それではどうぞ
『ごめんなさい。すっかり忘れてました』
「はぁ…」
スマホの画面を落としため息を吐くすみれ。視線を向ければ、何気に今日が初対面である可可が英寿に自己紹介をしている。硬直からいち早く解放されたすみれはすぐさまメッセージアプリを起動。リストの中から澪の名前を過去最速の速さで見つけ、英寿が来ているがどういうことだという問い詰める内容を送った。その質問に対しての彼からの返答が上記のものである。
『気をつけなさいよね。『報・連・相』、こんなのショウビジネスの世界じゃ常識よ』
『肝に銘じておきます』
『あ、後帰ったら覚えときなさい』
『…お手柔らかに』
再度ため息をつきスマホをしまったすみれは彼らの元へと合流した。
「悪かったな。驚かせるようなマネをして」
「マネじゃなくて普通に驚いたんですけど…」
「英寿さんはなんでこの島に?」
隣で可可が『あのグソクムシが敬語を使ってマス』とかなんとか言っているのを精一杯睨みつけて黙らせておく。その傍らでいつの間にか再開の挨拶を済ませたかのんが英寿に来訪の目的を尋ねた。
「ああ。毎年この島で彼女たち主催のライブが開催されるらしくてな、それを俺がリポートすることになった」
「嘘!?私たち、そのライブに出演するためにこの島に来たんです!」
まさかの英寿が来た目的が自身が出演するライブのため驚くかのん。ついでに無意識とはいえちゃっかり宣伝もしてしまっている辺り抜かりない。
「ハッ!そうデシタ!これ、ささやかなものですが…」
可可は何かを思い出したようにSunny Passionに駆け寄り、背負っていたリュックからパンダの柄が描かれた箱を取り出し渡す。麻央が気にしないでと言いながら受け取っているのを見てすみれがツッコむ。
「あんた…意外とそういうところ細かいわね」
「行動力には感心するな」
3人は早急に止まる宿へと案内され、悠奈から荷物を置くように命じられる。いきなり練習かと多少の心構えをしていた3人だが、
「ここに来たら、みんな羽を伸ばして楽しんでもらいたいの」
「それが私たちの願いでもあるんだ。だからぁ…」
「「「な、なんでしょう」」」
前置きなく放たれた現状意味不明な言葉に固唾をのむ。しかし、彼女たちがどうなったのかと場所を変えてみてみると、
「やっほー!」
「今日は思いっきりハジけちゃお~!!」
3人は心を躍らせながら島の歩道橋を猛ダッシュしていた。こうなることを見越してはいなかったものの偶然にも持ってきていた水着に着替えたかのんたちは飛び込み台がある近くの小川へとやってきていた。
「パァ~!」
悠奈が先陣を切って飛び込む。高い水しぶきをあげながら着水した悠奈は仰向けになりながら楽しいよと彼女たちに飛び込むように勧めた。飛び込み台の先端付近にたったはいいものの、ここでもすみれと可可の押し付け合いが始まる。その傍らでは彼女たちよりはるかに年下の幼女が浮き輪とともに小川へと身を投げ出しているではないか。それを見たかのんはイージーそうだと思いその幼女が飛び込んだ低い方の台へと移動しようとしたが、
「センターは誰!?」
「私…かな?」
すみれにこう言われてしまっては返す言葉もない。さらにセンターならあんたが行くべきだと追い打ちをかけたすみれに対し、恐怖心により目のハイライトが完全に消え去ったかのんはゆっくりとこちらを向いて一言
「私…ダガイドゴギライィィッ!!」
その彼女の表情と発した声質の汚さも相まって、可可とすみれの中で伝説として語り継がれることになるのはまた別のお話。そんなこんなで結局いつの間にやら戻ってきた悠奈に突き落とされ、助けを求めるかのんを追う形で芋づる式に可可とすみれが立て続けにドボン。
意外と気持ちよかったらしい。(すみれ、可可談)
「ん~!オイシイ!」
「さすが島の絶品スイーツと言われるまでのことはあるな」
飛び込み台からの落下はもうこりごりといった感じで逃げるようにたどり着いたのは、近くのアイスクリーム屋さん。ちょうどそこには彼女たちより先にマネージャーらしき人物と一緒に舌鼓を打っている英寿がいたので、せっかくならと英寿の勧めで彼と一緒にアイスクリームを嗜むこととなった。
「これはまるで、マンゴーみたいデス!」
「いや、パイナップル味ね」
「違うよバナナだよ」
効きアイスクリームをしてほしいという悠奈の提案で、彼女たちはまだこのアイスが何味かわからない。かのんたちに代わって注文と会計をした悠奈がアハハと笑う。
「これは島の特産品で『パッションフルーツ』のアイスだよ!」
「なんと!Sunny Passionはアイスまであるのデスカ!?」
同好会の純粋代表の可可がとても分かりやすい勘違いをしているのですみれが的確にツッコむ。そんな彼女たちを微笑ましく見つめている英寿の羽織っているパーカーのポケットからピロンと小さな音が鳴った。視線をそちらの方へ向けスマホの画面を誰にも知られないように見てみる。
『ホッパー:今どんな感じ?』
自分のことかはたまた目の前で楽しそうにはしゃいでいる彼女たちのことか、質問の意図は理解できなかったもののこれだけは言えると確信した英寿は一言。
『お前の心配は杞憂だぞ』
と送信した。そのあと高台に上って海を眺めていた一同を突然の暴風が襲い、すみれの帽子が天高く飛ばされ、落ち込んでいたところに奇跡的に戻ってきたところを見て英寿が
「あいつ、今この瞬間の誰よりも運がいいかもな」
と呟いていた。
◇◇◇◇◇◇
『英寿さん:お前の心配は杞憂だぞ』
「それならよかった…」
「澪君たこ焼き12個もう3人前追加!」
「いけね!はいよー!」
千沙都の声で我に返り、再び自分の作業に戻った澪。彼は今、たこ焼き用の鉄板と向かい合っていた。本当は今日はデザイア宮殿に足を運ぼうとしていたのだが、千沙都曰今日のシフトの人達がそろいもそろって体調を崩したらしく、代わりを探していたところ千沙都と澪に的が当たったそう。しかし運がいいのか悪いのか、珍しいほどの盛況具合で澪も一心不乱にたこ焼きを焼いているところであった。
「ありがとうございました~!」
千沙都が笑顔で最後の客を見送る。完全に視界から消えたのを確認した澪は、うーんと大きく背伸びをした。
「ごめんね。ヘルプ頼んじゃって」
「気にすんなって。何なら俺が居なかったらやばかっただろ?」
「だね。まさかあんなに来るなんて想定外だよ。まあ結果として、丸く収まったからいいんだけどね」
そろそろシフトの時間も終わりということで、上がる準備をする2人。
「ちょっと水切れたから買いに行ってくる」
澪がそう言い自身の財布をもって立ち去った。残された千沙都は現金の残高確認をしようとしていたのだが、
「すいませ~ん!」
ふと聞こえた声に手を止め返事をしながらそちらの方を見る。そこにはいつぞやの青年が財布を持って立っていた。
「あ、貴方はこの前の…」
「久しぶり!もう店閉まっちゃった?」
「いえ!まだ営業時間内なので」
「よかったぁ~!じゃあ、たこ焼き6個2人前!」
「お会計516円です!」
千沙都の声に促された男性は自身の財布から表示の金額を取り出そうと小銭入れを漁る。
「悪い千沙都。戻った…ってあれ?景和さん」
「え?澪君!?」
その時丁度戻ってきた澪が、男性を見て驚いたように声を上げる。男性もまた、澪の顔を見て驚いたような顔をしていた。
「あの~2人はお知り合い…?」
この中で唯一事情を知らない千沙都が、2人を交互に見ながら互いの関係を尋ねる。
「ああ。実は…」
突如、3人の背後から爆音が鳴り響く。
「なんだ?!」
「きゃっ…!」
「嵐!!」
景和は腕で自分の顔を覆い、澪は千沙都を伏せさせ煙を吸い込むのを防ぐ。
「2人とも!大丈夫!?」
「なんとか!嵐は?」
「私も大丈夫…」
澪は千沙都をキッチンカーの外へと避難させる。その間に煙が晴れ、次第にうっすらと影が見え始める。そして間もなく現れた姿に、澪と景和は驚愕の表情を浮かべた。
「なんだこいつ…」
「ジャマト…なのか?」
フォルムはジャマトで間違いないだろう。だが、その姿は景和が散々見慣れたビショップジャマトでもこの間現れたナイトジャマトでもない。奴の特徴と一言で言い表すなら
「サソリ…?」
奴の頭部には、サソリに酷似した装飾があった。名付けるとするならさしずめ『スコーピオンジャマト』と言ったところだろうか。
「景和さん…これって夢かな?」
「叶うなら俺だってそう思いたいよ…」
「まじかよ…。英寿さんが居ないって時に」
そう。このジャマトこそが、彼がかのんたちとともに島に行かなかった最大の理由。逃げ出したジャマトの残り4体の内『最強の』1体だったのである。
『フッハッハッハッハ…』
その圧倒的な気迫の前に、澪と景和はただ冷や汗をかくことしかできなかった。
ジャマトの出現は、決まって唐突である。くれぐれもご注意を。
評価感想。お待ちしております。
評価リンク:https://syosetu.org/?mode=rating_input&nid=322947
感想リンク:https://syosetu.org/?mode=review&nid=322947
1話ごとの字数について減らすべき?
-
長いから減らしてほしい
-
そのままでいい
-
短いから長くしてほしい