黒の飛蝗は橙色の夢を見る   作:世界一孤独なチンパン

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 次回でスパスタ本編の3話の話は終わりです。ここまでだけで約3週間。早くも先が思いやられております作者ですが、この物語はなんとしても完結まで持ち込ませますので温かい目でお守りください。

 それではどうぞ。

 ここにきてようやくスパスタ本編3話本来のサブタイになるとは…。


#10 課題Ⅵ『クーカー~天命~』

 

◆◆◆◆◆◆

 

「ハァーン…尊い…」

 

 澪がデザグラで奮闘する少し前、可可がかのんと千沙都を自宅へと招いた。彼女の家には引っ越し仕立てなのか壁際に沢山の段ボール箱。その中で壁に向かって鎮座する彼女を含めた3人。その先には、とあるスクールアイドルのポスターが額縁に入った状態ででかでかと飾られていた。可可は教徒信者のごとくははぁーと首を垂れている。

 

「家にこんな大きなポスター…」

 

「当然デス!」

 

 そもそもの話、なぜ彼女たちが可可の家にいるのか。それは今目の前にあるポスターに移っているスクールアイドル『Sunny Passion』が原因なのだ。というのも、

 

「このグループが2人の出るフェスに?」

 

「急遽参加デス!」

 

 スクールアイドル部設立の課題である1位を取らなければいけないフェスに参加するというのだ。それに加えこのSunny Passionなるグループは、昨年のラブライブ全国大会に東京代表として選ばれている。

 

「この人たちが参加しちゃったら、1位はきっと…」

 

「当然デス!今回程度のフェスであれば、1位は絶対にサニパ…」

 

 可可は当然のように言うが、もう一度思い出してほしい。彼女たちが部を設立するための条件は、フェスで優勝をすること。だが、そこに昨年全国大会に出場するほどの実力者がでるということは

 

「可可たちがスクールアイドルを続けるためには…」

 

「フェスで1位を取らなきゃだよ」

 

 

 

 彼女たちにとっては最悪と言える遠回しの敗北確定が、今ここで決められたようなものであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「どうしましょう」

 

「ライブまで後5日。今から練習をハードにすればいいってわけにもいかないし、可可ちゃんが全部歌えるようにしないとだめだもんね」

 

 全国大会出場者の飛び入り参加とかのんの再び歌えなくなったこと。2つの大きな壁に阻まれつつも、少しでも最善の策が出るように意見を交わしあう千沙都と可可。一方かのんは自分が歌えなくなったことに対しての罪悪感に苛まれていた。口を開いたとしても、出るのは謝罪の言葉だけ。

 

「大丈夫デス!かのんさんのフォローは出来ます!見ててください」

 

 可可は腰を下ろし、腹筋の体制に入る。初日の練習では1度も成功できた例はなかったのだが、今では見違えるほどにスイスイとやってのける。

 

「ほら!毎日やっていたら結構できるようになってきました。この調子で続けていれば、ライブの時にはきっと何もかも完璧になっています」

 

 心配するなと言わんがばかりにかのんに笑顔を見せる。だが、心の曇りは未だ晴れないまま。自分じゃなければ、もっと楽だったのに。かのんは可可によって彼女の自宅へ連行される前、そう呟いていた。その思いも今も変わらず、心の中では申し訳なさでいっぱいだった。

 

「じゃあ、私は帰ろ」

 

 かのんの顔を見た千沙都は、おもむろにそういった。可可が理由を尋ねるがダンスで忙しいというのと、2人きりの時間も大切だということからだそうだ。千沙都が部屋から出てすぐ、可可の携帯が鳴った。ちょっと待っててと言われ、現状部屋に残っているのはかのん1人。

 

「可可ちゃんに申し訳ないことしちゃったな…」

 

 何度も思っていたことをようやく言葉として吐き出す。フェスで1位を取らなければいけないというのにも関わらず、その出演者が歌えないというのはそもそも論外な話。そしてその尻ぬぐいをしなければいけないのは他でもない可可。

 

「なんでそこまでして私と…」

 

 かのんが歌えないと知りながらも自分とステージに立ちたいと言ってくれた可可の意図を考える。だが、いつまで経ってもその答えが見つからない。当然だ。その真意は可可本人にしか知りえないのだから。

 

「そういえば、さっきの結局何だったんだろ」

 

 可可に関して一旦考えるのをやめたかのん。だが可可の電話が思ったより長かったため、また別のことを考えることにした。そうして真っ先に頭に浮かんだのは、先ほど自分が体験した状況。可可と別れた後、歩道を歩いていた彼女はいきなり得体の知れない生命体5体に囲まれた。彼らは一斉に彼女に襲い掛かり大人数に撫でられている犬のごとき扱いをしてきた。決して命の危機に瀕したという状況でもなかったのだが、襲われていないと言われれば嘘になるので、無意識に助けを求めていたところ現れたのが謎の2人組。牛のような紫の戦士と狸のような緑の戦士。彼らは自身にまとわりついていた生命体たちを引っぺがして自分を逃がしてくれたのだ。直後は夢ということで切り捨てたのだが、改めて思い出してみるとやはり夢という言葉で片づけるのは少々難しいと思っているかのんであった。

 

「お待たせしました」

 

 ガチャリとドアを開けて帰ってきた可可。お姉ちゃんが心配の電話をかけてきてくれたと言い、かのんはそれに安堵する。時刻ももうすぐ8時。かのんはこれ以上家族を心配させるわけにもいかないので、帰ると言って玄関へと向かう。

 

「あの!」

 

「ん?」

 

 可可に呼び止められたかのんは彼女の方を見る。可可はばつの悪そうな顔をしていた。聞けば千沙都を勧誘していたようだ。可可は慌てて勘違いしないでほしいと言い、続けて自分は変わらずかのんと同じステージに立ちたいと言った。だが、かのんは自分の思っていたことを正直に話すことにした。

 

「でもね、私思ったんだ。このままじゃ、1位を取ることってものすごく難しい。そしたら、可可ちゃんの夢がここで終わってしまうかもしれない。…私のせいで」

 

 人は罪悪感に苛まれすぎると、自分をとことん責めてしまう。かのんは特にその特徴が強く、元々自己肯定感が低い彼女は一度罪悪感に駆られてしまうと、人一倍自分を責めてしまうのだ。それは、今回の件に対しても同じであった。彼女は肩を震わせながら言葉を続ける。

 

「せっかく上海から来て、やりたいことがあって…。こんな夢に向かって始まったばかりの時に。私のせいで…私のせいで夢を諦めなきゃいけないなんてなったら、申し訳なさすぎるよ!!」

 

 涙を流しながら言葉を紡ぐ。可可はそれをただ黙って聞いていた。いや、黙らざるを得なかったというべきだろう。

 

「やっぱり私は足手まといにしかならない…。それが分かってるのに、ステージに上がるなんて出来ないよッ!!」

 

 可可は彼女に近づきそっと抱きしめる。かのんは腕の中で延々と可可に対しての謝罪を述べるだけだった。

 

「自分のことを悪く言わないでクダサイ。かのんさんに心奪われた、私も可哀そうになっちゃいマス」

 

 涙を流すかのんを宥めるようにゆっくりと語り掛ける。

 

「可可の家の人たちは凄く教育に熱心で、今までずっと勉強ばかりでした。可可も特にやりたいことなんてなくて、『これでいいんだろうな』、『これが正しいことなんだ』って思ってマシタ。そんな時、出会ったのデス!」

 

 いつかの日、可可が上海にある中学校から自宅へ帰るころにその出会いは訪れた。ビルのモニターに映る歌って踊る自分と同年代の少女の姿。それが『Sunny Passion』。彼女たちが見せる圧巻のパフォーマンスと独特な世界観に心を惹かれ、彼女『唐可可』は日本へとやってきたのだ。

 

「見た瞬間にこれだって思いました。こんな風に、自分の気持ちや感じたことを自由に歌ってみたい。かのんさんの歌声を初めて聞いたとき、それと同じくらいわくわくしたんデス。だからもう、かのんさんは私にとってのスターなんです。夢なんデス!」

 

 かのんの歌を聴いたとき、Sunny Passionを初めて見たときと同じ気持ちを感じた。それはつまり、かのんは自身の中で自分が抱く夢と同等なものということに、彼女は気が付いたのだ。

 

「元気出してクダサイ!かのんさんと同じステージに立つことは、可可にとって夢の1つなんですから!」

 

 涙をぬぐうかのん。ここでかのんはようやく自身が深く考えていた疑問が解消された。なぜ歌えなくなった自分を前にしてもそれでもステージに立ちたいと言ってくれるのか。それは自身とステージに立つこと自体が、可可の夢の一つだったからだ。でも、本当の夢はスクールアイドルになること。いくら夢とはいえ、歌えない自分とステージに立っても、その夢は叶わないかもしれない。そう危惧するかのんだったが、最後に言われた『最高のライブにしよう』という言葉を受け、可可がこんなに頑張っているのなら自分も頑張らないわけにはいかないということで、自分がどれだけできるかわからないがやってみる決意をしたのだった。 

 

「かのんさぁぁん!!」

 

 可可は感激のあまり涙を流しながらかのんに抱き着く。

 

「かのんでいい。かのんって呼んでよ!」

 

 さすがに2人でステージに立つということを本格的に決めた以上、これまでのようにさん付けで呼ばれるのは如何なものなのかということで、かのんは可可に名前で呼ぶように促す。

 

 これが、代々木スクールアイドルフェスまで残り5日を切った夜に起きた出来事であった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

「で、その嬉しさのあまり出た涙が俺とバッタリ会う直前まで止まらなかったってわけか」

 

「五月蠅いなあ…。恥ずかしいから言わないでよ」

 

 ことの顛末を聞いた澪が締めの言葉としての発言に、ジト目を向けながら抗議する。

 

「そっちはなんであんなところに?」

 

「いい加減、お兄ちゃんって呼んでくれてもいいんだぜ?」

 

「それだけは絶対に呼ばない。私はあなたのことを家族として認めたわけじゃないから」

 

 振られた話題に答えず、茶化すようにそう呟く彼の言葉を一蹴し冷ややかな目を向ける。今はこうして普通に話してはいるが、彼が家族の一員として入ってきたことは未だに認めていない様子だった。ちなみに、理由はわからない。彼女が後に語るに、得体の知れない嫌悪感が彼女の中にあるらしい。

 

「明日からの練習はどうするんだ?唐可可が歌えるようにするのか?」

 

「ううん、今まで通り私と可可ちゃんが歌うことを想定しての練習メニュー」

 

「大丈夫なのか?それ」

 

「うん。ギリギリまで自分を信じて頑張ってみる」

 

「そうか…」

 

 どうやら彼女の気持ちは本物らしい。そのことを確信した澪はフッと微笑しながらカノンと横並びで歩く。

 

 何気に初めてともいえる、家族2人の時間。その後も他生の世間話をしながらわが家へと向かう彼らの周りには、温かい空気が流れていた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 残り4日。彼女たちは今日も今日とてランニングから始まるフェスに向けての猛特訓。最初は金槌だった可可も、今ではかのんと足並みをそろえてステップを踏んでいる。練習が終わっても、お風呂場では笑顔の練習。お風呂上りにはストレッチ。自主練を欠かさなかった。

 

 残り3日。ランニングのペースも徐々に早くなってきた。ビルのモニターには飛び入り参加が決まった前年度ラブライブ全国大会の出場者。だが、今はそんなことを嘆いている暇はない。彼女たちはそれには目もくれず、通り過ぎて行った。彼女たちの心の中にあるのは、何としても1位をとる。その覚悟だけだった。

 

 残り2日。この日は澪が見学に来ていた。かのんは散々来るなとは家で言っていたらしいが、彼も彼で家でどんな練習をしているのか気になるということを言っていたので内緒で可可に見学の許可をもらったらしい。ストレッチの段階では彼の目線が気になっていたかのんであったが、ダンスの練習になるともはやそんなことは頭の片隅にもなく、その集中力は澪をも関心させるほどだった。

 

 

 残り1日。澪は理事長直々の依頼により、フェスの会場の設営を手伝っていた。そこにはボランティアとして参加していた道長と景和、英寿の3人がおり、彼らから脱走したジャマトの話を聞いた。澪は驚きはしたものの、真面目な顔つきになり捜索を手伝うと言った。彼らはそんな彼に感謝の意を述べ、この日は4人で夜遅くまでジャマトの捜索をした。

 

 そして当日。澪たちが設営している最中のステージの前をかのんと可可が通り過ぎる。かのんは澪の姿を見ると、心の中で感謝をしランニングを再開した。ランニング途中の彼女たちを生徒会長が複雑な表情で物陰からひっそりと見守る中、2人は息を切らしながら地べたに座り込む。

 

「凄い!短期間でここまでできるなんて!」

 

 ここまでの成長は千沙都コーチも予想はしていなかったのか、驚きつつも称賛の言葉を投げかける。すでに日は少し傾いており、本番まで残り数時間といったところだった。3人は一度各自家に帰り、身支度を整えてからフェス会場に開始時間の30分前に集合という約束をして別れた。ご飯を食べ、シャワーで軽く汗を流し、化粧をする。すべてが終わった時、家を出るにはいい時間帯になっていたので、家族に行ってきますとだけ告げて家を出る。

 

 

 

そして程なくして、『代々木スクールアイドルフェス』開幕の合図が、代々木の街に鳴り響いた。

 

 

 

 





 信じることこそ、最大の力。

 
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『天命』…天の命令。天から与えられた使命。

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