庵歌姫の凶行   作:大紫蝶

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 もうUA4000超えで驚いています。
 これからもよろしくお願いします。


呪霊の生まれない世界

side:夏油

 

 その日は普通の日だった。

 いつも通りの暑い夏の日、任務もなく暇だった私は自販機スペースで休んでいた。

 

(今日は歌姫先輩は来ない最高の日だ。硝子も悟も任務で一日いない。やることがないな)

 

 こういう日は嫌いだ。誰かと一緒じゃないと悪い事ばかり考えてしまう。

 

(非術師を守る意味があるのか?先輩には悪いが非術師を守る間接的な理由は出来た。だが、非術師を守る絶対的な理由はない。むしろ……)

「あ!!夏油さん!!」

「…灰原」

「お疲れ様です!!」

「何か飲むか?」

「え!?悪いですよ。コーラで!!!」

 

 灰原、私達の一つ後輩で七海の同級生。少々熱すぎるが、私達の可愛い後輩だ。

 

「明日の任務結構遠出なんですよ」

「そうか。お土産頼むよ」

「了解です!!甘いのとしょっぱいのどっちが良いですか?」

「そうだね…悟や硝子も食べると思うから甘いかな」

「了解です!!」

 

 本当に良い奴だ。私や悟なんかよりも何倍も良い奴だ。

 もし、そんな灰原が死んだら……

 

「…………灰原、今度の任務はどんな内容だ?」

「任務ですか?普通に二級の討伐ですよ。七海も一緒ですし問題ありません!」

(二級……それくらいなら問題ないはずだ。だが……)

「こいつを連れていけ」

「あの、これは?」

「私の取り込んだ呪霊だ。等級だと三級だが硬いから盾くらいにはなるはずだ。貸してやるから……無事に帰って来い」

「心配し過ぎですよ~。そんなに難しい任務じゃないですし」

「それなら良いんだ。だが忘れるなよ、失敗したら私達に押し付ければ良いだけなんだから」

 

 反転術式も領域展開もできない私じゃ無理でも、悟なら特級でも楽に倒せるだろう。

 私じゃ役に立たないだろうが硝子なら大体の怪我は治せる。

 別に命を懸けてに任務をこなす必要はないのだ。どうせ困るのは……

 

「君が夏油君?どんな女が好み(タイプ)かな?」

 

 突然ノースリーブの金髪が現れた。思わず、全員固まった。

 高専内では見た事のない女は片手で持ったジャケットを肩にかけ、もう片方の手を腰に当てた決めポーズを決めていた。

 私は見知らぬ女を警戒し、灰原は女をじっと見つめている。

 

「どちら様ですか?」

 

 自分でも驚くほど冷たい声が出た。校内で見た事のない人物を見ると、伏黒甚爾に襲撃されたことを思い出してしまう。

 

「自分は沢山食べる子が好きです!!」

「灰原…」

「大丈夫ですよ。悪い人じゃないです。人を見る目には自信があります」

「…私の隣に座っておいてか」

「?…ハイ!!」

 

 灰原はそのまま席を離れて帰ってしまった。

 こんな得体のしれない女と二人きりにしないで欲しいが、この女と殺し合うなら独りの方が楽だ。

 歌姫先輩の料理のせいで取り込んだ呪霊の数は2000程増えた。悟が来るまでの時間稼ぎならできるはずだ。

 

「後輩?素直で可愛いじゃないか」

「術師としてはもっと人を疑うべきかと」

「で、夏油君は答えてくれないのかな?」

「ますはアナタが答えてくださいよ。どちら様?」

「特級術師九十九 由基(つくも ゆき)って言えば分かるかな?」

「!!あなたがあの…!?」

「おっいいね、どのどの?」

「特級のくせに任務を全く受けず、海外をプラプラしているろくでなしの……」

 

 私や悟と同じ特級なのに仕事をしていないろくでなし。もし彼女が星漿体護衛の時にいてくれれば、天内理子は生きていたはずなのに……!

 

「私、高専って嫌ーい」

 

 いい大人が拗ねるとは。

 

「冗談。でも高専と方針が合わないのは本当。ここの人達がやっているのは対症療法、私は原因療法がしたいの」

「原因療法?」

「呪霊を狩るんじゃないくて、呪霊の生まれない世界を作ろうよってこと」

 

 九十九さんの話は呪霊が発生するメカニズム、そして呪霊の生まれない世界の作り方だった。

 呪霊とは人間から漏出した呪力が澱のように積み重なって形を成したモノ。

 つまり、呪霊生まれない世界とは『全人類から呪力をなくす』『全人類に呪力のコントロールを可能にさせる』の2つだという。

 

「前者は上手くいくと思ったんだけどね。モデルケースの甚爾以外いなかったから、私の今の本命は後者だ」

「……何故私にそんな話を?」

「知ってる?術師からは、呪霊は生まれないんだよ」

「!?」

「勿論、術師本人が死後呪いに転ずるのを除いてね。術師は呪力の漏出が非術師に比べ極端に少ない。だから全人類が術師になれば……呪いは生まれない」

 

 非術師がいなければ呪霊は生まれない?

 私の脳裏によぎる盤星教の信者(サル)達、奴らが存在しなければいいのなら……

 

「じゃあ、非術師を皆殺しにすればいいじゃないですか

 

 待て、今、私は何って言った?

 

「夏油君、それは”アリ”だ。というか多分、それが一番簡単だ」

「え、いや……」

「非術師を間引き続け生存戦力として術師に適応してもらう。要は進化を促すの、恐怖や危機感を使ってね」

 

 進化した人間だけの世界なら呪霊の生まれない?

 それなら悟も私も必要なくなるのではないか?仲間が死ぬ必要がなくなるんじゃないか?理子ちゃんの様な犠牲は生まれない?

 

「うちの夏油に変なこと吹き込まないでください、おばさん」

 

―――――――――――――――

side:家入

 

 それに気付いたのは偶然だった。

 任務が早く終わって帰ってきた私は自販機で飲み物を買おうとした。

 

(それなのに、まさか夏油の逢引現場を抑えられるとは)

 

 同級生の夏油が女の人と密会しているなんて……この録画している動画を五条と共有して、冥さんに高値で売らないと。

 しかし、あの女どこかで見たような……?そうだ思い出した!確か特級術師の九十九由基だ!

 

「で、夏油君は答えてくれないのかな?」

 

 何の話だろう?変な宗教かマルチにでも勧誘しているのか?それともヤバい薬とか?いや、どっちもないな。だって相手は特級術師だし。

 

(もう少し早ければ質問していた時から録画ができていたのに!)

 

 そんなことを考えているうちに話はどんどん進んでいく。

 だが次の瞬間、私の頭は真っ白になった。

 

「非術師を間引き続け生存戦力として術師に適応してもらう。要は進化を促すの、恐怖や危機感を使ってね」

 

 何を言ってるんだコイツ!!非術師を殺す!?そんな事出来るわけがないだろ!!!

 私の友人を呪詛師にするつもりか、あのクソババァ!!!!

 

「うちの夏油に変なこと吹き込まないでください、おばさん」

 

 もう我慢できなかった。急いで走り出し、二人の前に姿を現す。

 二人共驚いた顔をしているが知ったことではない。まずはあのバカ女の殴らないと気が済まない!!

 

「うちの夏油を呪詛師に引き込もうとするな。夏油、この呪詛師を捕縛するぞ」

「ちょっと待ってくれ。私は呪詛師じゃないよ」

「特級呪詛師の九十九由基、非術師を皆殺しにしようと画策するクソババァでしょ」

「違うって。それに私はおばさんって年じゃ」

「うるさい!さっさと出ていけババァ!」

「待って、誤解なんだってば!!」

 

 私はババァの襟首を掴み、引きずって行った。何か叫んでいるが無視だ、無視。

 

「夜蛾先生!高専に呪詛師が!」

 

―――――――――――――――

 

「何よその女、私の後輩を誑かして」

「そう何ですよ。あのクソババァ」

 

 その日のうちに歌姫先輩に相談したら五条タクシーで東京まで来てくれた。

 

「あの、俺はタクシーじゃないんだけど」

「「黙ってろクズ」」

「…すみませんでした」シュン

 

 何かタクシーが文句を言っていたが無視だ。

 

「それでその女、最後になんて言ったと思います?『星漿体のことは気にしなくていい。あの時もう一人星漿体がいたか、既に新しい星漿体が生まれたのか。どちらにせよ天元は安定しているよ』って」

「その女はぶん殴ってやらないと気が済まないわね」

「一応塩は撒きましたよ」

「そうね、次は警察に通報しましょう」

「そうですね」

「それと人間相手なら私のコレクションが役に立つはずよ。とりあえず小銃と毒ガスを渡しておくわね」

(俺、結婚するなら呪術師以外の娘としよう。呪術師の女は怖い……)

 

 流石は先輩だ。次はあの女をハチの巣にしてやろう。

 

「それと、しばらく夏油と一緒に任務に行ってくれませんか?私だと任務で外に出れませんので」

「そうね。またクソ女が来る可能性もあるし、そうした方が良いわね」

「いや、一応特級術師だから心配ないでしょ」

「「てめぇは黙ってろグラサン野郎」」

(あれ、何で俺が責められてるんだろう?)

 

 その後私と歌姫先輩は二人で飲み直しに行き、大いに盛り上がったのだった。

―――――翌日、先生に三人揃って怒られた。

 

 

 

 

「だから、なんで俺まで怒られるんだ……」

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