火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ? 作:shoshohei
今回は私の作品での独自設定が出て来ます。なのでご注意を。
加筆修正致しました。 9/22
日は完全に沈み、辺りに夜の帳が下りた時刻のペリペッド通りに顔を並べる〝サウザンドアイズ〟の支店。
その店の中にある白夜叉の私室に敷かれた布団の上で、ナツ・ドラグニルは重たい瞼を上げた。彼は目の前に一番最初に飛び込んできた見覚えのない天井に向けて、未だぼんやりとした眼で、誰に言うでもなく口ずさむ。
「……どこだ、ここ」
その問いに答えるように、彼の横合いから元気な声と共に覗き込む者が見えた。
「ナツ! 気が付いた!?」
「……ハッピー?」
慌てた様子で覗き込んできたのはハッピーだった。ナツが意識を取り戻した事によほど安堵したのか、彼は目に見えて分かるほどに声を弾ませた。
「よっかたぁ、目が覚めて! いきなり血を吐いて倒れたから心配してたんだけど……まあ、殺しても死ななそうなナツだから死ぬはずないよね、あい」
どういう意味だと激しく問いただしたいナツ。今の発言は著しく彼の尊厳を傷つけられた気がしてならない。……ほとんど合っているのが悲しい現実なのだが。
ちょっと本格的に相棒との今後の接し方について議論をしなければなるまい、とナツは上半身を起こそうと力を入れる。が、しかし身体は意思に反して動かず、力が入らなかった。
身じろぎしている所を見たハッピーは、少し慌てて彼を制した。
「ダメだよ、まだ動いちゃ。体内の血管の一部が破裂しててて、内臓とかも危なかったほどの傷だったんだから」
「……マジで?」
僅かに驚きを含んだ声で問いを投げる。半ばで気を失ってしまった故に、まさかそこまで自身の身体が損傷していようとは夢にも思わなかった。
ハッピーは頷き、ナツの要望通りに白夜叉から伝えられた彼の容体を伝える。
―――彼女によれば、太陽と白夜の星霊の高質且つ莫大な炎……白夜叉の恩恵を喰らったことにより、ナツの中で膨大な魔力が生まれ、その出力に身体が追い付かず、高質かつ強大な魔力を制御することができずに、結果として彼の方が
どうやらこの恩恵を喰らうという所業、相当に異質で危険なことでもあるようだ。それも当然のことで、恩恵とは魂の一端であり、それを喰らうということは即ち魂の一端を喰らうことと同義である。
未だナツと言う
故に、白夜叉が直々に封印を施し、その性質と魔力の暴走を留め、出力の安定化させたのだとハッピーは締めくくった。
「……うーん、やっぱまだまだコツが掴めてなかったからかなぁ……。いや、アレで一度は喰えたはずだったんだけが、もうちょっとこうガブっていうか、ゴクンっていう感じだったのか? いやもっとこう……」
「コツって……」
喰えない炎があったことが相当悔しいのか、ナツは布団の中で頭を捻って物理学的に考えてありえない言葉をぶつぶつと連ねる。そも考えていて答えが出ること自体不明なのだが
時々彼の思考回路に付いていけない時がある、と若干呆れるハッピー。
丁度その時、彼の背後にある障子が、前触れもなく独りでに開いた。
否、独りでにではない。
障子が開いたその先に居た少女──白夜叉によって動かされたのだ。
開く音で気付いた二人は、少女へと視線を向ける。当の本人は満身創痍であるはずなのに、割と元気そうに寝ているナツを視界に収め、呆れたように息を吐いた。
「……本来ならばニ、三日は目を覚まさんはずなのだが、まさか日を跨がんうちに覚めるとはな。それを見事と称賛してやればいいのか、頑丈だと呆れてやればいいのか」
「あい、それが
「所謂脳筋という奴じゃな」
「そういうことです」
「テメェら喧嘩売ってんのか!?」
仮にも怪我人であるはずなのだが、彼女らは全く敬いとかそう言ったものを見せる気構えが見えない。少しばかり肉体言語に移りたくなるナツである。
白夜叉は布団の傍まで歩み寄り、どかっと畳に座ると、懐から煙管を取り出して煙を吹かした。筒状の先端からもくもくと天井へと煙が立ち上る中、彼女を見つめていたナツが、ふと口を開いた。
「ありがとな、白夜叉」
「ん?」
僅かに要領を得ないといった調子で首を捻る白夜叉。
構わずナツは続ける。
「これ、やってくれたのお前だろ? ありがとな、助けてくれて」
「なんだ、そのことか。構わんよこの程度。怪我を負わせたのも私であるのだからな。これくらいは当然だ」
特に気にした様子も見せずに返す白髪の少女は、しかし僅かに眉を顰め、傍にあった灰皿の上に煙管を置いた。
「……しかし、分かってはいたが、よくもまあ私の炎をあれだけ受けて生き残ったものだ。本来であれば塵一つ残らんと言うのに。やはり〝純血の龍種〟に限りなく近い、その奇っ怪な身体に一因があるのだろうな」
「あ? ンだそりゃあ?」
「あい? 何ソレ?」
二人してきょとんとした面持ちで首を捻る。ナツの肉体は滅竜魔法の作用により、
彼らの反応が意外なものだったのか、白夜叉も存外だとばかりに僅かに呆けた。
「何だ、おんしら知らんのか。てっきりもう既に知覚していると踏んでいたのだが」
「こちとら昨日今日
「ナツ、呼び出されたのは今日だよ。……それで、何なの? その純血の龍種って」
僅かに不満を含ませて吐き捨てるナツを諌め、ハッピーが真に疑問に思う者の声音で問うた。
得心が言った様に白夜叉は頷くと、人差し指を伸ばして講釈を垂れた。
「―――純血の龍種というのは、この箱庭における最強種の一つだ」
「最強種……最強!? ンじゃあソイツらって滅茶苦茶強ェのか!?」
「ちょっと落ち着こうよ、ナツ」
最強という単語に反応してか、あまりにも素直に自身の欲望を曝け出す相棒へと手慣れた流れでハッピーは釘をさす。
異世界コンビの漫才の様なやり取りに少々呆れながらも、少女は口を止めずに続ける。
―――修羅神仏の集う箱庭に置いて、尚最強と謳われる三種が居る。
時代や概念を支配する生来の神霊。
悪魔や精霊、鬼種などの最高位に存在する星霊。
幻獣の頂点にして系統樹が存在しない、純血の龍種。
この中の一種である純血の龍種に、ナツの身体が限りなく酷似しているのだと白夜叉は言うのだ。
「純血の龍種は、中々に誕生の経緯が奇妙でな。この種は
「……? 何が違うんだ?」
「本来生命というのは、親から生まれてくるものだろう? 鳥にしても、人にしても。だがこ奴らにはそれがない。強大な力が、ある日突然何の前触れもなく、どういったわけか集結して形を成した種。
「なんか、凄いね」
「そうだな。確かに異常と言えよう。―――だが、真に異常なのはただ図体がデカイだけではない」
「そりゃなんだよ」
ナツが続きを促す。ハッピーも目でその先を訴えていた。
急かされた白夜叉は灰皿に置いた煙管を手に取り、口へと運んで一服。たっぷりと間を開け、煙管を口内から離し煙を吐き出して、その事実を告げた。
「〝力〟だ」
「〝力〟だぁ?」
「あぁ。時代と概念を支配する神霊にすら劣らぬ要因の一つ。それこそが、奴らの身体を構成する強大な〝力〟。概念さえもねじ曲げるほどの、摩訶不思議で不可解で馬鹿げた能力だよ」
思わず眉を顰めるナツ達へと、白夜叉はただ厳然たる事実であるように淡々と述べて行く。
―――曰く、それは致死の呪いを知らぬと踏み潰し。
絶対の防御を聞こえぬと引き千切り。
不死身の恩恵を見えぬと引き裂き。
破壊の概念すらもくだらぬと噛み砕く。
気勢や咆哮―――雄たけびといった、所持者が起こした全ての事象にさえ付随するそれには理屈は存在しない。敢えて付けるのであれば、相手よりも強力であれば粉砕し、打ち砕き、破壊する。逆に相手との〝格〟に差が出ているのであれば、精々の抵抗は可能であるもののそれだけで、故にその内に圧せられ敗北する。ただそれだけの力。他には何もない。
簡単な話、己が他者を凌駕していれば物的霊的を問わずして干渉を無力化し、逆に相手との絶壁にも似た隔たりがあるのならばどのような干渉さえも影響を与えてくるものだ
「恐らくは、おんしが生き永らえた原因の一つに違いないだろう」
「ナツにもその〝力〟があるってこと?」
「然り。純血の龍種へと近い肉体になったおんしには、本物に及ばぬながらもそれが宿っておる。少なくとも、私は今もこうして感じておるよ」
「…………」
ナツは布団から手を出し、己の掌に視線を移す。
恐らくは、否、確実に、決闘の時に感じていた違和感の正体は、白夜叉の言う〝力〟のことだったのだろう。彼女の炎を受ける際に〝力〟が抵抗し、防波堤の役割となってナツを守ったのだ。
だが何故、ナツにその様な力が宿った?
(こっちに来てから、滅竜魔法が変化して、白夜叉の言うその純血の龍種って奴に近づいたからか?)
確信は持てぬが、それ以外に考えようがないのもまた事実。
箱庭世界を訪れてから、言い知れぬ何かに変質したのを滅竜魔法から感じていた。だからだろう。滅竜魔法が変わったことによりナツの肉体が変化し、それにより〝力〟が宿った。順序立てて説明するのであればこんなところか。
なんか色々と変な事が起きてんなー、と、中身がスッカスカの脳味噌で漠然とただ想う。
何とものんびりと、呆れるほどゆったりと事実を頭の中で整理していく。
そんな中、ナツはふと、彼にとってはとてもとても看過できぬ事実を思い出す。脳裏にフラッシュバックする事実を回想して、ようやく力が入りだした体を勢いよくと起こし、ハッピーに詰め寄った。
「そうだハッピー! 決闘はどうなった、決着は!? つかオレの腕とか顔とか何時の間に元通りになってんだ!?」
「え? え、えっと……なんかドラゴンみたいな手とか顔とかは魔力が切れると同時に元に戻ったんだけど……」
「けど?」
言い辛そうに口籠るハッピーを見て、ナツは怪訝そうに眉を顰める。
自分の現状、ハッピーの今の態度、そして彼の口から洩れたナツが『吐血して倒れた』という情報。これらから推測できないあたり、彼はこういうことに関しては存外鈍いようだ。
ましてや彼は重度の負けず嫌い、自分が勝ったという方が嬉しいに決まっている。故に、自身が気絶する前に攻撃を撃ちこめたかもしれないという希望的観測があったのだ。
そんな彼の性格を誰よりも理解しているからこそ、ハッピーはナツに真実を淡々と告げることができなかった。彼が知った時に見せる顔を察するが故に。
だがしかし、教えなければならないのもまた事実。彼は負けず嫌いだが、別に卑怯をして勝とうとするような性格でもない。勝負にはいつだって真剣である。ならば真実を教えるのが真の優しさと言えるだろう。
そのことを言おう言おうと心の中で決定してはいるものの、中々踏ん切りが付けられないハッピー。彼を見て更に眉を顰めるナツ。その二人を見ていた白夜叉は再び呆れたように息を吐いて、一方的に告げた。
「おんしの負けだ」
「……ッ!!」
突然の告白に、二人は別々の意味で目を見開いて白夜叉を見た。当の彼女はどこ吹く風、大して悪びれた様子も見せずに飄々として見せている。
もう一度、彼女は告げた。
「おんしは負けた」
「……負け、た」
ポツリ、と。
ナツの口から声が漏れる。決闘の時に聞いた力強い声ではなく、どこか茫然気失としたような、心ここにあらずと言ったような声音だった。そんなナツの横顔を、ハッピーはどこか不安そうに見つめる。いつもいつも喧嘩っ早いナツであるが、この一瞬だけは何時もの元気の良さは見えなかった。
ハッピーの案ずるような視線を受ける中ナツは、もう一度呟いた。
負けた、と。
敗北の二文字に、どれだけの感情が秘められているのか、それは彼自身しか分からない。だからこそ、ハッピーは彼が今何を思っているのか、何を見ているのか、それさえも分からずただ見ているだけしかできない。
下に俯いて、何かを想うナツ。白夜叉もハッピーも彼を見つめる。辺りに静寂が訪れる。
庭にある竹筒の先端が、零れおちる水の重さで石へと落ち、カーンと耳触りのいい音が響く中。
その中で確かに。
ナツの口の端が、小さく釣り上がった。
「―――かはっ」
乾いた様な声が、彼の口から洩れる。
聞こえて来た声に耳を傾けるハッピーと白夜叉。その二人の耳に、爆発的な大音量が一気に流し込まれ。
「だぁーはははははははははっ!! ちくしょー負けたァー! 負けちまったァ! あー悔しー!」
あまり悔しくないような声で叫びながら、ナツは背中を勢いよく布団へと押し付けた。
予想外の反応にハッピーも白夜叉も固まる。ここは彼の性格を考える限り、てっきり悔しがって暴れるか、随分と思い詰めると踏んでいたのだが。
寝ながら笑い声を上げるナツを見て、心底不思議そうに白夜叉はナツに一つに質問をした。
「一つ、訊いてもいいかの?」
「何だ?」
「おんしは他の者どもが〝挑戦〟を選んだとき、迷わず〝決闘〟を選んだ。それは何故だ? 他の者どもが身を引いたのに対して、おんしはなぜそれでも私に戦いを望んだ? 恐怖心は無かったのか?」
純粋な疑問。
確かに以前も彼ならば〝決闘〟を選んでいたであろうが、あくまでそれは過去の話。目の前の彼も〝決闘〟を選ぶとは限ら無かった。ましてやあの自信家である十六夜達ですら引いたのだ。よほどの身の程知らずか、天井やぶりのうつけ者でなければそうそう選べるものではない。
「なんだ、そんなことか」
彼は簡単に返した。
体を起して、白夜叉に向き直る。
「前にな、スッゲェ強ェ奴がオレの近くにいてさ、そいつと闘ったんだ。その時にコテンパンにオレは負けちまってな、その時にこう言われたんだよ」
脳裏に浮かべる、ギルド最強の魔導士と名高いその男との対峙。
そこで掴んだ、未来へと進む兆し。
『恐怖は〝悪〟ではない。それは己の弱さを知るということだ』
思い出される、ギルドの聖地でぶつかって、それでいて自分が恐怖に屈したソイツの言葉。
その言葉は、今でもナツの心に深く刻まれている。
『弱さを知れば、人は強くも優しくもなれる』
誰彼かまわず噛み付くことだけなら誰にだってできる。
しかし、それで強くなれるかどうかと聞かれれば、それが必ずしもイコールとは限らないだろう。
だからこそ、ナツはまず恐怖する自分を認めることにした。あの時も別に恐怖しなかったわけではない。
彼女がゲーム盤を見せた時は言葉も出ないほど驚愕したし、彼女と相対した時は心底震える様な感覚に支配されてしまいそうになる時だってあった。決闘の最中も、魔法が悉く効かずに『勝てない』とさえ思う自分がいた。
しかし。
「でも、それだけじゃダメだ。弱さを知る
弱さを知って、自身の無力を嘆き、悔み、悲しむ。それはいつだって、いくらだってできる。
しかし、そこで止まっては何の意味もない。ただ涙を流すだけでは、先には進めない。
重要なのは、自分の弱さを知ったその後だ。その弱さをどうするか、どう動きだすか。それで前に進めるかが決まってくる。
だからナツは、恐怖する自分を知って尚白夜叉に戦いを挑んだ。
彼は弱さを知った。だから今度は、前に向かって歩き出すために拳を握ったのだ。
結果は負けてしまったが、彼の中にある全力で闘った。だからナツには、自然と後悔とか、そういった感情は持ち合わせることは無かった。なんてことはない。そういうことなだけである。
「つまりオレは……その、なんだ? 確かに怖かったけど、でも強くなりてぇから闘いを挑んだっつうわけだ」
勿論、それが無謀となりうる時もある。
今回十六夜達が取った行動は、客観的に見ても素晴らしく賢明な判断だったと言わざるを得ない選択だろう。むしろ、ナツの選択こそが批難を浴びるかもしれなかった。愚かしいと嘲笑されても致し方ないのかもしれない。
つまりは、彼らは弱さを知った後に取った行動が違っただけ。ただそれだけの違いである。そこに強者とか弱者とか、そういうちっぽけな固定観念は存在しない。闘う時の選択が、違っただけなのである。
あまりうまく言えた自身がないのか、少しナツは首を捻っていた。その隣では、ナツがあの時のことをしっかりと分かっていることに、ハッピーは感動的な物を胸に秘めて頷く。あの時の経験は、確実に何かをナツに齎していることが嬉しかったのだ。
ナツの言葉を聞いた白夜叉は、暫しの間大きく開眼していた。彼は怖くなかったとか、絶対に勝てると思ったから闘いを挑んだわけではない。それを知ったがゆえに瞠目する。
ただ『強くなりたい』と願った故の行い、それに従っただけだった。ただ強い奴と闘いたかった、ただそれだけだった。
打算も何もない、ただただ一つの願いへのあくなき追求。
その行動の真意が居たってシンプルだったことであり、それだけであそこまで闘えたことが、白夜叉にはおかしく思えた。
勿論それを願う理由もあるだろうが、今この場においては恐らくそのことは関係がないのだろう。
それが白夜叉の笑いをこみ上げる。
「……く、くくっ」
気付けば声が漏れていた。
ナツとハッピーの視線が向けられる。それでもその笑いを留めることはできなかった。
白夜叉はついに抑えきれず、声を上げて哄笑を上げた。
「────くっははははははははははははははっ!!!」
「な、なんだ……?」
「あい、壊れちゃったのかな?」
さりげなく失礼なことを申す二人。
一頻り笑い声を上げて満足したのか、白夜叉は未だ笑いを噛み殺しながらナツを見る。
「くくっ……。小僧が、随分と大きなことをいうではないか。度胸だけは魔王並みな奴だな」
「一々上から目線で言うなよ、婆くせェ」
「そう言うのであれば年長者は敬うものであるぞ」
「なんか言葉と外見がかみ合ってないけどね」
そういう少女をある世界の世間一般では『ロリババア』と呼ぶのであるが、そう言った言葉を知る由もない二人は『引くわー、このチビババアマジ引くわー』などと呟く始末だった。
やれやれと年上を敬わない一匹と一人に肩を竦め、噛み殺す様にくつくつと笑う白夜叉。暫し愉快だとばかりに肩を震わしていたが、突然何かを思い出した様に手を叩いた。
「そう言えば、おんしに渡すものがあったな。いやはや、すっかり忘れておったぞ」
「あン?」
「あい?」
首を傾げる二人を尻目に、白夜叉は虚空へと向けてパンパンと柏手を打つ。突如、ナツの目の前に光り輝く一枚のカードが現れる。
カードにはナツの名前と、他にも何かの名称が記されていた。
「何だこりゃ?」
「あい?」
「それはギフトカード。正式名称を〝ラプラスの紙片〟。即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった〝
ふーん、と相槌を打ちながらナツとハッピーはカードをのぞき見る。
そのパステルオレンジのカードには、確かにその名前らしき物が記されている。
ナツ・ドラグニル・ギフトネーム 〝
ナツは適当にその名前を読み取ると懐にしまい、突如布団から立ち上がった。
「さてと。ありがとな白夜叉、怪我の手当てをしてくれて。後邪魔したな」
「あい。お菓子美味しかったよ」
「……? おんしら、どこへ行く気だ?」
まだ怪我も完治していないというのに、彼らは言葉も交わさず、同調した動きで部屋を後にするかのような言葉を口走る。その行動を不思議そうに問う白夜叉。
その問いにナツが答えた。
「〝ノーネーム〟の本拠に決まってんだろ? 明日は飛鳥達のゲームだしな」
「まあ本当はナツはここでじっとしてた方がいんだけど、ナツが大人しくしてるはずもないしね」
ふう、とため息を突くハッピー。先ほどまでは御する立場であったはずなのにこの掌の返しよう。ナツの態度を見て察したのであろう。白夜叉も不思議とその意見には同意である。
だがしかし、普通の人間ならば全治五カ月はくだらない大怪我を、
「その体で向かうのか?」
「当たり前だろ? こんな傷大したことねえっつーの」
「こんな傷って……ああ、もういい。おんしには常識が通用せんからな」
疲れたように息を吐く。彼と話しているとこちらが間違っているかのように思えてしまう。
肩を落とす彼女を見て、お許しが出たと判断したナツとハッピーは、障子に手を掛けて廊下に立つ。しかし、彼らは重要な問題があることを忘れていた。
「おんしら、〝ノーネーム〟の本拠がどこにあるのか知っておるのか?」
「「………………………………………………あ」」
そこが重要だというのに、本当に忘れていたようだった。
そのことに深ーい深ーいため息を突く白夜叉。見ていて退屈しない二人であるが、たまに一緒にいると疲れることがある。
仕方がないと言わんばかりに白夜叉は立ち上がった。黒ウサギには後で色々と謝罪しておくしかない。
「黒ウサギにも責任を持って送り帰すと言ってしまったからな。私が道案内をしよう」
「おおっ、助かるぜ白夜叉!」
「あい、ではお願いします」
「うむ。承知した。だがその前に、おんし達に聞いておきたいことがある」
ピリリ、と。
突如として空気が緊張を始めた。白夜叉の表情も砕けた物ではなく、極めて引き締めた物となっている。
その表情で、白夜叉はナツ達に問うた。
「お前達。魔王に全てを奪われたコミュニティが一体どうなるのか、その末路を本当に知っているか?」
はい、出ました独自設定。此処が一番のリメイクと言っても過言ではありません。
後付け設定と言われても致し方がありませんし、こんな設定じゃ納得できねえ! って方も言われるかもしれません。えぇ、全くその通りです。
ですので批判は甘んじて受けます。そして何故此処にしたのかも、ここ以外で何時説明できるか分からなかったからです。ゆえに、此処にリメイクさせて頂きました。
このようにクソったれな作者ですが、もし未だに読んでやる、という寛大な御心を持ち得る読者様が居れば、どうぞまた読んでやってください。