Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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十八話

 《グラッカー》の地下にある拘束施術台の上に青年の男性を縛り付けながら、オレとフィンはレジーナから送られてきた実験台もとい第一患者を診察していた。

 フルスキャンの結果、人間性数値がレッドアラート、脳波が乱れに乱れて支離滅裂な言葉を発し続けている狂人。

 糖尿病の治療のために腎臓をインプラント化したものの、数日後に病院内でサイバーサイコ化し鎮圧。

 生体パーツ部品を作るための機材も組み上がった事もあり、その患者を此処に搬送して貰った訳だ。

 

「ふむ、興味深いな。つまり、サイバーサイコシスの治療に認知誤認の手法が使えるかもしれない、と言う事か」

「まぁ、そうなるな。だが、目の前のこいつのせいで疑わざるを得なくなったが」

「いや、そうでもない。あの手の病院で用いられるインプラントに期待してはいけない」

 

 短パンにメッシュシャツと言う奇妙な恰好ではなく、そこらに居そうなシャツとズボンを履いたおっさんにしか見えぬフィンがスキャナーを動かす。

 網膜モニターに印字されたそれは大分古い型番の腎臓インプラントであり、試しに上から触れてみればごつごつとした箱の様な手触りが返ってくる。

 治療のために腹の中に箱を入れられたとなればそれはもう違和感がある事だろう、少しだけ同情する。

 今もびっくんびっくんと拘束をガチャガチャしながら狂っているこの患者をどう治療したものか、とフィンと二人で頭を悩ませる。

 

「一度、君の推論を形にしてみる、と言うのはどうだろう」

「人工腎臓を移植するって事か」

「ああ、精神的なカウンセリングは後でもできる。もう作ってはあるんだろう?」

「まぁな。今の現代医療なら簡単に数日で培養できた」

「実に良し、なら早速入れてみよう」

 

 手術衣に着替え、麻酔をぶっ刺して患者の腹を開く。

 すると、そこには適当な安いチューブに繋がった腎臓インプラントの酷い有様があり、誰がどう見ても治療の後とは思えぬ夏休みの工作っぷりであった。

 腎臓への管にホットアイロンの様な形で取り付けただけのチューブを取り外して見れば、悍ましい色をした液体が零れ出ている。

 明らかに腎臓が機能している様には見えず、狂っていると言うよりも別の病気に苛まれているようにも見えてくる。

 患者の細胞から作った人工腎臓を取り付け、血液洗浄を行い薬物などを綺麗にすると患者の容態が安定し始めた。

 

「……なぁ、フィン」

「……なんだい、ジャグ」

「これ、サイバーサイコじゃなくて腎臓不良による発狂だったんじゃねぇ?」

「……確かにな、そうかもしれん」

 

 それはもうどす黒い液体が洗浄機の中へ入って行くのが見えたので、動かぬ証拠であった。

 けれども人間性値の数値は未だにレッド、サイバーサイコシスを発症したままと言うスキャン結果が出ている。

 人工腎臓に取り換えてから患者の支離滅裂な呟きと身体の震えが止まり、まるで死体の様に静まり返っている。

 これはこれでホラーだな、と思いつつ患者の首のポートにソーサーを走らせる。

 乱れに乱れていた脳波が落ち着きつつあるが、時折ヘドバンの如く異常値を叩き出している。

 

「……腎臓インプラントの故障と、打たれた薬物のオーバードーズで脳がやられたって感じか」

「恐らくはそうだろうな。脳のスキャン結果が薬物中毒者のそれとほぼ同じだ」

「となると、このまま薬物を抜いていけば結果が分かるかね」

「多分、な。ふむ、案外サイバーサイコシスと言う名前だけが独り歩きしている可能性があるな。未知の症状と銘打つ事で最終的な処理を楽にしようとしている、とか、そんなところだろう」

「成程な、その手の患者は慣れっこだもんなフィンは」

「確かにな、あの手この手で延命をしたが薬物はどうも手に負えない」

 

 大袈裟に肩を竦めて両手を開く程にフィンの言葉には感情がこもっていた。

 そりゃまぁ、末期人しか運ばれて来なかったフィンガーズの主の言う事だ、重みが違う。

 この街において貧民層の娯楽と言うのはドラッグや裏BD、そしてセックスぐらいだ。

 どの方向に向かうかはそいつ次第であるが、大抵が裏BDからセックス、そしてドラッグに向かう。

 そのドラッグをこっそり卸しているのがバイオテクニカであり、資金を吸い上げながら新たな実験台として患者を増やして未承認の新薬を投与するまでがセットだ。

 それを中小企業の皮を被ったスカベンジャーなどが遣り取りしており、闇から野に放たれていると言う訳だ。

 まぁ、そんな薬物を取り扱うのはスカベンジャーだけではなく、どのギャングも大抵手を出している。

 それほどまでにこの街では娯楽が無い、と言う事だ。

 誰もが安易に夢の世界に飛び立てる紐無しバンジーに手を出して、最後まで落下して死んでいく。

 

「……案外、それも原因なのかもなぁ」

「ふむ?」

「誰もが安易に心を許せる娯楽が無いって言うのもサイバーサイコシスが蔓延る理由なのかもしれない」

「なるほど、かつての電子恐慌などで娯楽の類は一度廃れてしまったと聞く。その隙間に入り込んだドラッグなどの異常な娯楽が根付いてしまっているのも原因の一つだ、と」

「まぁ、そう言う事だ。そもそもの話、この街には健全な物が少なすぎる。本物七割の合成食品、残りの三割は何なんだよって話だ」

「あー……、まぁ、そうだな。ふむ、なるべくしてなった、この街特有の風土病と言っても過言では無いか」

「良いね、ナイトシティ発の風土病。レポートを書く時の切り口として使いやすい」

 

 指をぱちりと鳴らしてフィンに向ければ、くつくつ笑いの苦笑を返された。

 何処ぞのひぐらしの様に、感染源があるように見えて存在しない糞パターンだけれども。

 取り敢えず患者には痛み止めと睡眠薬を打ち込み、そのまま寝かしておくことにする。

 

「ジャグ、今日はありがとう。お陰で楽しいものが見れた。新たな知見に繋がった」

「そりゃ、良かった。意見交換もできて此方としても万々歳だ」

「興味深い内容が分かったら教えてくれ、是非手伝いに来よう」

「おう、そりゃ助かるぜ。可能ならサイバーサイコ手前の奴も開いてみてぇんだけどな」

「……これは忠告だが、あまり根を詰め過ぎないようにな。君はあまりにも自身を蔑ろにし過ぎる嫌いがあるからね」

「へぇへぇ、心得ておきますよ、せんせー」

「ふっ、軽口を言えるなら大丈夫そうだ。では、また」

 

 午前一杯を使ってサイバーサイコ患者の研究をしたが、割と必要な物が多くて困るな。

 サイバーサイコシスは脳に作用している可能性が高いとは踏んでいたが、こうも複雑怪奇だとは。

 流石に脳神経医学をこれから学んだとしても到底間に合いそうにない。

 ……やはり、手を出すしかないかぁ。

 テッキールームのデスクに置いたモニターにある、スマイリーの元株であるAIプログラムを見やる。

 人にできないならAIにやらせれば良い、適材適所だな。

 むしろ、このままデラマンの次なるサービスに組み込ませてしまうべきでは無かろうか。

 ぶっちゃけ、デラマンのエクセルシオールパッケージに武装化が付いているが、アームを使った緊急延命措置があった方が顧客増えるだろ。

 今のところ、オレとデラマンの関係は札束を叩き付けてくれるカスタマーでしかないが、先のデラマンタクシーへの改造の件で割かし良い印象を勝ち取れていると自負している。

 原作のVとの会話をスムーズにこなせているように、デラマンの知性は人間に近い物を会得できている。

 ……後々にデラマンは内に秘めた人格を分散してしまうのだが、その一つを拾えたりしないだろうか。

 

「……まぁ、取らぬ狸のって感じだが、手に入るなら欲しいよなぁ、デラマン。一家に一台って感じで」

 

 デラマンに病院を営業させてクリーンな運営させると言う手段、割かし良いアイデアじゃないか?

 タクシーの顧客との触れ合い以上に人と接する事ができるし、何よりもAIだから物欲に負けて不正に走らない。

 病院関係者から相当なクレームと妨害が起きそうではあるが。

 んー……、デラマン用のボディでも作ってみて此処で働かせてみようか。

 もう一軒隣を買い取ってそこをデラマン診療所の拠点にして、表向きはオレが経営しておけば良いだろう。

 うーむ、より良い未来に向かっている心地だな、良い風吹いてるぜ。

 だなんて考えながら午後の診察をしていたら、客の一人にレベッカが来ていた。

 傍から見てトーヨコに居そうなパーカースタイルで待合室に居たのかと思うと少し笑えてくる。

 

「お客さんとしては初めてだな、施術台に座ってくれ」

「……っ、あぁ」

 

 ……やっぱりエッチ過ぎない? サイバー下着だから恥ずかしく無いもんって感じなのだろうか。

 この世界別にMODが入ってて誰もがエッチな恰好してるって訳じゃないからさ。

 現実的に下着の上がパーカーだけってのは女の子として少しどうかと思ってしまうが、エッチだからヨシッ。

 

「んで、今日は何を御所望だ? 新しいインプラント? それともフルスキャンからの不具合調整?」

「……その、少し、相談があって」

「ふむ、と、言うと?」

「肌インプラントの色を少しだけ肌色に戻したいかなーって、眼も色を薄めて自然に見えるようにして欲しい、っつーか」

「ふむ、随分と色っぽくなるがデイビッド絡みかね?」

「……わりぃかよ」

 

 か細い声で赤面顔で呟く生意気処女ギャルとか可愛いが過ぎるだろ、けしからん。

 デイビッドも隅に置けんなー、原作通りレベッカの心を鷲掴みにしたようだ。

 まぁ、レベッカは兄であるピラルに若干コンプレックスを持っているけどもそれなりの生活をしてたからな。

 兄とは正反対の性格であるデイビッドに興味を持ってそのまま惚れちゃうのも仕方があるまい。

 うむうむ、これはもう細部まで確りと磨いてやらねばなるまい。

 

「いいや、カボチャの馬車に乗ったつもりで居てくれれば良いさ」

「んだよそれ……、つーか、あんたはあいつの事どう思ってる訳さ」

「デイビッドの事か? そりゃー、将来有望な部下だよ。そもそもオレ、性自認が半々だから恋愛に興味ねぇしな」

 

 ぶっちゃけ色恋に現を抜かしてる場合じゃないってのが本音だが。

 レベッカにオレはライバルじゃないですよーとアピールしつつ、施術台のコードを首に差し込んで色などを決めて貰う。

 巷に使われている皮膚インプラントは表面にリアルスキンを張り付けているか、吹き付けのどちらかであり、見る限りレベッカは後者のようだった。

 髪の染色と似ており、一旦皮膚の色素を抜いてからお気に入りの色で染め直す訳だ。

 全身に無色透明の染色オイルを塗り、電気を与えて色素パターンを変えて定着させるのでそこそこ時間が掛かる施術でもある。

 全身麻酔を打ち、弛緩した身体にオイルを満遍無く塗りたくり、エロ可愛いギャルの生肌を堪能しつつ四肢と腰、首に電流ベルトを巻いてスイッチオン。

 先程決めて貰った色に沿った電流パターンが流れ、染色オイルが肌に染み渡って色を変えていく。

 ふむ、薄いミント色だったが色白にしたようで違和感はあんまり無いな。

 さて、両目の光学インプラントも安物からキロシに乗り換えるようで、薄いオレンジの虹彩の瞳に入れ替えるようだ。

 キロシの色と言うのは設定を変えれば良いだけなので、根元をチューナーに繋いでペインターに接続して色彩を変更するだけで可能だ。

 左腕のクロームアームの指先から精密アームを伸ばし、右手で瞼を開いて両目をキュルキュルっと回して取り外す。

 割と猟奇的な光景だが、この街では有り触れた光景だ。

 ホロコールやデジタルエディ―などの恩恵を得るためには光学インプラントは必須になる。

 繋いでいたキロシを掴み取り、両目に取り付けてやれば完成だ。

 全身麻酔で意識も飛んでいるので吸入器のマスクを付けて神経ブースターの弱いのを吸わせて、副作用の神経過敏を抑えてあげれば施術完了だ。

 染色の方も薄くするだけなので割と早く終わったな。

 割とケミカルな赤と黄緑だった瞳は綺麗なガーネット色とサファイヤ色に変わり、肌も色白になって美少女さが増した。

 うむ、これならデイビッドもイチコロだろうな。

 あいつ母子家庭で肉体疲労でやつれていたグロリアさんを見て育ったから、ひ弱なお嬢様タイプが好みだしな。

 ルーシーとの関係は正直、傷の舐め合いから発展した爛れた関係に近いからなぁ。

 ミステリアスな悪女に引っ掛かった純粋少年の図だしな、あれ。

 

「う……んっ……、もぉ、終わった、のか?」

「おぅ、しっかり美人に仕上げておいたぜ。だから、早くあのアホを貰ってやってくれ。そして、生きる伝説の生き証人として生きてくれ。それだけが、オレの願いだ」

「それは……、どう言う……」

「……知らなくていいさ。何も、な。幸せな夢だけを見ていてくれ」

 

 うつらうつらとしているレベッカの頭を撫でて眠りの世界に戻してやり、衣服を着せてテッキールームの簡易ベッドに寝かせる。

 代金は……、まぁ、また今度でも良いだろう。

 施術台に戻り、染色オイルでぬちゃぬちゃなシートを拭いながら除菌する。

 ……ほんと、幸せになってくれよお前ら、それだけがオレの望みだよ。




医療関係者じゃないし学も無く、それらしく書いてるだけなので、頭サイバーパンクに読んでください。
ウニを頼んだら、プリンに醤油が掛かったのが出てきた、ぐらいのニュアンスでそれらしく分かった振りして頷いててくれればOKです。
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