Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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十二話

 ジャグラの新たな一面をこれ以上無いくらいの迫力で思い知った俺は、その隣に立ちながら目の前のサイバーパンクたちを見て……この街の縮図を見た様な気分を味わっていた。

 自分よりも年上で図体のでかい男に対して、啖呵を切ったジャグラはその背丈以上に大きく見えた。

 寝床の洞窟で丸くなって寝ていた猛獣のタイガーが、起き上がって本来の本性を露わにして吠えたかの様な光景。

 それを目の前で見てしまった俺は、その姿に、この部屋の頂点に立ったジャグラに憧れを抱いた。

 だって、だってよ、どうしようもなくその姿は格好が良かった。

 幼い子供の様に見えるその姿は仮初で、初見の相手を騙すための罠でもあるのだと思い知った。

 始め、この部屋に来たメインは明らかに隣のドリオっていう女性と同じくジャグラを舐めていた。

 そして、火蓋が切られた瞬間にこれだ。

 サイバーテックの腕の残骸が床に転がっていて、優雅に座るジャグラだけが勝利者だ。

 正しく格上、上下関係をこれでもかと躾けられたと言って過言ではない。

 力ある者だけが生き延びれるのがこの街なのだと、ジャグラはその小さな身体で体現していた。

 

「へぇ、過分な装飾どーも。どうやら処理落ちはしなかったみたいだな、優秀で何よりだ」

「……冗談じゃないわよ、あんな絨毯爆撃をシェルター無しで浴び続ける心地は最悪だった。……暫くはブリーチはしたくないわね、悪夢を見そうよ」

「ふぅん、サイバーパンクでもそこそこなネットランナーにそこまで言われるとなると、加減して正解だったな。因みに後学に聞きたいんだが、どれくらいで処理落ちしかけた?」

「はぁーー……。割といっぱいいっぱいだったわよ、近くにルーシーが居て分散しなきゃとっくに脳が焼けてるわよあんなの」

「ふむ、なら、殺して良い奴になら手加減しなくて良さそうだな」

「メイン、ほんとマジで敵対は止めてよね。脳をじわじわとぐつぐつと煮込まれて死にたくないから私」

「……ああ、悔しいが格付けは終わってる。今回は此方の惨敗だ」

 

 真っ赤なネットランナー服に身を包むキーウィと呼ばれた女性が、心底嫌そうな声を出してメインに口出していた。

 すっかりと疲れた様子のメインがくたびれた素振りを見せ、再び溜息を吐いていた。

 ん? ジャグラに脇腹を小突かれ、そちらを見ると壁に立てかけられたパイプ椅子を指差された。

 あー、はいはい、配れって事ね、了解了解、働きますよ。

 全員にパイプ椅子を配り、ついでに俺もちゃっかり椅子を使おうとして座ろうとしたら、もう一回小突かれた。

 座るなって事かよ、と見やれば顎で後ろを指され、見やればパイプ椅子よりも上等な椅子が置かれていた。

 こっちに座れって事ね、ありがとよ、……うちのソファよりも質が良い気がするんだがこの椅子ぅ?

 

「さてと、取り敢えず順番に処理していくぞ。メイン、もう一度言うが取引額は幾らだ?」

「……はぁ、三万エディーだ。ドリオに一万貰っているから差額で良い」

「アホか、このテックがそんな安い訳無いだろ、ドアホが。はぁー……、ほんと、お前みたいな奴に渡らんで正解だったわ。良いか、このテックは現在進行形で最高峰のサンデヴィスタンだ。装着した人間の人間性を食い物にするクレイジーテックではあるが、その分の性能は保証されているんだよ。オラッ、十万デジタルエディーのビンタだ、喜べ」

「はぁあああ!? 嘘だろ、マジかよ、マジで入金されてやがる……」

「じゅ、十万エディー? ははは、随分とご機嫌な宴が出来そうだな、なぁ、リーダー?」

「お前はただ酒飲みたいだけだろ糞兄貴……。デイビッド、お前、やべー奴の部下になってんな……」

 

 ほんと、それな。

 軽々しく学費の数倍のエディーを投げたジャグラの懐具合がマジで分からねぇ。

 さっき、武器販売サイトが云々って言ってたし、出かける前のあの羅列を見る限り、テッキーとしての腕も超一流って事なんだろう。

 数万エディーが常々遣り取りされてる世界に居るであろうジャグラとあの時出会えていてほんっと良かったと思う。

 そう考えると俺の千エディーの時給もこいつからすれば端金だったって事なんだろうなぁ……。

 考えれば考える程、社会的地位の揺るがない重さってもんを思い知る。

 ……ごめん母さん、これからはもっと労う事にする。

 めちゃくちゃ剣呑な空気だったと言うのに、今も簡易ベッドですやすやと寝ている母さんの疲れ具合に頭が下がる。

 

「はい、これでグロリアさんの取引は終わりな。んで、次。グロリアさんを救出しに行ったデイビッドの邪魔をしやがった件。それと、おでこの傷は……デイビッド、どうしたい?」

 

 しっかりと俺の額の傷も気づかれていたらしい。

 それをやったレベッカが状況の悪さに冷や汗をダラダラにして口を結んだ。

 俺は咄嗟に謝罪のジェスチャーで解決策をレベッカに伝え、それに相乗りする様に口を開いた。

 

「んぐっ、……っ! デイビッド、ごめん」

「いや、あの状況ならしゃーない、許すぜ」

「なら良し。で、先の一件だが、デイビッドはサイバーパンクとしては駆け出しのド素人でな。初めてのお使いだった訳だ。概ね無傷で帰って来れたのはお前らのドンパチの陽動があったから、と言う事にして不問にする」

「はぁー……、恩に着る」

「いやなに、オレとしてもそこのネットランナーの横槍が無きゃ、現地に行って全員惨殺死体にして来ようかなと思ったしな。最終的に手間が省けたから問題無しだ」

「それは本当に問題無しで良いのか……?」

「おいおいデイビッド、死んでも社会の傷にならない奴はこの街では居ても居なくても変わらねぇんだよ。だからこそ、サイバーパンクだなんて傭兵業が罷り通るのさ、この街ではな。特に、トラウマ保険に入れてもいないような、社会の土台を作る歯車層は特にな。そう言う奴が送られる病院が実は企業に擦り寄るスカベンジャーのアジトだって知らないだろお前。もし、グロリアさんが交通事故にでも遭って死に掛けたらそう言う場所に送られるんだぞ」

「……マジ?」

 

 思わずすやすや眠る母さんの方を見てしまう。

 スカベンジャー、ジャグラが言うにはサイバーウェアと人体売買のやべー奴ら。

 それの巣窟に送られる? 冗談でも笑えない内容だが、ジャグラの顔が笑ってないのでマジもんのマジな話だこれ。

 

「マジだよ。だから、オレみたいな名医もやれちゃうリパードクが重宝されるんだよ。ぶっちゃけ、脳と薬物以外なら割とマジで復活させられるからな。勿論、心臓をぶち抜かれた後でもだ。最低でも十分、長くても三十分くらいなら後遺症ガチャを引きつつ生き返らせられる」

 

 ……俺の上司が規格外過ぎる件について。

 えぇと、凄腕リパーで、名医で、超一流のテッキーで、切った張ったの殺し合いもできて、タイガークロウズのバックもある。

 むしろ、お前何が出来ないんだ? と思えるくらいに凄い奴に俺は視線を向けてしまう。

 

「……料理が苦手だな、ぶっちゃけ食材の品質的な理由だが。これで良いか?」

「何で視線から考えてる事分かんだよ……」

「はんっ、てめぇの自慢話してた後だぞ、こいつ何ができないんだ、なんて思ってるだろうとカマかけただけだ」

 

 こ、これが超一流のサイバーパンクって奴なのか……、なのか?

 メインたちを見ればどいつもこいつも揃って俺を同情する様な視線を向けていた。

 いやまぁ、うん、超一流の上司が居るって部下からしたらめっちゃくちゃ重いもんな。

 でもまぁ、こいつめっちゃくちゃ優しいからなぁ、割と優遇もされてるし、母さんの一件も無償で助けてくれている訳だし。

 

「と言うか、そもそもの前提がちげぇんだよ。オレは最先端を突っ走るテッキーであって、リパーとしての腕や医療の技術ってのは後付けだ」

「ネットランナー顔負けの技術は?」

「あん? あんなのただの付け焼刃だ。裏を返せば力圧しでしかねぇ。単純な計算問題で、誰もが頭を使う所をハイスペックなパソコン使って横着してるだけに過ぎねぇよ」

 

 やれやれと言った様子のジャグラにとんでもないな、と思っていると視界に居たキーウィと言う人がマスクを付けてても分かる蒼い顔になっていた。

 どうやら先程の言葉にそうなる理由があったようだった。

 

「あんた、まさか……、《メガコン》を使ってたって言うの? このご時世に……?」

「《メガコン》?」

「へぇ、博識だねぇ、ネットランナーの端くれと侮ったか。そうだよ、オレは《メガコン》を所持している。当時のよりも規模は小さいけどな。最新鋭のデバイスを直列繋ぎした量子コンピューターを百台使った傑作だ」

「……道理で手加減したって言ってた訳だ。やろうと思えば、一瞬で処理落ちどころかパンクして爆発するような情報爆弾をぶち込めるような機材を持ってたのね……。メイン、本当にこの人には敵対しない方が良い。この人と戦うってんなら私は直ぐに逃げるわ、全てのネットから断絶して、電波の無い様な場所に高跳びする」

「そこまで言うのか? その、なんだってんだその《メガコン》ってのは」

 

 メインの若干世間に取り残されたおっさんの様な言葉に俺らは頷く様にして首を傾げていた。

 頭痛が痛いと言った重複した様子で、キーウィがジャグラを見て渋々と口を開く。

 

「《メガコン》ってのはね、昔にあった企業戦争の時代に活躍した中小企業連合こと《メガコープ》が持ち出した量子コンピュータ群によって構築された一つのコンピュータの事を指すのよ。当時台頭したネットランナーの脳を文字通り情報爆弾で焼き払って、ネットに接続していた全てをEMP宜しくぶち殺した情報兵器。全方位に向かって過密な情報データの隕石が降り注いだと聞くわ。二十年代と言うとバートモスの電子恐慌が話題に上がるけど、そのカウンターとして放たれたのが《メガコン》なのよ。当時、バートモスによってばら撒かれた電子ウイルスは莫大な感染を引き起こして恐慌を成した。そんな中、唯一残されたアナログなパソコンを用いたデータクラッシュによる何処かに居るバートモスへのカウンターが実行された。ウイルスやマルウェアは文字通り駆逐されたのよ。全てを焼き払って、ね。もっとも、深い所に居たのは残っていたりしたそうだけれども。言うなれば、《メガコン》はアナログの極致。その後、当然ながら《メガコン》は禁止された。まぁ、当然よね、ネットランナーからすれば、逃げ場の無いシェルターの中で熱核と一緒に居る心地って言えばこの絶望感が分かるかしら」

 

 キーウィの説明に誰もが青褪め、禁止物を当たり前の様に運用しているジャグラの恐ろしさが露わになった。

 今時ネットに繋がっていない人間は居ない。

 今の説明が本当ならば、マジモンの電子戦術核をジャグラは保有していると言っているようなものだ。

 ……こいつ、そこらのテロリストよりも恐ろしい事してないか?

 

「ま、オレの持ってる《メガコン》は流石に企業ビル一つを使った最大級規模の物じゃねぇから、今のネット社会を壊す程の威力は出せねぇよ。精々が一企業のサーバーを木っ端微塵にデータクラッシュさせるくらいのもんだ」

「いや、充分過ぎるでしょ……、止めてよね、本当に。気付いた時、生きた心地しなかったから」

「今回の件は丁度良い試金石になった、キーウィが並み以上のネットランナーで良かったな」

「……はぁ、マジで近くにルーシーが居てくれて良かった。あの子が居なかったら今頃私の頭が情報パンクしてクラッシュしてた……」

 

 へなへなと椅子の背凭れに倒れたキーウィを誰もが可哀想な者を見る目で見ていた。

 それを成した加害者と言うと、口角を上げて無表情に笑っていた。

 ……こっわ、絶対にジャグラと敵対しないようにしよう、そう心から思った瞬間だった。

 

「と、言う事で良い感じに縁が出来た事だし、仲良くしようぜー、なぁ?」

「……ハイ、ヨロシクオネガイシマス」

 

 あんなにもガタイがあって大柄な男性である筈のメインが小さく見えてしまうくらいに格差がそこにあった。

 可哀想な事になっているメインへ同情の視線が集まる。

 そんな事は知った事では無いと言った様子のジャグラは良い笑顔で言った。

 

「と、言う事でデイビッドにサイバーパンクってのがどう言うものかを教えて欲しいんだわ。幾ら欲しい? 言い値で依頼してやるよ」

 

 が、次のジャグラの言葉で同じ側に陥るだなんて思っても居なかった俺にも同情の視線が集まった。

 確かにサイバーパンクになりたいって言ってたけども、こんな始まり方は思っていなかったぜ……。

 レベッカのドンマイ☆と言った具合の慰めに、俺は内心でさめざめと泣くのだった。




メガコンの件は二次創作お約束の原作改変です、プランBが進行中とも言う。
ついでに今作における冷凍睡眠装置に隠れていたバートモス君の死因でもある。
直近の第三次企業戦争の終止符が熱核合戦であった事で、その光景を見ていた彼らが脳を焼かれ、発狂した結果の産物。
せや、ウイルスも焼き払ってやればいいんや!の精神でぶっ放したそうな。
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