Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
ふーむ、やっぱりこの街一度全部焼き払った方が良いんじゃないかな、と思うくらいの真っ黒具合に辟易する。
スカベンジャーのアジトを幾つか追加でメインたちに潰させ、手に入れた情報を閲覧していた。
デイビッドも《エッジランナーズ》の一人として活躍し始めているようで、アニメの時よりも活き活きとした様子で依頼に繰り出していた。
……流石にキルスコアが二桁後半に差し掛かったのは正直すまんとは思っている。
けれども、ナイトシティの悪人を始末するヒロイックなチームとしての体裁を取るためには必要だった。
案外、原作Vが次々とNCPD案件を片付ける様に、街の犯罪率が物理的に下がるかもしれないな。
今のところ、何処のギャングからも鼻摘み者にされているスカベンジャーどもを標的にしているので、他のシマの横槍にならぬように調整もしていて目の敵にされる事は無かった。
基本的にカタギの人間、つまりは一般人の弱者を搾取しようとしている糞共を狙っているので感謝して欲しいくらいである。
「……だがなぁ、若干、企業の動きが怪しいんだよなぁ。スカベンジャーとずぶずぶの関係だったところとか」
アラサカやミリテクよりも規模は小さい中小企業に当たる企業で、業務内容がスカベンジャーの活動ありきだったものもあったりとコールタールの様なねっとりとした黒さに吐き気が出る。
例えば、アニメでグロリアさんが運ばれる予定だったサントドミンゴの端にある企業附属の病院とか。
原作では『依頼:カッコーの巣の上で』で訪れる場所なのだが、この病院は整形外科や内科では無く精神病院である。
そう、精神病院だ。間違っても交通事故に遭った人物が運ばれてくるような場所では無い。
これがどう言う事かと言うと、トラウマ保険に入っておらず、事故で死に掛けのグロリアさんを精神病患者と偽って税金対策のためのノルマとして此処に送られた可能性があると言う訳だ。
因みに、此処に繋がっている企業はバイオテクニカであり、患者を使って新薬などの人体実験をしていた事が分かっている。
……尚、原作でパソコンを覗くとバイオテクニカとずぶずぶな証拠として、妊婦の患者が欲しいと言う内容に対し、一人しか居ないけど今月中に三人くらい増やせるだなんて糞みたいな話を見れたりする。
で、だ。
アニメにおいてデイビッドは最低金額で行なえる火葬サービスを利用し、その日の内に遺骨を持って帰っているのだが……。
本当にそれ、グロリアさんだったのか? と言う恐ろしい疑問が浮かぶのだ。
新薬の投薬で死んだ遺体と入れ替える事なんて簡単にできてしまうし、何よりもまだまだ若い女性の身体と言う事もあって使い道も多い。
グロリアさんの身体が正面衝突であった事故で潰れていた描写は無い、つまりは衝撃によって投げ出されただけの可能性が高い。
病院でグロリアさんが死んだ事を伝えられた時に、デイビッドは以前に命に別状は無いと言う診断結果を告げられていた事を口にした事も考察の理由に含まれる。
まぁ、病院側の主張が正しいなら勝手に投与した新薬の影響で死にました、と言う可能性も非常に高いが……。
この病院がどれだけ恐ろしい場所であったかはもうお分かりだろう。
何せ、原作では此処にNCPDの女性が口封じのために強制入院させられ、それを助け出すのが依頼の内容だったくらいにやりたい放題している訳だ。
それほどまでにバイオテクニカと言う企業がこの街において確かな地位を築いている理由になる。
なので、そんな場所あっても無くても無辜な市民には関係無いよな、と言う事で潰しておいた。
「いやー、傑作だったなぁ。手術台で刻まれてる患者の横で主治医がバラバラにされてるんだもんな。データを回収して見てみたが案の定真っ黒だったし。全員火葬しておいたから今頃あそこ詰まってるんだろうなぁ」
でもまぁ、そんな場所を容易く作れてしまうのがこの街の悪い所だ。
アラサカだけじゃない、ミリテクも、バイオテクニカも、この街で栄える企業全てを燃やしてやらねばならない。
悪い部分を全部切除したら、この街も少しはすっきりするだろう。
嗚呼、今ならジョニー・シルヴァーハンドが言っていた事が理解できる。
企業に搾取され、企業の奴隷にされ、企業の足場にされている。
それからの脱却こそが自由への駆け道なのだとはっきり分かる。
黒く濁った水槽で息を出来る奴は限られて、生きようと真面目な奴ほど痛い目を見る社会なんて、とんだディストピアだ。
デイビッドの成長を目の当たりにしつつ、こうして裏方をしながら暗躍するってのも楽しい物だなぁ。
なぁに、死んでも良い奴なら何人死んでもカウントはゼロのまんまだ。
何せ、そいつらは無辜な市民ではないからな、殺して良い奴だ。
……なんかやけに物騒な考えしてないか?
「……正気に返れ馬鹿っ!?」
変な方向に思考が向いている事に気付けたオレは咄嗟に顔を殴った。
リアルスキンを張ってあるとは言えどもクロームの塊だ、地味に痛い。
じんじんと痛む頬のおかげで生きている心地と言う物を思い出す。
天秤をフラットにしろ、どちらにも傾けるな。
「ふぅー……、はぁー……。……どうやって誤魔化そう、これ」
取り敢えず湿布張っとくか、こんなのでバウンスバックなんて使ってられるか意味が無い。
アレは緊急の痛み止めであって即座に完治してくれるような万能医療道具だなんてものではない。
あー……、まだ開店前で本当に良かった。
いや、むしろこんな顔を見せる方がまずいか?
まぁ、どうでも良いか、気にする奴も居ないだろうし。
寝相が悪くてベッドから落ちたとでも言っておけば誤魔化されるだろう、多分。
もっとも、オレの部屋にあるのはベッドではなく畳と布団だけどな。
深く息を吐いて、吸って、心の安寧を取り戻す。
まさかと思うが今のがサイバーサイコの前兆だったりしないだろうな。
サイバーウェアだなんてそんなに……がっつり入れてたけども、人間性を解離させるような使い方はしてない筈だ。
うーむ、となると環境か。
あ、そういや、デイビッドたちが家から消えてそこそこ経つな。
もしかして、それかぁー? 人との関わりが薄くなったからとかか?
いや、毎日客と接してるからそこらへんは足りていると思うんだが、はてさて。
「おーっす、ジャグラ、バイトしに来たぞーって、どうしたんだその顔!?」
あちゃー、もうそんな時間だったか。
今日はメインたちへ依頼を振っていないのでデイビッドがクリニックに居る日だったな。
左の頬に貼られた湿布が気になるのか、やけにあわあわしていたデイビッドを見ていたら笑いが込み上げてきた。
「おはようデイビッド。気にするな、朝方の寝つきが悪かったってだけだから」
「そうなのか? 心配したぜ、ジャグラって身体細いからなぁ、ちゃんと運動してるか?」
「……余計なお世話だ馬鹿野郎め。おらっ、さっさと着替えて支度しろ」
「わ、わぁーったよ。まぁ、何事も無いなら良いが、気を付けろよ?」
「はいはい」
何に気を付けろってんだか全く。
……はぁ、少し気分が晴れたな。
こいつの能天気な明るさは時には役立つな、やれやれ……。
暫く精神安定剤としてこっちに勤務させとくか。
今思えばこいつも相当な人数殺してるからカウンセリングしておいた方が良いだろうし。
健康診断とでも伝えて近々するかー。
……そういや、メインもサイバーサイコシス発症してたし、全員診断しておいた方が良さそうではあるな。
制服に着替えたデイビッドも戻って来たし、開店するかねぇー。
ぽちっと店の障壁を上げて仕事を始めたのだが、どいつもこいつも頬の事を聞いて来る。
まさかそこの餓鬼が、だなんてデイビッドに視線を向ける奴も居て昼頃まで面倒ばかりだった。
「お前もお揃いになるか?」
「い、いぇ、すみませんでした姐さん……」
と黙らせ、寝相が悪かったからだと言い付けておいた。
全く、なんでこうこいつとオレを結び付けたがるんだこいつらは。
確かにデイビッドは同年代の少年でクリニックに入り浸ってて装備やらのお節介も焼いてやってるが、此処で雇ってる部下だっつーの。
……まぁ、距離の詰め方が性急だった事は否めないが、ただの青田買いだろうが、早合点すんなっつーの。
だなんて、気を抜いたのが悪かったのだろうか。
デイビッドが次の客を施術室に入れたのだが、その客が両腕からマンティスブレードを展開しながらオレをぶち殺しに掛かった。
「……はぁ、掃除が大変だな」
まぁ、サンデヴィスタンを起動してモノワイヤーで両腕の肩口辺りを切り落としてやったが。
そして、追従するように同じくしてサンデヴィスタンを起動したのだろうデイビッドが無の表情でそいつの腹部に蹴りを入れ、くの字に曲がったところを背中側から追撃して地面に叩き付けた。
更に、髪を掴んで床へと顔を叩き付けてテイクダウンまで取っていた。
先にオレのサンデヴィスタンの稼働が止まり、世界が元に戻るが芋虫と化したこいつに出来る事はもう無い。
「ぐっ、がぁ!? な、何がっ、ぐぉあ!? あ゛っ、あぎぃっ、い゛、い゛て˝ぇ˝っ!?」
「あぁ、喋らなくて良いぞ。どうせお前に聞きたい事なんざオレには無いからな」
「くそっ、何がガキを痛めつけるだけの仕事だっ、こんなの聞いてぐぼぁっ」
「聞いてねぇっつってんだろ。羽音を聞かせるな耳障りだ」
見た感じシックス・ストリートに見えるが、両腕のマンティスブレード、腰に移植されたケレズニコフを見るに、組抜けしてスカベンジャーになった類の奴だな。
……っち、だくだくと汚い血で床を汚しやがって、サイドテーブルの真ん中に置いていたバッテリー式アイロンを手に取り傷口に押し当てる。
肉が焼ける音と異臭をさせながら絶叫しやがったせいで、待合室に居たうちのタイガークロウズの奴らがぞろっと入って来ちまったじゃねぇか。
もう片方も傷口を焼いて止血し、精根尽きたと言う感じのこのゴミを下っ端ーずに任せる。
すると、治療が必要だった奴以外がスカベンジャーの男を引き摺って行き、後から入って来た二人が床の掃除をして一礼して出て行った。
施術室を無菌室状態に変えて除菌しつつ、飛び散った血を掃除する羽目になったオレとデイビッドは死んだ目で後処理を終えた。
「はぁー……、どうも面倒な事になりそうだな」
「どう考えても最近の依頼のせいだろ。どれもこれもスカベンジャーのアジトと構成員を殺す奴ばっかだったし」
「かもなー。多分、癒着してた糞企業がお前経由でオレの存在に気付いて刺客を送って来たって感じだろうな」
「あー……、確かにな。《エッジランナーズ》で活動してはいるけど家隣だしバイトもしてるしな。関連性を疑われるのも無理は無いか」
「ま、そう言うこった。アレの拷問はタイガークロウズがしてくれるだろうし、オレはこれから情報を抜かせて貰うぜ」
腕の根元から切り落とされたマンティスブレードを収納したクロームアームを拾い上げる。
ロゴを見れば流石にアラサカではなくミリテクの市販品のようだった。
マンティスブレードは複雑怪奇な構造をしていないため特定のメーカーが売っている訳では無いが、マックスタックに使用されているものや原作Vが使っていたアラサカ社製が最上級とされている。
んで、アラサカの次点に上がるのがこのミリテクだ。
アラサカとミリテクは第四次企業戦争でバチバチしてたくらいにトップ企業だ。
シャープでデザイン的な作りをしているのがアラサカ社製で、実用的で丈夫なのがミリテク社製と顧客層が分かれているので一応喧嘩にはなっていないらしい。
ジョニーも腹をぶち抜かれた事のあるこのマンティスブレードの隠密性はステルスに持ってこいのアーム武装だ。
原作だと射程とフィニッシュムーブのせいで使い辛い分類に入ってたりする。
こうして実在しているのを見て分かるが、使用した後に毎回内部洗浄を強いられるのは普通に欠点だよなぁ。
でも格好良さは百点満点の浪漫武器でもある、そこだけは認めざるを得ない。
「そいつは? なんかジャッキーンって出てたけど」
「こいつはマンティスブレードと言って、両腕の中に刃を隠したクロームアームだ。こうやって……、こうすると、腕の外側から内蔵されていたブレードが飛び出る。暗殺とか戦闘手段の幅を広げるためにナイフの代わりに付けたりするテックだ」
「あぁー、あれか。前にドクから買った裏BDで見た事あるな。足にも付けるのも無かったっけ?」
「あるにはあるが、そこまでする意味はあんまりないな。正直両腕で足りないくらいの状況で足を使うってなると、めっちゃくちゃ近付かれてるからな。サンデヴィスタンやケレズニコフ合戦の間で相手の不意を突くってんならまぁ、採用しても良いかなぁ、ぐらいの優先度だな。んなもん付けるなら膝に銃身付けて近距離発砲できるテック入れた方が良いだろう」
「ふぅーん……、割と色々あるんだな。俺もこう言うの付けた方が良かったりする?」
純粋な気持ちでオレに問うたのだろうデイビッドに苦笑を返し、首を横へ振るった。
確かに近接ビルドではあるが《白虎》を持ってるお前にマンティスブレードを付けても予備のナイフぐらいにしかならんよ。
それをするくらいならゴリラアームを移植した方が……、と思ったがサイバーサイコシス発症が怖いので言わなかった。
「結局のところ、サンデヴィスタンを付けてるお前なら武器でどうにかなるんだよ。何のために《白虎》とスマイリーを渡してると思ってるんだお前は」
「え、じゃあ《白虎》がもし折れたりしたらどうすんだ?」
「そこらに落ちている武器でも拾って使えば良いだろ。お前に付けてるサンデヴィスタンmk5はワープダンサーと名付けられているくらいの破格の性能をしているんだ。それに勝てるサンデヴィスタンはあの時の軍用試験モデルぐらいだ。それに、近距離からスマイリーを撃っちゃいけない理由なんてねぇぞ、殺す時はきっちり殺せ、しっかりとな」
「へーへー……、数週間前まではただの学生だったんだけどな俺」
「じゃあ、ちょっとだけシミュってやろうか。あの時、オレに出会わなかったら、って言うIFをな」
その言葉を聞いたデイビッドは、ぁー、と先に自分で考えてみるようで腕を組んで指先を顎にやった。
そして、これまでの情報を糧に色々と思案したのだろう、頭を抱えて蹲った。
まぁ、無理も無い。
違法リパーのドクにデバイスを渡すところから始まるからな、オレの腕前を知っているからこそ不安でしか無いだろう。
「……俺、お前と出会えて本当に良かったわ。あの時、自分を曲げずに居て本当に良かった……」
「ま、今なら分かるだろうが、オレからすりゃあんなカスあっと言う間に殺せるからな」
「だから三人の命が助かっただなんて言ってたのかよ……」
「そーだぜ。だがな、この街であの時のお前の様な行動を取れる奴がどれくらい居ると思う? あの日、オレがお前に見た真っ直ぐな漢気はそれはもう格好良かったんだぜ。少なくとも、こいつを部下にして手元に置いておきたいって思うくらいには」
「へぇ、そんな風に思っててくれて……っ!?」
何故かオレの顔を見てデイビッドが驚いているが、変な顔でもしていたか?
顔に手を這わしてみれば頬が緩んで口角が上がっていたようだった。
……ふむ、アニマルセラピーみたいなもんかね、こいつ、大型犬みたいな奴だから。
少し、気が緩んでいたのかもしれん。
マンティスブレードをフィン行きのコンテナにシュートして、一応店の体裁を保てるくらいには綺麗になった。
……一応、高濃度アルコールによる殺菌だけはしておくか。
オレとしては正直、刃を向けられるよりも何が入ってるか分からない血を浴びる方が怖いからな。
ただでさえこの街は違法ドラッグや感覚ブースターなどが蔓延っているんだ、未知の病原菌が居ても可笑しくない。
取り敢えず何も起きていませんでしたと言う具合に、仕事を再開し、鉄砲玉たちから銃弾を抜いたりし始める。
……なんかデイビッドの様子が変だが、はて、どうしたんだこいつ。