side:夏油
歌姫先輩に汚されそうになってから、先輩がよく分からない物を持ってくるようになった。
ある時は巨大タコ焼き(呪霊入り)、餅巾着(呪霊入り)、呪霊の唐揚げなんかを持ってくるようになった。私の部屋で、私の調理器具で呪霊を調理して食わせに来ていた。そのおかげか味が多少マシになり、一日に3個ほど食べられるようになった。
―――――食べないと肛門からねじ込まれるという恐怖もあったが。
「はい、あ~ん」
「あの、これは?」
「呪霊が不味いということからヒントを得たのよ。そうしたら子供が”薬が美味しくなくて飲み込めない”ということを思い出したの。そして、それを克服するための商品……
「凄いな傑。この人は俺たち以上の天才だぞ」
「他校の女の先輩におくすり飲めねであ~んしてもらう17歳男子高校生、か」
「硝子、その言い方はやめてくれ」
「そうだぞ、硝子。愛の形は色々なんだから」
「悟もだ。いつまで誤解しているんだ」
「とにかく!このゼリーで包まれた状態なら味は関係ないはずよ」
「いや、一回り以上大きくなって飲み込めないですから」
「じゃあ、下か…」
「頂きます!!!」
私にそっちの趣味はない!それなら顎を外してこのゼリー(呪霊入り)を飲み込んだ方がマシだ!
「先輩、傑が動かなくなりましたよ」
「今日はこれで5個目だし、静かに休ませましょう」
「そういば、歌姫先輩の術式でどうにかならないんですか?」
「私の術式だと通常以上に味が悪くなって1個で気絶しちゃったの。それより硝子の反転術式は?」
「味覚が呪霊の味に慣れる前になったことでダメージ増加してました」
「呪術師の女はロクなのがいない…」
「そういうあんたは何かしたの?」
「黙って見てるだけならサルでもできるぞ~」
「俺は全国各地の美味しい料理を傑に食べさせてるから!こういう時、五条家次期当主の肩書は使い勝手良いね」
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「大丈夫ですか、夏油さん」
「あぁ、七海か。大丈夫だ。天内と会ってきただけだ」
「それって臨死体験では?」
「それより3人は?」
「女子2人は天使の様な笑みで何かしていました。五条さんは怯えて『俺は悪くない俺のせいじゃない』などと呟いていました」
「七海、私を天元様の結果内に連れて行ってくれ。このままでは殺される!」
「流石にそこまでは…」
「頼む、行ってくれ!」
私は今、地獄にいる。きっと天内を助けられなかった件で私刑を受けているのだ。
先輩は料理を作ったらすぐに私を呼び、完食して感想を言うまで逃さない。必ず食べ終わるまで私の目の前で見届ける。
そして完食すると次の料理を作るのだ。しかも、私が一口食べるごとに先輩も食べて感想を言うのだ。
さらに恐ろしいことに、先輩が食べている時の表情がとても幸せそうで美味しそうなのだ。そんな表情をされると私もついつい食べてしまう。まぁ、先輩は「これは美味しい料理だから!」とアピールするために無理しているのだ。
それを知るとこちらも残すわけにはいかない。まぁ、そのせいで食事で臨死体験をしている訳だが。
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先輩に呪霊料理を作ってもらって一年ほど経った。あれからどうにか呪霊を食べているが、呪霊の味は一向に良くならない。
「なぁ、傑。最近お前、痩せたよな?何かあったのか?」
「いや、何でもないさ。ただ少しダイエットを始めただけだよ」
「嘘つけ。お前、この間ピザ食ってただろうが」
「悟、それは幻覚だよ。君は疲れているんだ。先生にも伝えておくよ。休ませるようにって」
「マジでどうしたんだ?俺に隠し事なんて寂しいじゃないか」
「大丈夫だよ、親友だろ?ほら、早く行かないと任務に遅れちゃうよ」
「……わかった」
私は痩せていく一方だった。食欲がなくなっていくのだ。もう何を食べても味がしない。なのに吐き気が止まらない。だが、それでも無理やり胃に詰め込む。少しでも悟から引き離されないように。
今日も今日とて歌姫先輩の呪霊料理を食べるのだ。先輩も暇じゃないから週末とかにまとめて作るのだから無理してでも食べないと。
「それで吐く気になった?」
「最初から吐く気ですよ。何なら現在進行形で吐きたいですよ」
「そっちじゃなくて、他に何か悩んでいるでしょ。早く言いなさいよ」
(もう呪霊料理は食べたくありません。美味しい料理を食たいです)
「こんなに可愛い美少女の手料理を食べているのに元気ないんだもの、何か困っているのでしょ?」
「呪霊料理を食べたくありません」
「それ以外で」
「特にないです」
「夏油、尻出しなさい」
「あっ、ありました!ぜひ相談に乗っていただきたいことがあります!」
呪霊の座薬だけは嫌だ。考えるだけで悍ましい……
「先輩は非術師について、どう思いますか」
「非術師?別に普通だけど」
「…………私は非術師の価値?みたいなナニカが揺らいでいるんです」
「価値?」
「非術師奴等は、術師が護るに足る存在なのか。天内…星漿体の護衛の件以降、分からなくなったんです」
「そう…」
「こんなこと考えることすら禁忌のはずなのに、私の醜い部分が時々囁いてくる……『猿を助ける必要があるのか』と」
「気持ちは分かるわよ」
「えっ?」
気持ちが分かる?こんなこと考える事すら正気じゃないのに?絶対に考えてはならないのに?
「私はあんたや五条みたいに強くないし、硝子みたいに治療できない。術式もサポート型で戦う時は素手か呪具だもの。威力不足で苦戦することも多いし」
(黒閃出せる人の拳なら十分な威力では?)
「それで上手くいかないと責められるし、上手くいっても責められる。依頼人をぶん殴ってやりたいと思ったことは100や200じゃすまないし」
「……」
「でもね、最近は思うのよ。『自分はこいつらの為に戦ってるのか?』って」
「どういうことですか!?」
「だって、私たちが命懸けで戦ったところで感謝されるどころか罵倒されて終わりよ。それなのに、なんで守らないといけないのよって思うわ」
「それは……」
「私は金のために戦っているけど、あんたは違うんでしょ。だったらあんたが悩む必要はないじゃない。あんたは自分が正しいと思うことをやりなさい。もし間違っていると思ったら、私が止めてあげるから」
「歌姫先輩……」
「それに、困ったらこれを思い出しなさい。
『呪詛師になったら皆と会えなくなって、皆を悲しませる』
これを覚えていれば大丈夫でしょ」
「そんなことでは!」
「あんたは硝子や五条、後輩や先生を悲しませるの?二度と会えなくなっても良いの?」
二度と会えない?親友とも、友人とも、可愛い後輩とも、尊敬する先生にも?
「嫌です!もう二度と会えないなんて耐えられない!」
「じゃあ、何が何でも耐えなさい。そして、また会うために頑張りなさい。あんたは1人じゃないんだから、みんなで協力して戦いましょう。私たちにはそれができるんだから」
そうか、私達には最強の悟がいる。
どんな怪我も治せる硝子がいる。
術式の効果を高める歌姫先輩がいる。
高性能な呪該を作ってくれる夜蛾先生がいる。
独りで戦ってきたわけじゃないんだ……いざとなれば皆で戦えばいいのか。
「……ありがとうございます。おかげで迷いが晴れた…‥とは言いませんが、気持ちが楽になりました」
「それなら良かったわ。これからも何かあったら相談しなさい」
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side:五条
俺は傑が心配だった。あいつはいつもどこか余裕があって、自分のペースを崩すことなんてないと思っていたからだ。
そんなあいつが最近になって追い詰められているように見えるようになった。明らかに顔色が悪いし、痩せていっている気がする。
だから、今日は傑を問い詰めることにしたんだ。でも、あいつは何も話さなかった。それどころか俺を追い払おうとしたんだ。
ふざけんな!親友が苦しんでるのに見捨てられる訳ないだろ!
『私は非術師の価値?みたいなナニカが揺らいでいるんです』
隠れて傑と歌姫の会話を盗み聞いた内容は俺の想像を超えていた。
かつて盤星教の信者を殺そうとした俺を止めてくれた傑の言葉とは思えなかった。
「俺は親友の事を何も知らなかった。最強を目指して、親友の事を見てなったのか……」
今の俺じゃ、あいつの力になれない。
ならせめて、あいつが俺を頼ってくれた時には力を貸そう。
「俺達は最強なんだ!もう二度と負けない……!!」