戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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九七話

都市区画一帯を停電させ、始まった突入作戦。停電直後に聞こえた発砲音に伴い、ロンネルは無線で叫んだ。

 

「突入開始!!行け!!」

 

もう、貴族の馬鹿どもと交渉する必要はない。後は彼等に任せるのみだ。

 

「車両を回せ!」

「周囲を固めろ!!」

 

電源が落ちる事は事前に予定されていた為。指揮所には発電機が設置されており、無線も問題なく通じる。

後で貴族から文句を言われても知らん!元は向こうの落ち度だ。おそらく市民からも非難されにくいだろう。

 

中では爆発音や銃声が響き、夜目に慣れれば分かるほどの煙が溢れていた。

銃口のマズルフラッシュや手榴弾の爆炎がよく見え、記者は撮るのに苦労するだろうと思っていた。まぁ、その為に夜中に作戦を決行したのだが……。

 

「頼むぞ…少佐」

 

ロンネルは今頃中に突入しているだろうエース部隊の作戦成功を祈っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

執務室に突入したディルク率いる第一中隊はそのまま同室を制圧した後。まずは参謀総長の容態を確認する。

 

「閣下!」

「ここだ」

 

そう言い、名前を叫ぶと机の下から参謀総長が顔を出した。どうやら電気が落とされた瞬間に机の下に身を隠していたらしい。

 

「ご無事で?」

「あぁ、座り過ぎて腰が痛いくらいだ」

 

そう言ってられる余裕があるという事はそれ以外は無事という事だ。すると手榴弾の爆発音が聞こえ、咄嗟に無線で連絡を取る。

 

「どうしたっ!?」

『奴ら、一階で手榴弾使ったぞ?!』

『正気かよ!?』

 

無線は地下で待機していた第三中隊からであった。どうやら一階を制圧中に強硬派の誰かが手榴弾を使ったらしい。

すると執務室の扉が開き、反射的にフェドロフを向けるも。入ってきたのは屋上から入った別動隊だった。暗視魔法にてこんな常闇でも味方の確認くらいは出来る。こう言う部分だけ謎に近代的なのよな。この世界……。

 

「五階クリア!」

 

別動隊を率いていたコンラートが叫び、すぐさまディルクは窓を一旦確認すると部下に指示を出す。

 

「閣下を窓からお連れしろ」

「はっ!」

 

人一人くらいであれば五階からでも簡単に運び出せる。安全を考慮して参謀総長を二人がかりで抱えると隊員達はそのまま窓から飛び出す。

そしてそのまま地上に放物線を描いて着地すると、すぐさま待機していた救急車に担ぎ込まれた。

総長の救出を確認し、ディルク達はすぐさま次の作戦行動に移る。

 

「下を制圧する。一個小隊以外は俺について来い!」

「「「「はっ!!」」」」

 

拘束や射殺されたであろう強硬派の連中は任せ、第一中隊のうち二個小隊はそのまま執務室を出て残りの強硬派の掃討と他の参謀長達の脱出路を作る。

 

第一中隊は屋上ならびに五階から、第二・第四中隊は三階の食堂に、第三中隊は地下から侵入し、それぞれ作戦を開始していた。

ロンネル閣下達がもう貴族のわがままに付き合ってられんと言い、此方で勝手に始めた作戦。無線で三階にいる参謀達を脱出させているゲルハルト達の無線が飛び交う。

 

『此方〇三、人質を確認。十二名!!』

 

向こうの突入もうまく行ったようだ、今は四階の全ての部屋を回って強硬派の掃討を行なっている。逃げ惑う強硬派に容赦なく降り注ぐ突撃銃の弾丸。

 

「クリア!」

「クリア!」

「四階クリア!」

 

各部屋を探り、各一階ずつを制圧していきそのまま階段を降りていく。煙幕が焚かれ、時たまどっかの馬鹿たれが投げた手榴弾の爆音がたまに響く。

銃声もよく響いており銃撃戦が行われているのは明白だった。

 

「一つは人質の応援!行け!」

 

フェドロフを構えながら叫び、一個小隊を増援で送り込む。これでここに残るのは一個小隊だけだ。

 

「少佐、どうやら脱出班は一回西階段を回るそうです」

「よし、先回りだ!行くぞ」

 

暗視魔法を使用し、煙で見えづらい視界の中を走る。

 

 

 

 

 

「ぬわあぁぁあああああっ!!」

 

途中、煙の中から一人の兵士が銃を持って突撃してくる。短機関銃の拳銃弾の連射は東西戦争やその後の戦闘において鍛え上げられた第五〇〇部隊に適うはずもなく……。

 

「ぎゃぁぁあっ………!!」

 

分厚い障壁魔法と、僅かに開けられた突撃銃の銃口からの弾丸のお返しで肉塊となった。

 

「行くぞ」

 

正直、味方を撃っているようで気分は悪い。だが、彼等は敵である事に変わりなく暗視魔法魔法で誤射に要注意しながら階段を進むと曲がり角で出会い頭に誰かと接触した。

 

「っ!?」

「撃つな!!」

 

階段の手前、合流したのはゲルハルト率いる第二中隊とカセリーヌ率いる第四中隊、先ほど送った増援。そして人質となっていた参謀長達だった。

 

「下の方は?」

「まだ万全ではありません」

「よし、〇一は付いて来い。突破口を開く〇二は後ろ。〇四は人質を囲め」

 

そう言い、ディルク達はそのまま階段を先に降りて状況を確認する。そしてその先で卵形手榴弾を投げ込んで隠れていた敵を炙り出す。

そして即座に階段を覆うように障壁魔法を展開して階段を降りる。

 

「クリア!」

「走れ!!」

 

そう叫び、階段を一気に参謀達が駆け降りる。二階から先。中央階段の制圧を聞き、そのまま煙幕の中を先導して走る。人質となっていた参謀長達は前の人の肩を持ったまま真っ暗な廊下を走る。

 

「停止」

 

中央階段の手前、嫌に静かな一階を見る。

 

「……」

 

サインを出し、無音で先遣隊として第一中隊が出ていく。暗視魔法が無い限り数センチ先すら見えない常闇の中、階段を降りて行った隊員は銃を向けたまま確認し、戻ってくると指を立てた。どうやら既に制圧済みだったようだ。

ちなみに暗視魔法の能力は多分第一世代くらいの能力が使える。その為、目を守る為に緑色のレンズのゴーグルを付けていた。

 

「行きましょう」

 

そう言い、二階から一気に階段を降りてくのを眺める。そして階段の下で出て行く参謀長達を眺めるとそのうちの一人の肩を掴んだ。

 

「待て」

 

そう言い思いきり手前に引き込むとその捕まえた男は震えた声で言う。

 

「た、助けてくれ!降伏する!!」

 

そう言い泣きながら地面にへたり込んで懇願する。まさかとは思っていたが、人質の中に紛れ込んでいたとは……。

 

「拘束しろ」

「はっ!」

 

この闇に紛れて殺されないように脱出しようと試みたようだが、そうは問屋が卸さない。と言うか暗視魔法を使っているから階級章もギリギリ見えるわけで……。

 

「(これじゃ本当に駐英イラン大使館占拠事件だな……)」

 

俺たちみたいな特殊部隊が活躍したのも合わせて……

そして俺がそう言う不審者を一瞬で捕らえた事から他の隊員も階級章に注視して他に逃げ延びようとする者がいないかを探し、最後の参謀長を扉の奥へ見送った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

大量の救急車や消防車が囲み、それらに混じって情報を盗まないかどうかを監視する為の憲兵や情報部。

建物内には幾つかの死体もあり、それらは全て運び出され、手榴弾を使った跡や銃痕が残ったりし、その様相は生々しかった。

 

「大義だったな」

「あぁ、実に素晴らしかった」

 

収容された救急車の中、ペッツとコルネリウスはそう話す。

今回の事件は死者十二名、負傷者三二名を出した事件となった。首魁を務めたハイラル公爵は負傷の後搬送。人質に怪我はなく、大成功と言える結果であった。突入から制圧完了までの時間はおよそ二十分、見事な手際であった。

 

「まずは司令部の立て直しと掃除からだな」

「そうだな。貴族が焦ったおかげで軍部は貴族を追い出しやすくなる」

 

二人は悪い笑みを浮かべながら話す。

 

「そしたらお前も追い出されないか?」

「なぁに、この際爵位を返上してやるさ」

 

そう言い、コルネリウスは自らが持つ男爵の爵位を返上すると言うとペッツは愉快げに答える。

 

「成程、お前らしいやり方だな……」

 

そう答え、彼は少々座り過ぎで痛めた腰を伸ばすとコルネリウスが言う。

 

「今回の事件で、俺以外にも捕まっていた参謀達もディルクの部隊に興味を持っていたな」

「対人質事件に特化した部隊……と言う点でだろうな。流石に窓から突入された時は驚いたもんだ」

「こっちは作戦前に隊員が潜り込んで居た事の方が驚きだ」

 

するとペッツは興味深そうに聞く。

 

「前にディルクが隠密戦や諜報に特化した訓練を施したと聞いていたが……正直あそこまでとは思わなかった。たまたま窓を見ていなかったら俺も気付かなかった……」

「それほどの実力か……いやはや、恐ろしい話だ。情報参謀長の君が言うんだからな」

「彼等は才能の塊と表せる。魔導レーダーが反応しないであろう鍛錬された魔法技術。周囲に気づかれぬ展開力。そして外に情報を伝える素早さ……これほど諜報員に適した者もおるまい」

 

実を言うと、それは彼が特段そういった才能を見出していた蓮子を見ていたからと言う事実があるがそれはまだ知らない話であった。

 

「それほどの潜在的な脅威……と言えば良いか?」

「人聞きが悪い。間違えても彼等を消そうと画策しない方が身の為だ」

「仕掛けると逆にこちらがやられるか…ディルク少佐も予想外だろうな……」

 

ペッツは顎に手を当てながらそう話すとそれに続くように言う。

 

「今、彼等は地下に掘った穴を塞ぐ作業をしていると同時に()()()()を行なっているはずだ」

「そうか……」

 

その一言で何があったのかを察し、短く頷くとペッツは言う。

 

「まったく、()()()()影響力は恐ろしいと感じざるを得んよ……」

 

そう呟くとペッツは幾らか窓の割れた司令部を眺めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ーー遡る事司令部突入前

 

司令部地下には地図や設計図にも載っていない極一部の人間しか知らぬ地下室がある。

それは転移魔法装置の追跡を主任務とし、抵抗軍の拠点調査などを行う転移魔法特別対策班。通称特班とも言われる組織だ。主な構成員はペッツやコルネリウス、そしてディルクの他にそれら三人が信用に値する人物と認めた者のみ。

 

存在しない組織とされ、実働部隊に第五〇〇部隊を持ち、その多くは情報部のエリートであった。

教国という潜在的脅威に対し、それらから完全に独立した部署として単独で転移魔法装置の捜索を行っていた。

ペッツ参謀総長やコルネリウス情報参謀などの意見で『転移魔法装置の捕捉、及び破壊』を目的とした組織である。

 

そしてその本部は統合作戦本部地下に掘られた設計図に無い新たな洞窟のようなトンネルにあった。司令部の近くを走る地下鉄と連結しており、いつでも荷物の持ち出しや、極秘裏に得た情報の受け渡しが可能となっていた。

そのトンネルに行く為には地下の奥の部屋から順路を正しく通る上に認識障害の魔導具の壁を突破せねばならない。

 

「……」

 

そしてそのトンネルに続く通路を二つの影が進む。トンネルに張られた電話線や電線を見る限り即席の場所だと言うのがよく分かる。

そして進むと、一気にひらけた場所に出た。

 

「ここか……」

 

するとその二人の帝国軍の軍服を着た男女は懐から五芒星のチャームを取り出すと発光魔法を使用し、魔力発光を駆使して部屋にある上等な通信機器や書類を写真に撮る。

 

 

 

そう、彼等は教国より派遣された諜報員。今回、共和国の強硬派を煽り司令部で騒ぎを起こしている間に秘密裏に進んでいると言う転移魔法の情報を奪取しようとしていたのだ。

一瞬のフラッシュが焚かれ、カメラのフィルムに写真が収められて行く。こうして順調に事が進むと思った矢先。

 

「っ!?」パンッ!!「ぐっ……!!」

 

教国製自動拳銃(ベレッタM1934)を取り出そうとした手を撃ち抜かれ、二人の動きは止まる。視線の先には一人の人影が立っていた。そしてその手にはディルクが持っているのと同じFN ハイパワーが握られていた。第五〇〇部隊では通常装備である拳銃で、装弾数の多さが売りであった。納入に際し、その特徴的なマガジンセイフティは取り除かれていた。

 

「動くな、お二人さん」

 

そう言うと、その男。デニスは拳銃を持ったままジリジリと近寄って来ていた。

魔法兵としての才能は皆無ではあるが、伊達にあの戦場を走って来たわけでは無い。だから、その()()()を感じていた。

 

「俺の腹を撃ってその血をだとって来たか……嫌なやり方をする」

 

その瞬間、一瞬地下全体が揺れる。地上で突入があった証拠だ。その隙に逃げようとした二人は即座にデニスによって太腿を撃たれた。

 

「生憎と俺もディルクに毒された男なんでね。情報漏洩には気を付けているわけよ」

 

そう言うと今度は共和国製拳銃(MAS 1892)を取り出してそのまま引き金を引いた。

 

 

 

 

 




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