火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ?   作:shoshohei

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ここを改変してきました……やっとこそさここまで来たべよ。一体何回やり直せば気が済むんだ私は。

そんなわけで、全開とは展開的に大きく違ってたりします。あと坊ちゃんの不憫度とか。
そんな感じでやっていきます。




ブレイズ

───世界が、灰色に染まる。

 

 動く者、動かざる者。それらは例外なく、全てが褐色の光によって物言わぬ石と成り果てる。

 宮殿を慌ただしく駆け廻っていた騎士たちは勿論のこと、星空に浮かぶ雲でさえも石と化し、重力落下の法則に従って地へと堕ちる。

 ただでさえ灰色だった壁画は更に鈍く染まり、宙に浮かぶ埃でさえも全てが等しく染まっていく。

 その世界に存在する者全てが、石化の呪いを与える褐色の光によって、その時を奪われたかのようにその行動を停止させる。光は全ての生物の時を奪うかのように、瞬く間に世界を覆い尽くす。

 

 

 そのはずだった。

 

 

 

 

         ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

 

 宮殿内部から闇を引き裂いて這い出てくる石化の光。

 周囲の空間を、時を、命を石へと変える力を持った極光が自身達の身へと迫った時、ナツは焦るでもなく絶望するわけでもなく、ただ憤っていた。

 憤って、無意識的に拳を握って軋んだ音を立てるほどの握力で握っていた。

 

 ふざけるな。

 あんなことを、あの時のようなことを。

 目の前でレティシアを呼吸すら許さぬ石へと変えた時と同じようなことを、飛鳥達にもしようというのか。想像することすらできないような壮絶で、苦痛な目を、彼女たちにも遭わせようと言うのか。

 恐らく奴は自分の仲間達でさえも巻き込んで全てを石に変えて、その後にナツ達の石像でも見て腹を抱えて笑い転げるつもりでいるかもしれない。その時の表情はさぞ悦に浸れてご機嫌なことだろうと容易に想像できる。

 

 ふざけるな。

 そんな奴の娯楽のために、黒ウサギが今賞品として賭けられているのか。

 そんな奴のせいで、レティシアはあんなに苦しそうに笑っていたのか。

 

 ふざけるな。

 ふざけるな。

 

 

「────ふざッッッッけんなァアッ!!!」

 

 

 気付けば、想いは叫びとなって表出していた。腹の底から叫んだナツは、体が勝手に動くままに駆けだす。褐色の光に気後れし、半口を開けたまま棒立ちになってしまう飛鳥達を抜き去り褐色の光へと一直線に向かっていく。

 

 

「ナツ…………!?」

 

「何を……!」

 

 

 皆の困惑した呼びかけにも答えない。

 握った拳に魔力を込め、猛々しい炎を現出させたナツは拳に纏う。轟々と燃え盛る拳を携え、光との距離を目と鼻の先まで縮めた彼は軸足とは逆の脚で勢いを殺し、拳を引き、対象へと放つ威力を増大させる。一層の魔力を右拳に込め腕を振りあげ、

 

 

 

「────火竜の鉄拳!!!」

 

 

 紅蓮の拳を、叩きつけるように振り下ろす。

 竜を滅する力を秘めた魔法は褐色の光に直撃する。しかしながらその光は、触れた者全てを石へと変える力を持つ驚異のギフトであり、〝与える〟側の力でもある。石化という概念そのものと言ってもいい。その力の及ぶ範囲は文字通り全てである。例外はなく、直に触れたナツもレティシアのように瞬きすら許さず物言わぬ石へと成り果てる。

 そうならなければおかしかった。

 

 それなのに拳を受けた石化のギフト────〝ゴーゴンの威光〟はナツを即座に石に変えることはなく、殴りつけられた衝撃によって、まるでテニスボールがバウンドするようにぐにゃりとその形を歪めた。そのまま宮殿を侵食していた〝ゴーゴンの威光〟はその速度を急激に落し、あろうことかその勢いを完全に停止した。

 元・魔王のギフトを押し殺した滅竜の炎はそれでも衰えることを知らず、周囲に多大な熱波と火の粉を撒き散らしながら、光の全てを喰らい尽くさんと息まいている。

 

 

「うそ…………!?」

 

「光を……焼いてる…………!?」

 

 

 空気中に舞う火の粉から顔を腕で庇いながら、耀と飛鳥が唖然として呟く。ナツのことをよく知るハッピーでさえも開いた口が塞がらなかった。

 

 驚嘆の色が強く出ている視線を受けながらも、ナツは気を緩めない。未だその存在を微弱にしながらも、弱弱しく拳の下で光が蠢いているから。

 だからありったけの魔力を炎へと変える。それだけで炎はその力を増していく。光を喰らい尽くしていく。

 

 今尚燃える炎の特性として、ナツの炎は彼の感情によって力が比例する。昂ぶれば昂ぶるほどに、破壊性を増し、熱量を、温度を上昇させていく。速い話、力を出させたいのであればナツを怒らせるのが一番である。

 加えて現在のナツの心中はレティシアを目の前で石にされ、また今も飛鳥達を石に変えようとする光に『怒り』で荒みに荒んでいた。それに呼応して、彼の魔法は通常とは比べることもできないほどに力を引きだしている。

 

 結論を出すならば、石化の光では今のナツの魔法を抑えることはできない。彼を石像に変えるなど到底不可能である。

 それを証明するように、超熱量を持った炎はその力を増していく。

 

 そして。

 

 

「────オオオオオオオラァァッ!!!!」

 

 

 裂帛の気合が迸る。同時に拳をもう一度振り上げ、その極光の波に叩きつける。

 刹那、

 

 

 ()()()()()()

 

 火竜の一撃を受けた〝ゴーゴンの威光〟は、まるでガラスが割れるように木っ端微塵に拉げ散った。無様に宙へと破片を舞わす極光を見逃さず、竜炎は砕け散った傍からその一片までを呑みこんでいく。

 

 時間にして数秒と掛からず。

 灼熱紅蓮の破壊の炎は、石化の光を焼き尽くした。

 

 

「…………助かった?」

 

 

 危機は去った。

 そのことが未だに信じられないと言った表情を浮かべる飛鳥。彼女と同じように茫然自失といった表情で暫し辺りを見回すハッピーと耀。まさかこんな方法で助かるとは夢にも思っていなかった分、驚愕も大きかったのだろう。自分たちが助かったことが本当に夢ではないと自覚した後、皆が安堵の息を吐いた。

 そこでふと、いつもの調子を取り戻した耀が自分たちが助かる要因となった少年に視線を向けながら、ハッピーにこんな質問をした。

 

 

「…………いつも、こんな無茶苦茶なことをしてるの?」

 

「あい……確かにいつも物を壊したりとか街を半壊させたりとか森をめちゃくちゃにしたりとかしてるけど」

 

「もう滅茶苦茶なことしかしてないじゃない」

 

「まさかオイラも石に変えちゃう光を壊しちゃうとか思ってもなかったから……とても驚きです」

 

 

 飛鳥の指摘を軽くスルーして言う割には、ハッピーはあまり驚いたような表情はしていなかった。

 いや、この場合はあまりに驚くべきことが多すぎてどのような表情をしていいのかさえも分からなかったというべきだろうか。それほどまでに驚愕していたのだろう。

 そのことに不思議と共感しながらも、飛鳥は先ほどの光景とこの世界に来てからのナツの魔法が成した所業を思い出してため息をつく。

 

 

「……太陽の炎を食べて体の半分がドラゴンみたいになったり、光を炎で焼くとか…………本当に何でもアリよね、彼って」

 

「それが滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)です」

 

「それを言えば何でも丸く収まると思ってるでしょ?」

 

 

 本当にその一言で納得してしまっている青猫とその相棒とついでにこの異世界に、今まで見てきた常識を覆されて少し頭が痛そうに飛鳥はこめかみに手を添えた。この箱庭世界は色々と驚くことに困らない。

 こんな時でもいつもの無表情を崩さないでハッピーと戯れる隣の友人が羨ましい、とある意味で羨望と呆れの両方の念を込めた視線を飛鳥は耀に向ける。

 その時だった。

 

 

「何だよ、これ」

 

 

 ポツリと。

 喋っている間にも関わらず、酷く透き通って聞こえた声が彼女たちの鼓膜を叩く。

 怪訝に思った飛鳥達が振り返った先にいた声の主たるナツは、辺りの景色を見つめながら棒立ちで立っていた。

 彼は皆の視線を集めていることにも気付かず、ただ眼前の灰色となった世界に目を向けている。

 

 より正確には、他の世界と同じ色に体を染めて身動き一つとることもできない〝ペルセウス〟の騎士たちの石像に向けて。

 

 

「…………()()()()()()()()()

 

 

 小さな、それていて弱弱しく。

 だけれども得体のしれない呪いのようなものが籠もった呟きがナツの口から洩れるのを、ハッピー達は確かに聞いた。

 そしてそれは、絶対零度の温度から溶岩地帯の計測不能な温度まで上昇するように強大な意志に変わっていく。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()!!!!」

 

 

 声が大気を叩いた直後。

 

 耳を劈くような轟音を炸裂させて、ナツの体から噴火の如き勢いで爆炎が噴出する。噴き出す炎の炎圧だけで、周囲の空気を破裂させていくほどの炎が。

 

 怒りの炎。

 そう表現するのは容易いが、それさえも陳腐な例えになってしまうかもしれない。もしも無理にでも言い表すのであれば、生き物が生きていくことさえ困難な環境を作りだす火山が絶え間なく吹き出ているよう、とでも言うべきだろうか。とにもかくにも、今の炎をただの炎と決めつけない方がいいことは確実である。

 踏みしめた足場が、溶けるのではなく割れる。

 圧倒的な熱量と破壊の魔を宿した竜炎は、風であろうが鉄であろうが炎であろうが問答無用に破壊する。今のナツは、それだけの力を持っている。

 

 

「──────、」

 

 

 一歩を。

 その暴力の先にある力を秘めた一歩を踏み出す。それだけでただでさえ壊れていた床は更に瓦解し、そのラインを崩していく。

 彼の豹変を間近で見ていた飛鳥達は、思わず息も忘れて自身の目を疑った。背筋に奔る寒気を感じながら、目の前の存在に見入っていた。

 そして、無意識にこう思う。

 

 アレは、人の形をした化け物(ドラゴン)だ、と。

 

 一歩目を踏み出したナツは、足場を踏み砕きながらドカドカと全速力で宮殿の奥へと駆けていく。

 彼の姿が宮殿の奥まで見えなくなったことで、身震いしていた飛鳥達はようやく我に返った。自身の額に流れる汗を拭きながら、飛鳥が慌てて今も茫然としている耀とハッピーに呼びかける。

 

 

「お、追いかけるわよ! 春日部さん、ハッピー!」

 

「────ッ! ご、ごめん」

 

「あ、あい!」

 

 

 我に返って慌てて追跡を開始する。彼の向かった先は大方予想が付く。

 十中八九、この世界をこのように変貌させたギフトを持つ者のところだろう。

 

 

 

 

 

 

         ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

「───ra……Ra、GEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAaaaaaa!!」

 

 

 天井がなく空を見上げられる白亜の宮殿最奥部である最上階の五階。

 透過系のギフトであるハデスの兜を使ってゲームマスターが待つ最奥部に到着した十六夜とジン、審判役としてそこで待っていた黒ウサギは、最奥部で暴れまわる謳うような不協和音に苦痛そうに耳を塞いでいた。

 人一倍聴覚が優れているが故にこの場の誰よりも苦痛に感じている黒ウサギは、目の前で叫びを上げる巨躯の女を耳を塞ぎながら睨み付ける。

 

 背中からは、カラスとも悪魔の羽とも取れる翼が革に押さえつけられてギチギチとぎこちない音を発している。

 怪しく、だが鋭く光るその眼から放たれる眼光は、見る者に畏怖の念を抱かせる。

 白い、まるで囚人のような服を縛り付ける拘束具のようなベルトが全身に巻き付いている。

 十六夜達の前に現れたその魔王の名を、黒ウサギは戦慄と共に口にする。

 

 

「星霊・アルゴール…………! 白夜叉様と同じく、星霊の悪魔…………!」

 

 

 宇宙に輝くペルセウス座で〝ゴーゴンの首〟に位置する恒星を担う星霊であるからこそ、彼女は石化のギフトを備えている。即ち彼女はギリシア神話に登場するメデューサとほぼ同列の存在である。いや、彼女がメデューサの源流となったと言えるだろう。

 その彼女───一つの星を背負う大悪魔。箱庭最強種の一角にして頂点である〝星霊〟を、ルイオスは手札として切ったのだ。

 

 

「今頃は君らのお仲間も部下と一緒に石になってるだろうね。特にアイツ。あの桜髪のガキ。今頃内心で悔しがってるんじゃない? いや、石になってることさえ気付いてないか。アハハハ!」

 

 

 膝まであるロングブーツに青い翼を生やして宙に優々と浮かぶルイオスは、愉快でたまらないと言った風に腹を抱えて笑う。

 ジンや黒ウサギ達を石化しなかったのは、単なる遊び心だった。本拠を舞台にしての初めての挑戦者。すぐに終わらせては勿体ないという心からだった。彼の闘志は、吐く軽口よりも遥かに高まっていた。

 されどそれは十六夜とて同じこと。白夜叉と同じ星霊であるアルゴールに、彼の闘志は昂ぶりに昂ぶっていた。

 

 

「下がってな御チビ。守ってやれる余裕はなさそうだ」

 

 

 十六夜はジンを背後に庇うように前に出る。ジンは申し訳なさそうに一歩下がった。

 

 

「……すいません。最後まで頼りっぱなしで」

 

「別にいい。それより目論見が外れたわけだが……どうする? レティシアが戻ってくることで魔王に対抗するつもりだったんだろ?」

 

「…………、」

 

「例の作戦は止めておくか?」

 

 

 いつもの飄々とした態度を消し、至って真剣に答える十六夜。責めることも、小馬鹿にすることもない声音と視線に、ジンははっきりと首を振った。

 

 

「十六夜さん、僕らにはまだ貴方がいます。貴方が僕たちの仲間達を奪っていった魔王達に勝つ人材だと言うのならば───このゲームに勝って、それを証明してください」

 

 

 どこまでもまっすぐな返事。

 その言葉を待っていたとばかりに、十六夜は口の端を吊り上げる。

 

 

「OK。よく見てな御チビ様」

 

 

 最後に彼の緑髪を乱雑に撫でてから、拳を握って前に出る。

 

 

「待たせたなゲームマスター」

 

「ん? 後ろの子はやらないのか? その子がリーダーなんだろ? 僕は二人がかりでも構わないんだけど」 

 

「馬鹿言え。こんなゲームでウチの秘蔵っ子であるリーダーの手を煩わすわけにはいかねえだろ?」

 

 

 軽薄に笑う十六夜。その言葉がジンの名を更に広めようと言う意思が込められていたことを察したジンは素直に身震いした。

 しかしその事情をルイオスは知らない。故に侮辱されたと勘違いした彼は、額に青筋を浮かばせて叫ぶ。

 

 

「───名無し風情が。後悔してももう遅いぞォッ!!!」

 

「LaaaaaAAAAAAAAA!!!」

 

 

 ルイオスが輝く翼で、アルゴールが傷だらけの灰翼で宙を舞う。

 アルゴールの陰に隠れながら飛行するルイオスは、懐から取り出したギフトカードから光と共に炎の弓を現出させる。出した弓に手を掛けたルイオスは、十六夜に向かってソレを引いた。

 蛇のように蛇行する矢が十六夜に迫る。十六夜はその矢を見据え息を大きく吸い、

 

 

「喝ッ!!!」

 

 

 気合一喝。それだけで炎の矢は空気振動によって吹き飛ばされた。

 純粋な肺活量だけで成し遂げた業にルイオスは目を剥く。

 

 

「なっ……叫びだけで弾き飛ばしただとっ!? どんな肺をしてるんだ貴様!」

 

「見たとおりこんな肺だ」

 

 

 飄々と肩を竦める姿に苛立ちを覚えながらも、無駄だと悟ったルイオスは炎の弓に代わって新たにギフトカードから〝星霊殺し〟のギフトを付与した鎌であるハルパーを取り出した。

 ルイオスはアルゴールと踊るように飛行しながら、彼女に新たな命令を下す。

 

 

「アルゴール! 人間ごとき、お前の力で捻り潰してしまえ!」

 

「RaaaaaaAAAAAAAA!!」

 

 

 叫び声を響かせて、アルゴールはその巨体からは想像もできないスピードで十六夜へと駆け、迫る。

 対して十六夜は動じない。静かに待つだけの十六夜にアルゴールの全体重を乗せた圧し掛かりが迫るも、十六夜は彼女の両手に自分の両手を合わして受け止める。

 ギリギリと音を立てて押し合いを開始する十六夜とアルゴール。拮抗している両者を見て、黒ウサギは驚愕に満ちた声を上げた。

 

 

「星霊と力比べをしている!? そんな馬鹿な……!」

 

 

 星霊の力を受けても崩れないどころか拮抗している。そのあり得ない所業に驚きを隠せなかった。

 同じように驚きを露わにするルイオスだが、自身達が名無し如きに攻めあぐねているという事実を思い出し、驚愕を苛立ちに変えて更に叫ぶ。

 

 

「押し潰せアルゴール!」

 

「LaaaaaAAAAAAAAA!!!」

 

 

 先ほどよりも更に中枢を狂わせる絶叫を叫ぶ。

 同時にアルゴールの体が瞬時に膨らみ、更に彼女の体を戒めていた拘束具のいくつかがその膨張に耐えられなくなりはじけ飛ぶ。膨張が止まる頃には彼女の体は全長二十尺以上の巨躯に変貌していた。

 増大した重量を受ける十六夜はしかし、苦悶の表情を浮かべるでもなく後ずさりもせず、ただただ笑うのみ。

 

 

「ハッ! いいぞいいぜいいなァオイ! 良い感じに盛り上がって来たぞォ!!」

 

 

 そして。

 

 ふわりと。

 アルゴールの巨体が宙に浮かぶ。その事実は、ルイオスやジン達が閉口することを忘れさせるほどに仰天に値するものだった。大きく倒立のように持ちあがったアルゴールを、十六夜は迷い無く力の限り地面へと振りおろす。

 刹那、鼓膜を震わす轟音が響き、星の悪魔が一人の人間によって捩じ伏せられた。

 

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!!??」

 

「はははははははッ!! どうしたってんだ元・魔王様! 今のはまさか本当の悲鳴って訳じゃあねェよな!? これくらいで音を上げてんじゃねェぞ!!」

 

 

 ともすれば狂っているとも取れる笑みを浮かべながら、十六夜は嬉々としてアルゴールの腹部を踏みつける。彼の足踏みにより発生した振動は宮殿全体を揺らし、闘技場全体に亀裂を迸らせる。

 獰猛な笑顔でアルゴールを攻め立てる十六夜の背後を、ハルパーを片手にルイオスが疾駆する。

 

 

「人間ごときが図に乗るな!」

 

「お前がな」

 

 

 ルイオスがハルパーを十六夜の首めがけて振るう。

 しかしそれすらも十六夜は口笛を吹きかねない気軽さで首を僅かにずらすことで回避する。

 余裕綽々の態度に苛立ったルイオスは更に斬りかかる。

 が、

 

 

(おせ)ぇよ」

 

 

 下半身を捻りその勢いで蹴り上げる。

 ルイオスは辛うじてハルパーの柄で受け止めるも、嘔吐感が込上げるほどに重たい一撃を受けて空へと弾き飛ばされた。

 空気を切り裂きながら第三宇宙速度で吹き飛ぶルイオスに、十六夜は涼しい顔をしながら一気に跳躍。一秒と掛からず一瞬にして追いついた。

 

 

「どうした? 羽があるってんのに不便そうだな?」

 

「貴様…………!」

 

「それじゃさぞ地面に降りるのに苦労するだろうな。どれ、俺が手を貸してやろうか?」

 

 

 どこまでも小馬鹿にしたような口に、ルイオスは怒り任せにハルパーを振るう。十六夜は迫る刃を難なく受け止め、力任せに地上に向かって投げ飛ばす。空気中で放り投げられたルイオスは、砲弾のようにアルゴールの腹部へと背中から叩きつけられる。

 

 

「ガッ!!?」

 

「GYa!!?」

 

 

 重なる二つの呻き声。

 後から楽々と着地する十六夜に、背中を打った影響からか、強く咳き込みながら覚束ない足取りで立ち上がったルイオスは狼狽して叫ぶ。

 

 

「き、貴様、本当に人間か!? 一体どんなギフトを宿している!」

 

 

 当然の疑問。〝星霊〟を力で圧倒し、ギリシア神話に登場する青年神ヘルメスの靴より速く駆ける人間がいるのであるから、彼が問いたくなるのは尤もである。

 十六夜は意外そうな表情を浮かべると、ゴソゴソと制服のポケットから『えっと……』などと呑気な声でギフトカードを取り出す。

 

 

「ん…………───ギフトネーム・〝正体不明(コード・アンノウン)〟。わりぃな。これだけじゃ何も分かんねえか」

 

「な……〝正体不明(コード・アンノウン)〟だとっ!? 全知の一端である〝ラプラスの紙片〟がそんな鑑定結果を出すはずが……そんな馬鹿なことがっ!!」

 

 

 そう、あり得ない。目の前で動揺するルイオスに、黒ウサギは内心で同意した。

 白夜叉にギフトカードをもらった日も、そのことで驚いたことをよく覚えている。まさしく全知であるはずのあのギフトが〝正体不明〟などといったエラーを起こすはずがない。

 ましてや十六夜は話に聞けば、なんでも蛇神を素手で圧倒したというではないか。強大なギフトを持っている確定しているはず。

 なのに。

 

 

(結果は〝正体不明〟……考えられる可能性は〝ラプラスの紙片〟が正常に作動しなかった。もしくは…………)

 

 

 ギフトを無効化(キャンセル)したか。

 そこまで考察して、黒ウサギはあり得ないと切り捨てた。修羅神仏の集うこの箱庭において、さして無効化の力を持つギフトなどは珍しくもない。しかし、それは単一の能力に特化した武装に限られた話である。

 

 だって、そう考えるならば逆廻十六夜は───。

 

 

「別にどうだっていいだろ? どんな形であれ、これが俺のギフトだ。別に俺のギフトネームが戦局に影響があるわけじゃないしな」

 

 

 十六夜の言葉に黒ウサギは現実に引き戻される。

 確かにそうだった。今はそのようなことに気を取られている場合ではない。自己決定した黒ウサギは、その疑問を頭の奥隅に追いやることにした。

 

 

「そんなことよりもう終わりかよ? 元・魔王様って言ってたから結構期待してたんだがな」

 

「…………ッ!!!」

 

 

 わざとらしい十六夜の挑発に、ルイオスの表情がかつてないまでに歪む。

 その顔に危機感を感じたジンが慌てて叫んだ。

 

 

「ちょ、挑発は止めて今のウチにトドメを! 石化のギフトを使わせてはダメです!」 

 

 

 星霊アルゴールの真髄は、身体能力とは別のところにある。

 世界そのものを石化させる強大な呪いの光こそ、彼女を魔王たらしめる根幹の力なのだ。

 

 ジンの嫌な予感は的中した。

 今まで苦痛に歪んでいたルイオスの顔が突如無表情に変わり、極めつけには凶悪な笑みへと変貌する。

 

 

「…………もういい。全てを終わらせてやる。……アルゴールッ!!」

 

「───LAAAAAAAAAA!!!」

 

 

 ルイオスの言葉で、アルゴールが勢いよく立ちあがる。

 不協和音を響かせるアルゴールの叫びを聞きながら、ルイオスは更に笑みを深めて彼女に命を下す。

 

 

「奴に想像を絶する苦しみを…………永遠の牢獄に叩き落とせ!!!」

 

 

 号令と共に、魔王が石化のギフトを解放する。

 再度世界に響く謳う様な不協和音。それと共に発光する褐色の光こそ、天地に至る全てを光で包み、灰色の惑星へと変える星霊の力。

 星を背負う大悪魔から発せられる光が迫る中十六夜は、真正面からソレを瞳で捉え───

 

 

「───カッ。ゲームマスターが、今さら狡い事してんじゃねえ!!!」

 

 

 怒号と共に、その光を()()()()()

 

 比喩にあらず。踏み潰した光はまるで硝子細工のように砕け散り、影も形もなく吹き飛ばされた。

 

 

「ばっ、馬鹿な!?」

 

「星霊のギフトを無効化した…………!?」

 

「あり得ません! 天地を砕く〝恩恵(ギフト)〟と、恩恵を砕く〝恩恵(ギフト)〟が両立するなんて!?」

 

 

 これこそが黒ウサギが『あり得ない』と切り捨てた理由。相反する二つのギフトは、本来同一の魂に備わるはずのないものである。しかし十六夜にはそれがある。無効化のギフトという、本来武具と言う形でしかなり得ない物と、神格を持った蛇神を叩きのめす身体能力を持ったギフトという二つの力を持った魂が。

 

 

「さあ、もっとやろうぜゲームマスター。まだまだ〝星霊〟の力ってのはこんなもんじゃないはずだ。…………それとも何かい? アンタはまだその〝星霊〟を扱えきれないからもう闘えませ~ん、なんて泣きごとをいうわけじゃねえよな?」

 

「───ッ!」

 

 

 適当に十六夜が挑発して見れば、ルイオスの表情が驚愕から先ほどの苦痛と悔しさに満ちた表情に早変わりする。

 これ以上侮辱されることに耐えることができないルイオスは、その自信に満ちた面を引っぺがそうとさらなる手札を切る。

 

 

「……いいだろう。そこまで死にたいんだったらお望み通りそうしてやるよ───アルゴォォォォォォォォルッ!!」

 

「Raaaaaa!! LaaaAAA!!」

 

 

 もはや幾度目かになる不快な叫びが大気を震わす。途端に白亜の宮殿が漆黒の色に染まり、壁が生き物のように脈打ち出した。宮殿一帯に広まった黒い染みから、次々と蛇の形をした怪物が這い出てくる。それらは蛇の形を模した物、(さそり)の形を模した物と形は様々だ。

 見るもおぞましい怪物が産声を上げる様を見て、十六夜は感心したように呟いた。

 

 

「ああ、そういえばゴーゴンは様々な悪魔を生み出したって伝承もあったっけかな」

 

 

 ゴーゴンには様々な魔獣を生み出した伝説がある。

 そもそも〝星霊〟とはギフトを与える側の種でもあるのだ。今やアルゴールによって与えられたギフトによって、宮殿そのものが魔物と化している。

 

 

「もう生きて帰さないッ! 貴様の敵はアルゴールとその力によって生まれた新たな怪物! もはや貴様には足場一つ残されていない! 逃げ場のない地獄の中でこの僕に楯ついたことを永遠に後悔しながら死んでいけェッ!!!」

 

 

 地獄の釜から解き放たれた魔物たちが、ルイオスの号令によって群れを成す。

 まるで津波のような軍団と化した魔物たちが、少年の体を八つ裂きにしようと各々の牙を、爪を剥き出しにして駆けだしていく。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 突如。

 何の前触れもなく轟音が炸裂する。

 同時に十六夜と魔物たちを丁度遮る位置にあった床を破壊しながら、極大の火柱が天に向かって立ち昇る。

 突然の出来事にルイオスは目を剥き、黒ウサギ達は困惑し、魔獣達は混乱し、十六夜は笑った。だが事態は彼らを待たない。

 突如出現した火柱は即座にその姿を変えていき、ある生物を模したような姿に変わった。

 その生物を模した炎は、まるで本当に生きているかのように吼える。

 

 

 

 

 

 

 ────────GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!!!!

 

 

 

 十六夜を背に吼えるその生物──────竜を模した炎の叫びに恐れ慄き、蛇蝎たちは進軍する脚を止めてしまう。

 圧倒的な威圧の前に震えあがる魔物たちを竜が睨む。その炎竜は一対の炎翼を羽ばたかせると同時に、慈悲もなく牙を剥く。

 炎翼を羽ばたかせた巨大な怪物が魔物たちに向かって飛翔し、その大口を開けて蛇蝎を呑みこみ、翼で悉く焼き払う。数秒と経たずに辺り一面が火の海と化した。

 

 

「なっ……なんなんだよ一体! 今度は一体なんだってんだよぉ!?」

 

 

 目に見えて狼狽するルイオス。対照的に、十六夜はまるでこうなることが分かっていたかのように笑っていた。

 そして呟く。

 

 

「やっぱ来やがったか」

 

 

 呟きに応じるように、変化が起こる。

 蛇蝎たちを一瞬にして殲滅せしめた炎竜は、その役目を終えたとばかりに勢いを失くし、その形を崩していく。

 その炎の中から、その炎の担い手が姿を現わす。

 竜の中から飛び出した少年は力強い音を響かせて両の足で着地する。

 

 その者は、薄い袖なしの黒いベストを着ていた。

 その者は、鱗のようなマフラーをしていた。

 その者は、桜色に染まった髪をしていた。

 その者は、右肩に妖精を象った紋章を刻んでいた。

 その者は、炎を扱う竜の魔導士だった。

 

 その者の名を、ジンはよく知っている。

 その者のが、一体どういう人物なのかを知っている。

 故に、ジンはこみ上げてくる安堵と歓喜のまま、その者の背中に向けて叫ぶ。

 

 

「ナツさん!!」

 

 

 竜を倒すために、竜と同じ力を手に入れた滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)

 

 ナツ・ドラグニルが牙を剥く。




やっぱり坊ちゃんはどの作品でも酷い目に遭う運命なのだ…………。
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