火竜(サラマンダー)も異世界から来るそうですよ?   作:shoshohei

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 遅くなりまして誠に申し訳ありません!!
 中々執筆の時間とか取れなかったっていうかそんなこんな言い訳を並べてもちっとも謝罪になりませんので取り合えずごめんなさいしか出て来ません…………!

 今回で一巻は終了ですね。いやはや、なんかめっさ長かった気がした……。
 今回の話はここから真の物語出発と言うことで堀下げたフラグや、これから起こるであろうフラグなんかもはいっちゃったりしてますが、まあそんな感じです!
 お楽しみいただけたら幸いです!!









……批判とか待ってますヨ?



見渡す限りの星空で

〝ペルセウス〟とのギフトゲームの決着は、当然の如く〝ノーネーム〟の勝利によって幕を下ろした。

 当初の目的であったレティシアの所有権を勝ち取り、かつて魔王に奪われた仲間を取り戻すことに成功し、彼女を巡る騒動は後腐れのない終幕を迎えることができたのだった。

 

 

 ───てなわけで。

 

 

「「「「それじゃあこれからよろしく、メイドさん」」」」

 

「…………え?」

 

「え?」

 

「はい?」

 

 

 本拠へと運びこまれ、石化を解かれたレティシアが目を丸くする。同じく問題児三人とハッピーの予想だにしなかった言葉を聞いた黒ウサギとジンが、彼らの言葉を理解できずに半口を開けて呆けていた。

 彼らの様子になぜかあきれ顔の飛鳥が、腰に手を当て嘆息する。

 

「え? じゃないわよ。だって今回のゲームだって活躍したの私たちだけじゃない。猫のハッピーでさえも頑張ったって言うのに、貴女達って本当の意味で付いてきただけだったじゃないの」

 

「ハッピー偉い」

 

「いやーオイラってば有能な猫だから。もっと褒めてもいいんだよ?」

 

「調子に乗りすぎだろ。つーかルイオスを挑発してゲームにまでこじつけたり、ボンボン坊ちゃんをぶっ倒したの俺だろ? つーわけであの桜髪野郎が元・魔王様を倒したことも勘定に入れて計算すると、所有権は等分して俺と野郎が3、お嬢様と春日部が1と半分、青猫が1ってことで話がついた!」

 

「何言っちゃってるんですか!?」

 

「そうだぞー! オイラだってもっと欲しいぞー!」

 

「いえ、そういうことではなくてですね……!」

 

「仕方ねえなぁ……じゃあ青猫はお嬢様達と同じ2ってことで」

 

「わーい!」

 

「黒ウサギの話を聞いてくださいッ!!」

 

 

 もはや場の舵は完全に制御不可能だった。彼女の高性能なツッコミ処理能力が追い付かないほどに。

 自由すぎる問題児達と猫一匹の行動に〝ノーネーム〟唯一の常識人たる黒ウサギが振り回され、思考が混乱して傍観することしかできないジン。

 そんな混迷を極める中、どういうことか当事者たるレティシアが冷静にふむ……、と下顎に手を添えた。

 

 

「……なるほど。確かにそれは至極当然の話だな」

 

「レティシア様!?」

 

「今回の件で、私は皆に恩義を感じている。皆のおかげで、二度と帰ることができないと思っていたコミュニティに帰ることができたのだからな。ならばその恩義に報いるためにも、皆が望むのであれば喜んで家政婦をやろうじゃないか」

 

 

 何の迷いもなく言い切るレティシアに、黒ウサギは困惑したような姿勢を見せた。

 今まで高嶺の花とばかり思っていた先輩が、まさか自身のコミュニティでメイドとして仕えさせるなど恐れ多くてできたのものではない。彼女がその気でもどうしても気が引けてしまう。

 

 一体全体どうしてこんなことに…………と、痛烈に苛む頭を抱えながらへなへなとへたりこむかつての後輩に、思わず苦笑いを零すレティシア。

 黒ウサギの精神的負荷を与えた張本人の一人であるというのに、お嬢様少女久遠飛鳥は何の悪びれもなしに嬉々とした笑みでいつの間にか用意していた一着の服を取り出した。

 

 

「私、ずっと金髪の使用人というのに憧れていたのよ。私の家の使用人たちってみんな華も可愛げも無かったんだもの。少しはこういうのを夢見てもいいわよね?」

 

 

 まさしく華が咲くような笑みで彼女が用意したのは、白い布地を生地とし、スカートに位置する部位にフリルが付いた『どこかのご令嬢が着ています』とでも言えばそれで納得してしまいそうな豪奢な服だった。あまり一使用人たるメイドが着るようなものとは思えない。というかこれはメイドと言うかどこかの不思議の国の少女が着るような服装だった。

 

 

「……今まで思ってたんだけど、飛鳥ってなんか性格とかあんまりお嬢様っぽくないのに、趣味とか完全にお金持ちのお嬢様だよね」

 

「オイラはてっきり語尾に『ですわ』とか『ですの』とか付けるかと思ったのに、全然そういうのがなくてちょっとがっかりかも」

 

「笑い方も『オーッホッホッホ!』とかって感じじゃないしな。そのくせなんで趣味とかあんな小学生が夢見るような感じなんだ。性格はそうでもないのに頭の中は普通のお嬢様と同じくお花畑か」

 

「……貴方達、そういうこと本人の目の前で堂々と言うのね。いいわ、表へ出なさい」

 

 

 青筋を立ててギフトカードを構える飛鳥。勝手に理不尽極まりないイメージを押しつけられれば当然である。

 今からでもドンパチを始めそうな雰囲気を醸し出す正統派お嬢様系少女を見たハッピーと十六夜、そして耀の三人は『なんかツンデレっぽいけど別にそこまでツンデレじゃないお嬢様が怒ったーわー逃げろー』と、さして危なげもない声音で追跡を開始する彼女からどたばたと逃げ回る。

 

 そんな微笑ましいんだか本気で危ないんだかわからない騒ぎを眼で追っていたレティシアだが、ふとその中に本来いるべきはずの人物がいないことに気付く。

 

 

「……そう言えば、猫の彼と一緒にいた桜髪の少年の……確かナツと言ったか? あの少年の姿が見えないのだが」

 

 

 彼女からしてみればまた彼もきっと自分を助けてくれたであろう恩人であるのだから、気になるのも当然と言えた。

 小首を傾げて問うレティシアに、今までようやく立ち直った黒ウサギが思い出したような仕草と共に答えた。

 

 

「ああ、ナツさんなら確かギフトゲームの後、何故だか現れた白夜叉様の護衛の方に連れていかれてしまいました」

 

「彼だけ? 何故?」

 

「さあ……何でも白夜叉様がナツさんと二人っきりで話がしたいとかなんとか。詳しいことは黒ウサギにもよくは……」

 

 

 ウサ耳を傾げて答える黒ウサギ。

 突如待ち伏せていたかのように現れた女性店員。その彼女に若干困惑していたものの、ナツも白夜叉に用があったのかさして抵抗する素振りもなく付いていった。ハッピーや黒ウサギもついていこうとしたものの、お決まりの冷徹な声で『彼一人でのお呼び出しですので、御同行はご遠慮ください』と、付き添いを拒否されてしまった。

 

 そして現在に至るというわけである。

 

 

「思い当たる点と言えば一つほどあるのですが……ですがそれとも限りませんし。一体何の御用なんでしょうね?」

 

 

 

 

 

        ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

 

 天幕から射し込む陽の光によって、明るく染め上げられる〝サウザンドアイズ〟支店の和風の一室。

 そこに少年と少女の二つの姿があった。

 

 ナツ・ドラグニルと白夜叉。

 同じく炎と言う属性を持った力を携える二人は、呼び出した側と呼び出された側の者として畳の上に腰をおろし、互いに真正面から向き合っていた。

 

 

「───で、話ってのはなんなんだ」

 

 

 ナツが切り出す。

 ゲームが終わった直後に、しかも相棒や他の者たちの同行を拒否してまで呼びつけたのだ。彼も白夜叉に聞きたいことがあったとはいえ、これで大したことでなければ少しばかり怒る。

 

 

「うむ。その話についてだがの」

 

 

 少々棘がある声音を気にもせず、白夜叉は手に持った煙管を灰皿において尊大に頷く。

 

 

「以前、おんしと私が〝決闘〟をしたのは覚えているかの?」

 

「当たり前だろ。あんなスゲェ闘い忘れねえって」

 

 

 シュッシュッ、とシャドーボクシングをしながらナツは嬉々として答える。彼にしてみればあれもまたとても価値のある思い出である。

 彼のともすれば無邪気ともとれる仕草に微笑を浮かべながら、白夜叉は本題を提示する。

 

 

「それについてだがな。あれもれっきとした〝決闘〟という名のギフトゲーム。故に勝者は敗者より報酬を頂戴する権利がある」

 

「マジでか!? じゃあオレはなんでも言うこと聞かなきゃいけねえのか!? 服を脱げって言われたら脱がなきゃいけねえのか!?」

 

 

 今まですっかり忘れていた箱庭の常識。いわば敗者は勝者に絶対服従のルールを思い出したナツはいまさらながらに焦りだす。

 ちゃんとしたルールの下で負けたので慌てふためく少年の姿を見た白夜叉は、何やら熱っぽい声と手を気色悪く動かし始めながら、

 

 

「ぐふふふ、そうじゃのそうじゃのぅ! おんしの身に纏う衣服を剥いであーんなこーんなことを……って、そんなはずもなかろうて。野郎の裸体を見る趣味はないわ。気色悪い」

 

「それもそうだな」

 

 

 ないない、と双方首を横に振る。

 黒ウサギのような魅惑なぷるるんでボンッキュッボンなボディならまだしも、ナツの細マッチョで筋骨隆々のガチムチボディを見たところで相当な性癖の持ち主でない限り吐き気を催すだけである。誰が好き好んで見たがるというのか。

 全体的にテンションダウンした二人は、つまらなそうな顔のまま会話を続ける。

 

 

「だがお前に求めるものがあるのは本当だぞ。先ほど言った通りギフトゲームに敗れた者は勝った者の要求を拒否することはできん。これは箱庭のルールだ」

 

 

 一転して真剣な声音で話す白夜叉。

 彼女の硬質な雰囲気に触れたからか、ナツは腰を下ろしている座布団の上で脚を組み直して背筋を少し伸ばす。

 

 

「……いいぜ。何が欲しいんだ?」

 

「ほう、随分と潔いのう。てっきり駄々でもこねるかと思ったが」

 

「馬鹿にすんな。オレだって勝負で決まったことなら文句は言わねえよ。それがルールだってんならちゃんと従う」

 

 

 彼は本気で闘って、白夜叉も本気で迎え撃って。

 お互いが力の限りを出しつくした結果で彼は負けた。ならば悔いは残らない。それが己の結果であるから。その決闘に基づいたルールが敗者への要求と言うならば甘んじて受けようとナツは思ったのだ。

 戸惑いもなく受け入れる姿勢を見せるナツの姿を見た白夜叉は、なぜか少し嬉しそうに笑った。

 

 

「そうか、ふふ、なるほど。それはとても殊勝なことだの。ではそのルールに則って、おんしにちょっとした()()()を引き受けてもらおうかの。よいな?」

 

「おう、いいぜ。なんでも来いよ」

 

 

 ナツがどーんと構える。

 良い返事だとまたもや嬉しそうに頷いた白夜叉は、パンパンとニ回ほど柏手を叩く。すると突如としてナツの目の前の空間に、双女神の紋が入った羊皮紙が現れた。

 眼前に浮かぶソレを手に取って首を傾げるナツに、白夜叉が言う。

 

 

「おんしは確か、黒ウサギ達───つまり〝ノーネーム〟から依頼を受ける代わりに報酬を得るという形で協力関係を持っているのだったな?」

 

「ああ、そうだよ」

 

 

 それが何だとでも言いたげにナツは返す。

 白夜叉は彼の手元にある双女神の紋を指差しながら、

 

 

「では今度は私からの依頼も引き受けてもらおう。〝サウザンドアイズ〟から───いや、この私白夜叉からナツ・ドラグニルへと依頼する際に、どんな依頼であっても絶対に断らないこと。その依頼の間は、お前は私專属の協力者として行動すること。それが私がおんしに求めることだ。無論報酬は出すから安心せい。それで黒ウサギ達への援助にもなろうて」

 

「このマークが入った紙は?」

 

「それはお前が私から依頼を受けている証だの。〝ノーネーム〟のままだと何かと動きづらかろうて、私が持つ〝階層支配者〟の肩書きがあれば少しは融通が効くじゃろ」

 

「そういうのなんてったっけ……職権乱用って言わねえ?」

 

「こういうのも少しはいいのじゃ。神様とて窮屈なこともあるのでの」

 

 

 そういうもんかとどうでもよさげに呟いて、ナツは〝サウザンドアイズ〟の刻印が刻まれた羊皮紙に視線を落とす。

 羊皮紙を裏に返したり角度を変えたりをして確認を繰り返していたナツだが、そこでここに呼び出しに応じた理由の一つを思い出し、呟いた。

 

 

「そうだ、そういや白夜叉に訊きてぇことがあったんだった」

 

「何じゃ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ピクリと。

 白夜叉の片眉がほんの少し。

 注視しても見過ごしてしましかねないほどに微細な動きで上がった。

 それに気付いているのかいないのか、ナツは訊きたいことへの聴取を続ける。

 

 

(これ)、お前がくれたんだろ?」

 

「……ほう。何故そのように思ったのかな?」

 

 

 興味深そうに問い返す白夜叉。

 ナツは右手を握ったり閉じ手を繰り返しながら、

 

 

「なーんかあの蛇女と闘ってた時に使ってた炎がいつもと違くてよ。その時の感覚が白夜叉の炎を喰ったときに似てたわけだ」

 

「それは〝決闘〟の時に食べたから、というわけではないのかの?」

 

「いや、そいつはねーよ。だってぶっ倒れたあの時、血と一緒にほとんど駄々漏れになっちまった感じがしたからな。しかもあの時と違ってなんか知らねーが良い感じにオレの魔法と合わさってるのが分かったんだ。オレ以外に炎を使う奴で傍にいるのなんてお前しかいねえし。だったらこんな風にオレのと混ぜられるのなんて限られてくるだろ?」

 

 

 ちょっと自慢げに言う。

 自信を持って告げられた彼の推理に対してほう…………、と感心したように白夜叉は声を漏らした。

 確かに彼の言うとおり、ナツへと力を譲渡したのはほかならぬ白夜叉である。ナツを助けるため、また彼女の私情もあってそういう行動に出たのだ。

 しかしそれを当の本人には伝えず、また彼は事前に彼女の炎を食うという暴挙に出ていた。だというのに自身の力以外の何某の力添えがあったと推測し、結果的に真実へと辿りつくとは。

 なかなかどうして、この少年は本当の意味での馬鹿ではないということになるのだろう。

 

 

「……ふむ。本当におんしはみかけによらんと言うか、不思議なところで頭が働く奴だの」

 

「馬鹿にしてんのか?」

 

「褒めておるのだよ。面白い奴だとな。……確かに私はおんしに炎を渡した。だがそれで? そのことが分かったからといってどうしたいのだ?」

 

 

 彼の性格を考える限りでは、自身の力で得た力ではないので『余計なことしやがって!』とでも言うのだろうか?

 舌打ちをして、不機嫌そうな表情でこちらを睨む姿を白夜叉は脳裏に思い浮かべる。

 だがナツは、そんな彼女の予想の斜め上を行った。

 

 

「いや、別に。ただ単に『ありがとな』って言おうかなって思ってただけだ」

 

 

 指で頬をポリポリと掻きながら、少しだけ照れくさそうな素振りを見せる。

 自身の予測とはまた違った仕草をするナツの姿に、白夜叉はきょとんとした表情を浮かべた。

 ナツは微かにはにかむような笑みを浮かべながら、

 

 

「ほら、やっぱオレを助けてくれたのってお前だろ? だったらこの炎もそのためにくれたんじゃねえのか?」

 

「…………まあ、そうだが」

 

「だったらちゃんとお礼は言わなきゃダメだと思ったんだ。一応命の恩人だし。……まあ、そんなわけで。ありがとな白夜叉」

 

 

 胡坐をかきながら、両手を膝の上において深々と頭を下げる。

 いつものがさつで粗暴な態度や言動からは想像もできない礼儀正しいその姿を、一秒か数十秒か、はたまた数分か定かではないが、白夜叉はナツの姿をまじまじと見つめていた。

 

 

 

「……くっ、ふ」

 

 

 笑った。

 

 蚊の鳴くような小さな笑い声を、白夜叉は零した。

 それを(ドラゴン)と同等なまでにに発達した聴覚で拾ったナツは、怪訝に思いながらその頭を上げる。

 彼の視界の真正面にいる白夜叉は、口元を押さえながら確かにくすくすと笑っていた。

 

 

「……ふふふ、いや、すまなんだ。別におんしのことが可笑しくて笑っているのではないのだが、ちと思い出して笑ってしまってな」

 

「おい、お前大丈夫か? なんか今日のお前この間よりも変だぞ」

 

「いや、本当になんでもない。不快にさせたのならば謝罪しよう」

 

 

 いいながらも未だにクスクスと笑いを堪え切れていない白夜叉。本当に今日の彼女はどこかおかしい。

 なんというか、決闘の時の様な横暴さと言うか力強さと言うか、そういった雰囲気が無い代わりにどこかふわふわとした印象を受ける。まるで今この時を、ナツと会話できることを楽しんでいるように。

 ともすれば不審とも取れる白髪の少女に、訳も分からずナツは首を傾げる。ふとそこで、そう言えば今日一番に思った疑問を聞いていなかったことを思い出した。

 彼は未だ笑い続けている白夜叉に問う。

 

 

「そういやさ」

 

「くふふふっ…………ん?」

 

 

 ようやく笑いをかみ殺して、白夜叉がナツを見る。

 彼は視線を返しながら首を傾げて、

 

 

「どうしてオレを今日ここに呼んだんだ? ああ、いやそうじゃなくて。どうしてオレ一人だけしかここに来ちゃいけなかったんだ? 別にオレだけにしか話さなきゃいけねえ内容でもなくねえか?」

 

「ああ、そのことか。いや、確かにおんしの言うとおり別に誰かに聞かれてはまずい様な話でもなかったんだがの」

 

「じゃあ、」

 

「ただ、敢えて言うのであれば。おんしと───お前と、こうして二人だけで話す時間が欲しかったから、という私の我儘だったのだ。特に深い意味はないのだよ」

 

 

 

 ───()()()()()()()()()()

 

 

 その言葉を口に出さず、彼女は己の中で最後に付け足す。

 見た目だけであれば絵に描いたような美麗な笑みを浮かべながら告げられた少女の言葉を思考して反芻しながらも、さっぱり意味が分からないのでナツは首を傾げるのみである。

 

 

「…………なんで?」

 

「だから言ったであろう。深い意味は特にないと。……さて、時間を取らせてしまってすまなかったの。どれ、侘びとして使いの者に本拠まで送らせよう」

 

 

 よっこらせと婆くさいを声を出しながら少女は立ち上がる。

 彼女の腑に落ちない発言に首を傾げ続けるナツだったが、どういうわけか不思議なところで働いてくれる彼のすーぱーな脳味噌もこの時はめっきり役に立たなかった。

 なんだか大量の情報を頭の中で考察したせいか、処理が追い付かずにパンク寸前になった素敵な脳味噌をお持ちのナツ・ドラグニルさん(年齢不詳)は、いくら考えてもむりっぽいと判断した後、

 

 

「ま、いっか」

 

 

 考えることを止めた。

 そんなことでうだうだ悩むというか考えるのはとても性に合わないので胡坐をかいていた脚を解いて立ち上がり、ナツは障子を開けて廊下へと歩いていく白夜叉の後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

        ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 〝ペルセウス〟とのギフトゲームから三日後の夜。

 子供達を含めた〝ノーネーム〟のメンバー全員は、手に入れた水樹によって作った貯水池前の広場に集まっていた。

 その数たるや総勢で128人+2匹。数だけを見ればちょっとした中堅コミュニティと言えなくもない。

 

 

「───それでは! 新たな同士を迎えた〝ノーネーム〟の歓迎会を始めたいと思います!」

 

『わー!!』

 

「待ってましたー!!」

 

「速くお魚ッ!! お魚プリーズ! お魚プリーズ!!」

 

 

 沸き上がる子供たちの歓声。それに混じって桜色と青色の異物が騒いでいたような気がしたが、黒ウサギは敢えて無視する。気にしていてはキリがない。

 

 

「ハッピー!! 食えるときにジャンジャン食っとけよガブガブモシャァァッ」

 

「あい! 〝ノーネーム〟はお金が少ないからこんな御馳走次はいつ食べられるか分からないしねバリボリムシャァァッ」

 

 

 壮大な肉やら魚やらにかぶりつく音を響かせながら、二人は絶賛お食事中である。運ばれてきた料理や焼き魚を今喰わねば死んでしまうとばかりに鬼気迫る勢いで全て胃の中へと流し込んでいく。

 その勢いのあまり、周囲にべチャとかビチャとか生々しい擬音を響かせながら食べカスが飛び散ってしまっている。その弊害か何かか、周囲の子供たちは呆気に取られてしまっている。

 

 彼らと同じテーブルで食事をしていた問題児達3人は、時折飛んでくる骨やら野菜やらを上手く躱しながら対話していた。

 

 

「……どれだけ食べるのかとかもうちょっと落ち着いて食べれないのとか、色々と言いたいことは山積みだけどまあそれはおいといて。どうして屋外の歓迎会なのかしら?」

 

「うん。それは私も思った」

 

「黒ウサギなりの精一杯のサプライズってことじゃねえか?」

 

「ふほふはひひほひはひふはへえは!(黒ウサギも気が効くじゃねえか!)」

 

「ふぁひ! ひはひほほはんふっふはへ!(あい! 意外とロマンチストだね!)」

 

「取り合えず口の中を空にしてから喋ってくれる? 後色々飛んでくるのよ」

 

 

 口内をごちゃまぜになった御馳走で一杯にしながら感慨深げにうんうんと頷く魔導士達に、魔法とは縁もゆかりもない問題児達はただ呆れるのみである。あの問題児達が他者に呆れるとはどういう状況なのか。

 そんな彼女たちを知らぬ存ぜぬで料理を口内に掻きこむナツ達であるが、彼らがこうするのにもやはりこんな御馳走をいつ食べられるか分からないということに起因する。

 

 〝ノーネーム〟の財政は貧困の域を通り越して壊滅的だ。本来であればこういった催しもできないはずである。

 仮に異世界から来たナツ達が資金をギフトゲームなどで稼いだとしても、それでもやはり毎日の浪費を抑えることはとてもではないが難しい。加えてその中で、かつての仲間や旗の奪還、そして魔王の打倒も行わなければならないのだ。

 

 それらの惨状を承知の上でこういった催しを開いてくれた黒ウサギ達を思い浮かべ、飛鳥は思わず苦笑いを零す。

 

 

「無理しなくていいって言ったのに……馬鹿な子ね」

 

「そうだね……っていうか、ナツとハッピー。遠慮って言葉知ってる?」

 

「何それ美味いの?」

 

「あい?」

 

「……もういいや」

 

 

 そういったこれからお世話になるところの裏事情を話していたというのに、お構いなしにかっ喰らう獣たちを構うだけ無駄だと判断した耀は諭すことを止めた。気力が持たない。

 もはや誰にも止められない猛獣どもが皿の上の料理を平らげていく中、黒ウサギが大きな声を上げて注目を促す。

 

 

「それでは本日の大イベントが始まります! みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」

 

 

 コミュニティの全員が、箱庭の天幕に注目する。

 見上げた夜空は今日も星々が燦然と輝きを放っている美しい夜空だった。絵のモデルとして扱うこともできるだろう。

 皆がその夜空に吸い込まれるように視線を集める。異変が起きたのはその時だった。

 

 

「…………あっ」

 

 

 誰かが声を上げる。

 それを合図とするかのように、連続的に星々が流れ始めた。それが流星群だと皆が気付くと、皆が口々に感性を上げた。

 

 

「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界から来た方々がこの流星群の切っ掛けを作ったのです」

 

「え?」

 

 

 子供たちに語るような黒ウサギの言葉に、十六夜達は驚きの声を上げた。構わず彼女は続ける。

 

 

「箱庭の世界は天動説のように全てのルールがここ、箱庭の都市を中心に回っています。先日同士達が倒した〝ペルセウス〟のコミュニティは、敗北の為に〝サウザンドアイズ〟を追放されたのです。そして彼らは、あの星空からも旗を下ろすことになりました」

 

 

 驚愕し、絶句する異世界から来た少年少女たち。

 固まる彼らとは裏腹に、夜空はひと際大きな光を放って忙しなく変化を遂げていく。今までそこにあったはずのペルセウス座が、跡形もなく消滅していたのだ。跡には夥しい数の流星群だけが残されていた。

 

 

「今夜の流星群は〝サウザンドアイズ〟から〝ノーネーム〟への、コミュニティ再出発を祝福する意味合いも兼ねています。星に願いを掛けるもよし。鑑賞するもよし。皆で心ゆくまで楽しみましょう♪」

 

 

 彼女の号令によって騒ぎは一段と大きくなる。その傍らで、飛鳥が呆れたようにため息を吐いた。

 

 

「まさか、あの星空から星座を失くなんて……あの浮かんでいる星々でさえも、箱庭を盛り上げるための舞台装置でしかないということかしら?」

 

「そういうこと……かな?」

 

「スケール大きすぎてオイラよく分かんない」

 

 

 あまりの荒唐無稽な箱庭の所業に、若干困惑気味の少女と猫一匹。

 ナツはだらしなく口を開けて夜空へと視線を釘づけにされ、十六夜は根負けしたようにため息をついた。

 

 

「ふっふーん♪ 驚きました?」

 

 

 黒ウサギがしてやったりな笑顔でピョンピョンと跳ねながら近づいてくる。

 十六夜は両手を広げて頷いた。

 

 

「やられた、とは思ってる。世界の果てといい、水平に廻る太陽といい……色々と馬鹿げたモノを見たつもりだったが、まだこれだけのショーが残ってたなんてな。おかげ様、いい個人的な目標も出来た」

 

「おや、それはなんでございましょうか?」

 

 

 逆廻十六夜の個人的な目標。それだけでも興味をそそられるものがある。故に黒ウサギは問うた。

 彼は夜空を指差しながら、

 

 

「あそこに俺達の旗を飾る、というのはどうだろうか?」

 

「おお!? 何かスゲェ面白そうじゃねえか!」

 

「だろ?」

 

 

 ナツが弾けるような笑顔ではしゃぐ。黒ウサギも心底楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 

「……YES。それは確かにロマンがございますね」

 

「黒ウサギもそう思うか?」

 

「はい♪」

 

「よっし! じゃあまずはあそこにオレ達の旗を飾るためにも、この世界の魔王を全部ブッ飛ばさなきゃな!!」

 

「いえ、別にそこまで望んでませんからなるべく細々としてくださいね!? お願いですよ!?」

 

 

 今まで有言実行だった少年を本気で止める黒ウサギ。

 そんな二人を哄笑を上げながら見つめる十六夜。

 

 星空の下で開かれた異世界からの同士達を迎える歓迎会は、更に盛り上がりを見せていく。

 




さてさて、この作品ではイグニールはどうなるのか(すっとぼけ
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