火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ? 作:shoshohei
すいませんマジで言い訳のしようもないです。ただ単に話を見返していて『これだけはやりたい!』と前々から思っていた奴をどうやってかっこよくできるかなー、って考えていたんですけどやっぱ俺には無理やったんやって勝手に絶望してて、ついでに用事とかでこんなに遅くなってしまいました……やっぱ小説って難しい。
本当はこの話でペルセウス戦(第一章じゃないですよ?)は終わるはずだったんですけど、なんか予想以上に長くなってしまいました……私ってホントばk(ry
そんなこんなでいつもの低クオリティですが、楽しんで頂けたら幸いです! ……批判も甘んじて受けます……(ガクガクぶるぶる
それではどうぞ!
階段を踏みつける音が宮殿内に響く。
白亜の宮殿内部の階段を、久遠飛鳥と春日部耀、そしてハッピーの少女と猫は駆け上がっていた。
事前に決めていた大方の作戦の役目を終えた彼女たちが今さら宮殿内を走る必要性など、本来であればどこにもないのであるが、彼女たちにはどうしても走らざるを得ない理由があった。
突然体中から文字通り火を吹いて激昂し、そして駆けだしていったナツ・ドラグニル。
彼女たちが現在駆けている理由が、彼の追跡だった。
彼が怒り出した理由は、彼が直に発言していたことや隣で〝翼〟を用いて飛翔しているハッピーに心当たりがないかどうか訊いてみて見当はつく。尤も、ナツが目指す場所など一つしか考えられないのであるが。
別にそれだけであればなんら問題はないのであるが、彼の性格を推察するに怒りのままにギフトゲームのルールさえ無視してゲームマスターであるルイオスにさえ殴りかかりかねない。そうなれば〝ノーネーム〟はルール違反で問答無用で失格。レティシアを取り戻すことはできなくなってしまう。
それだけは阻止しなくてはならない。だから彼女たちはそれを阻止するために全速力で走る。
ハッピー曰く、そういうことに関しては彼は意外と考えているから心配はいらないとのことであるが、何事にも『もしも』という可能性はある。普段馬鹿っぽそうに大笑いしているあの少年ならば尚更だ。故に、その最悪の事態を起こさぬようこうして走っているのである。頭によぎるビジョンが現実のものとならないように祈り、焦燥感を滲みだしながら少女たちが駆けていく。
その時、
────────GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!!!
獣のような咆哮が響き渡る。全身を押さえつけられたかのような重圧感を感じさせる叫びに、思わず足を止める飛鳥達。ほどなくして、何かが壊れるような破壊音が鼓膜を叩いた。
「今の音……」
「あい、きっとナツだよ! この近くからナツのすごい魔力を感じる!」
「急ぎましょう」
一抹の不安を胸に抱えながら、焦る想いを抑えて必死に最上階へと続く道を駆けあがっていく。息を乱しながら階段を駆ければ、前方には階段の終わりを示す出口が見えた。最後とばかりに彼女たちは全速力で階段を駆け抜ける。
駆け抜けた先に見えた最奥部は、他の部屋とは違って天井がない闘技場のような造りだった。
闘技場に辿りついた彼女たちは乱れた息を整えながら、件の少年と他の仲間達の姿を探すべくして辺りを見回す。闘技場の床の所々に焦げ目の様な痕が見られることから、明らかに何かしらの熱を持った力がここで暴れ回ったことが推察できる。そして熱を持った力を持った者など、メンバーの中では一人しかいない。
もしや頭の中に浮かべていた『もしも』が現実になってしまったのか。飛鳥たちの胸に言い知れぬ不安が去来する。
その時、
「飛鳥、ハッピー! あそこ!」
珍しく声を大きく上げる耀に反応して、振り返る。
するとそこには、まるで隕石が衝突しましたとでも言えばそれで納得してしまえそうな大穴の傍に気だるそうに立つ十六夜を背にしながら、目の前のルイオスと、ニ十尺は超えているであろう巨躯を持った怪物を睨め付けているナツの姿が。恐らくはあの怪物が黒ウサギが言っていた元・魔王なのだろう。
「…………どうやら、まだゲームは問題なく進行しているみたいね」
「〝契約書類〟が決着の宣言をしていないからね。何か変化があったら出てくるはずだから、それが出てこないってことは───」
「あい、やっぱりナツは覚えてたんだよ! 単純に見えて意外と考えてるからね!」
ハッピーの嬉々とした声を聞きながら、飛鳥と耀は胸を撫で下ろす。
確かに彼の言う通りで、先ほどの爆音と闘技場の所々の焼け跡から察するにナツが暴れたことは明白である。加えてナツ・ドラグニルという直情型な人間の典型例とも言える人格を考えると、十中八九ここに来た時点でルイオスに殴りかかっていなければ彼らしくもない。だというのに現在何の滞りもなくゲームが進行しているということは、つまるところナツがルールのことを考えて行動していたという結論が出されるのが当然だった。
ナツの意外なしっかりとした一面を認識して、少しホッとしたような、驚いているような複雑な表情を飛鳥達は浮かべた。
「こう言っては何だけど……彼、ちゃんとルールを覚えてたのね。ちょっと意外だわ」
「……私もてっきり、あれだけ怒ってたらルールを忘れてたかと思った。人は見かけによらないってことかもしれない」
「あい! ナツは自分にとって大事なこと以外はまるっきり頭を使わない凄い魔導士なのです!」
「それって貶してるの? それとも自慢したいの?」
凄いのか凄くないのか分からない炎の魔導士に少しばかり呆れて、飛鳥は乱れた呼吸を整える意味も込めて軽く一息。
とにもかくにも、考え得る最悪の未来を回避できたことに安堵する飛鳥達。懸念が杞憂に終わったことによってどっと疲れが襲ってきたのか、身体能力は人並みの飛鳥は二人よりも体力が低いがために、今まで蓄積した疲れを吐きだすようにに大きく肩を落とす。
そこで、
「皆さん!」
背中に弾んだような声がかかる。
振り返れば、黒ウサギとジンが駆け寄ってきていた。外傷が見当たらないところや元気な姿を見るにどうやら彼らは無事らしい。
笑顔で近寄る彼女たちの姿を確認すると、飛鳥達も安心したように笑みを返す。
「黒ウサギ」
「全員ご無事だったんですね!」
「貴女達も。大した怪我はないようで安心したわ」
「はい、なんとか。闘っていたのは十六夜さんだけでしたから、僕たちは何も。…………でも」
「でも?」
言い辛そうに口籠るジン。煮え切らない彼の態度を怪訝に思ったハッピーが問う。
彼は幾許か逡巡した後、たどたどしく口を開いた。
「いえ、大したことではないんですが……その、皆さんはどうやって石化の光から助かったんですか?」
ジンが何気なく首を傾げて正直な気持ちを口に出す。
彼の疑問は至極当然の物と言えた。ジンは十六夜を除いたメンバーの中で、彼のようにギフトを無効化するギフトを持っているような者がいるとは聞いていない。十六夜のことでさえも先ほど知ったばかりだ。
尤も、十六夜の場合は〝正体不明〟としか分からなかったので知りようがなかったのだが、飛鳥達の場合は彼女たちのギフトはどんなものかは大体想像ができていた。その効果も大体は把握している。
だからこそ分からない。
なぜ石にもならずにここにこうしていられるのかを。アルゴールと同じ星霊でもないのに、こうして息ができているのかを。
不思議そうに問うジン。
その隣で同じように考える素振りを見せる黒ウサギ。だが彼女は突然、何かを閃いたようにハッとした表情を浮かべて自失気味に呟いた。
「……まさか、ナツさんが?」
「え?」
「ナツさんが、石化のギフトを防いだんですか?」
本来であればあり得ないことを口走る。
元・魔王であるアルゴールの力は絶大である。それこそ、世界そのものを石化できるほどに。かの魔王に対抗するならば十六夜のようにギフトを無効化するか、もしくはそれと同等かそれ以上の力を持ってして相殺するしか術はない。
彼女たちの実力と種族を考えれば、どう見ても人間の彼女たちが星を背負う悪魔の力を相殺する術を持ち合わせているわけがない。ましてや普通の炎であの光を防げるわけでもない。
だが彼女は知っている。
この世界に呼び寄せた当日、かの星霊と比肩する力を持った同じ星霊の炎を喰らって力を得、あと一歩のところまで追いつめた者の存在を。その者が彼女たちと一緒にいたことを。彼ならば万に一つはその可能性があるのかもしれないことを。
何とも得体のしれない確信を持った黒ウサギの問いかけに若干驚きつつも、飛鳥達は彼女の質問に応じた。
「……よく、分かったわね」
「……いえ、自分でも信じられません。もしかしたらと思っただけですので。……ですが、本当にナツさんが?」
「あい。光を炎で殴って砕いたんだ」
「な、なんて無茶苦茶な…………いえ、白夜叉様の炎を喰らったり、炎を焼いたりできるのですからもしかしたら可能なのかもしれませんね」
「私たちもちょっとそう思う」
「な、納得しちゃうんですね」
言いながらも、ジンも不思議と納得できてしまっていた。それが彼だからと言われてしまえば、そう納得できてしまう様な不思議な『何か』をナツは持っていることを、なんとなくジンも感じていたのだ。
「…………でも」
ジンは視線を闘技場の中央へと向ける。
大穴の傍に立つナツ達を視界に収めて、不可解だとばかりに眉を顰める。
彼の姿形が変わったわけでもないのに、なんとなく目つきがいつもより鋭くて、彼の周囲の空気が先ほどとの違和を感じさせるものがあったから。
「……ナツさんに何かあったんですか? 先ほどとは雰囲気が違うように見えますが……」
「YES。何だか怒っているようにも見えます」
「あい、物凄く怒ってるよ。間違いなく」
でもね、と。
ハッピーは一度言葉を区切る。皆が彼へと振り返る。
皆の視線を一心に受けてている青い猫は、少し誇らしげに僅かに胸を張って告げる。
「今のナツを倒すには、相当骨が折れるよ」
彼の言葉は決して誇張などではないと、なんとなしにそう確信できるような『何か』があった。
☆ ★ ☆ ★
「……ったく、無駄に派手な仕方で登場しやがって。ダイナミックな映画俳優かってんだ」
逆廻十六夜は不満げに呟いた。鋭い目付きで目の前の桜髪の少年を見る。その瞳にはいつもの傲岸不遜な光はなく、年相応な少年の少し不貞腐れたような色が見てとれた。普段の彼からはあまり見られないものである。
しかし彼にしてみればそれも致し方のないことで、これからアルゴールとの闘いが更にヒートアップしていこうだったというところをアクション映画並みのド派手な演出をしながら現れて、それでからその楽しみを一瞬にして掻っ攫われた身としてはまさしく漁夫の利をされたような心持であるので、どうにもいい気持ちというものにはなれない。
不機嫌度がこの上なく高まった十六夜は、その元凶たる少年の背中に言葉を投げかけた。
「オイコラ、そこの桜髪野郎。何他人様の楽しみを邪魔してくれてんだコラ。こちとら少しがっかりさせられてたところでようやく隠し玉が来てテンションが上がってきたところだったのによ。ベストタイミングで邪魔しやがって」
喰ってかかるように言葉を掛ける十六夜。
だがナツはアルゴールの方角を睨み付けるだけで、返事はおろか目線を寄こすことさえしない。邪険に扱われていると感じた十六夜は、少しだけ苛立ちを覚えた。だがそこで爆発させてしまえばなんとなしに大人げないと感じたので、その苛立ちを自尊心で抑え込み、紛らわす意味も込めて思ったことを訊いてみた。
「無視かよおい……まあいいけどよ、つかお前ら一体どうやってあの光を防いだんだ? まさかそのご自慢の炎で焼いたなんてオチじゃ───」
十六夜が言いかけた、その時だった。
「────なんで」
風が吹いていれば、それに掻き消されてしまいそうな声だった。
まさしく蚊の鳴くようなとでもいう表現が相応しい呟きの発生源に目線を向ければ、そこには心中の動揺を隠すこともせずに茫然とした姿を晒すルイオスの姿が。彼は目の前の光景が信じられないとでも言うように唇を震わして、自身の裡の感情を爆発させるように叫ぶ。
「なんで…………どうしてお前らは石になってないんだよっ!? アルゴールは星霊だぞ!? 元とはいえ魔王なんだぞ!? コイツのギフトから逃れるなんて手があるわけがないのに、一体どうやったんだよ! そこの金髪と言いお前と言い、たかが名無し程度にどうしてこうも僕が手玉に取られるんだ…………!?」
あり得ない。その言葉だけがルイオスの中で蠢く。
アルゴールの根幹とも言うべき石化のギフトを目の前で十六夜に打ち破られ、更には石に変えたと思っていたナツ達はこうして目の前でのうのうと手足を動かし、呼吸を行い続けている。彼が行ってきた秘策全てがナツ達の前で悉く裏目に出る。そのことがルイオスの感情を乱すことに拍車を掛けていた。
恥も外聞もなく、大人げなく喚き散らすルイオスの叫びが闘技場に木霊する。聞きたくもない彼の心情を聞かされた十六夜は、心底つまらないとばかりに小指を耳に入れて気を紛らわす。
その時、
「ンなことはどうだっていいんだよ」
吐き捨てるような言葉が静寂を引き裂いた。
静かで、それでいて体の底に響くような低く力強い声音に思わずルイオスは言葉を呑みこみ、びくりと肩を震わせた。彼は恐る恐る、声の主であろう少年───ナツへと眼球を動かして、背筋に嫌な汗を流しながら姿を見つめるて、ゆっくりと唇を動かした。
「…………なんて、言った?」
「どうでもいいって言ったんだ。オメェが分かんねえことがあるなんざどうでもいい。そんなことより、オレはお前に聞きてぇことがあるんだからョ」
「……き、聞きたいこと?」
ルイオスが唾を呑みこんで問う。
ナツは一瞬だけアルゴールに視線を移し、ルイオスに戻すと口を開く。
「……そこにいるもじゃもじゃの髪した元・魔王。ソイツがここらへんを石にしたのか?」
「……そうだけど?」
「じゃあそうするようにやれって命令したのはオメェなのか?」
「当たり前だろ」
「なんで?」
「……は?」
「オレ達以外にも、他にお前の仲間達が中にいることは知ってんだろ? なのに、お前はなんで仲間も一緒に石に変えようとしたんだよ」
これが、一番ナツが訊きたかったこと。
ナツ達が攻めてくることはゲーム上必然。しかしナツ達と闘った〝ペルセウス〟の騎士たちは果たして自分たち諸共石に変えられるということは知っていたのだろうか。自分たちが犠牲になるつもりで、ナツ達と闘ったのだろうか。ソレを了解した上で、ルイオスは世界を石に変えることを選んだのだろうか。
そこが一番知りたかった。その疑問が先ほどから消えなかった。
純粋に疑問に思っている者の声音で問いかけられたルイオスは、本当になんてことのないような表情と声で質問に答えた。
「…………なんでって、そりゃあアイツらが役立たずだからだろ? お前達をここへこさせた時点で無能確定。敵を足止めもできない奴らに価値なんてほとんどない。そこいらの石ころより少し使えるぐらいしか使い道のない道具なんだよ。『仲間』なんてそんなお涙頂戴の恥ずかしいものじゃない。言わば僕を守る兵士たち。王の為に兵士たちが命を投げ捨てるのは当然さ。だからそれを使い捨てようが石にしようが僕の勝手───」
「ふざけんな」
遮るように、轟音が炸裂する。
その音は、ナツがボロボロになった足場を踏み砕いた音だった。ルイオスの言葉の羅列に耐えかねた彼が、苛立ち交じりに発生させた音だった。
あまりにも突拍子がない行動に、飛鳥や耀達、果てはあの十六夜までもが僅かに目を見開いて驚愕していた。それでも構わずナツは言葉を紡ぐ。
「そうじゃねえだろ。そんな簡単に切り捨てて良いもんじゃねえだろ」
「……な、なにを────」
「なんでお前はそうなんだよ。なんでお前が、アイツらの想いを一番受け取んなくちゃいけないお前が、アイツらを道具みたいに扱ってんだよ」
狼狽するルイオスの言葉も撥ね退けて、ナツは自分の思った通りの言葉を連ねる、連ね続ける。
ただ、『仲間』の意味を履き違えて欲しくないから。
「仲間ってのはそうじゃねえよ。ただ手を貸してやるだけでも、手を貸され続けるわけでもねえ。
ナツの双眸がルイオスの目を捉える。
その瞳に、御し切れぬほどの燃え盛る感情が宿る。
そして、口を開く。
「仲間だろーが!!!」
メラリと。
ナツの体から火が立ち昇る。
彼の両眼から発せられた鋭い眼光が、ルイオスを射抜く。無意識的に一歩下がる。
今まで抱いていた『名無し程度』という侮蔑に塗れた差別観念も忘れて、ただ目の前の存在から遠ざかろうとする意識が芽生えてしまう。ルイオスの中で、とある疑問にも似た感情が湧き起こる。
どうしてここまで、彼の目を見るだけで、彼の後ろにいるかのように
気付けばルイオスは、訳の分からない感覚に支配されていた。
(……なんなんだ、なんなんだよこのコミュニティは! たかが名無しにどうして僕がこんな気持ちになる!? アイツらはこの箱庭で名も旗もない最底辺だ、力も何もない吹けば飛ぶ紙くずと一緒の存在だろ!? しかもアイツはゲームのルールで僕へ手出しできないはずなのに…………なんでここまで気持ち悪い感覚が止まんないんだよ、クソがッ!)
彼はその感情を認めない。
存在は知っている、名前も知っている。だが、彼のプライドがそれと今の感情が同一のものであると認めることを恐れている。そうなってしまえば彼の誇りは、叩けば割れる硝子のように砕け散ってしまうから。
だからこそ、認めない。
「……認めて堪るかってんだよォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」
癇癪を起した様に叫ぶ。
無理やりにその感情を己の中から排斥する。
得体のしれないものを振り払うようにハルパーを振るい、その感情の元凶とも言える存在を全力で排除するために叫ぶ。
「アルゴールッ!!! アイツの……あの桜髪のガキを黙らせろォォッ!!!!」
「Raaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!!!」
幾度目かになる不協和音が、灰色の世界を揺らす。
謳う様な叫び声を上げた星霊の悪魔は、血走った眼でナツ達に狙いを定め、背中に生える灰色の双翼を勢いよく広げる。
「ハッ、アレだけ痛めつけてもまだやれるってか。さすがは元・魔王様、根性入ってんじゃねえか。それじゃ早速──────」
「手ぇ出すな」
目の前に出た、マフラーを巻いた背中。
邪魔をされる形で進めていた脚を止めた十六夜は、僅かに目を細めてその背中に問いかけた。
「…………今、なんか言ったか?」
「手ぇ出すなっつったんだ。聞こえなかったのか?」
「オイオイ、俺はあんまり笑えねェジョークは好きじゃねえんで止めてくんねえかねクソ炎くん。つーわけでそこ退けよ」
「冗談じゃねえ。本気で言ってるに決まってんだろ」
冷静な口調で尚も前を見続けながら告げるナツ。その姿にほんの少しだけ苛立つ十六夜。
二人が口論している間にも、闘いの幕は上がっていく。
唸り声を上げ、腰を屈めるアルゴール。背に生える灰翼を一層大きく広げる。彼女は準備万端だ。
それでも二人は一歩も下がる姿勢を見せない。二人に取って、ことはアルゴールのことよりも重要だ。
「いい加減にしろよ。こちとら魔王会いたさに異世界から来てんだ。お前の出る幕じゃねえんだよ。出しゃばってくんな。それに例えテメェが白夜叉相手に善戦してようが、この魔王もそれみたいに闘えるとは限らねえだろ」
「誰基準で物事語ってんだ。勝手に人様の実力判断して、テメェ一人で何でもできると思ってんじゃねえよ。何様だってんだ」
二人が言い合いをしていようが、アルゴールには関係がない。
耳障りな叫びを響かせて、足に力を込める。ナツ達に向かうのも時間の問題だ。
闘いの幕開けを告げるカウントダウンが刻一刻と迫る中、アルゴールの方角へと体を向けながら、初めてナツは十六夜へと目を向けた。
「さっき言っただろうが。それじゃ仲間じゃねえんだ。お前一人に闘わせてたら、オレ達がここにいる意味がなくなっちまう」
「…………、」
「お前は確かに強ぇ。でもそれで? それがオレ達がお前の背中に隠れてなきゃいけねぇ理由になんのか? お前は一体、どこで何と闘ってんだ。オレ達はお前にとって何なんだ。お前の中で単純に分かるほど、オレ達はそんなに
まっすぐと。
ただ思うがままに告げられた言葉を、十六夜は黙って聞いていた。彼の言葉に何か思うことがあったのか、十六夜は静かに目を瞑る。幾許かの逡巡を繰り返す。
そして、
「…………ハァ」
疲れたように息を吐いた。
今までのナツとは打って変わった真摯な態度を見て、十六夜は調子を狂わされたように後頭部を片手でガシガシと掻きむしる。次いで仕方がないと言わんばかりに肩を竦め、もう一度ため息をつく。
「分かったよ。……ただし、絶対に負けんじゃねえぞ。もしも苦戦してるようなことがあったら、グダグダしてるお前に代わって俺がアイツを貰っていくからな」
「へっ、別にいいぜ、やってみせろよ。ただしお前が手を出す暇もねぇくらい速く倒しちまうけどな」
軽口を叩き合いながら、お互いが挑発的な笑みを浮かべる。憎まれ口を叩いていても、そこには険悪な雰囲気は微塵も感じられなかった。両者は合意の意味も込めて、右腕を突き出しゴン、とぶつけ合うと少しばかり嬉しそうに笑い合う。
その時だった。
「Raaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!!!」
少しだけ緩和した二人の雰囲気を引き裂くように、言語中枢を狂わせる不協和音が響く。
痺れを切らしたアルゴールは叫び、傷だらけの灰翼を広げて上昇する。叫びによって咄嗟に意識をアルゴールへと向けたナツは、バサリバサリと音を響かせながら宙に舞って、血走った眼でこちらに狙いを定めるアルゴールを視界に捉える。
「まあそんなわけだ。お前はそこらで色目野郎と遊んでろ」
「へいへい。そんじゃまあ、ちゃっちゃと終わらせてくれや。どうせ俺のは本気だしたらすぐ終わっちまうから、せいぜい遊びながら観戦させてもらうぜ」
背中を向けながら言葉を発するナツに、十六夜は彼とは正反対の方角にヒラヒラと手を振りながらのんびりと歩いている。まるで今の状況が、さほど驚異的ではないとでも言うように。彼がその程度ではやられないと分かっているように。
そんな二人のやり取りもお構いなしに、灰翼を一層大きく広げたアルゴールは、まずはナツを潰そうと彼へと狙いを定め、急降下を開始する。巨躯からは想像もつかない速度で目の前へと迫った彼女は、両手を重ねて鈍器のように振り上げる。
それを見てもナツは動かない。ただ彼女を睨み付けるだけで、指一本動かそうとしない。
それを好機と見たアルゴールは、両手を重ねて作りあげた鈍器を振り上げ、容赦なく彼へと振り下ろす。純粋な力だけで轟音を発生させ、人体を一瞬にして人肉のミンチに変貌させるほどの凶器が、少年の目と鼻の先まで迫る。
そし激突。
何の防御の構えも取らなかった少年は、頭部から星を背負う大悪魔の一撃をまともに受けた。周囲に鈍い音と僅かな振動が発生する。ボロボロだった闘技場の瓦礫がパラリと堕ちる。誰がどう見ても直撃だった。
ナツがアルゴールの攻撃を喰らった瞬間を目の当たりにしたルイオスは、今頃拳の下で血肉の塊と化しているナツの姿を想像してほくそ笑む。
だが、
「
声が聞こえる。
その声に、ルイオスの笑みが凍りつく。同時に、状況に変化が訪れる。
不格好な固まった笑みのまま、ルイオス=ペルセウスはまるで壊れたブリキ人形のような鈍い動きのままギギギ…………、とアルゴールの方角へと顔を向ける。
見れば、彼女の体は震えていた。
いや、その表現は正しくない。正確には、彼女の両手が震えていた。二つの手を合わせて作った強大な武器が。
震えて、徐々に徐々に上へと持ち上がっていた。
否、より正確に言えば
片腕一本で。
少年の腕一本で。
「お前、本当に星霊なのか? どっかの
姿を晒す。
星霊の一撃を片腕一本で受け止めたナツ・ドラグニルは、苦悶を感じさせない表情で逆の手で拳を作る。その拳に静かに、それでいて猛々しい炎が灯る。アルゴールの拳を易々と受け止めながらナツは、竜炎を宿した左の拳を振るう。少年の拳が彼女の鳩尾を捉える。
瞬間。
アルゴールの巨躯は、音を破裂させるほどの速度……所謂第三宇宙速度を持ってして壁際まで吹き飛ばされた。ナツの拳は、周囲に僅かな閃光と閃熱を撒き散らしながらたったの一撃で星霊を殴り飛ばしたのだ。
「GYa…………!?」
アルゴールの呻き声は、叩きつけられた際に発生した轟音に掻き消される。背中から叩きつけられた彼女は、苦悶に満ちた顔で崩れ落ちるように地面に膝をつく。本来であればあり得ない光景を目の当たりにしたルイオスが、ジンが、飛鳥が、ハッピーが、様々な者たちが同様に驚愕で顔面を染め上げていた。
無論黒ウサギも同じく、口を僅かに開きながら目の前の光景に見入っていた。しかし、彼女が驚いている理由は他の者たちとは少しばかり違うが。
「今の炎は…………!」
黒ウサギの表情が、ただただ驚愕に染まる。
それはナツの今の所業に対して
(あの熱、あの形、まさかアレは…………!)
星霊に対してあれだけ圧倒する十六夜もあり得ない。同じく白夜叉と互角の闘いを演じ、アルゴールを捩じ伏せるナツも十分あり得ない。
だがそれよりもあり得ないことがあった。ただ単純に力の云々ではなく、この箱庭世界においてもあり得ないと誰もが驚愕できるであろうことが。それを彼女は知ってしまった。
だからこそ黒ウサギは信じられない。信じることができない。
あり得ない、あり得ないと己の中で言葉を反芻しながらも、黒ウサギはその心中を吐露するように、誰にも聞こえないような声音で無意識的にポツリと漏らした
「どうしてナツさんが……
次回で絶対に坊ちゃんとアルゴールをブッ飛ばす予定なんや!!(フラグ
……いえ、マジで次回で闘いは終える予定ですはい。次回はもしかしたら速く更新できるかもしれません(てかやらなきゃ皆様に面目が……