黒の飛蝗は橙色の夢を見る   作:世界一孤独なチンパン

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 おまたせしました。本日から本編第5話のお話です。序盤に少しギーツサイドのお話を割り込まさせていただきました。

 この頃少し思ったんですが、僕が書いてる話って一話一話が長すぎやしません?毎回5000文字とか余裕で超えるんですけど、少し時数減らした方がいいんですかね?

 ということでアンケート実施します。一話一話の字数を減らすべきか否かのアンケートです。是非とも投票オネガイシマス。


 話題からずれましたがそれでは早速どうぞ。




#14 好誼Ⅰ『パッションアイランド~来訪~』

 

 小さいころ、何をしてもダメだった。私なんて、何もないって思ってた。

 

 

 でも、こんな私の近くには、いつも君がいてくれた。弱い自分を受け入れて、励ましてくれた。

 

 

 だけど、それじゃダメなんだ。弱いままの私じゃ、ダメなんだ。

 

 

 いつも君の言動一つ一つに、私は心を動かされてた。だから私は…

 

 

『私、かのんちゃんができないことをできるようになるッ!!』

 

 

 君のために強くなると誓ったんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あっちい…」

 

「悪いな。よりによってこんな猛暑日に呼び出しなんて」

 

「しかも今日テスト最終日だったんでしょ?呼び出しといてなんだけど、成績の方は大丈夫なの?」

 

「あぁ~そこらへんは大丈夫。1週間クラスメイトのスパルタ指導を受けてたから…。うっ。思い出しただけでも頭が…」

 

「どうやら心身ともに疲弊しきってた状態でお呼び出ししちゃったみたいだな」

 

 すみれの加入から月日が流れた同年の初夏。気温30度を超える炎天下のと渋谷の街。その片隅にある廃工場の中を、3人の男が歩いていた。

 

「思ったけど何気に初めてじゃない?チーム対抗のゲームで英寿と同じチームになるの」

 

「言われてみれば確かにそうだな」

 

「まじか。英寿さんと景和さんって普段から仲良いから、同じチームに何度もなってるのかなって…」

 

 大きく日程を開けて開かれたデザグラ第2回戦の種目は『チーム対抗陣取り合戦』。ルールはいたって単純であり、街中にランダムに設置された相手の陣地にある旗をどちらが先に奪い取るかというもの。今回のチーム分けは英寿、景和、澪トリオと祢音、道長、ウィントリオとなっている。

 

「まあ今回はたまたま運がよかったんでしょ。だって運を引き寄せる男が同じチームなんだからさ」

 

 景和は英寿を見ながらそう呟く。彼の脳内には、ゲーム開始前の英寿とのやり取りが蘇っていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「記憶が戻ってるかもしれない!?」

 

 デザイア宮殿のサロンに響く声。その声の主は紛れもなく景和のものだ。英寿は驚愕の表情を浮かべる景和を横目にああと返して言葉を紡ぐ。

 

「確かにホッパーは言っていた。『ありあを助けられなかった』と。まるで、そのことを覚えているかのようにな」

 

「だったらそのことを本人に聞いてみるしか…」

 

「いや、下手に刺激するとまたあの時(・・・)のようになりかねない。今回は慎重に行くべきだ。そうだろギーツ」

 

 祢音が出した解決策にすぐさま反論する道長。英寿は彼にフッと軽く微笑み返すと口を開く。

 

「バッファの言う通りだ。それに、俺の中で引っかかっている点もある」

 

「引っかかっている点…ですか?」

 

「初めて澪がここに来た時の話はしたよな」

 

「確かその時ギロリさんが初めて澪君に会ったんだっけ」

 

「その時の彼の様子をパンクジャックから聞いたんだが、IDコアに触れても俺たちの記憶が戻らなかったらしい」

 

「コアに触ったのに?」

 

「あぁ。理屈は分からないんだけどな」

 

「つまりそれ以外の何らかの理由でかのんちゃん関連のことは覚えていて、俺たちの力のことやデザイアグランプリに関しては忘れちゃってる…ってことか」

 

「気になる点といえば、私も1つあったのだが、デザグラ初エントリーとはいえ彼が急な召集や戦闘に慣れていることも不自然だ」

 

 景和による簡単なまとめを聞き、頭を悩ます一同。ここで今まで黙秘を貫いていたギロリが個人的に抱いていた彼についての疑問点を問いただす。

 

「恐らく慣れだろうな…。長年デザグラにエントリーしていたから、本人も知らないうちに心身が追い付いているんだろう。そして、当の本人はそれに身を任せている…」

 

「タイクーンの推測が正しいとすると、全部を思い出すのも時間の問題かもな…」

 

「これからは、なるべく彼の近くに英寿が居た方がいいかもしれませんね」

 

「そのことなんだが、明日のゲーム…少し八百長をさせてほしい」

 

 不敗のデザ神浮世英寿からの思いもよらない言葉にその場にいた一同が目を丸くした。そして彼の目線は、この場にいる誰よりも驚愕の表情を浮かべる景和へと向いていたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

(なんで英寿は俺とチームを組みたいなんて、澪君とチームになるならもっと適任者いたでしょ…。ウィンさんとか)

 

 記憶の回想を終えた景和はそんなことを思っていた。実のところ彼も英寿の話に乗っかっただけであり、当の英寿自身が起こした言動の真意がわからずにいるのだ。一度は聞いてみたのだが

 

『今は俺の話に乗っておけ…』

 

 と神はその一言だけ言っていた。

 

「っていうか大丈夫なの?3人とも陣地から離れちゃって」

 

 陣取り合戦は基本相手の陣地に攻める人と自分の陣地を守る人が居る。にもかかわらず、現在の状況はチーム全員が前線に出ているという状況。そのことを英寿に問う澪だが、当の本人は相変わらずの余裕の表情を浮かべている。

 

「ああ。恐らく向こうの考えも、俺たちと同じだろうからな」

 

 英寿の目線の先では相手チーム全員がこちらに向かって歩いてきていた。ある程度の距離を保ってとどまり、互いに威嚇の目線を交わす。

 

「やっぱりお前も同じ考えか。ギーツ」

 

「ああ。手っ取り早く勝ちを貰うには、お前ら全員を倒す方がいい」

 

 最初に啖呵を切った道長に同意する意を示す英寿。澪は英寿の道長との意思疎通振りに苦笑を浮かべながら聞いていた。数回相手に愚痴りあった後、なぜか話の流れから負けたチームのリーダーはこの後景和の元勤め先のたぬきそばを全員に奢るという賭けの話になった。道長のさっさとやるぞという声で全員がバックルを構える。

 

「今度は勝たせてもらうぞ…ギーツ!!」

 

「望むところだ…。バッファ!」

 

「景和。女の子だからって、手加減したらダメだよ!さもないとまたポンチッチの刑だからね」

 

「ポンチッチの刑って…。ハナから手加減するつもりはないよ!だから全力で来なよ祢音ちゃん!」 

 

「場面は違えど推しとこういう風に関係持てるなんてな…。いくよウィンさん」

 

「ああ。俺もパンクに行かせてもらうぜ~!」

 

《SET》

 

『変身!(へ~んしん!)』

 

《MAGNUM(ZONBI)(NINJA)(BEAT)(MONSTAR)(GIGANT SOWRD)!》

 

 変身ポーズをとり、声高らかに叫ぶ。バックルを操作し、素体となるエントリーフォームの姿になると、各々が得意とするフォームの武装が装着され変身が完了した。

 

《READY…FIGHT!》

 

 ベルトの音声を合図に一斉に駆け出し、互いに武器を、拳をぶつけ合う。久しぶりにプレイヤー同士の攻撃が許可されたこともありそれぞれが自分自身の全力を出し、夏の暑さを忘れるほどに夢中となって戦った。その戦いは、延べ数時間に及んだという。

 

『可可ちゃんが倒れちゃったから急いでこれる?』

 

 この際澪もウィンとの戦いに夢中だったためポケットに入っていたスマホに来たメッセージには、一切気が付かなかった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 激闘を繰り広げる少し前、結ヶ丘女子高等学校の練習ルームの一室。そこに音楽を鳴らして体を動かす人物が一人。二つのお団子に両サイドからちょろっと垂れた髪の毛。何より特徴的な白い髪。スクールアイドル同好会のコーチこと嵐千沙都だ。華麗にターンを決め、ダンスの締めのポーズをとる。乱れた息を整え、運動の合間には欠かせない水分補給。小休止を挟みもう一度踊ろうと立ち上がった時、後ろから千沙都を呼ぶ声が。

 

「嵐さん。ちょっといい?」

 

 

 

 後小一時間もすれば同好会の練習時間ということもあり、一度家に戻ってシャワーを浴びようと考えた千沙都は制服姿で教師から要件を伺う。

 

「大会?」

 

「そう。夏休みに行われる都大会に、本校から1人選手を出してほしいという話が来ているの。うちとしては、嵐さんがいいんじゃないかって」

 

「今月かぁ…」

 

 スマホの画面とにらめっこする。画面には今月のバイトから同好会の練習に至るまであらゆる予定がカレンダーに書き込みされていた。少しの沈黙ののち、彼女が出した答えが

 

「少し、考えさせてください」

 

 返事を待たせてほしいという希望であった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 時が流れ太陽が地上の真上を少し通過した頃。

 

「「「「うぅ…」」」」

 

 熱波で揺れる視界の先を、かのんたちはドアの隙間から見つめていた。何も言わずドアをバタンと閉め、一同は同好会内の会議に入る。

 

「なに、この熱気は…」

 

「やっと試験が終わって今日から練習だというのに」

 

「猛暑日だねぇ…」

 

「水分をこまめに取って、屋外での運動は控えましょうって」

 

 如何せん今日の気温は35度を軽く超えている。この中で運動しようものなら数分もしないうちにダウンするのは確実視される。

 

「さすがにそうよね~。こんな外で練習は無茶でしょ」

 

「な~にを言ってるのデスカ!もうすぐ『ラブライブ!』のエントリーも始まるのデスよ!」

 

「はぁ?『ラブライブ!』?」

 

「そんなことも知らないのデスカ?」

 

「知るわけないでしょ?そんなアマチュアの大会のことなんか」

 

「アマチュアではありまセン!スクールアイドルにとって『ラブライブ!』は国民的行事。今年は史上最多の参加が確実視されている最大の大会なのデスよ!」

 

「フンッ。私から見たらアマチュアはアマチュア。こっちはショウビジネスの世界で生きてきたんだから」

 

 とここで可可が(すごく悪い)笑みを浮かべてすみれに揺さぶりをかける。

 

 

「グソクムシがデスカ~?」

 

 可可がなぜこのことを知っているのか。コンマ数秒ほど思考を巡らせ、すぐに答えにたどり着く。

 

「か~の~ん~!!」

 

「いや、どうしても教えてほしいって可可ちゃんが…」

 

 あっという間に詰め寄られた犯人(かのん)は手でガードをしながら咄嗟の弁明をくりだす。その状況を見かねてか、千沙都が話題を変える形で助け舟をだした。

 

「それにしても、こんなに早くすみれちゃんが溶け込むなんてね」

 

「可可ちゃんも大好きみたいだしね!」

 

 発言が気に食わなかったのか2人して後者の発言主に抗議の目線を向ける。その姿がとても威圧的だったのか、思わず身じろぎをするかのんに可可が先手と言わんばかりに口を開く。

 

「どこがデスカ!可可はそもそもこんな不真面目な人が入るのに反対なのデス!!」

 

「不真面目じゃなく、現実的に練習は無理だって言ってるの!!」

 

「そんなことありまセ~ン!!!」

 

 とうとう口喧嘩では無理だと判断したらしい可可はドアを開け放ちその姿を炎天下の元へと繰り出す。『口で言っても分からないなら自分が証明してわからせよう作戦』だ。しかし本人が思ったよりも暑かったためか、駆け出して数秒後に顔をしかめてしまう始末。

 

「大丈夫?」

 

「はいデス!立ってみればぜ~んぜん平気デスよ!むしろ風がある分、ここにいる方が涼しいくら…」

 

「クラ?」

 

「くらぁ~…」

 

 悲報。策士策に溺れる。その場に横倒れた可可を救助しに行く3人であった。

 

 

 

「うぁぁぁ…。死ぬかと思いました…」

 

「やっぱり無理だよねぇ…」

 

 可可を部室に連れ帰った後、急いで水分を取らせ椅子に座らせた一同。今は額に冷えピタを張り、すみれによって人工的な風を送られている最中である。

 

「ここも冷房は効いてないし、どこか無いの?涼しい場所」

 

「う~ん。音楽科のレッスン室なら…」

 

「本当デスカ!?」

 

「でも使わせてもらえないよ。『普通科』は」

 

「ですよね~…」

 

 この候補が最速で潰れれば、残された場所は限られてくる。何とかして使いたいすみれは粘り説得を試みる。

 

「音楽科の千沙都が言えば何とかなるんじゃないの?」

 

「ナイスアイデア」

 

「やめとこう。もしそれで許可が出ても、他の普通科の子に悪いよ。なんか、こっちがお願いして使わせてもらってるみたいなのって良くない気がする。同じ学校なのに…」

 

 これが現時点でかのんたちの学校が抱えている問題。音楽科は普通科に比べ、どこか優遇されている部分が多く見受けられる。しかし裏を返せば音楽科の生徒が優遇を受けている傍らで、普通科の生徒はその差に大きな溝を感じていた。

 

「でもそういう学校でしょ?音楽科は特別みたいな…。はい。5分たったわよ」

 

 先ほどから可可を団扇で扇ぎながら会話していたすみれだったが、突然団扇を置き立ち上がる。可可への扇ぎ係は彼女自身から進んでやると言ったわけではなく、

 

「「よ~し!」」

 

「いくわよ!せーの!」

 

「「「最初はグー!じゃんけんぽん!」」」

 

 つまり、こういうことである。結果はすみれがチョキを出したことによる一人負け。幼馴染コンビはいえーいと喜びを分かち合いハイタッチまでしている。悔しげに椅子に座る彼女に向かって可可が最初にかけた一言はというと

 

「敗者はとっとと扇ぐのデス」

 

 そこにはもう、慈悲もクソもなかった(すみれ談)とのこと。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「はぁ…まったり…」

 

「やっぱりクーラーがあると違いますね」

 

 もうこのまま練習をせずに部室に引きこもっているだけなら、今日はもういっそのことオフにしようということになり、制服に着替えた一同がやってきたのはかのんの家。すみれがジュースを飲み安堵の息をつく一方で、かのんは違う意味合いの息をついていた。

 

「はぁ…ほんとに何してるんだろ…」

 

「レーさん、まだ既読付かないのデスカ?」

 

「うん。送ってからかれこれ1時間くらい経つし、せめて連絡の1本くらいほしいよね」

 

 スマホの画面を消し、可可に悪態をつく。可可にかき氷を渡すと、話題は練習場所の話へ。最初はかのんの部屋が提案されたが、お義父さんが仕事中だからという理由で潰れ、可可の家はそもそも賃貸アパートのため騒音はNG。最終的に仮決定ではあるが、すみれの家の神社ということで議論が収束していったところで、ドアが開かれる。

 

「いらっしゃいまs…えぇッ!?」

 

 お客様かと思い接客のための挨拶をしたが、その予想は当たらずとも遠からず。お客様はお客様だったのだ。だが、その肝心なお客様が

 

「こんにちは」

 

「パァー!やっぱりここにいた!」

 

「Sunny…Passion?」

 

 昨年のラブライブ!東京都代表という、今のかのんたちでは決して会うことがなかったであろう人たちだったということだが。

 

 

 




 思わぬ来訪。それ即ち運命

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