side:夏油
あれ以来、歌姫先輩からの連絡が止まらない。まるで束縛の強いメンヘラ彼女だ。
一時間に一回はメールが来て、一日に一度は電話がかかって来る。出ないと出るまでかかって来て、一日無視したら銃で武装した先輩が上層部に乗り込んだらしい。
「歌姫先輩過激だよね~。生存連絡して出なかったら突撃とか」
「それだけ心配かけたってことだろ」
「まぁ、文字通り死にかけたからね」
歌姫先輩がありえないくらい優しく?なってから数日、私と悟は疲弊していた。
別に任務が辛い訳ではない。先輩からの圧が凄いのだ。
「今日はこの後皆で飲み会だっけ。私任務で出れないんだけど」
「俺も任務あるからパス。傑、歌姫さんの相手よろしく~」
「待て!あの方の相手を独りは無理だ!せめてどっちかはいないと」
「「でも任務だから」」
「わざとだろ!わざと任務を入れただろ!」
「「……」」スッ
「こっちを見ろ!!」
こいつら、あの闇女の相手を押し付けやがった……!
絶対に面倒くさくなる。何より怖い。
「じゃあ、俺はもう行くね?」
「待ってくれ!私を置いて行かないでくれ!!親友だろう!?」
「親友だからこそ、この役を任せたいんだよ。頑張ってくれ、傑」
「ふざけるなよ!?私はまだ死にたくないぞ!」
「……はぁ。わかったよ。俺も行けたら行くよ」
「っしゃあ!!」
だって行きたくないんだもん。仕方ないだろ。
それに先輩は私の生存確認もしたいみたいだし、行かないと後で何されるか分からない。最悪、監禁ルートもありえる。
「絶対だぞ?来なかったら黒閃ビンタだからな」
「はいはい、分かったって。さっさと行ってこい」
「頑張れー」
本当に分かってるのかコイツらは……。
しかし、私も行かなければ行けないので、渋々教室を出ることにした。
「……行ってきます」
「いってらー」
「逝ってら~」
くっそ、他人事だと思いやがって……!! 私が去った後、教室ではこんな会話があったそうだ。
「あいつら、仲良いな」
「そうだねー。最近ずっと一緒だし」
「付き合ってんのか?」
「いや、それはないでしょ。傑の性格的に恋愛とか無理でしょ」
「それもそうだな」
「早く付き合えばいいのにねー」
「全くだ」
―――――――――――――――
「それでさ~傑はさ~」
(あいつら来ねぇ!裏切りやがったな!!)
「私はあんたが死なないか心配だったんだよ」
「はい、すいません……」
「ほんとだよ。なんであんな無茶するかな」
「面目ない……」
現在、私の部屋にて飲み会の最中である。
先輩は既に(酒を飲んでいないのに)酔っており、完全に愚痴モードに突入していた。
「そもそもあんたは自分の術式が分かってなかったでしょ?なのに一人で突っ込むなんてバカじゃないの?後衛向きの術師が独りで戦うなんて」
「仰る通りです……」
「あんた、自分がどれだけ危険な状態だったかわかってる?一歩間違えたら死んでたのよ!?」
「返す言葉もございません……」
マジで勘弁して欲しい。これ以上は私の胃が持たない。
ただでさえ、この先輩のテンションにはついていけないというのに、説教タイムとか拷問以外の何物でもない。
というか、この人がここまで感情を表に出すのは初めてかもしれない。
いつもは無表情か、不機嫌な表情しか見せない人なんだが……。
(相当ストレス溜まってたのかなぁ……)
確かにこの人はいつも怒っているイメージがある。
大体の場合、怒った顔で私か悟に文句を言ってくるのだが、今回のように感情剥き出しなのは珍しい。
「だいたい、あんたは―――――うぅ……ぐすっ……」
「……え?」
しまった、感情が昂り過ぎたせいか涙が出てしまったようだ。
「あー、えーっと、大丈夫ですか……?」
「大丈夫じゃないわよ……ばか……!」グスン
うわぁ、めっちゃ泣いてる。流石に泣かれると罪悪感が湧いてくる。ここは慰めるべきだろうか……?
「あの、歌姫さん?その、なんというか、ごめんなさい」
「許さないからぁ……グスン」
「えぇ……」
いや、どうすればいいんだこれ。正直、泣き止んでほしいんだが、どうしたものか……。
「ど、どうしたら許してくれますか……?」
「……許して欲しかったら膝枕されなさい」
「……はい?」
今何て言ったこの人?聞き間違いじゃなければ、
「聞こえなかったの?膝枕されろって言ってるの!」
どうやら聞き間違いじゃなかったみたいだ。何故そんなことを要求してくるのか分からないけど、とりあえず聞いてみよう。
「えーと、どうしてですか?」
「いいから早くしなさい!」ゴスッ
そう言って彼女の拳は黒い稲妻のような呪力が迸った。
それは打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪みであり、平均で通常時の2.5乗の攻撃を叩き込む『現象』。あの悟ですら狙って出すことはできない黒閃。そして、黒閃を経験した者はそれ以前までと呪力の核心との距離に、天と地ほどの差があるとされる。
―――――それを飲み会の席でやりやがった。
そのまま無理矢理歌姫先輩に膝枕されると、彼女は私に抱きついて来た。
「ちょっ!?何してるんですか!?」
「うるさい、黙れ」
「はい…」
もうどうにでもなれと思いながら、先輩が落ち着くまで待つことにした。
すると先輩は嗚咽混じりの声になりながら話し出した。
「私だって心配してたんだから……!あんた達が死にかけたって聞いて、本当に心配したんだからね……!」
あぁ、そうか。この人は私を心配してくれていたのか。そう思うと不思議と心が温かくなった気がした。
「なんかあったら私に言いなさい。実力は劣っても先輩なんだから、なんとか考えてあげるから…」
(何でも…それなら)
「あの、一つだけいいですか?」
「おっ!いいわよ。何でも言いなさい!」
「これ食べてください」スッ
「これを食べるの?何か黒いけど」
まぁ、呪霊の塊だし。
「美味しいの?」
「はい。とっても美味しいですよ」ニコッ
嘘だ。吐瀉物を処理した雑巾の様な味がする。
「じゃあ、遠慮なく頂くわね」パクリ
「あっ…」
食べた瞬間、先輩の目からハイライトが消えたような気がした。でも大丈夫だ、きっと気のせいだろう。そうに違いない。うん、そうだと信じたい。
そんなことを考えているうちに、先輩はまた泣き出してしまった。今度は号泣しながら縋り付いてくる始末だ。しかも口から吐瀉物が垂れている。
(後輩から貰った物だから必死に食べようとしているのか……偉いな、この人)
泣きながら抱きつく姿は可愛いのだが、流石にこれは面倒くさいなと思ったので取り敢えず頭を撫でることにした。
「よしよし、大丈夫ですよー」
しばらくすると落ち着いたのか、先輩は大人しくなりどうにか食べきった。
「それ、私が普段食べている呪霊です」
「なんて物食べさせてくれたのよ!!」ゴスッ
「あだっ!?」
先輩による全力の腹パンを食らってしまった。かなり痛い。
「うぅ…酷いですよ…」
「うっさいわね!!元はと言えばあんたが変な物食わせたのが悪いんでしょ!!」
「だって、私が困ったら頼って良いって言ったじゃないですか。これをどうにかして欲しいんですよ」
「だからってこんなのを食べさせる必要ないでしょうが!!」
「いやぁ、どんな反応するのか気になって……」
「あんたのそういうところ本当に嫌い!!」
「えぇ……」
そんなに嫌がらなくても良いじゃないか……。
「はぁ、もう良いわ。それより、今後は気をつけなさいよ。それで味を良くしたいって事?」
「贅沢は言いません。今のままだと日に1~2個しか食べられないのでどうにかしてください」
「…分かったわ。1個貸して」
「どうぞ」
「はい、あ~ん」
「はぁ?」
「あ~ん」
「えっ、あの~これは何の冗談ですか?」
「いや、私程の美少女のあ~んなら食べられるようになるでしょ」
自分で言うか普通?しかし、目の笑ってない歌姫先輩に逆らう選択肢はないので素直に食べる。
「……あーん」パクッ
「どう?」
「……不味いです」ボソッ
「次行くわよ」
「あっ、あのもう大じょ」
「夏油、あんたの術式って『降伏した呪霊を取り込み自在に操る術式』よね?」
「?そうですけど」
「要は体内に取り込めばいい訳よね?」
なんだ?今、私は処刑されようとしているのか?走馬灯が見えてきたのだが。
「座薬って知ってる?」ハイライトオフ
「歌姫様!そこまでする必要は!」
「ダメダメ。上から入れられないなら、下から入れればいいのよ」
「お願いですからやめてください!」
「いいから脱げ!こんな可愛い先輩が入れてやるってんだから喜びなさい!」ゴスッ ゴスッ ゴスッ
ま、不味い。先輩が黒閃を連発してる。無理矢理入れる気だ……
悟、硝子、助けてくれ……
「お~い傑、遊びに来た…ぞ……」
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side:五条
俺は親友を見捨てない漢、五条悟。
俺が親友の部屋で見たのは……親友と先輩のお楽しみだった。
親友が大人への階段を上ろうとしている姿を見た俺は……
「し、失礼しました!」バタン
ドアを閉めると、静かにその場から立ち去ったのだった。
「まさか傑と歌姫が付き合っていたとは」
そりゃ、傑が死にかけたと知ったら心配するだろうな。俺だって、恋人が死にかけたと聞けば耐えられそうにないしな。
それにしても、あいつらも隅に置けないな。今度で揶揄ってやるとしよう。
そう思いながら自室へと戻ることにした。
歌姫に夏油に対する恋愛感情はありません。嫌がらせと日ごろの復讐も兼ねて『座薬の刑』を執行しています。