庵歌姫の凶行   作:大紫蝶

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 「生徒思いな歌姫さんならこれくらいするだろう」がコンセプトです。


玉折?

『『私(俺)達は最強だ』』

 

 そう言えていたのは何時だったか。

 あの時までは自信を持って言えていた。つい数日前までは疑いなく言えていた。

 だが、今は”最強”なんて言えない。

 

 たった一人の男に負けた。目の前の少女を殺した男に、親友を殺した男に。

 仇を取ろうと思った。返り討ちに遭った挙句、生まれ持った”術式”によって手加減されて生かされた。

 少女の遺体を取り戻そうとした。死んだはずの親友が敵討ちをした上で遺体を取り戻してくれた。

 親友と対等な立場で居ようとした。彼は本物の最強となった。

 

(笑えるよ。私はただの凡人、悟は生まれながらの天才…親友なんて烏滸がましい。私のやって来たことは、何の意味もないことだった)

 

 時々夢に見ることがある。私がいなければ天内は死ななかったんじゃないか。悟だけならどうにかできたんじゃないか。

 天内が笑って生きている未来があったんじゃないか。私達と一緒にまた沖縄で遊んでいた未来があったんじゃないか。

 

 このまま過ごしていたのなら、私は呪詛師になっていたかもしれない。

 闇を纏って正気でいられなかった。

 盤星教で聞いた拍手が音が耳から離れなくなった。

 あの笑顔が脳裏から離れない。

 あの感謝に満ち溢れた様な信者の姿が忘れられない。

 いっそ「死ね」と言われた方が楽なのに!

 侮蔑され、役立たずと罵ってくれたらどんなに楽だったか!!

 

 

 

 ところで『自分よりハイテンションで来られると逆に冷静になるの法則』を知っているだろうか。

 

「……コロス。絶対コロス」

 

 私以上の闇を纏ったヤバい女が現れた。

 

―――――――――――――――

 

 学校の敷地内、あの日から眠れない私は学校の敷地内を歩いていた。薄暗い朝の光を感じる中、不穏な気配が感じられた。そこには火炎瓶や他の凶器が転がっており、細かい靴音が響いていた。その音の先にいたのは私と悟が舐めている歌姫だった。

 

 彼女の表情は硬く、その目には怒りと殺意で燃えていた。とりあえず何事も無かったかのように深呼吸をして、歌姫(ヤバい女)を真っ直ぐ見つめた。

 

「……何が役立たずだ。あいつらの気持ちを無視しやがって」ブツブツ

 

 ダメだ、理解したくない。あの歌姫が先日の伏黒甚爾よりも怖い。何なら呪霊よりも呪霊らしいんだけど!?

 

「歌姫、こんなところで何を……」

「!アンタこそ、どうしてここに居るのよ」

「いや、ちょっと眠れなくて散歩していただけだよ」

「あっそ。私も似たようなものよ。じゃあね」

 

 そう言って去ろうとする歌姫の腕を掴み、止める。

 

「待って、何があった」

「離せ!」

「嫌だね。絶対に離さない」

 

 だめだ。彼女は正気じゃない。今の自分が正気とは言わないが、この人よりはまともだと断言できる。

 ここは彼女の通う京都校ではなく東京校であり、今は夜明だし、何より火炎瓶の山に軍隊でしか見ないような兵器を所持している女子高生なんて野放しにできない!

 

「離して!!」

「だから嫌だって……!」

 

 ジタバタする歌姫を引っ張り、人気のないところまで連れて行く。そこでようやく腕を離した。

 

「もうっ、急になんなの!?」

「こっちのセリフだよ!!いきなり何をするつもりだったんだ!?」

「はぁ?何言ってるのよ。アンタ達が上層部のせいで動けなかったから代わりに動いただけでしょ」

「え、何を言ってる」

 

 話を要約すると、硝子から私達が高専の侵入者に襲撃され殺されかけた。その上、目の前で友人の少女を殺されたことや盤星教の件なんかを連絡された歌姫。寝耳に水だったその連絡に驚いたと同時に事情を自分の教師なんかに聞いて、自分で調べた結果「その子は生きてても死んでも関係なかった」と知ってキレた歌姫はすぐさま東京まで行くことにした。だが任務と重なってしまいしばらく頭が冷えたことで「私の後輩を泣かせた奴らはぶっ殺す!」と襲撃の準備を開始。

 夜中に忍び込んでからガソリンを撒き、火炎瓶を20ダース程準備した。朝方の警備の警戒が一番薄まる交代時を狙って敷地内を放火、まずは天元様を一発殴りに来た、と。

 

(いやいやいやいやいや!なんでそうなった!?)

 

 普通に考えておかしいだろ!まず彼女がどうやって侵入したのかとか、どうして大量の爆弾を持っているのかとか色々疑問があるけど、一番気になるのは”どうしてここに来た?”彼女は関係ないだろ。

 普段からおかしい人だけど、先輩としてある程度まともな方だったはず。それに私達のため?普段から彼女をバカにしてきた私達のために怒った?そんなバカな……

 

「でも、やっぱり納得いかないわね。なんであんな奴等が生き残って、あの子が死んだのかしら。本当に役に立たないクズ共め……」

「待ってくれ。それはどういう意味だ?」

「だってそうでしょう。もっと人員を出せば良かっただけじゃない。そうすれば彼女は助かっていたかもしれないし。アイツらが殺したようなもんじゃない。それなのに、のうのうと生きているなんてありえないわ」

 

 吐き捨てるように言った彼女に言葉を失った。頭の中がぐちゃぐちゃになった。

 この人は何を言っているんだろう。何を言っているのか理解できない。いや、理解したくない。これはきっと悪い夢なんだ。そうに違いない。

 

「ねぇ、アンタもそう思うでしょう?」

 

 振り返った彼女はニッコリと笑ってそう言った。私は何も答えられなかった。

 それからどれくらい経っただろうか。気付けば日が昇り始めていた。

 

「ダメです。そんなことさせられません。それに、今回のことは私が未熟者だったからであり」バシン

「おい、それ以上私の後輩を悪く言ってみろ。次は殴る」

「い、いや私自身のことで」ゴッ

 

 馬乗りになった歌姫に無言で殴られ続けた。

 

「ふぅ、すっきりした。ごめんね、急に殴っちゃって」

「あ、いえ、大丈夫です。歌姫先輩」

「それじゃあ、私これから寝るから」

「え、あの、このあとどうするのでしょうか?」

「どうって、帰るに決まってるでしょ、天元様殴ってから」

「ダメですよ。そんなことになれば呪詛師になりますよ」

「いいのよ。仲間のために怒れない奴になるくらいなら呪詛師の方がマシよ」

 

 歌姫先輩と言い争いをしていると悟がやって来て、悟も殴られた。

 

『私の後輩を悪く言う奴は本人でも許さん』

 

 などと無茶苦茶だった。最終的に歌姫先輩の企みを知った夜蛾先生が先輩を殴って事態は収束した。

 

「何であいつらが悪く言われないといけない!そんなに大切な任務なら呪術師総動員で御三家の全員出動させれば良かったのよ!それなのに、高校生二人に責任押し付けやがって!!」

「気持ちは分かるがダメだ!」

「先生、私も天元様と上層部ぶっ飛ばしたいんですけど~」

「硝子も何を言っている!そんなのダメに決まっているだろ!」

 

 どちらかと言うと呪術師の女子は頭がおかしいのだろうか。二人とも目が笑っていないのだが。

 なんだか身近の女性に宿る狂気を見て、私から離れなかった笑顔や拍手がきれいに消えた。

―――――後日、私と悟は歌姫先輩と硝子さんの狂気が忘れられなかった。

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