side:家入
「人生やり直すのに、遅すぎることなんてないんだ!」
夜蛾先生がかなり聞き飽きた名言を言った。その言葉は正しいと思うけど……
「何それ、そんなクソの役にも立たない言葉聞きたくないんだけど」
このクズは例外だと思う。
「五条!私は決意した。お前を真人間にしてみせると!!」
夜蛾先生がビシッと五条に人差し指を突きつけた。五条が目をぱちくりさせている横で、傑も大きく頷いていた。
「確かに、悟の調教はしっかりやらないといけませんね」
「でもこのクズの更生なんて不可能ですよ」
「大丈夫だ。呪術が聞かなくとも洗脳の手段は大量にある。最初に歌姫から借りた『洗脳の極意』『サルでもできる拷問術』『白魔術入門編』辺りを試す」
「ダメだよ?拷問なんて拷問等禁止条約で禁止されているからね?」
何か悟が無駄な抵抗を始めた。
「大丈夫だよ、悟」
「硝子…!やっぱり、俺の味方は!」
「ちょっと強めの
「誰か!誰か俺を助けて!!」
「でも真人間になった悟は興味ありますよね」
「きっと私達に飯奢ってくれて、財産も全額くれるんだよ」
「その上、無償で人々を助け続けるんだろうな」
「「「楽しみだな~」」」
「今の俺全否定!?」
「「「どこに評価される点があるんだ?」」」
「皆嫌いだ!」
悟が逃げ出そうとするが、それは不可能だ。
私は悟を抱きしめる。
「なんで私から逃げるの?私のこと嫌いなの?ずっと一緒にいてほしいのに……」
「悟、女性にこんなこと言わせてどうする」
「全くだ。お前をこんなに思ってくれる女性はいないぞ?」
「硝子の様な美人に思われるなんて羨ましいな~」
「それはこいつが俺の首に突きつけている刃物を見てから言え!というか、なんで天逆鉾を持ってる!?」
「えっ?護身用だけど」
「もうやだ、こいつら怖い……何で友人を殺しかけた凶器を持っているんだよ……」
「安心しろ悟。お前にはまだ更生の余地がある。俺達が救ってやるからな」
こうして、夜蛾先生と私達による『五条悟真人間化計画』が始動したのだった。
「『始動したのだった』じゃねぇよ!俺はマトモだ!」
「戯言はどうでもいい」
「戯言??今戯って言ったよね??」
「今から五条を真人間にする」
「だから、俺は普通に」
「とりあえずボランティア活動でもさせましょう。きっと穢れた心が洗われますよ」
「傑?俺達、親友だよね?親友の心が穢れたなんて言ってないよね??」
「私は五条の肉体を呪骸にする方法が良いと思うのだが」
「先生!そんな非人道的な行為は止めましょう!きっとピクニックに行けば正気に戻ります!!」
「『馬鹿は死ななきゃ治らない』って言うし、一度臨死体験させたら?丁度
「待ってろお前ら!今すぐ覚醒した俺の反転術式で元に戻してやるからな!!」
「よし、まずは呪力封じの手錠だな」
「あ、その手錠なら、この前間違って買った奴あるからあげるね」
「ありがとう、硝子。じゃあ早速着けるか」
「ふざけんなぁああああああああ!!!」
―――――――――――――――
side:夏油
「すまない、悟。私にもっと力があれば、君を救えたのに……」
「大丈夫だ。俺は最初から問題なかったし、お前らも正気に戻ったし」
「惜しかった。あと少しだったんだ」
「あぁ、もう少しだったのになぁ~。まさか急患が来るとは思わなくてさ~」
「そうだね。あれさえなければ、今頃皆で楽しく暮らせていたのにな」
まさか急患が来て硝子が抜けるとは思わなかった。そのせいで悟は逃げたし。
「きっとその楽しい暮らしは俺の犠牲の上でしか成り立たないと思う」
「まぁ、確かにそうかも」
「そこは否定しろよ」
「そんなことより、私達も3年だ。今以上に強くなるための方法を見つけないとね」
悟の調教は失敗知ってもどうでもいいが、今以上の力を手に入れる方法は絶対に見つけ出さねば。
「でも、もうこれ以上強くなるのは難しいだろ」
「私は医学の勉強に医大に行く、悟は反転術式を他人にかけられるようにするとか?」
「傑も呪霊を取り込むくらいだろ。まぁ、地道にやっていこうぜ」
(今以上に、呪霊を取り込む?それだけ?)
私の術式では呪霊を取り込むくらいしかできない。それも、私より弱い呪霊だけだ。私はこれ以上強くなれないのか?
(悟の成長はあり得ない程に早い。私との距離は広がる一方だ)
全速力で走り続ける私と軽く散歩している悟、それなのに私は悟に引き離されている。
術師は才能が8割というが……これでは努力なんて意味がないではないか!
「後は強い呪具でも手に入れるとか。天逆鉾とは言わないけど、特級呪具なら俺達も強くなれるだろ」
「後は領域展開とか?悟はできるから、私と傑の話だけど」
「それができれば苦労は……はぁ?」
「どうした、傑?」
どういうことだ、私の呪霊が祓われた?呪霊を索敵に出した覚えなんてないんだが……っ!
「悟!今すぐ2年の救援に行ってくれ!あいつらが危険だ!!」
「いや、いきなり何?」
「傑も疲れてんじゃない?ここ最近暑いし」
「違う!2年に渡した呪霊が祓われた!」
低級とはいえ硬さだけはある呪霊だ。しかも飛行能力まであるのだから簡単に祓われる訳ない。二級呪霊程度ならなおさらだ。
「悟の術式ならすぐに行けるはずだ!!」
「いや、そりゃ何かの手違いがあっただけだろ。お前は心配しすぎ」
「硝子!夜蛾先生に『五条悟で作った呪骸』の作成依頼を……」
「待ってろ七海!灰原!お前たちは命に代えても守る!!!!」
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あれから2年の救援に駆けつけた悟が帰ってきた。後輩達は生きていた。
「ごめん。腕は取り戻せなかった」
話を聞くと任務に現れた呪霊は最低でも一級レベルの呪霊だったらしく、おそらく土地神だったらしい。
「最初は祓うつもりでした。ですが、夏油さんの言葉を思い出してお借りした呪霊を盾に逃げました。その際、灰原は腕をやられてしまい……」
「二人は悪くない。私が一級呪霊を貸していれば!」
「そこまで。私の話を聞いて」
比較的軽傷だった七海から任務の話を聞いていると、灰原の治療をしていた硝子が出てきた。
「灰原は無事ですか!?」
「大丈夫だ。ただし、術師としては引退だね」
「「「ッ!」」」
「これ以上は無理だ。右手を欠損、足にも障害が残るよ。補助監督としても働けるか分からない」
「そんな…‥」
七海が崩れ落ち、悟も絶望していた。硝子の様子を見ても相当疲弊している。
「そうか、なら仕方ないな」
「!傑、その言い方は!」
「今優先すべきは灰原の未来だ。呪術師として活動できない以上、私達ができるのは灰原に寄り添うこと。そして灰原が社会復帰できるように手助けすることだ」
「そうだね。悟、五条家の伝手で良い義手でも探して」
「……そうだな。俺もできる限りのことをするよ」
「七海は灰原についてあげて。多分、目を覚ましたら混乱すると思うから」
「……………分かりました」
私達は呪術師として引退することになる灰原にできる限りのことをする。それくらいしかできることはないのだから。
―――――――――――――――
あれから灰原は転校した。予想に反して明るかった灰原は悟の用意した義手を付けて笑顔のまま転校した。
そして同期を失った七海は休学した。
「何が最強だ。無能な自分が笑える」
悟に頼らなければ後輩を助けられず、硝子に無理をさせて疲弊させる。それでも助けられなかった灰原に気を使わせ、友を失った七海に決して癒えない心の傷を負わせた。
「だが、分かったことがある。私の呪霊は術師の肉壁になれる」
もっと強い呪霊なら術師は楽に任務がこなせる。生き延びることができる。みんなに無理をさせなくて済む。
「私は何もない。悟の様な
私はまだ、戦える。呪霊玉も取り込むことができる。
「少しでも多くの術師を助ける為なら、何でもできる」