火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ?   作:shoshohei

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遅れてしまい誠に申し訳ありません!!
速めに更新するとか言っといて全然速くならなかった…………!
私の遅筆ぶりはもういろんな意味でダメダメですね…………orz。

そんなこんなで見苦しい言い訳はここまでにして、相変わらずの低クオリティですが楽しんで頂けると幸いです!
くそっ、やっぱり他の皆さんみたいにかっこよく描けないぜ…………!!!


ナツ VS アルゴール

 一つ、重要な話をしておこう。

 これはナツ・ドラグニルという少年にとって、とても大事な話になるはずだから。

 

 事の起こりは丁度今から一週間前……より詳細に示すと、ナツと白夜叉の決闘があった日まで遡る。

 決闘の最中に白夜叉の炎を喰らって半身を竜と化したナツは、闘っている最中に全身から夥しい量の血を吹きだして倒れた。これは吸収した彼女の全力の炎を魔力へと変換する際に、あまりの膨大すぎる魔力の膨張に制御が追い付かず、結果自身の体を傷つけてしまったのだ。本来であれば強大な力に耐えきれず存在自体が自壊していたものを、血を吐いて昏倒しただけに押さえたのは幸運と言うべきか。はたまた彼の頑丈さを称えるべきか。

 

 兎にも角にも、見るからに痛々しい重体の彼に対して治療を引きうけた白夜叉は、ナツの命を救うためにある療法を取った。というのも、それを療法と呼んでいいのかさえも曖昧な方法であるのだが。

 

 彼女はナツの体内で暴走している自身の炎を、彼の滅竜魔法の炎と調和できるように調整を施す、という方法で治療を開始した。諸事情により滅竜魔法が持つ特性を知っていた彼女は『同じ属性のものを吸収し、術者を回復・強化する』という特性を逆手に取ったのだ。

 吸収されたとはいえ、元々は彼女の力である。勢いを弱め、制御することは辛うじて可能だった。また融合の際は拒絶反応が起こる懸念があったが、違う属性である〝雷〟を宿して行使していたのだから、〝星〟と〝竜〟という存在は違いながらも同じ属性である炎を融合できない理由は見当たらなかった。本来(・・)の彼女ならばまた別かもしれないが。

 

 結果的に彼女の行いにより、ナツの魔法の炎と白夜叉の炎はどうにか融合を果たして、彼の体力を急激に回復させ、一命を取り留めることに成功した。本来であれば全治三週間はくだらない怪我を負っていながら元気に常人と変わらず動きまわれたのも、一重にこの処方に起因する。

 炎が完全に融合するまでに時間がかかったものの、それだけの回復力を生み出すだけの力を白夜叉の炎は有していたのだ。

 

 さて、これらのことから変じたナツの炎の変化は、主に二つに分けられる。

 一つ。ナツの滅竜魔法には、現在白夜叉の力である太陽の炎が融合している。

 二つ。今のナツは太陽の属性を宿し、白夜叉の力を一部的に吸収している。これにより今まで以上の力を引きだされている。

 

 これらの変化を、ナツは無意識的に何故起こったのかを理解していた。尤も、彼は『白夜叉の炎を喰ったときに似ている』という曖昧な感覚でしか知覚していないのだが。どんな形であれ、ナツが何か別の力を得たことを自覚していたのは確かだった。

 

 

 色々と述べたが、簡潔に示すとなればこうなるだろう。

 

 時間を経て炎が完全な融合を果たした今のナツ・ドラグニルには、星と竜の二つの炎が宿っている。

 故に彼の炎は、以前を遥かに凌駕した破壊性を発揮する、と。

 

 

 

        ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

 白亜の宮殿の全体が揺れる。

 同時に爆音が響く。

 今も宮殿を震わせているそれらは、激突を繰り返す化け物たちによるものだった。

 その化け物たちの闘いは、体躯は見比べるまでもなく違うというのに驚くべきことに拮抗していた。小さい怪物と大きい怪物たちの戦力は、全くの互角だったのだ。

 

 いや、違う。そうではない。その表現には語弊があった。

 正しく言い直すのであれば、戦闘の状況は百人が見れば百人が口をそろえてこういうであろう。

 

 片方の圧倒的な優勢であると。

 小さき怪物の側に、大きく戦局が傾いていると。

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 小さき怪物は、腹の底から叫び、炎を灯した右拳を振るう。灼熱の一撃はアルゴールの顔面へと吸い込まれるように突き刺さり、そのまま体ごと軽々と殴り飛ばした。

 

 

「GYa…………!?」

 

 

 小さな悲鳴を上げながら、冗談のようにアルゴールの巨躯が闘技場の足場に二度、三度とバウンドしながら強打される。

 ナツは攻撃の手を緩めない。ようやくバウンドを止め、地面に転がるアルゴールに向かって全速力で駆け、距離を一気に詰める。ほぼゼロ距離にまで縮めたナツは左の足に炎を灯し、そして跳躍。

 

 

「火竜の鉤爪!!!」

 

 

 竜の蹴りと同義の魔法を、アルゴールの頭部に向けて横薙ぎに放つ。

 無防備に直撃を受けた彼女は悲鳴を上げる暇すらないままに、弾丸のような速度で壁へと向かって背中から激突した。巨躯から生まれた衝突の威力は凄まじく、辺りに爆発音にも似た轟音が響き渡る。

 

「なっ、何をしているアルゴール! 速くソイツを血祭りに上げろ!!」

 

「Ra……Laaaaaaaaaaa!!!」

 

 

 焦燥感を滲ませたルイオスの命令。ソレを受けたアルゴールが、痛む体を引きずりながら立ちあがる。

 血走った眼を大きく見開き、傷だらけの灰翼をバサリと展開。突如、彼女からシュルシュルといった乾いた音と共に、振り乱された髪は姿を変え、髪の一本一本が鋭利な牙を備えた蛇に変幻してナツへと牙を剥いた。

 大きく口を開けて襲い来る蛇の群れに対して、桜髪の少年はそれらを睨み付け、

 

 

「───オラァ!!!」

 

 

 炎拳を振るった。突き出された拳から、炎が熱波のように放出される。

 波のように突き進む炎は迫りくる蛇の群れを物ともせず、その全てを一瞬にして消し炭へと変え、衰えを感じさせない勢いでアルゴールへと直撃した。

 巨躯を捉えた竜炎は辺りに閃光を撒き散らし、星霊の悪魔の体を呑みこむ。一瞬にして炎に包まれたアルゴールは全身を焼かれ、体中に火傷の様な傷跡を残してようやく収まった熱波の中から床をゴロゴロと転がる形で姿を現わす。

 

「な、なんで、こんな……一度ならず二度までも、アルゴールがこうもあっさり圧倒されるなんてッ!!」

 

 受け入れがたい現実を目撃したルイオスがヒステリックに叫ぶ。彼からしてみればたかが名無しだから大丈夫と高をくくっていた手前、自身の打つ手全てを真正面から名無し程度が打ち破っていることが信じられなかった。先ほど十六夜に手玉に取られていたことも、彼の同様に拍車を掛けていたのかもしれない。

 現実を拒否し続けるルイオスとは対極的に、〝ノーネーム〟一行はナツの暴れ回る姿にただ素直に驚きを露わにしていた。

 

「凄い……十六夜さんと同じく、星霊を圧倒している……!」

 

「アレが……滅竜魔法の力…………?」

 

「白夜叉と闘ってた時から分かってたけれども、ナツくんって本当にデタラメね」

 

「自分よりも大きな体をボールみたいに蹴りあげる人間なんて、私の世界でもいなかった。だからちょっとびっくり」

 

 ジンと黒ウサギが唖然とした調子で呟き、飛鳥と耀が呆れたように感想を述べた。

 その横で、ハッピーと十六夜が嬉々とした表情で興奮を露わにする。

 

「だから言ったでしょ! 今のナツをそう簡単に倒すなんてできないんだ!」

 

「ヤハハハハッ! やっぱスゲェよアイツ! 面白いことは分かってたがやっぱ面白ェ!」

 

 喜び、驚き、笑い、呆れる。皆が想い想いの心情を吐露する。それらの喜色が入り混じった声音が、ルイオスの心中の荒みを更に加速させる。

 歯軋りをして、苦虫を噛み潰した様にくしゃくしゃに表情を歪めた。

 

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!! こんなものを僕は認めない! この僕が、ルイオス=ペルセウスがッ!!! 名無し風情に手玉に取られるなんてことがあるわけがないんだよォ!!!」

 

 体裁も何もかもなりふり構わず感情のままに地団駄を踏み、癇癪のようにルイオスは叫ぶ。

 何が何でも自身のプライドを守り通したいルイオスは、鬼気迫る表情でアルゴールにさらなる命を下す。

 

「アルゴールッ!! 石化のギフトを、宮殿の悪魔化を使えッ! お前の持てる全ての力でアイツを殺すんだァあああああああああああああああッ!!!」

 

「Ra……La……LaaaaaaAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 体の至る所から煙を立ち昇らせるアルゴールは、ふらふらと覚束ない足取りで立ち上がりながら不協和音を謳う。

 再び漆黒に染まり始める周辺の壁や足場。更には宮殿全体がどす黒く染まり始め、そこを地獄の門とするように、獲物を求めて這い出る蛇蝎の魔物。

 加えてアルゴールに褐色の光が収束する。恐らくは辺り一帯を再び石へと変えるつもりだろう。

 

 石化のギフトと宮殿の悪魔化のギフト。片方だけでも十二分に脅威的なこの二つのギフトを、同時に使えば無事どころでは済まない。どちらかを相手にすれば、どちらかが確実に相手の息の根を止めに掛る。ルイオスはナツを確実に殺すためにそれらを解放させたのだ。

 

 魔宮より生み出された魔物たちは、先ほどよりも格段に大きな軍団を作り上げていく。蠢く蛇蝎たちは、目視だけでもざっと千体は軽く越すことだろう。今にも闘技場から溢れかえりそうなほどの大群である。

 

 半狂乱の様なルイオスの号令と、魔王の謳うような不協和音。

 それらに合わせて自在に変幻する魔宮は宮殿のあらゆる物質を蛇蝎の如き姿に変えて、その牙を剥く。ギラギラと危険な色を双眸に宿らせてナツへと殺到し、数万にも達する軍勢が彼を呑みこむ。時を同じくして、アルゴールから放たれた光がナツへと迫る。

 

 

 それが無駄に終わるとも知らずに。

 

「オレの道だ──────」

 

 

 声が聞こえる。

 

 刹那。

 どこからともなく発生した熱が周囲の温度を上昇させる。

 

 そして。

 

 

 

「────退けェッ!!!!!」

 

 

 竜炎、爆現。

 数多もの蛇蝎を焼き尽くし、炎圧だけで吹き飛ばしながら赤く、紅い灼熱の炎が辺り一面を火の海へと変える。ナツへと絡みついていた蛇たちは、竜炎によって塵さえも残されず無へと還り、世界を再び石へと変えようとしていたゴーゴンの威光は溢れだした炎によって欠片も残さず焼き払われた。

 炎は更に他の魔獣達にもその猛火を振るい、触れた魔物たちは瞬きせずに消え去り、或いは超熱に伴い激痛と恐怖によって闘技場をのたうち回っては息絶える。

 

「なぁ………!!?」

 

 地獄絵図と化した情景に、ルイオスの動揺が更に増す。

 全身から大量の冷や汗を流し、目の焦点さえも上手く定まっていないほどに動揺する蛇殺しの英雄は、蛇蝎たちを焼き飛ばした炎の中から現れる竜殺しの姿を見る。

 大気中の水分を消し飛ばし、空気を破裂させ、闘技場の壁や床でさえも融解を始めるほどの炎熱を、何の躊躇いもなく突き破りながらもその炎を纏うナツは、犬歯を剥き出しにして想いのままに駆ける。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 

 その者の姿を見た者は、誰もが目を疑った。

 それは幻覚だったのかもしれない。いや、それは確かに幻覚だったのだ。

 だがその光景を見た者たちは確かにその時、その姿を見たはずだ。

 

 一対の翼を背に生やし。

 見紛う事なき巨躯を持ちて、その巨大かつ強靭な脚で大地を踏みしめ。

 天地を揺るがすと錯覚するほどの咆哮を上げる、赤き炎の竜王の姿を。

 幻獣の王として君臨する種族の姿を、誰もがナツに重ねたはずだった。

 

 太陽のプロミネンス現象と同質の炎。その海が広がる仲、ナツはただ一直線に駆ける。

 その道を阻むために再び魔獣達が立ち塞がるものの、彼はただ鬱陶しく思うだけで相手にもしない。

 彼に近づくだけで全ての者どもは猛炎によって焼かれ、その牙も、爪も、体も、魂さえも残さず灰燼へと帰す。

 立ちはだかる者をその進撃だけで打ち破り、恐れ慄き逃げ惑う者も構わず無へと変える。

 数万もいた魔物たちはナツの進撃を一秒たりとも足止めすることすらできず、周辺に舞う炎と彼の体に纏う竜炎によって瞬く間にその数を減らしていく。気がつけば数万はいた軍勢は脅えあがり、ただ逃げ惑うだけの烏合の衆になり下がっていた。

 

 それでも彼は止まらない。

 止まろうとしない。止まることを知らない。

 障害となる者を粉砕し、引き裂き、焼き尽くす。

 その様はまさしく修羅の如く。はたまた暴れ狂う竜の如く。

 ナツは、魔物たちを文字通り蹴散らしてアルゴールへの活路を開く。魔物たちが彼から逃れようと退いていく。

 まるでタイトロープがそこに敷かれているかのように道が開けたことを確認したナツは、かの魔王を睨みつけながら更に速度を上げて突っ走る。

 

 

「ォォあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 

 一層の叫びを上げる炎の怪物に気圧されて、アルゴールは一歩も動けない。びくりと体を震わせることしかできない。

 竦み上がる魔王にお構いなしにナツは最短距離へと詰める。

 片足でブレーキを掛けて踏みこみ、右の拳に魔力と、ありったけの想いを込める。

 

 

「────ダラァァッッッ!!!!」

 

 

 魔王の顔面に、竜の拳が突き立てられる。

 顔が変形するほどの力で一撃を貰ったアルゴールは、切りもみ状に回転しながら空気を切り裂いて壁へと吹き飛んでいく。

 

 だが終わらない。

 これで終わりにはしないとでも言うように、ナツは脚に力を込めて地を砕き、アルゴールが吹き飛ぶ速度を上回る速さで彼女へと追い付く。

 

 

「火竜の…………」

 

 

 ぐるぐると未だに独楽のように回転するアルゴールの下にもぐりこみ、ナツは脚をばねのように曲げる。

 次いで彼の全身に再び炎が集う。彼をただしく火達磨へと変える。

 

 

「────劍角(けんかく)ッ!!!」

 

 

 溜めた力を一気に解放して、ロケットが飛び立つように炎を爆破させながら飛びあがる。

 第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度をはじき出す竜の角が、星を背負う大悪魔の腹に突き刺さる。炎の流星となった火竜は、星霊の体をひっかけて弾丸のように飛び立つ。

 

 

「G、aaaaaaaa…………!!?」

 

 

 肺に蓄積された息を全て絞り出すように、酸素と共に声を吐くアルゴールは目視することも困難な速度でぐんぐんと空を上がっていく。二人の体は、世界が歪んで見えるほどのスピードを維持しながら飛んでいく。もしもこのゲーム盤の世界が元の状態であったのならば、きっといくつもの雲の壁を突き破っていたことだろう。

 

 地上とは段違いに酸素が薄い空域へと、ナツ達は一秒と掛からず跳び上がっていた。

 だがナツは気にした様子もなく、いつぞやの放り出された高度四千メートルにまで到達するとアルゴールに突いていた頭に更に力を込めアルゴールを空中へと放り投げる。

 

 もはや打つ手なしのアルゴールは満身創痍というに相応しい姿で、ボロボロの姿を宙に投げ出す。

 しかしナツはギブアップを認めない。まだまだこんなものではない。〝ペルセウス〟の騎士たちが受けた仕打ちは、レティシアの受けた苦しみはこんな軽々しく済まされていい物ではない。

 

 ナツは更に魔力を解放する。

 

 

「これはレティシア達の分だ!!」

 

 

 両腕に炎を灯す。

 太陽の炎と火竜の炎が顕現する。圧倒的な破壊を生み出すそれらの炎は、ナツの双掌で渦を巻くように混ざり合い、ひと際凄まじい火力を持った炎へと生まれ変わる。

 

 変化はそれだけにとどまらない。

 

 衰えを知らぬ轟炎は膨張を始め、その体積を大きくしていく。炎が大きさを増していくに連れ、高度四千メートルにある空気中の酸素が、風が、その炎へと流れていく。

 

 

「…………っ!!?」

 

 

 星の引力に従って堕ちていく中、アルゴールは目を剥いた。

 

 それは正しく太陽だった。

 太陽が放つ輝きだった。

 太陽が放つ超熱だった。

 

 太陽から放たれるフレアの閃光と閃熱。それらを再現────否、それそのものと言っても差し支えのない力を持った強大な炎がそこにはあった。

 周囲の空間が僅かながらに歪んでいる。そう錯覚するほどの力を放出させる轟々と燃え盛る炎に、かつて同じ魔王であり星霊であった箱庭三大問題児の一角たる星霊の影をアルゴールは見る。

 

 

「火竜の――――」

 

 

 喉が渇く。

 心が震える。

 あれから逃げろと本能が警鐘を鳴らす。

 

 しかしそれをナツが許さない。

 彼は周囲の空間でさえも歪ませるほどの力を携えた、自身の身の丈を超す大きさにまで膨らんだ破壊を勢いよく振り上げる。

 

 そして。

 

 

 

「────爆陽(ばくよう)ッ!!!」

 

 

 灼熱紅蓮の竜星炎を、悪魔の星に振り下ろした。

 

 落された炎は大気を焼き、空間でさえも燃やしながらアルゴールへと突き進む。

 あまりの圧倒的な光景に呆気に取られているアルゴールに慈悲も躊躇もなく、太陽フレアに匹敵する炎は竜が獲物を丸呑みにするが如く彼女の全身をつつみこみ、それでもいざ止まらぬとばかりにそのまま天から地へと軌跡を描きながら堕ちる。

 

 

「GeeeeeYaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!!???」

 

 

 腕を、脚を、灰翼を、髪を、全身を隈なく焼かれながら、アルゴールは絶叫を叫んで堕ちていく。

 それはまるで、罪人が溢れかえった街を滅ぼすために神が放った罪火の炎のようだった。実際には、一般的には神の敵対者とされる竜の炎でもあるのだが。

 

 隕石の如く、全身を火炙りにされながら叩き落とされたアルゴールの体と炎は、凄まじい勢いと火力を持ってして闘技場の床を貫き、更には四階さえも焼き抜いて三階へと着弾し、極大なる一本の火柱を立ち昇らせる。

 衝突の際に生まれた衝撃は既に倒壊寸前だったとはいえ、常時防備用に張っていた結界のギフトを紙細工のように破壊して闘技場を崩落させ、同時に宮殿の悪魔化のギフトさえも破壊し、あろうことか四階でさえも一撃で崩壊させた。

 

 

「きゃっ!?」

 

「わわっ!?」

 

「飛鳥!」

 

「ジン!」

 

 

 崩落に巻き込まれそうになる飛鳥とジンを、〝翼〟を持つハッピーと風を操り宙を踏みしめるグリフォンのギフトを行使した耀が受け止める。十六夜と黒ウサギも難なく跳躍し、一行はなんとか無事に辛うじて耐えていた三階へと着地し事なきを得る。

 全員が怪我もなく無事なのを確認した黒ウサギは、改めて宮殿全体と、先ほどまで意気揚々と立ち昇っていた火柱の中心点にて、体の三分の一を消し炭へと変えられながらも、ピクピクと痙攣して生きながらえているアルゴールの惨状を見て、息を飲む。

 

 

「……これが、ナツさんの力」

 

「………もう、言葉も出ないわね」

 

 

 飛鳥が呆然と呟く。

 同時に、火柱に遅れて、辺りに轟音を響かせながらナツが地を砕くほどの勢いで降り立つ。

 高度四千メートルという高さから落下したというのに、大して苦悶の表情を浮かべずその素振りも見せないナツは、今もジュウジュウと熱を持ったフライパンのような音を発生させるクレーターの、その中心にいるアルゴールを静かに見る。

 

 何も言わずにただ見つめる彼の背中を見つめながら、黒ウサギは静かに想う。

 

 

(やっぱり彼らを呼んだことは……決して間違いではなかったのです)

 

 

 これが、ナツ・ドラグニルの真の力。

 そしてこれが。

 

 

 

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の力!)

 

 

 

 

 

 

 

        ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

 

「嘘、だろ?」

 

 

 茫然自失とした調子で呟く。

 瓦礫に巻き込まれないようロングブーツから生えた光り輝く翼で飛翔することによって事なきを得たルイオスは、ゆっくりと三階に降り立ちながらゆっくりろ首を横に振った。

 

 なぜ、アルゴールが黒こげにされているのか。

 なぜ闘技場が崩壊しているのか。

 なぜ魔王が倒れているのか。

 

 ただの名無しと見縊っていた者たちに引き起こされた惨状に、ルイオスは自身の脳が事実を受け入れることを拒否していることを実感していた。

 

 

「アイツは、アルゴールは魔王なんだぞ? 元々はあの白夜叉と同じ、この箱庭で三大問題児と称された怪物何だぞ? それが、どうしてっ、どうしてっ! なんでソレを倒せるような化け物がいるわけが…………!」

 

 

 目に映る事実から未だに目を背け続けるルイオス。

 その時、後ろから声が響いた。

 

 

「……なんだよ。結局、アイツ一人で勝っちまいやがった。あ~あ、俺はこの三下の相手をしなきゃなんねーってのかよ」

 

 

 びくりと肩を震わせ、声の方角へと勢いよく振り返る。

 振り返った先には、少しだけ面倒くさそうに後頭部を掻き毟っている十六夜の姿があった。不機嫌さを隠しもしない彼は、明らかにテンションがダダ下がっているのが見てとれた。

 ため息さえつく十六夜の言葉を、この上ない侮辱と受け取ったルイオスは激昂して握りしめたハルパーを振るう。

 

 

「ふざけるなァッ!! まだ勝負は終わっちゃいない!!」

 

 

 鋭利な刃をギラつかせて、ルイオスは空気を裂いて鎌を振るう。

 その速度から音すら巻き起こして迫るハルパーを、十六夜は全く動じずこれを僅かに体を横にスライドさせることで回避する。

 一撃、二撃と斬撃が四方八方から攻め立てるが、十六夜は鎌が髪の先端をほんの少し切り取るほどの距離で掠めたのにも構わず、ポケットに両手を突っ込み、終いには目を瞑って口笛でも鳴らしそうな調子で自身のプライドと敗北への焦燥感に顔を歪めるルイオスの必死の攻撃を優々と避ける、躱す、遠ざかる。

 その行動の一つ一つがさらにルイオスの感情を逆撫でした。気付けば、自身の荒い呼吸が聞こえるほどにルイオスはあらゆる物を消費していた。

 

 体力だけではなく、精神も。

 

 

「あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 もはや自暴自棄となってハルパーを振り回すルイオス。

 知性も何もあった物ではない闘いぶりを見た十六夜は心底退屈そうに一瞥すると、静かにポケットから両手を取り出す。

 

 それが指し示す意味は言わずもがな。

 要はこの戦いに飽きが来たからに他ならない。

 このまま続けても醜い敗者がただ遠吠えをして、意味もなく噛みついてくる退屈な光景を眺めるだけの悲惨な時間を過ごすだけである。

 よって、そろそろこのお遊びに終止符(ピリオド)を打つことにしようと十六夜は動き出す。

 

 縦に振りおろされた鎌が頬の一ミリスレスレを通過した所で、体に回旋するための動作をするための『溜め』を作る。

 荒い呼吸を繰り返しながら、ルイオスは叫びを上げて十六夜に刃を振り下ろす。

 

 しかしそれは十六夜にとっては遅いと言うか、止まって見えると言うほかなく。

 十六夜は我慢できずに行動に出ていた。

 

 彼の取った行動は至ってシンプルだ。ありていに言えば何の変哲もない。

 世間一般で空手などで使われていそうな、所謂回し蹴りと呼ばれるプロセスを行ったに過ぎなかった。

 ただ彼は、その技を第三宇宙速度に匹敵する速度で行っただけに過ぎなかった。それだけで十分だと判断したのだ。

 

 結果、ルイオスのハルパーの柄を捉えた蹴りは鎌を弾き飛ばし、受け止めた反動によって弾き飛ばされたルイオスは背中から地面に叩きつけられた。

 背中を強打した影響か、腹の底から何か気持ちの悪い物が込み上げてきて、吐くとまではいかなかったが大いに咳き込んだ。呼吸が全く上手くいかず、空気を吸うことも、吐くことも満足に行えなかった。

 

 

「────ッハァ!! ガハッ!! がふ、ひゅう…………!?」

 

「……おい。ちなみにこのまま負けたらどうなるかわかってんだろうな?」

 

「……な、に、を………?」

 

 

 

 未だに身体に酸素を上手く取り込めていないルイオスを見下して、十六夜が問う。

 ここから先の自分たちの末路を分かっているのか、と。

 嫌な予感しかしない十六夜の問いかけに、素直にルイオスの身体から冷や汗が溢れ出てきた。答えは自ずと分かっていた。このまま〝ペルセウス〟が負ければ、名声が失墜し今のように好き勝手できるような環境ではなくなる。少なくとも、〝サウザンドアイズ〟の中では下位の組織に成り下がることだろう。

 

 十六夜の提示してきた内容は、そんなルイオスの予想も打ち破る。

 

 

「まさかこのまま勝ってレティシアを取り戻してハイおしまい、その程度で済むとでも思ってたのか? ………オイオイ、だとしたら呆れるどころか腹ァ抱えて笑ってるとこだぞ? 俺たちは旗印を盾にして即座にもう一度ゲームを申し込み、次は〝ペルセウス〟の名を頂く。そしてその次にはお前達の名も、旗印も、そして信頼も徹底して貶めて〝ペルセウス〟が箱庭で活動できないように徹底的に、徹底的(・・・)に叩きつぶしてやる。……今までの借りを数百倍にして返してやる。〝ノーネーム(俺たち)〟に手を出したのが間違いだったな」

 

 

 甘かった。

 自分の読みも、気構えも、何もかも。

 

 名無し風情と見て甘く掛ったのがそもそもの間違いだった。コイツは、逆廻十六夜は、そんな生ぬるいことで終わってくれるはずもなかった。

 見る見るうちにルイオスの顔から血の気が引いて行くのを、十六夜は心底愉快そうにニヤニヤと笑って見つめていた。この男、俗に言う『ドS』なる性癖を持っていると見受けられる。

 体裁もクソもあったものではない情けない声を上げてルイオスは必死に願う。

 

 

「たっ、頼む! それだけ、それだけはぁっ!!」

 

「んん? 嫌か? そうだよな嫌だよなァ。だってこの世界で生きていく上でコミュニティは必要不可欠。更には信頼はコミュニティをやっていく上でも必要だ。────ならもう、コミュニティを守る方法は一つしかねえよな?」

 

 

 ちょいちょい、と指を自分の側へと数回引く。

 獰猛で、凶暴な笑みを浮かべる快楽主義者は、ペルセウスの末裔を挑発する。

 

 

「来いよ、〝ペルセウス〟。まだまだ尽きることのない俺の渇きを、お前が命がけで潤して見せろよ。まあ、楽しませてくれたら(・・・・・・・・・)気が変わってコミュニティの処遇をちっとはマシにしてやるかもしれねえな」

 

 

 まあもしかしてだけど、と言葉を区切って嗤う。嘲笑う。楽しそうに笑う。

十六夜としてはまだまだ戦いたりないし、本命をナツに取られてしまったのだからルイオスで発散しなければ割に合わないのだろう。

 対してルイオスも、自身のたった一つの居場所である〝ペルセウス〟の危機を脱するチャンスを、限りなく低いながらも切りぬける機会をこれみよがしにぶら下げられて黙っていられるはずもなかった。

 

 よって、取るべき行動は一つだった。

 

 

 

 

「……負けられない。僕にだって誇りはある。たった一つの誇りの為にも────負けられるかよォォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 〝星霊殺し〟の鎌・ハルパーとヘルメスの靴を携えた英雄の末裔は、凶悪な笑みを浮かべる快楽主義者へと敗北覚悟で駆けだしていく。

 

 

 

 

 

 

 




よし、やっとこそさペルセウスとの闘いは終わりですね!
長かった、本当にここまで長かった…………! 何度改稿したことか……何度そのたびに読者様を失望させたことか……いや、きっとこんな駄作者に期待してくださっている高尚な心を持ってくださる読者様なんて、本当に少ないんでしょうけどね?
取り合えず坊っちゃんたちとのバトルはこれにて終了!!

でも第一巻は後きっと一話で終わることでしょう! 多分! いえ、きっと!(おい
というわけで、いつも読んでくださっている方々は本当に感謝です!
いつも通り期待しないで待ってくださると感激です!

では今回はこのへんで!
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