火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ? 作:shoshohei
以前のリメイク版と変わっていたり、変わっていなかったりするところがありますが、楽しんでいただければ幸いです!!
魔法が実在する世界がある。
突拍子もない話ではあるが、事実なのだから仕方がない。
その荒唐無稽を体現したような世界には、魔法が溢れ、魔法の売買が常とされ、魔法が行使できることは常識の範囲内とされていた。とある世界では鼻で笑われるような代物は、確実に人々の生活に根付いていたのだ。
尤も、その奇跡を己が家に宿し、それを駆使して生業とする者――『魔導士』は、世界の人口の一割しか存在が確認されていないのだが。
しかしごく少数であっても、魔導士の力は、魔法を持たない者にとっては大きな魅力と言えた。
水を出すにせよ、炎を出すにせよ、風を操るにせよ、はたまた世界全土を巻き込むにせよ、彼らの助力は魔力を持たぬ者にとっては称賛するに値するものだった。
魔力を持たぬものには砕けぬ障壁を砕き、届かぬ場所へと届き、その者の依頼を叶える。
故に、彼らは魔導士としての生計を立てることができるのである。
魔導士達は、ギルドに属して仕事を行う。
一人よりも二人、二人よりも三人という考えの下に集まった彼らは、組織的に依頼を受理し、それを果たして依頼人から報酬を頂く。言わばこれらは、ある世界における会社のようなものだ。世界が違っても、人間が考えることは変わらないということなのだろう。
さて、その中の一つに。
数ある魔導士ギルドの中に、とある永世中立国家に属するギルドが存在する。
多数の魔導士達を有するその国の中にあって、ひと際目立つそのギルドは、良し悪し問わずあらゆる話題に事欠かないほどの異色のギルドであった。
非常識。自由奔放。猪突猛進。圧倒的破壊力
どの言葉を持ってしても表現し切ることができない、お騒がせなギルド。
止まることを知らない、進むことを止めない。掲げた信念は決して曲げない。曲げられない。そんな、国中の誰もが聞いたことがある魔導士ギルド。
―――その名を、〝
☆ ★ ☆ ★
フィオーレ王国。
人口一千七百三十万人の、永世中立国の東方に位置する商業都市マグノリア。
そのど真ん中にデカデカと存在する、何かを象った様な紋章を刻んだ旗を掲げる建造物。それこそが〝妖精の尻尾〟のギルドである。
今日も今日とて、ギルドの中は喧騒に満ち、そして活気に満ちあふれていた。
誰も彼もが自身の依頼をこなそうと走り回る中に、ポツリと立ちつくす少年が一人。
名前をナツ。本名をナツ・ドラグニルという少年だった。
男性にしては珍しい桜色のボサボサな髪と、鱗の様な模様の白銀色のマフラー。これは彼の育ての親から貰ったものである。
上半身は右だけが袖なしのベストで、下半身は膝のところで絞ってある動きやすそうなズボンを穿いている。剥き出しになった右肩には、彼が所属していることを表す〝妖精の尻尾〟の紋章が刻まれていた。
全体的に活発な印象を与えるこの少年、実は正真正銘のドラゴンを育てに親に持つ。本当のドラゴンである。
ナツは火竜イグニールから文字を学び、知識を学び、魔法を学び、生きる術を学んだ。
しかしX777年、その父親は姿を消してしまった。年場も行かない少年を残して。何も言わずに。忽然と。
いなくなった父親を探すべくして旅をしていたところを、現〝妖精の尻尾〟のマスターに拾われてこのギルドへと在籍した過去をナツは持つ。
ギルドの一員である彼は、周りで忙しなく動き回る仲間同様に仕事をして、生活費を稼ぐために来ていた。
しかし。
「何だ、これ?」
ナツは怪訝な表情で、床に落ちていたものを拾い上げる。
一見すればただの手紙だ。赤い封をしてある、何の変哲も何もないただの手紙だ。珍しくもなんともない手紙だった。
誰かが落したのだろうが、危うく踏むところだった。先日一つの街を半壊させて、こっぴどくマスターであるマカロフに叱られたばかりだ。これ以上の面倒事はごめんである。
「ったく、誰だか知らねえがこんなトコに置きやがって。俺のことがさつだとかなんだとかって言えんのかよ」
いつもいつも『破壊魔』だの『暴れん坊』だのと自分を罵る仲間達を思い浮かべて、ナツは嘆息を一つ。しかしそれは全て事実であるので、言い返せないのがなんとも悲しい。彼は自覚していないが。
ぶつぶつと文句を続けながら、彼は封書を表へ裏へとひっくり返す。宛先を見れば、少なからず何か情報が得られるかもしれない。そう思って動作を繰り返していた彼の手が、ふと止まった。
理由は単純。名前があったのだ。
尤もそれは、『ナツ・ドラグニル様』とご丁寧に記入された名前であったが。
まさかギルドの中で偶然拾った手紙が、自分へ宛てての手紙とは想像もつかなかったナツは、目をパチクリと瞬きさせながら手紙を凝視する。
「どうしたの? ナツ。ボードの前に突っ立って」
背後からの声に振り返る。
そこには一人の――否、一匹の猫が小さな脚を使って、二足歩行でナツへと近寄っていた。
彼はハッピー。れっきとした猫であるが、実は彼も魔導士である。何故だか人語が話せたり、魔法が使えたりする少し……いや、とっても特殊なナツの相棒でもある。
「おぉ、ハッピー」
ナツは相棒と同じ目線までしゃがみ、その封書を見せつけながら、
「なんかよ、俺宛の手紙が落ちてたんだよ」
「え? この間壊した街の修繕費の請求書?」
「
そこで絶対とは言い切れないのがなんとも悔しかったりする。それ以前に、ナツに手紙が来ることから、真っ先に修繕費の請求に結び付けられてしまっている相棒に、ちょっと悲しくなったナツだった。気分が悪かったのであればちょっと物理的に語り合っていたところだ。
「まだ中身を見てねえから、何の手紙か分からねえけどさ。多分俺は違うと思う」
「何その根拠。どっから出てくるの?」
「そんなもんはどっかからかびゅーんて飛んでくるんだよ」
「……オイラ、ナツが言ってることがたまによく分からなくなってくるよ」
聞いていて馬鹿馬鹿しくなるようなやりとりはそこそこに。
ハッピーは咳払いを一つすると、ナツが手に持つ手紙を指差した。
「中身を見てみようよ。本当に請求書だったらマスターに伝えなきゃいけないし」
「…………えー。別に見ないでよくね? 俺の手紙だし燃やしちゃってよくね?」
「現実から目を背けちゃダメだよ、ナツ」
相棒は頑なだった。
ナツとしては、先日に続いてまたもやじっちゃんことマカロフの雷を受けるのは勘弁願いたいのだが、もしも焼却処分して、それが請求書で、その隠ぺい工作が彼にばれた時が怖い。更にもう一人の不安要素にばれたときも怖い。
なので泣く泣く、非常に泣く泣く。
ナツは封書を雑な手つきでビリビリと破き、中の内容を拝見する。ハッピーも釣られて、ナツの肩に飛び乗りながらその文面を眼で追う。
そこにはこう書かれてあった。
『悩み多し異才を持つ少年少女たちに告げる。
その
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて我らの〝箱庭〟へ来られたし』
「…………?」
二人して首を傾げた。
その手紙が胡散臭いとか不審だとか、そういう意味ではなく、ただ単純に色々と難しい言葉を使う手紙の内容が理解できなかったからである。
ナツとハッピーは暫し何回か繰り返し黙読する。そして数秒経ったか絶たないかといったところで、
「燃やすか」
「あい」
結局懸念も杞憂に終わり、マカロフに叱られる心配もなくなった。
ならばこのような意味不明な手紙には用はない。元々、じっとして字などを読むことが苦手のナツである。故に内容が理解できない文字の羅列は、彼にとっては意味を成さなかった。
ハッピーが止めないのが、根本的に思考がナツと似通っているからだろう。
「環境に優しく燃やそうね」
「分かった。取り合えず普通に燃やすな」
「わーいオイラの会話全く意味がないや」
仲が良いんだか悪いんだか、周囲からではよく分からない会話をしながら手に持つ
その刹那。
消えた。
今の今まで歩いていた彼らの姿が、何の前触れもなく、何の予備動作も予兆もなく。
あっさりと、さっぱりと、影も形も残さず姿を消していた。
この日。
炎の
数日後、彼らの姿を見たものは誰もおらず、〝妖精の尻尾〟は混迷を極める事態に陥ることとなる。
消えた彼らが向かった先は、全くの異世界である。