Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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十九話

『ミッションの説明をしよう。此度の目標はバイオテクニカの手先の排除だ。遠路遥々ローマから手を伸ばしている外道の手を粉砕骨折させてやれ。こいつらは中毒性の高いドラッグで何人も廃人にしている外道どもだ。今回はその被害者の一人からの依頼だ、泣ける話だろ。可哀想な息子の仇を討ってください、ってさ。始末の仕方は一任する。全員殺せ、野に返す真似してくれるなよ』

『ミッションの説明をしよう。此度の目標は盗まれたデータの回収だ。メイルストロームのシマでべろんべろんに酔っぱらった馬鹿コーポからの依頼だが、金払いが良いから受けた。中身をコピーするのを忘れるなよ、そちらが本命だ。カブキ北部のクラブで抜かれたチップを回収しろ。ノーキルノーアラートが望ましい、下手な小火は起こすな』

『ミッションの説明をしよう。此度の目標は行方不明になった青年の探索だ。シックス・ストリートのシマで行方不明になった彼氏を探して欲しいそうだ。最悪、亡骸でも良いから持って帰って来てやれ。捜索地点は既にMAPにマーク済みだ、上手くやれ。穴倉から出てきたスカベンジャーへの対応は一任する。他にも奴らの商品があれば回収してくれ、人助けは多いに越した事は無いだろう?』

 

 などなど、新進気鋭のフィクサーと噂になっているジャグラが依頼を《エッジランナーズ》に片っ端から投げ込んでくるせいで、鉄火場に居る事が日常となりつつある今日この頃だった。

 今日も今日とてスカベンジャーを切って捨てての大立ち回りをした俺はぐったりとソファにくたびれていた。

 その隣にはシャワーを浴びた後で上半身を晒したメインが似たような顔をして座っており、その隣に居るドリオも走り回ったからか足を投げ出してくたばっていた。

 

「……仕事が無いよりかは良いが、ちっと密度が濃くねぇか……?」

「だよなぁ……。最近のジャグラ、何処か焦ってるって言うか、何かしてるみたいで忙しそうなんだよな」

「んー……、これの事じゃない? 今、巷で噂になってるホットな裏情報だけど」

 

 ネットにディープダイブしていて氷風呂に浸かっていたキーウィが俺らに情報を投げ付けてくる。

 えぇーとなになに、アラサカ社が盗まれた軍用テックの行き先を探してる、だって?

 

「軍用テックっつーと、俺がグロリアから買おうとしていたアレか」

「アレは今ジャグラの所にある筈だけど……」

「それどころじゃねぇみたいだぜ。この軍用テック、他にもあるってよ」

 

 俺の隣に最近イメチェンして色気が増したレベッカがドカッと座り込み、タブレットを見せつけてきた。

 見やれば、それは掲示板の切り抜きで、信憑性の高い情報だと宣っている奴のログが残っていた。

 アラサカ社製軍用試験モデルのゴリラアーム、マンティスブレード、モノワイヤー、プロジェクタイルランチャーがあるらしかった。

 その高性能なテックを集めようとギャングたちが捜索に乗り出していて、水面下の争いが激化しているらしい。

 ……その一つであるモノワイヤー、ジャグラの右腕に付いてるやつじゃねぇ?

 ピラルが前に力説していたが、本来のモノワイヤーの出力よりも遥かに高い代物だと太鼓判を押していた気がする。

 そうなると、五つある軍用テックの内の二つをジャグラが手にしていると言う事になる。

 

「はぁん、成程なぁ。ジャグラの奴、他の奴の手に渡る前にこのテックが欲しいんだろう。テッキーとして見逃せないテックだからな」

「その割には関係ない依頼ばっかりじゃないか? タイガークロウズのワカコって人から依頼を貰ってるって話だし」

「確かにな。だが、タイガークロウズがそれを探しているからこそ、関係無いものを此方に割り振っている可能性もある」

「それに、コピーしたデータとかの閲覧を禁止してるしな。もしかして入ってたりしたんじゃねぇの情報が」

 

 レベッカの言葉に一理あるなと頷いて、誰もがキーウィの方を見たが、両手でバツ印を作った。

 

「ほんと、勘弁してよね。あんたらは分からないかもしれないけど、いつ熱核弾頭の先が向けられるのか分からないんだから。あの人に逆らうのは絶対にノゥよ」

「そうなると、別の奴から仕事を貰ってくるって事になるが……」

 

 それは止めておいた方が良いだろうなぁと全員の気持ちが一つになった。

 実際ジャグラがフィクサーの真似事をし始めてから《エッジランナーズ》の収入は安定し、信頼のおけるリパードクでもある事で福利厚生が行き届いているようなものだった。

 サイバーウェアの不具合も早期発見できたメインもジャグラには頭が上がらない様子であるし、敵対行動とも言える行為は慎むべきだろう。

 それに、もしもジャグラが俺たちと敵対した場合、対応できるのはサンデヴィスタンmk5を付けている俺だけだ。

 基本的に難攻不落のシェルターと化しているあのクリニックに居るジャグラに攻め込むのは自殺行為であるし、何よりも色々と恩がある事もあってカタナを向けるような事になりたくない気持ちもある。

 そして、忘れちゃいけないがジャグラはタイガークロウズの看板娘だ、必ず報復されるに決まっている。

 そう言った点もあってメインもファラデーとか言う奴からの誘いの手を払って大人しくしているようだった。

 

「んー、もういっその事本人に聞いた方が早いんじゃねぇの?」

「ふむ、それもそうだな。今後の方針に関わるってんなら、聞いておきたいもんだ」

「……分かったよ、皆して俺を見るなよ、連絡すりゃ良いんだろ」

 

 揃って頷かれた事もあり、渋々とジャグラにホロコールを掛ける。

 三コールもしないうちに通信が繋がり、ジャグラの声が脳裏に響く。

 

『ぁん? なんだデイビッド、今日の報告で足りないのがあったか?』

『あー、いや、その、不備って訳じゃないんだけども』

『……忙しいんだ、要件をさっさと言え』

 

 普段のジャグラよりも機嫌が悪いと言うか、些事に関わってられないと言った様子に内心首を捻る。

 リパーやガンスミス以外にも手を出しているようだが、基本的に作業を見してくれないので推測もできない。

 けれどクリニックに搬入されているテックや素材を見るに、医療系の品が多くなったくらいしか分からなかった。

 

『あ、ごめん。その、ジャグラって今、アラサカの軍用テックを集めてたりする?』

『……なんでそれを知ってるんだ。ぐっ、ちょっとミスったな……、くそっ』

 

 痛みを堪える様な声に違和感を抱きながら、通信を切られないように会話を続ける。

 

『えっと、今巷で噂になってるらしいんだ。軍用テックをアラサカが回収しようとしてるって話が広がってて……』

『ぁ゛ー、成程なぁ、そう言う事か。ちっ、あのクソ、そう言う手段を取りやがったか。……三十秒待て、掛け直す』

 

 時折痛みを噛み締める素振りを見せながら会話していたジャグラだったが、ブチリとホロコールが切れる。

 何とも言えない表情で待っていると再びホロコールが繋がり、呼吸を荒くした状態で声が続いた。

 

『ぐ、ぁー、はぁ、はぁー、……、よし。で、それで何が言いたいんだ?』

『いやその、その軍用テックを集めてるってんなら俺らも動いた方が良いんじゃねぇかな、って』

『……いや、要らん。と、言うよりもオレの欲しかったテックはサンデヴィスタンだけだ。他は市販品を改良すればどうにでもなる。どちらかと言うと、此れの行方を追おうとしてる奴らを潰してただけだ』

『え、じゃあ最近の依頼は追手を潰すためのものだったのか?』

『まぁ、似たようなもんだ。どーしてもアラサカにお土産を渡したいって野郎が居るみたいでな。手元に無いってんのにあっちこっちに手を広げて探そうとしてやがったから、その手先をハンマーで潰してたって訳だ。そろそろあいつの山札が切れかける所だからな、何をしてくるか分からん事もあって色々と忙しいんだ』

『そうか……、俺らに出来る事があれば言ってくれよ?』

『……はっ、当たり前だろ、お前らにどんだけ期待してると思ってるんだ。依頼のお代わりは少し待ってろとメインに伝えてくれ、数日以内に届けられるだろうってな』

 

 了承の返答を返したらそのままホロが切れてしまった。

 先程の会話をメインたちに伝えると、腕組みをして深い、それはもう深い溜息を吐いていた。

 いやまぁ、考えても見れば今ジャグラが手を煩わせている輩と遣り合う可能性があったしな。

 母さんとメインの取引が無事終わっていたとしたら、軍用サンデヴィスタンはメインがインストールしていた筈だ。

 そうなるとサイバーウェアの不具合を抱えたままサンデヴィスタンを使ってサイバーパンクしてる所に、お土産野郎が仕掛けに来ていた未来だって有り得た訳だ。

 あのジャグラがてこずる相手と遣り合うとなると、正直《エッジランナーズ》では荷が重いと言わざるを得ない。

 そう思い面々を見やれば、レベッカだけが苦い物を噛み潰した様な表情をしており、何か思う所があるようだった。

 

「ならよぉ、こういうのはどうだ? 酒の席でちょっとした賭けをして手に入れたブツなんだがよぉ」

 

 そう言って雰囲気をカチ割る様に陽気な声でピラルは一枚のチップを指先に摘まんで掲げていた。

 見た所ポートチップの様だが、くるりと商品ロゴを見ればミリテクの印字がされていた。

 

「おいおい、いったい何を仕入れてきたんだよ馬鹿兄貴ぃ」

「へっへっへ、最近オレ様たち働きっ放しで疲れてるだろ? だからよぉ、身体を動かさずに訓練できるチップ、欲しいと思わないか?」

「おいピラルお前……、まさかそれ、ミリテクの軍事演習チップか?」

「なんだ、メインは何処かで見た事あったか。そうだぜぇ、ちょーっと特殊なBD技術で作られててよぉ、市販されてるBDゲーム機に繋げると射撃訓練プログラムを受けられるって訳だ。ちょっとやってみねぇ? スコアも出るから意外とハマるぜ?」

 

 懐から取り出したバーチャランナーにチップを刺し込み、くるりと回転させて何故か俺に掛けやがった。

 そして、耳元から電子音が聞こえたかと思えば、空間スキャンの映像が広がり、壁と床にホログラム調の射撃場が組み上がった。

 そのクオリティに感嘆の声を漏らすと、ピラルのドヤ顔が浮かんでくるような笑い声が聞こえてくる。

 

「すっげぇなこれ、そこの壁に射撃場が作られたぞ」

「一メートルの個室でも空間認識をごにょごにょして射撃場にしてくれる逸品だ。このクロームハンドを付けたオレ様にトランプタワーだなんて児戯で挑んで来た奴の悔し顔が今にも浮かぶぜ、キシシ。銃を撃つ手を認識させれば、そいつがコントローラー替わりになるぞ」

「へぇ、おぉ、ほんとだ。難易度は……、取り敢えずノーマルで」

 

 ソファから立ち上がり、壁に向かって銃を構えて見れば、ミリテクスーツの訓練官らしき人物が突如としてGOと叫ぶ。

 瞬間、射撃場が動き出し、ターゲットが出現してプログラムが始まった。

 手に持った拳銃、見た感じレキシントンだが単発仕様になっていてフルオートは禁じられていた。

 取り敢えず出てくるターゲットに狙いを付けて撃破していくと、三十秒程でリザルトが出た。

 当てた部位によって点数が違うようで割としょっぱい記録になった。

 バーチャランナーを顔から取り外し、何となくレベッカに被せると、先程までの俺と同じく感嘆の声を漏らしながら訓練を開始していた。

 斜め撃ちをしながらも的確にヘッドショットラインを狙っているようで、傍から見ても良い得点が出そうな雰囲気だった。

 

「っしゃぁ! ランキング一位だぜ! まだまだ精進が足りないんじゃねぇのデイビッド」

「ははは……、そう言ってくれるなよ。持ってる武器、カタナにスマートテックだぞ俺」

「それもそうだったな、はい、じゃあ次メイン」

「お、俺もやるのか? まぁ、たまには良いか……、む、随分と懐かしい……」

 

 レベッカと入れ替わるようにしてメインが立ち上がり、大分様になった持ち方で機敏な動きを披露した。

 明らかにレベッカよりも点数が高そうな様子であり、懐かしいって言ってたし、もしかしてミリテク上がりとか?

 ドリオの方を見てみれば肩を竦められたので、聞きたければ自分でって事だろう。

 

「はっはっは、まだまだ負けられん。ほら、一位の座を取り返してみるんだな」

「なぁにぉー!? できらぁ!」

「……まぁ、たまにはこう言うのも良いかもね。最近随分と張り詰めてたし」

「そうね……。と言うかキーウィ、皆の前でダイブするの止めなよ、はしたない」

「くっくっく、なぁに、今更私の裸を見ても気にはしないだろう。おっと、思春期真っ盛りのデイビッドには早かったか?」

「……うっせぇーよ! 大きなお世話だ! 俺だって裸くらい見た事が……」

 

 と、うっかり口を滑らせてやらかしを悟った。

 へぇ、とチェシャ猫の様に笑うルーシーたち、それに便乗するようにメインとドリオが意味深なアイコンタクトをしてから笑みを浮かべ、ピラルに至っては輪っかを作って抜き差しするジェスチャーで煽ってくる。

 そして、バーチャルなガンを握っているであろうレベッカは此方に向けて引き金を引く素振りを見せていた。

 ……勘弁してくれ、正直あんま覚えて無いんだから、素直に悪いと思って直ぐに出たから見たってのも怪しい。

 裏BDに仕込まれてた奴は、まぁ、うん、無いな、カウントしなくて良いだろ。

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