東西戦争中に登場した帝国の開発した新技術。
主に電撃戦や化学兵器などが挙げられる。その数多くの技術が生まれた中で帝国が開発に成功した新たな技術があった。
魔導演算機
帝国の技術者、エレニカ・ネーデルハイト氏によって開発に成功した今までの常識を覆すと言われた発明だ。
従来、魔法兵が魔法を発動させる際は感応石や魔導書、魔法の杖などの媒介を必要とし、使用者単体での魔法の使用は困難な技であった。
しかし、この魔導演算機はそれら媒介を必要とせず、魔法の使用者本人が意識しただけでどの魔法をどれだけの威力で発動できるのかを調節可能であった。
背中に高純度の棒状感応石を搭載し、各々が使用するそれぞれの刻印された感応石はそれぞれの戦闘の形に対応していた。
そしてそれら魔導演算機は開発された当初はその有用性は開発した帝国以外では疑問視されていた。思考するだけで魔法を発動させるのであれば刻印した感応石を組み込んだ魔道具を使用すれば良い事。わざわざ背中に背負い込むレベルの大きさの道具を用いる必要はないと思われていた。
そしてそれは現在もそうであると思われている。戦争末期、共和国のとある部隊が帝国の魔導演算機を鹵獲し、それらを運用した経歴が残されているが、それらの部隊はあの大罪人と呼ばれているジュール・ファブールの指揮する部隊であった。
戦線突破の混乱に合わせて姿を消した彼はそのまま鹵獲した魔導演算機の情報までも持ち出した。そのため、現在の共和国に魔導演算機の情報は渡っていなかった。
現在、共和国や帝国にてテロ行為を行っている共和国正統政府軍。通称抵抗軍はその活動を活発化させつつあった。そしてそれらの対応には帝国と共和国から合同で対策本部を作っていた。
今までの戦闘でその多くの人員が損耗してきているが、抵抗軍側の力が衰える様子はない。それは何故か。
答えは簡単だった。抵抗軍に参加したいと願う者もいたからだ。こんなテロ行為ばかり行う反政府集団に加担したいなどと普通は思わない。しかし、中にはこんな者もいる。
ーー自分は大きな戦争に参加できなかった。だからこの戦いで真の共和国を取り戻すのだ!!
帝国軍が戦線を突破して進撃し、共和国の国境地域を占領した。そして戦後、終戦協定の際にロール地方という共和国と帝国の国境地帯の一部領土の割譲が決められた。
それを見て共和国国民は帝国に負けたのだと感じた。いくら徹底抗戦や予備戦力が残されていようと、領土割譲という目に見える敗北という形に国民は負けたのだという事を認識せざるを得ない。
そして後に徹底抗戦する余力があったという話を共和国の若い少年少女達は酒場でこんな風に話していた。
『なぁ、聞いたか?共和国って実はまだ戦える状態だったらしいぞ?』
『どうせ嘘だろ?いつもの話だよ』
『嘘じゃねえよ。よく見てみろよ、近くの駐屯地をよ。いっぱい兵隊さんがいるぜ』
友人にそう言われ、試しに近くにあった陸軍の駐屯地を見に行った青年はそこにいる兵隊の数と止まっている装甲車を見て驚いた。そして酒場に戻り、友人と話す。
『すごいな。装甲車とか戦車とか止まっていたぞ!』
『だろ?』
そしてそこで見た装備や装甲車、兵士を見て青年らは疑問に思う。
『あんなすげえなら何で降伏したんだろうな』
『俺たちゃにゃ分からんよ』
『帝国如きににビビったのか?』
帝国の一大攻勢ミョルニル作戦において、戦線を突破した帝国軍機甲師団はそのまま国境地帯を瞬く間に占領。逃げ道を塞がれ、その上戦線は崩壊。混乱した共和国政府はまともな対応ができぬまま戦線を後退させ続けようとした時。ルテティアに魔導演算機を装備した降下猟兵部隊が対空砲とレーダーを攻撃しており、その報を受けた政府はすでに首都まで帝国軍が進撃している事だと誤認していた。
その時、帝国軍はルテティアの東方百キロの地点で占領したガソリンスタンドにて補給を受けていた。
しかも当時、ルテティアの東側の対空陣地やレーダー施設を周到に攻撃していたので政府は帝国軍がすでに首都を囲んでいると思っていた。この点でもペッツ参謀総長の心理戦が功を奏しただろう。
そして一部は徹底抗戦を訴えていたが、すでにルテティア全域に降下猟兵部隊の設置した電波妨害網が張られ、レーダーが使い物にならない現状。どこに帝国軍がいるか分からない上に部隊集結の命令も出せない状況。政府は見えない恐怖に負けて帝国軍に降伏と全軍の戦闘停止命令を送った。
『だったらなんで戦わなかったんだよ』
『新聞には帝国軍の進撃速度が早すぎたっていう話だぜ』
『二日で国境地帯が制圧できるわけねえだろう』
ロンネル閣下率いる第七機甲師団の進撃速度はそのあまりにも速すぎた速度ゆえに共和国市民は政府の誇張だと思っていた。事実、帝国軍ですら居場所を見失うようなレベルの速度だったのだ。
そのあり得ない進撃速度を見ながらその青年はふと口にする。
『政府が帝国軍と取引したんじゃねえの?』
無論、滑稽な話ではある。だってこの戦争に共和国はどれだけの犠牲が出たと思うのだ。自分の知り合いだって戦争に駆り出された。
『だがよ、俺も戦争に参加したかったな……』
兵士募集の紙に青年は応募したが、年齢が足りなくて彼らは戦争に参加する事なく終戦を迎えた。まだまだ自分達は戦える余力はあった。
すると話を聞いていた青年は別のニュース記事を見て興味深く見る。
『おっ、こんな事あったんだ』
『ん?』
青年の見た先、ニュース記事には『またもや抵抗軍の攻撃!今度は現政府政党の本部に爆弾!!』という見出しとともに印刷された爆炎をあげる党本部の写真があった。
『抵抗軍か……』
『真の共和国を取り戻す部隊だってよ。格好良いなぁ……』
『真の共和国ねぇ……』
抵抗軍の掲げる目標。帝国軍に怯えて手も足も出なかったノロマ共を排除し、自分達戦場で戦ってきた勇敢な兵士による政治を行う。
『あんだけの兵力はまだ残っていたんだ。今の政権には不満かもな』
『お前抵抗軍に入りたいのか?』
『真の共和国を取り戻すっていう点では同感できるな。ついでに俺も共和国のために戦えるかもしれないし』
彼らはそんな話をする。酒場でのやり取りでしかないが、自分達があの戦争で活躍できなかったのは事実。
戦場を駆け抜ける勇敢な一人の兵士として、葉書に書かれた絵をよく見てきた。
『俺も銃を持って戦えるなら、抵抗軍に入ろうかな』
銃を持って戦いたい。そんな願望が彼らの内に芽生えた。
『そうだな、俺も銃を持って国のために戦いたいな』
そして、二人は国の為。銃を持って戦いたいという願望が生まれる。そして彼らはニュースで話題となっている抵抗軍に興味本位で参加していったのだ。
そして抵抗軍に参加した彼らは銃を持って国内でテロ行為を行い、自分達に行動がニュースになったのを見て自分達が有名になったのだと言う充実感からさらに抵抗軍の行動に加担していく事となる。
一般人がテロリストになるまでの負のサイクルはこうして出来上がる。
そしてそれら抵抗軍の下っ端はこのように東西戦争で活躍したかった若い青年少女達の新たな活躍できる場所であり、希望でもあった。ニュースに報道される自分達の姿を見て、名をあげたいと思う者達もそれに参加する。
新聞などの情報媒体が抵抗軍をより活性化させる悲劇を起こしていた。彼らにとってテロ行為とは暴走族が爆音を鳴らして住宅街を歩くのと変わり無いと思っているのだ。
そして抵抗軍のニュースは大陸にも広まり、半分イタズラで店に投げた空瓶は火炎瓶となり、次第に手榴弾となった。
抵抗軍はこういった行動を大陸全土で行う大規模テロ集団となっていた。
情報が、彼らの力を増長させていたのだ。
正暦一九四〇年 二月十日
ライヒ帝国 国境地帯ラインランド
その日、国境地帯近くの元々は戦場であったその土地。そこでは戦後復興の一環として植林作業が行われていた。
かつては緑生い茂る場所であったというこの場所には今も誰かしらの遺骨や戦闘の残骸が見つかる。
戦争終結から半年、ようやく訪れた平和に市民は喜ぶ。
帝国市民はこの東西戦争に
戦線を突破した帝国軍であったが、予想以上に戦線突破のために戦力を使い、このままでは首都直前までの占領までが限界であると試算された。
咄嗟にペッツ総長の起点でルテティアに降下猟兵部隊を派遣して上層部を脅かすと言う手段を取らなければ共和国の戦線が大きく後退しただけでまた泥沼の戦争になるところだったのだ。だから帝国軍側にも大きな損害が出ていたのだ。
だから後の時代にこの大攻勢の勝敗は機甲師団でも電撃戦でもなく、首都に放った二百名の兵士にあったと言われている。
そしてこの市民と軍部の意見の食い違いがこの前の司令部占拠事件へと発展したのであった。
この司令部占拠事件に際し、メディアで大きく取り上げられたのは対テロなどの特殊任務に特化した部隊と、彼らの装備していた新型の突撃銃の性能であった。
闇夜に紛れて何も撮影できなかったが、メディアでは自分達の知り得ない未知の部隊がいると報じられ、そこには東西戦争にて活躍した帝国の黒い天使がいると言う噂まで広がっていた。
「やれやれ、新聞も面白おかしく書く事で」
スコップ片手にそう語るのはディルク・フォン・ゲーリッツ、またの名を南部茂と言う。
「それが仕事みたいなもんでしょ。新聞て言うのは」
そんな彼に答える少女はカセリーヌ・モンロー、またの名を小山蓮子と言う。
「誇張も程々にしないとね。悲惨なことになるから」
そう言うのはオードリー・モレノ、またの名を立川絵里と言う。
今日、第一・第二・第四・第五中隊はこの戦場跡の場所で植林活動という慈善事業を行なっていた。彼らはスコップ片手に地面を掘り、軍から払い下げられた3tトラックの荷台から植林のための苗木を運び出す。
無論、こんな他の者に任せておけばいい仕事をわざわざ彼らがやっているのには理由があった。
「向こうの動きは?」
「いや、全然。廃墟みたいに誰も動かないわね」
近場の川に腰をかけて茂が問いかけると、立川は双眼鏡を覗き込んで答える。双眼鏡の先には中世の城を体現したような……何というかシャンボール城みたいな見た目の城があった。
「本当にあそこで邂逅が行われるの?」
「情報部からの連絡ではそうらしい」
蓮子の問いに茂は答える。近いうちに、あそこの城にて抵抗軍の幹部会が行われるという情報が入り彼らは出動していた。第三中隊は別件の用事の影響で此処にはいないが、それ以外の面々は植林活動の傍ら情報収集に励んでいた。
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