 

 

 

 

 

すると数分の後、司令所を含めた帝都の一角の照明が丸ごと落とされる。

 

「なっ、なんだっ!?」

 

明かりの消えた司令所に強硬派の全員が驚く。しかし、誰かが叫ぶ。

 

「狼狽えるな!地下発電室が動くはずだ!」

 

そう叫ぶも、一向に電気は復活しない。今まで明るかっただけに夜目に慣れていない彼等は今までの憔悴や見えない恐怖から遂に我慢の限界が来た。

 

「う、うわあぁぁああっ!?!?」ダンッ!!

「ば、馬鹿っ!何している!!」

 

参謀総長の執務室。ちょうど交渉をしていたハイラルや他の面々も驚いたその時。

 

ガシャーーンッ!!

 

総長室の窓に一瞬黒い影が映ったと思うと、その奥から窓を突き破って複数の黒い影が突入してきた。

 

「「「「っ!?!?!?」」」」

 

全員が驚いたその時、複数の銃口がこちらを向き引き金を引いた。

放たれた弾丸は辺りにいた強硬派の数名を貫通し、そのまま蹴り飛ばされた。かく言う自分も漆黒の兵士に撃たれた後に蹴り飛ばされてそのまま壁に叩きつけたれた。

 

「クリア!!」

 

最後にその声を聞いて、私の体はそのまま動かなくなった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

電球の明かりが落ち、漆黒が食堂を包んだ直後。上から銃声が響いた。

 

「何だ!?」

 

そう驚くのも束の間、食堂の窓を突き破って数人の隊員が突入してきた。

 

「ひぃぃっ!!」

 

窓ガラスが盛大に割れ、人質となっていた参謀達は一斉に頭を抱えたり混乱していた。そして突入した隊員はそのまま持っていた突撃銃の引き金を引いた。発射された7.92x33mmクルツ弾は強硬派の敵を撃ち抜いた。

 

「クリア!」

「クリア!」

 

突撃銃を手に持ち、突入してきた隊員に参謀達は驚く。

 

「き、君達は……」

 

その瞬間、遠くで爆発音が響いた。すると食堂の扉を蹴破って深夜の真っ暗な廊下で銃声が響いた。

 

「行け行け行け!!」

 

食堂を純黒の制服を着た隊員達が数名を残して出て行く。

 

「此方〇三、人質を確認。十二名!」

 

人数を数え、食堂を制圧した彼等はそのまま人質となっていた参謀達を立たせる。

 

「フロアを制圧しろ!」

 

すると無線から連絡が入る。

 

『執務室制圧!』

『五階クリア!』

 

上から突入した第一中隊は初めに総長執務室を制圧し、その後司令部に残る強硬派の制圧にかかっていた。

無線を聞き、ゲルハルトは突入した窓の外を覗き込む。食堂は三階、人質全員を下ろすのは困難だ。とすると……

 

「一階に行くしか無いか……」

 

地下から飛び出た第三中隊から連絡は来ていない。すると公開中の無線から次々に連絡が入る。

 

『一階中央階段クリア!』

『二階西階段クリア』

『四階制圧!数名三階に逃げた!東階段だ!』

 

無線の順路からハインリムは参謀長達を逃す順路を作成する。

 

「立て!走れ!!」

 

彼はそう叫ぶと食堂から人質であった参謀長を逃しながら無線を入れた。




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