黒の飛蝗は橙色の夢を見る   作:世界一孤独なチンパン

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 今回、本編1話が終わります。お気づきの方もいるでしょうが、今作ではアニメ1話分をAパート、Bパートの2話に分けて投稿します。なので次回第2話のAパートです。

 今回で僥倖編は終わりなので、後書きに意味をのせておきます。

 それではどうぞ。


#4 僥倖Ⅱ『まだ名もないキモチ~光明~』

 

 

 

「おまたせしました~!」

 

 時は進み放課後。かのんの自宅である喫茶店にて妹ありあが持ってきたココアを嗜む可可の姿があった。

 

「ココア…チョコワタルシミ」

 

「逆…」

 

 可可の日本語に多少突っ込んだあと、かのんに催促されたためキッチンへと戻るありあ。そこには母と店の皿洗いを手伝っている澪の姿も見られた。

 

「あの子…」

 

「お兄ちゃん知ってるの?」

 

 ありあの中で彼はお兄ちゃんと呼ばれるまでに昇格したらしい。彼もそのことは特に気にしてはいない様子である。

 

「昼間あの子に追い回されてた」

 

「そうなの?かのんってば、もう友達できたのね」

 

 彼女の昼間の苦労もつゆ知らず、のんきなことを言うかのん母の目線の先では絶賛ココアに舌鼓を打っている可可を眺めるかのんの画。

 

「じゃあ。俺終わったんで部屋戻ります」

 

「わかった。ありがとうね!」

 

 手をハンドタオルで拭きながら報告を終えた澪は、水分補給を怠りがちなのを防ぐためか水筒にお茶を汲んでから自室へと向かう。

 

 

 

「スクールアイドルは誰だってなれマス!」

 

 階段の1歩目を歩いたときに、その言葉は聞こえた。

 

「アイドル!?」

 

「あんたが!?」

 

「うるさいなぁ!話聞かないで!!」

 

 三者三葉、否。二者二葉の反応を見せるありあとかのん母と、聞かれたくなかったのか不機嫌に返すかのん。

 

「…ありあちゃん。やっぱりコーヒー飲んでから戻る。お願いしてもいいかな?」

 

 リビングに戻ってきた澪はありあにコーヒーを入れてくれるようにお願いをした後、2人から近からず遠くないカウンターへと座る。席では歌声云々みたいなことを可可が言っているので、スクールアイドルに誘われているんだろうと考えることは容易にできた。

 

「私を見たらわかるでしょ?アイドルって柄じゃないんだから…」

 

 一方、かのんは否が応でもスクールアイドルにはなりたくない様子だ。

 

「そんなことないデス。かのんさんはスッゴク可愛いです!」

 

 携帯を触りながらふと横目で見てみると、かのんの耳が赤くなっているのがすぐに分かった。その後、またもや茶々を入れてきた2名に対して怒っていた。

 

「はい!お兄ちゃんおまたせしました~!」 

 

「ん。ありがと」

 

 

 ごめんごめんと軽い謝罪をしてからありあがコーヒーを持ってきたので、お礼を言って受け取る。

 

「ん…」

 

 コーヒーを飲もうとカップを持つが、そこでありあがこちらに頭を向けて止まっている。

 

「ああ。これな」

 

 カップを置き、ありあの頭に手をのせて数回動かす。手を放すと、ありあはご機嫌な顔をしてキッチンへと戻っていった。

 

「姉妹であんなに違うものなのかね」

 

 嬉しそうに戻っていくありあの後姿をみて思わず呟く。どういうわけか、ありあはつい一週間前からよく甘えてくるようになった。こちらとしても甘えてくれるのはいやというわけではないのでこうして度々甘やかしている次第だ。

 

「ムゥ…」

 

 ふと視線を感じその方向を見ると、かのんがものすごい表情でこちらを睨んでいるではないか。

 

「なに?」

 

 一応要因は思い当たるのだが、もしかすると思い当たる要因と違う可能性も無きにしも非ずなので聞いてみる。

 

「別に…」

 

 相変わらずの態度をとる彼女にため息をつくとコーヒーを飲み干しキッチンへと持っていく。コップの片づけはかのんの母親がやってくれるというので、厚意に甘えて自分は部屋へと戻った。

 

「かのんサン?」

 

 彼をまじまじと眺めていたかのんであったが、可可からの一声で我に返る。

 

「あ、ごめんね可可ちゃん」

 

「アノ人、学校に居た…。兄弟だったのですか?」

 

 急に可可がそんなことを聞いてきた。

 

「ん~…まあ、そんな感じ?」

 

「分からないのですか?」

 

「わからないっていうよりかは、自分が認めてないだけっていうか」

 

 あの日から考えを少しばかり改め、一応は家族としていることを認めたかのんではあったが、彼と自分との関係が家族というものになるのに未だ少しばかりの抵抗があった。

 

「ですが学校で見た限り、アノ人は優しそうな人デシタ」

 

 可可が先ほど彼が上っていった階段を見つめながら呟く。

 

「優しい…か」

 

「かのんサン?」

 

「ううん。なんでもない。ねえ、ちょっといいかな?」

 

 ここで話すとまたありあや母に何か言われるだろうと思い、続きは自分の部屋で話そうと考えた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「歌わない?」

 

「ほら、バンドとかだとボーカルの人以外歌わなかったりすることがあるでしょ?あれみたいに…」

 

「そういうグループはなくはないデスが…。かのんさんは歌いたくないのデスか?」

 

 部屋に移り、かのんが真っ先に可可にだした提案。それは自分をダンス担当にして、可可にボーカルを任せるというものであった。しかしどうしてもかのんに歌ってほしい可可はかのんの意見に賛同の意を示した後、再び問いかける。数回の押し問答が続いた後意を決したかのんはため息をつき、言うしかないかと呟くとゆっくりと口を開く。

 

「私さ、いざってなると歌えないの。声が出なくなっちゃって…。最初は、小学生の時でね?」

 

 遠い目をしながら過去の記憶を掘り起こす。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 8年前、当時7歳だったかのんに新しい父親ができて割とすぐのこと。地元の小学校で歌の発表会が行われた。その学校では伝統的なイベントで、開催すれば参加した生徒の親族のほか、PTA役員の人たちも揃って顔を見せるなどの御礼振りであった。この日のかのんはお父さんが偶然仕事の予定もなく、発表会を見に来てくれるとのことで、とても張り切っていた。ほかの学年やクラスが発表を終え、とうとうかのんのクラスの番。スポットライトがステージ中央に置いてあるスタンドマイクに向けて照らされ、そこに移動する。発表の数秒前、かのんはこんなことを思っていた。

 

(お父さんにも、見せたかったな…)

 

 

 

 ふと思っただけだった。その途端、頭の中にあの映像がフラッシュバックする。平和な日常を突如として切り裂いたあの発砲音。とある少年を庇い、背中に広がる赤い液体。ぐらりと体が傾き、液体が床に染み渡る。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 加速する脈拍。止まらない冷や汗。押し寄せる不快感。目の前が段々と黒くなり、ぐらりと世界が傾く。

 

「かのんさん!!」

 

 

 最後に聞こえたのは、担任が自分を呼ぶ声だった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

「それ以来、大切な時ほど声が出なくなっちゃって。中学も合唱部に入ってたんだけど、大会とかはだめで。この学校の受験の時も…」

 

 そこまでの言葉で可可はその先を察した。

 

 

「歌が、好きなのに?」

 

「好きなのにね…」

 

 言葉を復唱されるも、その言葉に対しての重みが自分のものとは違うということは可可も気づいていた。好きなのにできない。やりたいのにやれない。生きているうえでこれほどまでに悲しいことはないと、可可は感じていた。

 

「ごめんなサイ。何も知らずに可可は…」

 

「ううん。気にしないで?」

 

「でも…」

 

「私、可可ちゃんに協力するよ。力になりたい。だから、スクールアイドルに興味ありそうな子がいたらすぐ紹介する」

 

 自分は歌えない分、可可に何かをしてあげたい。そう思いながらコップをのせたお盆を持って立ち上がるかのん。可可は目を輝かせて「ホントデスか!?」と聞いてきたので、かのんはもちろんと返した。

 

「だって、歌は大好きだもん!」

 

◇◇◇◇◇◇

 

 外に出て可可を見送った後、かのんは私服に着替え幼馴染が働くたこ焼き屋へと向かった。

 

「ちいちゃん」

 

「ん~?あっ!かのんちゃん!いらっしゃい!」

 

 赤いエプロンを来た白色のお団子ヘアの少女の名は『嵐千沙都』。かのんとは十年来の仲である。

 

「たこ焼き、6個入りもらえる?」

 

「おっけー!先にお会計しちゃってもいいかな?」

 

「うん」

 

 千沙都に促され、先にお会計を済ませたかのん。幼馴染による会話の話題は最初に彼についてになった。

 

 

 

「へ~。かのんちゃんにお兄ちゃんか~」

 

「お兄ちゃんっていうか、あくまでも私の中では同居人…的な?」

 

「かのんちゃんは、まだ受け入れられない?」

 

「うん。そんな感じ」

 

 やはりかのんは、彼を兄としてみるのはまだ抵抗があった。そんな彼女を見かねてか、千沙都は優しく声をかける。

 

「今は受け入れられるのが無理でも、いつかきっと、分かり合える日が来ると思うよ」

 

「ちいちゃん…。ありがとう。あ、そういえば」

 

 千沙都の言葉に感謝するかのん。そして話題はスクールアイドルについてに。

 

 

 

「スクールアイドル!?」

 

「誰か興味ありそうな子いないかな~って」

 

 澪の話をしている最中に焼いたたこ焼きをパックに詰めながらかのんの話を聞く千沙都。パックをビニール袋に入れ、彼女に手渡す。

 

「探すのは全然いいけど、あんまりいない気がするんだよね。音楽科には」

 

「そうなの?」

 

「だって音楽科は、歌にしても楽器にしてもダンスにしても、それ専門でずっとやってきた子ばかりだから、そっちの方が大切っていうか」

 

 いま彼女が言ったことは自分自身にも当てはまることである。千沙都は小さな頃からダンスを習っており、ダンスを専門とするために結ヶ丘の音楽科に入学したのだ。

 

「そっか…」

 

「それに、スクールアイドルがあまり好きじゃないって子もいて。特に葉月さんなんかは、『この学校には必要ない』って」

 

「葉月…。もしかして髪こうやって結んでる?」

 

 千沙都の最後の言葉に聞き覚えがあり、もしかすると昼間の生徒会長ではと思い、彼女のポニーテールの真似をしてみる。千沙都は「知ってるの?」と笑いながら言った。

 

「あの人、私たちの学校を作った『葉月花』って人の娘さんらしいよ?」

 

 思わぬところから思わぬ情報を得られたかのん。ちなみにフルネームは『葉月恋』というらしい。だが、本題について何も情報が得られなかった。

 

「そうなんだ。ありがとうちいちゃん。また来るね」

 

「うん!かのんちゃんもまた明日ね。ういっすー!」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 千沙都と別れ、かのんは自分の部屋へと戻る。

 

「優しい娘だな。彼女」

 

 ドアノブに触れようとしていた手がぴたりと止まる。声の主は分かっていた。

 

「おかえり」

 

「可可ちゃんとの話、聞いてたの?」

 

「聞こえちまったって言ってほしいな」

 

 不機嫌な声色で語り掛けるが、帰ってきたのはいつもと変わらない優しさと得体のしれない何かが混じった声。

 

「笑いたきゃ笑えばいいじゃん。人前で歌えないなんて恥ずかしいって」

 

「俺は他人が好きなことには首を突っ込まない主義なんだよ」

 

「ふふっ。なにそれ。変なの」

 

 この時、かのんは無意識のうちに初めて彼の前で笑顔を見せた。彼は顔の表情こそ見えなかったが、自分の言葉を受けて少し微笑んでいるようにも見えた。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「そのさ…あの…」

 

 かのんは何か思いついたように口を開く。が、聞こうとした内容がないようなので多少は口ごもったが、素直になれるのは今しかないと不意に思ったため意を決して聞いてみる。

 

「あんたからみて…私って。か、可愛いと…思う?///」

 

 今自分でもわかるほどに、自分の顔が赤くなっていくのを感じた。だが彼のことだ。いつも自分が不愛想にしているので、期待通りの答えはしてくれないであろうといった失念も心の中にあった。

 

 

 急に、頭に何かが乗った感覚がした。それは左右にゆっくりと動いている。羞恥により下に向いていた視線を少しばかり上にしてみると、いつも自分が毛嫌いしている彼の姿があった。そして彼は一言

 

 

「可愛いと思うぞ」

 

「~~~っ!!??///」

 

 ボンッと音を立ててかのんの顔は真っ赤に染まった。心臓がいつもよりせわしく動き、血液の運搬速度も上昇する。一気に体中が熱くなるのを感じた。

 

「ばっバカ!!!///何触ってんの!?////」

 

 急いで手をのけて距離をとる。そして口をもごもごさせながら目を泳がせた後、彼女は彼を押しのけ部屋の中に入っていった。そして理不尽に起こられた彼は

 

「やっべ。やりすぎたかな…」

 

 薄暗い廊下に、不安の声が響いた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 翌日の放課後、かのんは手当たり次第にスクールアイドルに興味がありそうな子に声をかけていった。だが、結果は全滅。そしてしまいには同じクラスの平安名すみれに

 

 

「私を誰だと思ってるの!!??」

 

 と謎の反感を買う始末だ。なおこの活動は生徒会長基『葉月恋』の目を盗みながら決行している。当初は音楽好きの人たちが集まるこの学校ならうまくいくのではと思っていたかのんだったが、いざ行動に移してみると、文字通り前途多難な現状となった。夕方になり、帰るために校門へ向かうかのんと可可。

 

「中々、いないものデスね」

 

「明日はほかのクラスも回ってみよ。きっと何人かは興味を持ってくれるよ」

 

 ため息を吐く可可を励ますかのん。途中まで道が一緒ということもあり、可可に帰ろうと促し自分は一足先に校外へと歩き出す。

 

「かのんサン!」

 

「ん?」

 

「やっぱり…。やっぱりやってみまセンか?スクールアイドル!」

 

「え?」

 

「迷惑かと思っテ、言うかどうか迷っていたのデスが…。可可、どうしても…どうしてもかのんサンと一緒にスクールアイドルがしたい!!」

 

 

 可可も昨日の話で、かのんがスクールアイドルができないことを重々承知していた。だが、彼女は思った。もし彼女のトラウマを克服さえできれば、彼女は誰よりも歌を響かせるであろうと。

 

「無理だよ…」

 

 可可の心からの願い。かのんとしてもその言葉に答えたい気持ちは山々だった。だがもしこれで自分が歌えないとなると、可可を失望させるとこになる。そのことは絶対に避けたかった。

 

「オネガイシマス!!」

 

「無理だって…!」

 

「そんなことありまセン!!」

 

「あるよ!!!」

 

 近寄ってきた可可を突き放すように手を振るうかのん。その衝撃で、可可の手に握られていたチラシがはらはらと落ちていく。

 

「ガッカリするんだよ!いざって時に歌えないと。周りのみんなもガッカリさせちゃうし、なにより自分にガッカリする!そういうの…もう嫌なの!!」

 

 かのんは自分が歌えないことで、可可に多大な迷惑をかけてしまうのを恐れていた。それは自分の歌を楽しみにしてくれていたほかの人や、歌えないと知った時の周囲の反応を見たときの自分。様々なことを考慮し、彼女は可可のために断り続けてきたのだ。

 

「応援しマス!かのんサンが歌えるようになるマデ、諦めないって約束しマス!だから試してくれまセンか?!可可と、もう一度ダケ、始めてくれませんか?!」

 

 可可の言葉を聞いた。思いも伝わった。だが、所詮歌えない自分ではどうすることもできない。ヘッドホンをつけ、帰路につく。取り残された可可は、寂し気に吹く風に煽られながらチラシを回収していった。

 

 

 

 

 

 

『かのんサンの歌はスバラシイです!』

 

 

 いいの?私の歌を大好きって言ってくれる人がいて。

 

 

 

 

『絶対好きデス。可可分かりマス!だからかのんサンと一緒に始めたい。』

 

 

 一緒に歌いたいって言ってくれて…。

 

 

 

『応援しマス!かのんサンが歌えるようになるマデ、諦めないって約束しマス!』

 

 

 本当にいいの?

 

 

 

「本当に、このままで…」

 

 

 

 

 

 

『歌がお好きなんでしょう?』

 

 

 

 

 

 気が付けば、もと来た道を引き返していた。距離としてはそれほど長くはない。だが、今この瞬間だけは長く感じた。押し寄せてくる風が、目に飛び込んでくる空気が、最後に彼女に立ちはだかる壁のよう思えた。段々と早くなる脈拍。だがあの時とは違い、押し寄せてくるのは不快感ではなかった。

 

 

 

「かのんサン…」

 

 

 小さいころから彼女歌が好きだった。そしてずっと思っていた。私は歌が好き。ずっと歌っていたい。歌っていれば、遠い空をどこまでも飛んでいける。暗い悩みも、すさんだ気持ちも、全部、力に変えて前向きになれる。いつだって、歌っていたい!

 

 

「やっぱり私…」 

 

 

 

 

 ――歌が好きだ!!

 

 

 

【~♪未来予報ハレルヤ:Liella!】

 

 

  

 ダメな自分にモヤモヤしていた。憧れを隠して、ごまかしてしまうほどに。だが今は、頑張りたい。そんな気持ちが、彼女の心を震わせていた。

 

 

 ここから、彼女たちの夢を追いかける物語が。一つの世界の物語が今、動き始めた。

 







 大好きな気持ちにもう、嘘はつけない。
 


 評価感想。お待ちしております。



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『光明』…明るい見通し。希望。

『僥倖』…思いがけない幸運。偶然に合う幸運

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