黒の飛蝗は橙色の夢を見る   作:世界一孤独なチンパン

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 今回は澪と千沙都の絡みがメインとなります。この2人にスポット当ててガッツリ書くの何気に初めてかもしれない。

 それではどうぞ



#16 好誼Ⅲ『パッションアイランド~告白~』

「練習メニューと振り付け作ってみたから、後で見てみて」

 

「ありがとう!」

 

 ライブ自体は2週間後なのだが、移動に十数時間もかかるうえ練習時間も考慮し夜からの出発となった。出発前にかのんは島にいる間の2日間分の練習メニューと当日披露する曲の振り付けを千沙都から受け取る。

 

「ちいちゃんもダンス頑張ってね。まさか代表に選ばれてたなんて…」

 

 あの後千沙都はあの思惑に至った全ての成り行きを話した。と言っても、ダンス大会の代表に選ばれていたので、それを優先したいという一言で完結できる説明だったのだが。かのんはそんな彼女に優しく激を飛ばし、千沙都も笑顔で受け止め同時にともに島に遠征に行けないことを謝罪する。元々ダンス優先という暗黙の了解があるので、仕方ないとかのんは謝罪を軽く流す。

 

「後は任せなさい!」

 

 そのままいい雰囲気で終わればいいものを、ギャグ路線で締めようとするのがこの平安名すみれという女。彼女は悠々と啖呵をきるが、可可にグソクムシダンスはいらないと言われ彼女を追い回す。彼女たちにとってはこれが日常なので相変わらず微笑ましく見守る。

 

「あ、そろそろ時間だよ」

 

 スマホの時計をみると、船が出る時間の10分前となっていた。遅れて乗り過ごすなんてことはあってはならない。

 

「よーし!すみれちゃん可可ちゃんも集まってー!」

 

 かのんは可可とすみれを呼び、千沙都と別れるときの恒例行事を行う。

 

「うぃっす!」

 

「うぃっす!」

 

「「「「うぃーっす!!」」」」

 

 ピースサインを掲げ、船に乗り込む3人。と、ここでかのんが何かを考えるように立ち止まる。

 

「あれ?」

 

「どうしたのデスカ?かのん」

 

「何か忘れてるような…」

 

「気のせいじゃないの?」

 

 出航する準備が整い、船は大海原へとその身を滑らせる。

 

「やっぱりなんか忘れてるような気がするんだよなー」

 

 その際かのんはここにいるメンバーをもう一度見やる。同じ同好会である可可とすみれはこの船に乗っているのは大前提。そして、ほとんど同好会のメンバーのような扱いである千沙都には先ほど別れを告げた。荷物も出発前に念入りに確認し、忘れ物などもない。考え続けて約3秒後、彼女はとある重大なことに気が付いた。その際だした突然の大声に、近くにいた可可とすみれはもちろん、この船に乗っていた観光客が驚きかのんの方を見る。だが、今の彼女はそれどころじゃなかった。

 

「澪君がいない!!」

 

 この船に、自身の兄『渋谷澪』の姿はなかったのである。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 かのんと別れてから少し寂しく感じる夜道を、千沙都は歩いていた。たまたま通りかかった休憩スペース。そこは以前Sunny Passionの2人と話したところだ。彼女はそこで聞いた。かのんたちが、ラブライブで勝てるのかと。すると、2人はこう答えたのだ。

 

◆◆◆◆◆◆

 

「歌もいいし、チームとしてまとまってもいる。でも、勝つのは難しいかもね。どこか自分たちで動いている感じがしないんだ。特にダンスはね」

 

「自分たちで…」

 

「実は、それを確かめに来たところもあるの。なぜあんなに上手なのに、力強さを感じないんだろうって」

 

 今回の来訪の目的は単なるライブの誘いだけではなく、かのんたちのライブ映像を見た際に生まれた違和感の解消だったと明かす麻央。

 

「君がコーチをしていると聞いて、理由がわかったよ」

 

「え?」

 

「今はダンスに関してみんなあなたを信頼して、貴方を頼っている。でもそれでは、いつまでも自分たちで動いていく力強さは生まれない」

 

 最後に悠奈は千沙都がメンバーなら、グループとしては脅威だったと笑い飛ばした。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 千沙都はあの時、心の中である決断をした。それが今回のかのんたちとは別行動をとるという選択。彼女たちがダンスに関して自分を頼り切っているのなら、成長のために一度離れてみようと考えたのだ。千沙都が別行動をとった理由はそれだけではなく、

 

「この大会で、私は…」

 

 呟く千沙都の拳が固く握りしめられる。

 

「随分と怖い顔してるな」

 

 思わぬ声が思わぬ方向から聞こえる。千沙都はその方向に顔を向ける。その次の瞬間彼女は驚愕した。なぜならそこにはこの街にいないはずの人物

 

「澪…君?」

 

 澪が薄ら笑いを浮かべて立っていたからだ。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「嵐。ん」

 

「いいの?」

 

「代表に選ばれたお祝いだ。金返そうとか言う親切心もいらねえぞ」 

 

「そっか…ありがと」

 

 澪は近くにあったコンビニで飲み物を2本購入。そのうちの1本を代表選抜祝いと称し千沙都に渡す。千沙都はお礼を言い飲み物を受け取った。紙パック飲料のストローを口に含み息を吸う。ストローを通じて甘い液体が口いっぱいに広がるのを感じてからそれらを飲み込む。そうすること数回。千沙都が口を開いた。

 

「どうして行かなかったの?かのんちゃん絶対怒ってるよ」

 

「こっちで色々とやることがあってさ。渋谷に関しては…まあ覚悟の上だよ」

 

「やること?」

 

「まあお前とは無縁のことだから、詮索するだけ時間の無駄だぞ」

 

「そっか…」

 

 千沙都はそういって再びストローを口に含む。

 

「後は…」

 

 と澪の声が聞こえたので目線だけをそちらの方へと向ける。

 

「今はあいつらよりもお前のことの方が気になるからな」

 

 そう言った彼の目は、真っ直ぐに千沙都のことを捉えていた。沈黙が続き、千沙都が最初に口に出した言葉は

 

「それって…告白?」

 

「違うわ」

 

 即刻否定する澪。はぁとため息をつき千沙都に問いかける。

 

「お前、ついていかなかったの他になんか理由あるんじゃないか?」

 

「…どうしてそう思うの?」

 

 一瞬面食らった千沙都だったが、すぐに元の表情に戻り試すように澪に問いかける。

 

「あの日のお前、なんか結構重そうなもん背負ってるように感じてさ。でも俺たちに言ったのは『都大会の代表に選ばれた』ってことだけだろ?表情の割にはなんか理由が端的すぎるなって…あれ?違った…?」

 

 理由を淡々と述べる澪だが、一向に表情が変わらない千沙都を見て多少の不安を覚える。今度は千沙都がため息をつき、やっぱ澪君にはばれちゃうかと天を仰ぎながら呟いた。

 

「そうだよ」

 

「その理由聞かせてもらうことは?」

 

「…かのんちゃんに絶対に言わないって、約束してくれる?」

 

「安心しろ。口は堅い方だ」

 

 千沙都は一拍おいてから自身の行動の真意を語り始めた。澪がデザグラで奮闘していたあの日、かのんの家にSunny Passionの2人が来たことと、その際にライブに誘われたということはその翌日の千沙都の部室での話の後にかのんから聞いていた。

 

「…ってことで丁度大会が被ってるっていうこともあって、今回はかのんちゃんたちからあえて離れてみようって思ったんだ」

 

「あいつらに自分から動いていく力強さを身に着けさせるためにか?」

 

 千沙都は黙ってコクリと頷いた。そして数秒口ごもった後、もう一つ理由があると言って意を決した様子で重い口を開いた。

 

 

「私…この大会がうまくいかなかったら、学校辞めるつもりなんだ」

 

「ぶっ…!?」

 

 あまりの衝撃かつ突然のカミングアウトに、思わずむせる澪。一瞬驚いた目で彼を見た千沙都だが、ポケットティッシュを一枚とって彼に渡す。澪は貰ったティッシュで鼻をかむと、千沙都に理由を尋ねる。

 

「なんでそこまでするんだ?」

 

「かのんちゃんの力になれないから…」

 

「渋谷の?それってどういう…」

 

 返ってきたたった一つの答えに疑問を抱く澪。そのことを聞き返そうとしたとき、千沙都のポケットに入っているスマホから着メロがなった。

 

「あ、ちょっとごめんね」

 

 千沙都はそういうと澪から距離を取り電話に応答する。約1分ほどで通話が終わり、彼女が戻ってくる。

 

「お母さんから。晩御飯冷めちゃうから早く帰ってこいだってさ」

 

「そっか。なら送ってくよ」

 

「え?大丈夫だよ!家近いから」

 

「でも時間取らせたのは俺だし。それにこんな時間帯に女子を一人で歩かせられるか。お前は黙って送られろ」

 

「そこまでいうなら…お言葉に甘えて送られようかな!」

 

 そうするのが当たり前かのように千沙都を送ると言い張る。千沙都は大丈夫だというが、澪が半ばゴリ押しみたいなことをしてくるので、今回は彼の厚意に甘えることにした。

 

 

「かのんちゃんなんだ」

 

「ん?」

 

 帰路に着く最中、千沙都がおもむろにそう言い出した。

 

「ダンス始めたきっかけのこと」

 

「なんで渋谷なんだ?」

 

「私ね、小さいころよく近所の子達に虐められてたんだ」 

 

「いきなり重いな…」

 

 いきなりのヘビーな過去に思わず苦笑いを浮かべる澪。千沙都も苦笑いを返し、言葉を続ける。

 

「アハハ…。でも、そんな私をいつも助けてくれたのがかのんちゃんだった」

 

 幼き日の千沙都にとってかのんは、困っていると助けてくれるまさにヒーローのような存在だったと語った。

 

「私が困っていると、かのんちゃんはいつも助けてくれた。でもそれと同時に、守られてばかりじゃダメだって思った。助けられてばかりの自分は嫌だって。私もかのんちゃんの力になりたい。何か一つでもかのんちゃんより夢中になれることを見つけて、その力でかのんちゃんを助けたい。そう思ってダンスを始めたんだ。行かなかった理由はね…澪君が言ってたのもあるけど、本当は自分に自信がつくまでかのんちゃんと一緒に何かをするのはやめようって決めてたから。自分一人の力で成し遂げて、自身をつけて、かのんちゃんの横に並び立とうって。だから今度の大会で結果を出して、それで自分に自信が持てるようになったら、その時は…」

 

 千沙都の足が止まる。彼女の前にある建物を見て、ここが家だと察する澪。千沙都は澪にお礼を言ってから家に入ろうとするのを、澪が止めた。

 

「あのさ、嵐」

 

「どうしたの?」

 

「手伝えることあったら、なんでも言ってくれよ。かのん(・・・)を想い合う仲間同士だからさ」

 

「…!その言葉は、異性としてってこと?」

 

「馬鹿か。家族としてに決まってるだろ」

 

 澪の言葉に一瞬驚きからかう千沙都だったが、彼の返答に何かを感じ取ったのか、それ以上のことは聞かなかった。

 

「それはそうか…。じゃあ、困ったときには力になってもらうね」

 

「自分一人の力で自信つけるんじゃなかったのか?」

 

「それはそれ。これはこれ。私も一人でなんでもできる訳じゃないんだよ?」

 

「屁理屈だな」

 

「現実的って言ってほしいな」

 

 軽く口論をした後、千沙都は挨拶をして家へと戻っていった。

 

 

 

「あいつって、あんなカッコよかったかな…」

 

 残された澪はポツリと呟き、自身の妹が居ない自宅へと足を進めた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 翌日の早朝、かのんたちを乗せた船は例のへと到着した。初めての南国の島に心が躍りつつも若干の不安とともに地面に足をつけた。だがその不安はすぐに困惑、そして驚愕へと変わった。

 

『想定外な人が来てるから、迎えに行くのちょっと時間かかるかも』

 

 と島に着く少し前悠奈からメッセージを貰った。かのんたちの中でその情報は共有済みのため、船から降りた港で待機しようとしていたのだが、

 

「久しぶりだな。渋谷かのんに平安名すみれ」

 

 まさか想定外な人がSunny Passionの2人と一緒に出迎えるなんてこと誰が想像しただろうか。すみれの脳内には、この異様な光景に対して思い当たる会話があった。

 

『英寿さんって、まだ芸能界続けてるんでしょ?』

 

『まあな。数か月後に近くの島にロケに行くって言ってたし』

 

 

 

「嘘…ロケする島って、ここだったの…?」

 

 顔を引きつるのも無理はない。すみれの前には、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズの冠を背負った男『浮世英寿』が余裕の笑みを浮かべてかのんたちを待っていたのだから。

 




 
  何故アイツが来なくて、彼が来る


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