戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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九八話

「すまねぇ、遅れた」

 

司令部側の通路からディルクが降りてくる。ついさっきまでドンぱちしていたと言うのにタフなやつだ。

 

「安心しろ。盗人さんは此処だ」

 

そう言い、デニスは気絶弾で気絶している帝国軍服を着た二人の男女……正確には彼等の下げている五芒星のチャームに目が行った。

 

「お前も大概恐ろしいよ……」

「そうか?」

 

気絶した工作員の傷を医療兵に任せながら地下鉄側の出口を出て行く。

現在の時刻は二三時を超えたあたり、外では後片付けが始まっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

突入作戦が始まる前。治療を受け、トラックの荷台で息を整えたデニスは人払いをさせた後にディルクに言う。

 

「俺が脱出する時、地下で撃たれたんだが……撃った奴ら、動きが軍人じゃ無かった。どちらかと言うと……諜報員っぽかった」

「どう言う事だ?」

 

ディルクが首を傾げるとデニスは言いようのない恐怖を口にする。

 

「嫌な予感がする。……ディルク、仕事が終わったら地下の司令所に行ってくる」

「その体調でか?」

 

デニスは治療を終えたばかりでまだ体温が高く、まともに戦える状態ではない。元より魔法兵の才能は最悪のデニス。障壁魔法ですら銃撃戦の中を進むだけで魔力切れを起こす。そんな状態での戦闘は……。

 

「頼む、行かせてくれ」

 

その真剣な目にディルクは一考する。

デニスとは共に戦場を走った戦友、その友の嫌な予感というのはよく当たる。

 

「……丸腰で行く気か?」

 

暫く考えた末、彼は懐からFN ハイパワーを取り出すとそれを手渡した。デニスはそれを受け取る。

 

「作戦が終わったら返せ。それが条件だ」

「分かっているさ、戦友」

 

そう言うとデニスは差し出された水筒の水を一気に飲んで体を急速に冷やしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「なんで嫌な予感って当たるんだろうな」

「それな、良い予感ってのは大抵外れるくせにな」

 

明日より運行の再開される地下鉄の坑道。其処を担架を持って移動する第五中隊の隊員達。彼等は諜報員として侵入していた二人の教国人を担架に乗せて駅に登っていた。

 

よくよく思うとこのトンネルに近い秘密司令所をよく作ったもんだと思いたい。司令部の地下から掘り進め、掘った土はそのまま地下鉄の線路の脇に固められ、あまつさえ地下鉄と連結しているこの通路。

 

「司令部に入らなくて良いってのは楽だが……」

「なんかこう言うのってワクワクするな」

「大いに共感」

 

デニスとディルクは地下鉄線路を歩き、そのままホームに登る。

此処の司令所の問題としてはいちいち地下鉄の作業員に扮して入らなければならない点と、真横を地下鉄車両が突っ走って行くから危険度マックスな点だろう。主に後者、いつか轢き殺されそうで怖い。

 

「しかし、此処まで教国の力が伸びているとは思わなかった……」

「写真の方は?」

「今確認中。すぐに回って来ると思うぜ」

 

そう言い、二人は駅舎から出てくる。

特別班の中では主に物質供給をになっている彼は裏帳簿から引き出した予算を駆使して武器の手配や補給物資の手配などを行っている。情報部と言う強いバックがいるからか、お前どっからこいつ持って来た!?と言うような武器まで仕入れていた。

 

「まぁ、暫く司令所はまともに動くかどうか……」

「陸軍は明日にでも動くだろうよ」

「あぁ、最悪あの砦があるもんな」

 

デニスはミョルニル作戦時に司令所として使ったあの城塞を思い出す。星型要塞な上に殆ど地下化されているから安全な仕事ができるだろう。

 

「しっかし、随分と暴れたな」

「手榴弾投げたのは俺達じゃねえぞ」

「貴族のボンボンか……威力わかってなくて自滅してそうだな」

「実際そう。室内で投げたもんだから爆圧の反動で足折ってる奴いた」

「馬鹿だな」

 

室内で投げると言うあからさまに威力倍増する方法で投げたもんだから。まぁ、悲惨な事になるわけで……。

 

「室内だと防御手榴弾の方が使いやすかったな」

「破片じゃねえんだ」

 

塹壕戦では二人はよく破片手榴弾を愛用していたのを思い返していると、ディルクは其処で言う。

 

「いや、破片だと他のもズダズダになるわけで……」

「あぁ、そう言う……」

 

確かに、破片が其処ら辺の備品までもズタズタにされたら掃除も大変になるか……。

だがそれよりも思ったのは……。

 

「新築の司令部がまさか戦場になるとは思わなんだ」

「それな」

 

なんと言うか勿体無いと思ってしまうのは日本人の感覚だろうか……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一月二五日

第五〇駐屯地

 

司令部占拠事件より四日後。翌日まで中の清掃などで時間を取られてしまったが、人海戦術とロンネル閣下の人望も相まって二日後には業務が再開できる程度まで復旧が完了した。おかげでロンネル閣下は救国の英雄扱いだ。

 

「韋駄天の次は救国の英雄ですか……」

 

新聞には第七機甲師団の渾名となった幽霊師団の話も載っており、今のホットワードはロンネル将軍であった。

 

「(お陰で文句の電話が飛んでくるよ)」

 

なんでも色々な場所から引っ張り凧状態で、まともに休めていないそうでよく自分に対して妻に会えないと文句を言っているそうだ。相変わらずの愛妻家ですねえ……。

 

「少佐、今日の書類はこれにて完了です」

「ん、お疲れ様」

 

カセリーヌがボードを持って話しかける。書類上は一帝国軍兵である彼等はこの駐屯地にて今は書類仕事に従事していた。

主に隠密戦と諜報に特化した訓練をさせた為、この前の救出作戦でも敵勢力の排除及び作戦の遂行にも影響を与えていた。

誤射を防ぐために肩章に感応石の発光器を付けていた。あれは暗視魔法を使うと一瞬で分かるから夜の作戦行動ではよく使ったものだ。

 

「今日はこれで終いだな……」

「はい、この後は一応訓練の予定ですが……」

「行くよ。体が鈍っちまう」

 

そう言い、ディルクは席を立つ。

 

 

 

 

 

今の時刻は十四時。舞い込んできた書類を片付け、ディルクとカセリーヌは駐屯地を歩く。

此処の駐屯地は帝都郊外にあると言うこともあって司令部に呼び出しを受けても楽に移動ができる。何せ車を出して一時間もあれば司令部に到着できる。欠点としては結構人目に付くことだろうか。あと駐屯地という割には狭い。

 

射撃場や体育館、車両基地などの必要な最低限の装備はあるが逆にいうとそう言うのしか無い。宿舎もあるがプレハブの掘建小屋で所詮は戦時中に建設された臨時の駐屯地に過ぎない。

そう、駐屯地の名の通りすぐに撤収できるレベルの設備しか無い、マジの駐屯地なのだ。

基本的に基地というのは簡単に移動できない大きな物を保管・整備をするための施設であり、陸軍基地というのは厳密に言うと存在しないのだ。

 

この第五〇駐屯地は第五〇〇部隊の為に置かれている駐屯地であり、本拠地である。その為此処にはMボートもやピューマや3tトラック(オペル・ブリッツ)、士官用ワーゲンが置かれていた。

最近では駐屯地の統廃合が活発に行われている中、此処の駐屯地だけはまだ残ったままであった。

 

「(いっその事、本拠地をあっちに移転すれば良いのでは?)」

 

あの帝国北方の彼奴らを鍛えたあの施設。あそこを第五〇〇部隊の本拠地にしたいと内心考えながらディルクは歩いていると横にいたカセリーヌから声をかけられる。

 

「どうしたの?」

「ん?あぁ、いや…少し考え事をな……」

 

駐屯地のプレハブのような宿舎を歩く。此処数日は色々と忙しかった故、あまりよく寝ていない。

まだ街には第七機甲師団が駐屯中であり、市内には監視と警護のために装甲車や戦車が待機していた。

 

帝都警察もまさか自分達の上司がテロリストと結託していたなどという汚職が暴かれ、その上その情報が漏れてしまうという大失態を犯した。その尻拭いと言う形で警察は現在、国内の強硬派の集団の捜査に積極的に乗り出していた。

 

「全く、抵抗軍に対する任務も。これでは滞ってしまうな」

「仕方ないわよ。これだけの事件が起きたんですもの」

 

駐屯地の宿舎を出ながら二人は話す。他の隊員に気勝てない程度の小さな声、それも日本語で話しながら……。

 

「おまけに今回の騒動に紛れて教国が調べていた」

「本格的な攻勢?」

「それに近いな。あの地下室は危ないかもしれないな……」

 

少なくともあの教国の諜報員が事前に情報を何かしらの方法で送っている可能性がある。当時、あの地域一帯は強力な電波妨害を行っていた。その心配は無いかもしれないが……。

 

「今、あの二人は情報に尋問させている。時期に結果が回って来るだろう」

「大変ね……」

「こっちの事情で君の力が借りられないからな。まぁ、仕方あるまい」

 

そう話し、二人は細長い白いプレハブの施設に入る。此処は壁に遮音魔法の感応石が設置され、中で行われている事を隠す様になっていた。

射撃場に入ると、其処では舞鶴がFN ハイパワーを持って引き金を弾いていた。

 

現在、第五〇〇部隊では一般的な装備であるFN ハイパワー。元々東西戦争中に俺が注文を入れたのが好評だった様だ。

元々近接戦に重きを置いた編成の為、拳銃や短機関銃、汎用機関銃で装備していた第五〇〇部隊。市井の目に触れる事を嫌い、夜を舞台に活躍をする蝙蝠みたいな行動をしていた。

 

今の主な装備は突撃銃と短機関銃、そして拳銃。突出した攻撃が多い為、敵の武器の扱い方も訓練の中に入っており、弾薬選定も大変なものだ。

 

「あ、お疲れ様」

「よう、精が出ているようで……」

 

チャンバーチェックをして拳銃を置いた舞鶴に茂は声をかける。

占拠事件の際、貴族の男の股間に強烈な膝蹴りを喰らわしたと聞いた時、思わずその痛みを想像して男全員で合掌したのはよく無い思い出だ。そりゃ気絶するよ……ミンチよりひでえや。

 

「ええ、この前の事件で汚物を見ちゃったからね……」

「ははっ、ひでえ言い方」

 

ディルクは射撃場に置いてあるフェドロフの弾薬を確認する。

不思議なものだ。この世界に日本はないと言うのに日本の弾薬はある。

 

いや、正確に言うとあるのだ。瑞穂皇国という名の日本に似た国家が、この大陸の極東部にも。

 

 

 

このフェドロフの弾薬は三八式実包だ。二五発入り弾層に弾薬が入っているのを確認し、そのまま挿し込む。中間弾薬と言っても元が小銃弾である為、高い貫通力と威力を持っている。

 

既存の生産ラインを改造して作られている突撃銃のクルツ弾は今回の事件を経て、良い貫通力と戦闘力。そして何より、その連射性から高い評価を受けており。既に空軍は基地警備用に突撃銃を大量発注を決めていた。

 

「(これから地球と似たような歴史を追うんだな……)」

 

そしてフェドロフの照準を遠くの的に向けながら茂はその引き金を引いていた。




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