2日連続投稿です。今回は本編のBパートだけでなく、ここからついに彼女たちの運命が動き出します。
それではどうぞ。
スクールアイドル。その道はまるで前途多難だ。アイドルに必要なのは、人々を魅了するだけの歌唱力、己の内を表現するための表現力。そして、どんな時も笑顔を崩さずに歌わなければいけない忍耐力。その他「こんなの必要ないだろ」と言われるようなものも、何気に必要であったりする。だが、それ以前に必要なのは『体力』。これがなければ、スクールアイドルとして歌って踊るのは夢のまた夢だ。故に。
「…はぁ…はぁ…今日は…このくらいにしといてやるデス。ぐるちい…」
体力づくりのためのランニングでばててしまうなんてのは持ってのほか…なのだが。
「まさかの…」
「体力ゼロ…」
幼馴染2人の前で地面に突っ伏す可可。実はこの少女根気だけで日本に来ており、それ以前の体力どうこうという問題に全く目を向けていなかったのだ。
「もう!全然ダメじゃん!なんでそれでアイドルやろうと思ったの!?」
「気持ちデス!スクールアイドルに1番大切なのは気持ちデスので!」
千沙都のごもっともな発言に謎のどや顔で返答し、今はリズムゲームでは完璧なリズムコンボを叩き出せると言って音ゲーをしていた。それを見た千沙都はリズム感はあると分析し、一応希望はまだ失われていないことを確信した。
「でも、ちょっとしか時間ないんだよ?2週間なんて、あっという間だよ?」
そんなわけで、可可がすべきことはまず体力づくり。今日はひたすらランニングをするという文化部タジタジの練習メニューへと切り替わった。可可の体力がある程度付いてから、ダンスの練習も同時並行で始めようというのが千沙都コーチの考えだ。その日最後のランニングを終えた3人は、ふとかのんが思い出したのをきっかけに曲の話へと移った。
「そうだ。曲作りも始めないと」
「そっか。それもこれからだもんね…」
「ありマス…。一応、書き留めた歌詞がありマス」
可可はなんと一部中国語ではあるが予め歌詞を書いていたそう。そのノートを受け取って中を見てみると、翻訳サイトで翻訳したのか多少文脈がおかしい日本語と、可可の母国語である中国語の文字が半々程度の割合で見開き1ページ分にずらりと並んでおり、右のページの右上には『歌いたいこと!!=あきらめないキモチ』と書かれていた。
「うわぁー!」
「すごーい!」
色ペンで様々なメモが施してあるから、相当頑張って書いたのであろう。そのノートを見てかのんと千沙都は感嘆の声を上げる。かのんは可可からもらった言葉を大事に曲を作ると言い、皆は解散した。
◇◇◇◇◇◇
夜になり、夕飯と入浴を済ませたかのんはカウンターの席に座りノートを開けた。
「何?宿題?そんなわけないか」
かのんの母はテーブルの上に開けられたノートを見て学校から出された宿題なのかとかのんに問うが、今まで無気力だったかのんだ。宿題なんざするわけがないと若干本人に対して失礼なことを思いながらそう呟く。だが、当本人にとっては違ったようで。
「宿題だよ?友達に出された…」
かのんは何かを思い出したように母に尋ねた。
「お義父さんの部屋に、中国語の辞書あるよね?」
母は目を丸くした。歌えなくなったあの一件以来、彼女の口から母とありあ、マンマル以外の名前が出ることは一度もなかった。しかし今、この瞬間。自分の娘は初めて自分の父存在を語った。母はフッと朗らかな笑みを浮かべると自信満々に答える。
「そりゃあるでしょ。翻訳家なんだから」
◇◇◇◇◇◇
「ここが…お義父さんの部屋…」
部屋のドアの前に立ち、呟く。9年間失敗した気まずさ故、一度も話すことがなかった父と今日、初めて言葉を交える。
「うぅ…緊張するなぁ…」
父の部屋のドアは人でも生物でもないのに、なぜか貫禄があった。まるで自分より数倍大きな壁。カノンは呼吸を整え、ノックをする。
「私。かのん…」
「…どうした?」
ドアの向こうからは父の声が。一度も話さなかったといっても、会話をしなかったわけではない。過去に父から何度か話しかけていたことがあった。自分はそれをジェスチャーで返していただけだった。
「入っていい?」
「ああ」
恐る恐るドアを開け、中に入る。まず目に入ったのは、机に座り作業をしている父の背中。逞しさの中に、少しばかり寂しさが感じられた。
「中国語の辞書ってどこにある?」
「右側の上から3段目だ」
本棚は父を囲うように右側と左側に分かれておかれていた。その中には、各国語の辞書が所狭しと並べられていた。
「ありがとう」
かのんはできるだけ仕事の邪魔をしないように中国語の辞書を手に取り部屋を後にする。
「まさかお前から話しかけてくれる日が来るなんてな」
「え?」
かのんはぴたりと止まった。父は仕事に切りがついたのか、ペンを置きかのんの方を見て言葉を続ける。9年ぶりにしっかりとみる父の顔。その表情からは、優しさが見えた。
「最後に話したのは、お前が発表会に誘ってくれた時か」
「そうだね。8年前…」
8年前のことを思い出す。発表会を行うと決まってすぐのことだった。かのんは、少しでも新しい父親にいいところを見せたいと思って父を誘った。だが。
「でも、歌うことは出来なかった。それどころか、お義父さんに恥ずかしいところまで見せちゃって…」
公衆の面前で晒したのは、自分の歌声ではなく醜態。かのんはそのせいで父親に失望されたと勝手に思い込み、今まで会話するのを避けていたのだ。
「不安だったんだ。私、お義父さんに失望されたんじゃないかって。勝手に思い込んでた」
「…かのん」
今日だけは何故かなんでも話せる気がする。そう思ったかのんは、自分の気持ちを2割程度話すことにした。ちなみに残りの8割は、澪に対しての不満だ。
「俺は失望なんかしないさ。自分の娘が頑張って歌おうとしたんだ。俺のために頑張ってくれて、そして失敗したことを、咎めることなんて俺にはできない」
「お義父さん…」
「お前の顔を見るに、今新しく夢中になれることができたのか?」
「なんでわかったの!?」
「父親の勘ってやつだ」
父には娘のことなんてなんでもお見通しとは世間では言ったものだが、父にズバリ言い当てられたかのんは、自信満々にうん!と答えた。
「ならその道を、ただひたすらに突き進んでみろ。その先に、お前の理想の世界がある」
「私の、理想の世界…?」
「俺が今翻訳している本にあった主人公の決め台詞だ」
父が片手に本を持ちながら軽く笑みを見せる。
「うん!お義父さん!ありがとう!!」
かのんは力強く頷き、礼を言って父の部屋を後にした。
◇◇◇◇◇◇
そこからのかのんの様子は、猪突猛進という言葉が一番似合うくらいの怒涛の取り組み具合だった。毎日練習を終え学校から帰ってくるなり、自分の部屋へと駆け込み歌詞の翻訳に勤しむ。千沙都含む3人での練習はダンスのレッスンも加わった。翻訳が終わった後はギターを持ち、曲を作る。放課後は千沙都によるレッスン。夜は作曲。来る日も来る日も同じ日を繰り返していた。
「…ダメダメ!」
とある日の夜、作業中に居眠りしてしまっていたかのんだが、それを自覚すると急いで飛び起きる。
「ん?」
かのんは自分のすぐ横に落ちた毛布に気づいた。廊下に出てあたりを見回してみると、一番奥の部屋に灯りが灯っているのが見えた。自分以外の家族はもう寝ている。父親は出張と言って名古屋へ。となると…
「フフッ」
笑みをこぼし部屋に戻ると、毛布を体に巻き付け作業に取り掛かる。同じころ、可可は自宅で筋トレをしていた。彼女も、毎朝ランニングを欠かさずしている。2人はそれぞれ超えるべき壁を越えようとしているのだ。そして入学式から早1週間経ったある日。
「できた…。できた。できた!できたー!!!」
曲が完成した。窓を開け放ちながら再びできたと叫ぶかのんの体に、朝の冷たい風が吹きつける。
「うぅ~…やっぱり朝は寒いな~。ん?」
ふと下に見えたのは、かのんの家の前を走る可可。彼女もある程度の体力は付いてきたようで、レッスンを始めたばかりの大根っぷりはもうそこにはなかった。
◇◇◇◇◇◇
「はぁ…はぁ…」
息を乱しながらもペースを保ちながら朝の渋谷の町を走る可可。その横を何者かが「びゅーん」と陽気な声を出しながら駆け抜けていった。その正体は、いつの間にか体操服に着替えていたかのんだ。かのんの一緒に走ろうという誘いに乗った可可は渋谷の街を2人で駆け抜けていく。程なくして、歩道橋の上まで来た2人。目線の先には太陽が少し顔を出していた。可可はその光景に見とれていたが、かのんの声が聞こえるとそちらへと耳を澄ませた。
「私ね。音楽科の受験に失敗したときに、何もかも終わったって思った。卒業式が終わって、春休みがあって。高校の入学式があっても、ずっと終わったって思ってた。このまま終わりが続くんだなって思ってた」
可可は何も言わず、かのんの話に耳を傾き続ける。
「でも、やっと始まった…!次の私が…始まった!!」
そう言うかのんの目には、もう一切の曇りも迷いなかった。今彼女の中にあるのは、ただ希望という光だけだった。彼女を祝福するように、空は橙色に染まっていく。
「きれいデスネ」
可可の呟きにうんと頷き答えるかのん。彼女は思い出したように口を開く。
「そうだ。さっき曲、完成したんだ」
「聴きたいデス!」
可可は目を輝かせてかのんにそういうも、彼女は恥ずかしいからあとで録音したものを送ると言った。だが、あの日の奇跡を目撃した者としてもう一度、彼女の歌を聴きたい。その思いから、真剣な表情で再度お願いしてみる。
「歌ってくれませんか?ここで、歌ってくれませんか?可可。かのんさんの歌っているところが見たい。かのんさんの歌声が聞きたいデス」
「可可ちゃん…。できるかな…」
もし歌えなかったらと思うと、途端に表情が暗くなる。だが、可可は可能性を信じてかのんに語り掛ける。
「響かせまショウ!この街に、かのんさんのスバラシイ歌声を!!」
可可の言葉に背中を押されたかのんは意を決して朝日が顔出す方へと向き合う。可可は、あの時聞いた歌声がもう一度聞けることを信じて目を閉じる。
彼女の歌が、世界に響く時がやってきたのだ。
◇◇◇◇◇◇
「ここが最初の仕事場所か…」
かのんが家を出た少し後、彼女の義兄である澪はとある建物へとやってきた。彼女はスクールアイドルの活動で忙しい故に忘れているであろうが、入学式から1週間たった今日、彼もまたバイトの初日なのだ。
「失礼します…」
一言添えて、中に入る。だが、すぐさま異変に気付いた。外見は立派な建物だというのに、中に入ればまるでもぬけの殻なのだ。不審に思いつつも奥へと歩く澪。
「送られてきた地図に書いてあったのは、この建物だったんだけどな…」
あまりにも人が居なさすぎるので、一度引き返そうかと振り返り歩みを進めたその時、
『執行!』
「あ?おわっ!!」
後方から声が聞こえたと思いきや、突如謎の影がこちらに向けて拳を放ってきた。咄嗟に転がり回避し距離をとる澪。何事かと思い目線を上げると、目の前には謎のヘルメットを被った5人組が立ち尽くしていた。
「なんなんだあんたら!!」
澪の問いかけには答えず、その代わりとは言わんばかりに一斉に襲い掛かってくる五人組。これ以上話すのは時間の無駄だと解釈した澪は臨戦態勢をとった。
◇◇◇◇◇◇
「ふぅ…なんなんだこいつら」
数分後、多少の傷を負いながらも戦闘不能まで追い込んだ澪。突然の展開に頭を悩ませていると、これまた突然、上部のスピーカーから声が聞こえた。
『なるほど。彼が目を付けることだけはある。いきなり驚かせてすまない。何事かは分からないと思うが、テストは合格だ』
「テストは合格…?誰なんだあんた!?」
『詳しい話はそのエレベーターに乗った先の部屋で話そう』
謎の声が聞こえなくなったかと思うと、数秒後にそれまで普通の受付カウンターだったものが変形し、エレベーターへと変化した。澪は驚きつつも荷物を手に取りエレベーターに乗り込む。ついた先は、ソファーとカウンターのみがある広々とした部屋。
「ここは…」
澪はあたりを見回しながら中へと入る。すると奥のドアがガチャリと開き、その奥に人影が見えた。
「改めて謝罪させてもらおう。驚かせてすまない。すべては、君の実力を見るためだったんだ」
「あんたがあのスピーカーの声の主か?」
「ああ」
奥から姿を現したのは、白い服に身を包んだ男。彼は突然あのようなことにさせてしまった謝罪と理由を語りだす。
「実力って、俺ただバイトしに来ただけだぞ?」
「そのバイトに必要なものをさっきテストしてたんだよ」
先ほどとは違う方向から声が聞こえ、そちらに目を向く。そこにいたのは、オレンジの派手なシャツの上に紺のジャケットを羽織った青年。澪は目を丸くした。なぜならその青年の正体は
「晴家ウィン…」
「久しぶりだな。渋谷澪」
彼に今回のバイトを紹介した張本人。『晴家ウィン』その人だったのだ。
◇◇◇◇◇◇
「で、なんでウィンさんがここに?」
白服の男性からもらったコーヒーを飲み、ジト目で問いかける。
「俺はとある運営のスタッフとしてて働いててな。でも、あることをきっかけに急激な人材不足に陥っちまった」
「なるほど、それで人材不足を解消するために俺が運良くあんたに選ばれたってわけか」
「そういうことだ。騙すようなことをしちまったのは悪かった」
ため息をつきながら呟く澪に対し、ウィンはそういって頭を下げる。だが、もう引き受けてしまったものは仕方ない。
「謝らなくていいよ。ウィンさん。断らなかった俺も悪いし。それで?今更なんだが俺は何をすればいいんだ?」
「君には、我々運営に協力するスタッフになってもらう」
「スタッフ?」
白服の男性の答えを復唱する。
「ああ。デザグラ運営のスタッフだ」
「デザグラ?なんだそれ?」
聞きなれない単語に首をかしげる澪。ウィンは一つの紙を取り出し、澪の前に置く。そしてその紙を見ている澪の傍らで、白服の男は語りだした。
「理想の世界を叶えるゲーム。『デザイアグランプリ』。君にはその運営側の人間として、ゲームに参加してほしい」
「『デザイアグランプリ』…」
ここから、最高の幸せを求めるために戦う戦士の物語が。隠れたもう1つの世界の物語が、動き始めた。
世界に響け。私の歌。
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『命運』…身の定め。巡り合わせ。運命。
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そのままでいい
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短いから長くしてほしい