火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ?   作:shoshohei

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リメイク9話目です。

修正 2015年1214日 名前変えました


譲れぬ想い

「……で、どォいう了見でノーネームの残り少ない貴重な区画を、こんなにメチャクチャにしてくれやがったのでございマスか?」

 

 身体から存分に怒気を立ち上らせ、仁王立ちする黒ウサギ。普段では想像も付かないほどの口調の荒さで、彼女は言葉を紡ぐ。その背後には焦土と化した大地が、そして前には、仲良く正座させられているナツと十六夜の問題児二名が存在していた。

 

 尤も、彼女の口調が荒れるのも致し方のないことと言えよう。なにせ、飛鳥達のギフトゲームから帰ってきたら、本拠に残った子供とハッピーより『桜髪と金髪のお兄ちゃん(ナツと十六夜)が暴れてるー!!』などと泣き付かれるという歓迎。手を引かれるままに来てみれば、案の定ただでさえ凄惨だった土地は更に抉れ破砕され、原型残らず焦土と化し、焼け野原の中で取っ組みあってバカスカ殴り合っている下手人達が居たのだから。これで心情荒ませぬ方が難である。

 

 それだけでも十分に憤怒に足る事件であるが、性質が悪いことにこの大馬鹿者ども、自身の失態を他者へとなすりつける始末である。

 彼らは人差し指を力強く立て、隣の喧嘩相手に向けて、一言。

 

「「コイツがやりました」」

 

「問答無用ですッ!!!」

 

 どこからともなく現れた黒ウサギ愛用のハリセンが、ナツと十六夜の頭を唸りを上げて強襲する。しかし二人はどこ吹く風。自身には非は全くございませんと、更に罪の擦り付け合いを続行。

 

「ここら一帯を丸焼きにしたのコイツだぜ?」

 

「地面にクレーター作りまくったのはコイツだ」

 

「「……あァ?」」

 

「またも喧嘩を始めるのはやめてくださいっ!!」

 

 鋭いメンチの切り合いを開始する二人に、黒ウサギは慌てて割って入る。

 この険悪な雰囲気はどうにも先ほどのドンパチが関係しているようで、ハッピーの証言によると、最初は二人とも楽しく激しく殴り合っていたのだが、途中から取っ組み合いが開始され、もはやただのステゴロとなっていったとか。

 あまりの惨状に苦笑いを浮かべるジンの隣で、一体何処から持ってきたのか分からない魚を頬張りながら、ハッピーは呟く。

 

「……オイラ、この光景すっごく見たことあるような気がするなぁ」

 

「何訳のわからないことを言ってるんですか! ハッピーさんもこっちにきて止めてください!」

 

 若干涙目の黒ウサギ。頭痛と胃痛の併用の懸念すら危惧する己に嘆きながら、声を裏返して先程己が見た事実を口にする。

 

「もうっ! こんなことをしている場合ではないんですよ!? 耀さんが大変だったんですから!」

 

「「……あん?」」

 

 至近距離で睨み合っていた彼らは動きを止め、視線を黒髪のウサ耳少女へと移す。

 漸く喧嘩を仲裁できた黒ウサギは、僅かにため息をつきながら、事の顛末をナツ達へと話し出した。

 

 ―――彼女の話によれば、まず飛鳥達とガルドのゲームの勝敗自体は大方の予想通り〝ノーネーム〟側の勝利で終わった。久遠飛鳥が白銀の十字剣で持って、ガルドの生にその幕を引いたのだという。

 しかしながら、予想外だった事象が二つある。

 

 一つは耀が負傷し、意識不明であるということ。幸い黒ウサギの迅速な処置により、出血は酷いものの一命は取り留めることに成功したが、まさか彼女へとガルドの牙が届くことになろうとは、皆が思ってもいないことだったのだ。

 

 二つ目は、ガルドが鬼化……言うなれば一種の吸血鬼化して、理性も何もない虎となり力が増していた事。この鬼化というのは、自然発生的になることはあり得ず、吸血行為なくして成立はしないという。故に、ガルドへと力を助力を申し出た黒幕が居るのだと〝箱庭の貴族〟は語る。

 

「……そうか、勝ったか。ならやることは一つだな。御チビ、奴らに旗を返しに行くぞ」

 

「は、はい!」

 

「あ、まだ話は終わっていませんよ!?」

 

 昨夜に話した通り、十六夜は少女の制止の声も聞かずして、ガルドに旗を奪われていたコミュニティに変換するために、すたこらさっさとジンを連れて行ってしまった。

 まだまだ言い足りない黒ウサギは、既に遠くまで歩を進めた彼らの背を見つけ、しかしこれも作戦の為として、仕方なしとばかりに本日二度目のため息をつく。

 その時だった。

 

「……なあ、耀はどうなってんだ?」

 

「……ナツさん?」

 

 振り返れば、何時も見せる声音とは違って、一層真摯な態度で話しかけるナツの姿が。彼の隣のハッピーも、少しばかり顔に影を落として不安な色を見せている。

 普段ではあまりお目に掛ることのない表情の彼らに若干戸惑いながらも、黒ウサギは耀の容体を想起して返した。

 

「一応、多く出血はしていましたが、命に別状はないと思われます」

 

「……そうか」

 

 眉間に刻まれていた皺を消すナツ。

 今まであまりこういった顔をすることがなかった彼を見て、少しばかり呆然とする黒ウサギ。性根は心優しい少年だというのは分かったが、こういうのはあまり見なかったので、彼女からしてみれば意外だった。

 思わぬ彼の一面を発見して、彼に気付かれない様にクスリと微笑。

 

(依頼人と雇われの関係でも、仲間は仲間っていうことなんですね)

 

 そういう感情を少しでも表に出せばいいのに、と内心ナツが聞けば、色々と面倒くさい事案が発生すること請負なことを想いながら、黒ウサギは少し彼の心情を察して粋な心遣いを施した。

 

「耀さんなら、本拠の工房で治療中です。お見舞いに行って差し上げたらどうですか?」

 

「ん? ……んー、まあ確かにそうだな。行ってみっかハッピー」

 

「あい! じゃあでっかいお魚持ってってあげようよ」

 

「負傷者に生魚はダメですよ? ちゃんと加熱してくださいね?」

 

 まず意識不明の重体患者に、食事は無理という前提条件が頭からすっぽ抜けている青猫に訂正を施す黒ウサギの声を背に、二人は〝ノーネーム〟の本拠へと脚を運んで行った。

 

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 陽は沈み、十六夜の月が顔を出す時刻となった現在。

 耀への見舞いを終え、改めて彼女の命に別条がない事に安堵したナツとハッピーは、本拠三階の談話室へと脚を運んでいた。

 今のところやることも特になく、だからと言って暴れれば黒ウサギが煩い。ゆえにできる暇潰しと言えば、談話室に戻って精々語らい合っていよう。そう思っての事だった。所謂気紛れと言う奴である。

 

「……あれ? 黒ウサギと十六夜じゃん。どうしたの?」

 

 訪れたそこには、予期せぬ先客が居座っていた。

 退屈、というよりは、僅かに不機嫌気味にソファに腰掛ける十六夜と、自慢のウサ耳を萎れさせ消沈の念を醸し出す黒ウサギ。

 訝るハッピーの声により、二人の訪問に気付いた少女は気落ちしながら振り返る。

 

「……あ、ハッピーさんとナツさん。耀さんのお見舞いはもうお終いですか?」

 

「まあな。ってか、ンなシケた面してどうしたよ」

 

 要領を得ず、不躾にも疑問を投げかけるナツ。黒ウサギは一層表情に影を落とすと、陰鬱な口調で言葉を紡いだ。

 

「……実は、近日〝サウザンドアイズ〟が主催するギフトゲームに、十六夜さんが参加することになったのです」

 

「十六夜が?」

 

「YES。ナツさんの実力は白夜叉様との決闘で存分に把握できましたし、未だ未知数な十六夜さんの力試しと―――其処に景品として出品される元・仲間の奪還も兼ねて」

 

 仲間。

 その一つの単語に。彼にとっては見過ごせぬであろう一つのワードに呼応して、ピクリと微動するナツの片眉。知らずして、黒ウサギは続けた。

 

「それで、本日そのゲームの参加申請をしに〝サウザンドアイズ〟へと赴いたのです。ですが……」

 

「ゲームは延期。そう言われたんだと。何でも、景品に巨額の買い手が付いたらしくてな。このまま中止の線もあるそうだ。……金積まれたからって引き下げるとはな。三流以下のエンターテイナーがすることだぜ、全く」

 

 言葉を語尾から継いだ十六夜は、さぞ不快とばかりに鼻を鳴らしてソファに寝転がる。彼の性格からしてみれば、予定された楽しみとメリットを横から掻っ攫われた事は、なるほど確かに不満であると言えるだろう。

 そしてまた、彼同様か、それ以上に不快感を露わにする者が此処には一人存在する。

 

「ンだそりゃあ! 他人様の仲間を勝手に景品に賭けといて、挙句の果てにはそのゲームまで中止だァ!?」

 

 ふざけやがって。そう毒づいて、眉間に皺を刻みこみナツは奥歯を噛み締めた。

 元々とは言え、黒ウサギの仲間が、今となっては自身達の仲間が景品に賭けられる。

 権利も何もかもを剥奪され、意志は黙殺され、ただ有るだけの、動くだけの道具として何者かのそうした視線に晒されている。そして、其処から抜けださせる機会でさえ、今こうして失われようとしている。それも、金などと言う物資によって。

 

 囚われている仲間とはどんな人物で、どんな容姿をしているのかさえナツには分からない。だがこの状況が、ただ此処で待つだけの現状が、桜髪の少年にはどうにも耐え難く度し難く、許し難いのだと。不愉快極まるのだと吐き捨てている。

 

 声を荒げる彼の隣で、不安げに表情を歪めるハッピーは、髭を揺らしながら黒ウサギに問う。

 

「白夜叉に頼んで、どうにかすることってできないの?」

 

「難しいです。今回の主催者(ホスト)は〝サウザンドアイズ〟の傘下コミュニティの幹部、〝ペルセウス〟。直轄の幹部である白夜叉様では、管轄の違う彼らのゲームの状況を動かすことは相当に困難です。〝サウザンドアイズ〟は群体コミュニティですからね。本来であれば彼らは相応の責任をコミュニティ全体から問われるはずなのですが……恐らくは、それさえも気にならないほどに旨みのある商談だったのでしょう」

 

 淡々として言葉を口にする少女だが、その顔は屈辱に塗れている。悲哀の度合いは、恐らくこの中で最上と言って相違ない。

 それでもこうして堪えているのは、ギフトゲームがこの箱庭で絶対の法であると知っているからか。法を破れば、今の仲間に危害が及ぶと知っているからか。

 だからこそ、こうして冷静を装うことしかできない。動きたくても動けないというもどかしさが、何よりも彼女の胸を軋ませる。

 

 だが。

 

「関係ねえよ」

 

 その諦観にも似た焦燥を、火竜は微塵の迷いなく切り捨てた。

 突発的に飛び出た発言に、瞠目して目線を向けるハッピーと黒ウサギ。驚嘆する一人と一匹になんら構わず、先程までの憤慨を表情に凝縮させたナツは己が言葉を口にする。

 

「開催がどうこうなんざ関係ねえ。

 ゲームの中止? 知るかよンなもん。

 巨額の買い手が付いた? だったらもう、うだうだしてる暇も理由もこれっぽっちだってねえだろうが」

 

 不躾に、無遠慮に。そして一部の揺るぎも見せない野太い声音で発せられる言霊が、談話室へと反響する。矢継ぎ早に出されるそれに、黒ウサギ達は呆気に取られる。

 ナツはお構いなしに彼女らを見据え、テーブルへと静かに、しかし力強く手を置き、瞳に灯る消えず衰えぬ昂ぶりの(ほむら)を燃やして告げる。

 

「ソイツを助けに行く。今すぐにだ」

 

 短い一言だった。だが熱の籠もった声は、少年の意志を表明するには十分に過ぎると言えた。

 

 仲間が景品に賭けられたゲームが、急遽中止になったからなんだ。

 どこぞの金持ちに、巨額で買い取られることになったからどうしたという。

 そんなもので諦めるような理由にはならないと、その様な些事で踏みとどまる条件にはならないと。

 此処で機を逃した事を悔いる暇があるのならば、まずはその脚を、手を、身体を動かせ。今も悪意に晒され、苦痛に身を捩る仲間を助けようと行動を起こせとナツ・ドラグニルは言っていた。

 今此処で、こうしている現状が愚挙であると強く断じていた。

 

 しかしその時。

 

「どうやって?」

 

 そのような彼に、浴びせられる声が一つ。

 

「……あ?」

 

 怪訝な声を上げたのは、特段聞き取りづらかったからではない。ただ単に、なぜそのような質問を投げかけたのか、その理由が分からなかったから。

 顔を顰め、首を回し鋭利な目つきで声の主を見やるナツ。対象となっている金髪の少年は心底呆れたとばかりに嘆息して身体を起こし、目線を返す。

 そして、明確にもう一度問いかける。

 

「どうやって、その元・お仲間さんを助けるつもりなんだ?」

 

 十六夜の質疑は、当然と言えば当然の物だった。

 助けるようとすることに問題はない。元々〝ノーネーム〟はそのつもりだったのだから。

 

 だがどうやって? 肝心の手段は? 計画は? 連れ去られた元・仲間とやらは何処に居る? 〝ペルセウス〟の本拠地は何番目の階層にあるのだ? 元・仲間が本拠地とは別の場所へと囚われている可能性は?

 

 少し考えれば誰であろうと浮かんでくる疑問を、十六夜はこの場において問うていた。

 

「居場所は分かるかも知れない。調べればなんとかなるからな。仲間がどんな奴かは黒ウサギに訊けばいい。だって元々の仲間なんだからよ。―――だが助け出すための作戦は? 仮に救出できたとして、その後の〝サウザンドアイズ〟を敵に回すリスクについてはどう対処するんだ? 今度は白夜叉とだけ決闘すればいいってもんじゃねえんだぞ」

 

 立ち上がり、両の眼を細め自身達の現状の複雑さを語る十六夜。己を睨め付ける眼光に真っ向から対峙して、竜の魔導士へと歩み寄る。

 

「これだけ雁字搦めの状況で、どうやって今すぐ動ける? 手段であるギフトゲームは中止になり、感情任せに特攻でも掛ければ超巨大群体コミュニティが敵に回る。そうなった日にゃあ、恐らく〝ノーネーム〟は完全に潰れて、旗を取り返すこともできなくなるな。ガキどももおまんま食いっぱぐれて、1週間と持たずに餓死するだろうぜ。お前はそれでも、自分(てめえ)の都合だけで此処の奴ら全員の夢を、命を棒に振るってのか?」

 

 重々しさを感じさせる声音で、十六夜は厳然たる事実を叩きつけた。

 これほどまでの困難極まる状況。お前はどうやって今よりも更に良い状況に持って行けるのかと。そんな策を考えているのかと。

 リスクも無く、何もかもがプラスに働く様な状況に変えることができるのかと、彼はこの瞬間において訊いているのだ。

 

「…………、」

 

 言外に『今は大人しくじっとしていろ』という、分かりやす過ぎるほどに意が込められた問いを受けたナツは、静かに押し黙って下を向いた。視線をテーブルの上に置いた手に落とし、瞼を閉じる。同時に幾許かの沈黙が談話室へと訪れる。

 数秒経ったか、経たなかった。長い様で短い様な時分が過ぎ去ったその時に。

 変化は起きた。

 

 

 

「関係ねえって、言ったろうが」

 

 閉ざされた瞼が持ち上げられる。その奥には先程となんら変わらない、尋常ならざる情で燃焼する炎の瞳があった。

 同時に微動だにしない拒絶の意志を表明した火竜は、僅かに瞠目している黒ウサギ達には目も向けず、鋭利な視線を向ける快楽主義者に真っ向から対峙する。

 身体だけではなく、意志で。その心で。

 

「敵が増えようが手段がねえだとか、さっきも言ったようにンなもんはどうでもいい。あーだこーだとこうして考えてる間に、その捕まってる奴が売り飛ばされでもしたらどうする? もし()()()()()で殺されでもしたらどうする? そうなっちまったら、それこそもうどうしようもねえだろうが」

 

 商品として出されたという事は、大凡生物ではなくただの物品として扱われているということ。その様な輩に、その仲間を丁重に扱う様な品性は期待できない。

 もしも、何かの間違いで『イラついたから殺した』などという愚昧極まる理由で自身の商談を破談にするような真似すらしかねないとナツは口にする。

 

「第一、元々ちまちまとした理屈だって要らねえんだ。仲間は捕まったら助ける、奪わせねえし殺させねえ。うだうだとビビってる暇もなく動く。こんな当たり前のことも分かんねえのかョ」

 

「そんなお前の馬鹿げた常識の為に、此処の奴らを見捨てるってのか? 目先の事だけを優先して周囲の仲間はどうでもいいとでも?」

 

「馬鹿言うな。此処の奴らも傷つけさせねえ。それでいて捕まってるソイツも助ける。これが俺の考える最高の方法だ。未来を見据えるのは良いけどよ、未来(あした)ばっか考えて縮こまって。仲間を助けることが出来ませんでしただァ? ふざけろよボケが。ンなのは絶対に御免だぜ、俺は」

 

「ガキの我儘だな。支離滅裂過ぎて理解する気も起きねえよ」

 

 鼻で笑い、首を振って十六夜は彼の言葉を一笑に伏す。

 先を見ていない。ただ眼前の物事だけを捉えて突っ走る愚者の挙動。感情だけでしか物事を解せない頑固者。少年の行動が何とも度し難いと言いたげな僅かな苛立ちが、快楽主義者の嘲笑にはあった。

 

「だったらどうしたってんだ」

 

 しかし彼の嘲りを、やはり寸分の迷いなくナツは両断する。

 

「ガキだろうがなんだろうが、これをやってこその仲間だろうがよ。理屈臭い言い訳こねてビビって動かねえ奴よりはずっとマシだ。どうしても怖いってんなら部屋の隅で震えてろよ。俺一人でも乗り込んでいく」

 

「……話にならねえな」

 

 愚挙が過ぎる。全く以って理解不能。呆れ果てた思念を交えた、疲労と鬱憤を想わせるため息を吐いて十六夜はテーブルから手を離し、脚を動かす。

 扉の前へと歩を進めた少年はナツの方角へと振り返り、通せんぼする門番の如くに立ち塞がった。

 

「分かってはいたが、まさか此処までの馬鹿とはな。正直付き合いきれねえよ。行きたいんだったらどうぞ勝手に行きやがれ。ただし、力ずくでな」

 

 つまりは、行きたいのならば自分を斃して行け。その実力がないのならば大人しく従え。そういう意志表明であろう。

 実力行使。勝者はただ己の意見を押し通せて、敗者は黙して相手の意見を飲む他ない。なんとも分かり易く、なんとも野蛮なルールを十六夜は提示する。

 そして火竜(サラマンダー)も最早止まらない。極大の熱情で以って上等だと、望むところだと押し返していた。

 

「上等だ。後で泣きわめいて後悔したって遅ぇぞ金髪ヘッドホン野郎」

 

「それはこっちの台詞だ、桜髪ツリ目野郎。すぐにその凝り固まった脳髄をぶちまけてやらァ」

 

 談話室に硬質な気配が満ちていく。相手を制そうと言う剣呑な情念が渦を巻く。今この場所で、事を起こしかねんとする意志がその鋭さを増していく。

 二人の殺気に当てられ漸く我に返る黒ウサギ。ナツと十六夜がこの場で闘争を開始すれば、本拠は消し炭になる事は不可避となる。その事を深く理解していた彼女は、悪手の結末をなんとしても避けんとするが故に二人の間に割って入ろうとする。

 

「お、お待ちくださいお二人さ―――」

 

 されども其処で。

 更に横やりを入れる他者によって、彼女の言葉は中断させられた。

 

「熱くなっているところ申し訳ないが、そんな必要はないと思うぞ?」

 

 充満していた殺気が、誰とも知れぬ気軽な声により霧散する。

 自然、皆が声の主を探して目を彷徨わせた。結果、その人物らしき者を窓の外へと視認する事となった。

 

 特注であろう紅いリボンに結われた、金糸に見紛う程の美麗な金髪。

 その身に纏っているのは、真紅のレザージャケットに拘束具を彷彿とさせるロングスカート。

 街ですれ違えば十人のなか十人は振り返るであろう精巧な顔立ちの美少女を視界に収めた黒ウサギは、仰天した様子でその名を呼んだ。

 

「レ、レティシア様!?」

 

「「…………あん?」」

 

「あい?」

 

 怪訝な声を上げる二人と一匹に目もくれず、黒ウサギは駆け足で窓へと走り寄った。

 

 

 

 




次回は歯切れよく終われたらいいと私は思っております。
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