Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
唐突な話だが、父さんが死んだ。
死因は売り場強盗、綺麗に頭を柘榴に吹っ飛ばされて即死だったようだ。
食事の買い出しに行った矢先の事だったようで、タイガークロウズと流れのシックス・ストリートの若い奴が暴れた結果のようだった。
……やだなぁ、この街、外出たくねぇんだけど。
鬱を加速させて精神と共に肉体も死ぬか、こうして他殺になるかのどちらかであっただろうけれども。
生きて、……生きて、欲しかったのだ父さんには。
とっくの前に教える事は全て教えただなんて言われたけれど、脊髄系の施術のコツとかもっと教えてほしかった。
慰霊堂に送られた父さんの死体を見送ってから、オレの時間は倍速したように速くて、けれども遅延した世界の様に遅くもあった。
一ヵ月があっと言う間に終わりを迎えて、一日がやっと終わるような、そんな日々を過ごしていた。
「んー……肩のインプラントが食い込んで神経を圧迫してるな。切除と取り換え、どっちが良い」
「取り換えに決まってんだろ!! 早くしろよクソガキ!! こっちは貴重な時間を使って来てやってるんだからな!」
「あ、そ。なら、フィンの所にでも行って来な。お前程度の財布が軽い奴なんざ居ても変わらねぇ」
施術台の上で喚いていた奴を非殺傷化したモノワイヤーで締め上げ、気絶させてから首筋のポートを指に引っ掛けて引き摺る。
よくもまぁ別のギャングのシマでアホ面晒せるよなこいつ。
インプラントの型番を見るにヴァレンティーノズのチンピラだし、タイガークロウズにのされた後に駆け込んで来た口だろう。
待合室を越えて外への重厚な入り口を開き、外へ放り捨てる。
案の定、こいつを探してうろついていたであろうタイガークロウズの下っ端が此方に頭を下げながらそのアホを引き摺って行った。
「……ちっ、余計な手間掛けさせやがってからに」
内部を見る際に取り外したボルト部品をポイ捨てし、店内に戻って待合室を見やる。
するとそこには人懐っこそうな大柄の見覚えのある男性が座っており、場所からして次の施術の相手のようだった。
……嘘じゃん、まさか出逢えるとは思っていなかった、ジャッキー・ウェルズが其処に居た。
「おぉ、嬢ちゃん、次は俺か? もう入って良いのか?」
「あ、あぁ、繰り上げであんたが次だな。施術室へ来てくれ」
「あいよ」
のっそりとその巨体を持ち上げて、腹部を押さえた状態で青い顔をするジャッキーに前世のシーンがフラバする。
……いや、紺碧プラザまでいくらあると思ってるんだ、数年先だし別件だろう。
応対ができて、歩く事も出来る事から重症では無いがそこそこの大きい怪我、と言った具合か。
この街に整形外科とか無いからもっぱら近場のリパードクに見て貰うか企業に属する病院に行くかの二択だ。
施術台にゆったりと座ったジャッキーだが、腰の上辺りが痛いのか背凭れに当てた時に顔を顰めていた。
「で、インプラント施術か? それとも腹の調子を見て欲しいって?」
「へへっ、お見通しか。ちょっとばかしへま打っちまって、一発銃弾を喰らっちまった」
「へぇ、よく此処まで来れたな」
「俺の腹は防弾仕様なんでね、タフな男と評判だ」
「軽く麻酔を打つ、そして摘出までしてやるから少し黙ってろ」
サイドテーブルから医療用麻酔銃を手に取り、上の服の裾を上げてパシュッと腹部に打ち込む。
オレは部屋を無菌室モードに切り替え、左手に消毒用アルコールを噴霧する。
指先が三つに別れ、リパー用のクロームたる精密性を売りとした極小アームが飛び出る。
左目のキロシに透視結果を投影させ、銃弾のある場所を覗き込む。
「……ふむ、運が良いみたいだな、まるで大きな血管を避けるかのように埋まってる。そこらの糞みたいな腕のリパーなら大出血間違い無しの場所だが、……此処に来て正解だったぞあんた」
サンデヴィスタンを起動させ、超精密なアーム使いによって銃弾の尻を掴み取り、余計な血が噴き出る前に抜き去る。
サイドテーブルの上の銀皿にそれを捨て、縫合のために清潔なガーゼで血を拭い取る。
綺麗になった瞬間に医療用単分子糸に切り替えたモノワイヤーで縫合し、瞬時高温化させ傷口を焼く。
雑菌が入る余地も無いまま傷が塞がり、効果が切れるまで時間があったのでガーゼをゴミ箱にシュートする。
にしても、ちょっと若いなこのジャッキー。
原作開始時が三十歳だっけ? なら今は二十七歳か、全盛期から下り坂になり始めたくらいかな。
そして、ガーゼがゴミの山の上に乗った時点で世界が元に戻った。
「お、おぉ!? な、治ってやがる! ケソルプレッサ!」
「縫合したては傷口が開きやすいから無理な行為はしないように。それと、忠告。筋肉の具合からして普段から鍛えているようだけど、傭兵業に身を置くなら防具の用意はしておくべきだ。一発二発喰らってコンクリと熱いベーゼをかます趣味があるなら別だけど」
今回の件で少しは思う所があったのか、ちょんまげもどきヘアーの剃り込みを掻きながら視線を反らした。
施術に使った道具を使用済みの箱に仕舞いながら、アフタートークを続ける。
すぐに動き回る性格をしているであろうジャッキーだ。
施術終わり、と送り出したらまーた傷口開かせるに決まっている。
「あー……、でもよぉ、そういうあからさまっつーのは……」
「ださいって?」
「だろ? 男ならこう、バシッと決めておかねぇと、ははっ、嬢ちゃんにはまだ早いか」
「はんっ、路地裏で野垂れ死にそうな恰好でよくもまぁ。弱者には死に様は選べない、この街なら尚更に。……それに、見えないお洒落ってのも最近のトレンドだよ。プロボクサーたちご用達のチタニウム腹筋とかね。鍛えるのが趣味ってんなら防弾インナーとか、外から見えないのをチョイスしたらどう」
「ははぁ……、俺よりもこの街に馴染んでそうだな嬢ちゃんは。でもまぁ、確かになぁ。患者割引とか利いたりするか?」
手元のタブレットに防弾インナー系のページを開いてやり、上体を起こそうとしたのを押し留めて見せる。
この手の物はピンキリなので、三桁から四桁が大体の相場だ。
……しかしなぁ、三年後の紺碧プラザのアレってマックス・タックの武装輸送船のターレットだよな。
口径的に安物だと濡れた紙みたいなもんだし、死亡遅延系の内蔵インプラントの方が吉かもしれん。
けどなぁ、鍛えるのが好きって言ってたジャッキーがならよろしくと頷くかぁ?
と、なれば……衣服改造パーツの出番かねぇ。
「他にも、衣服の裏に仕込んでおくタイプのもあるな。複合炭素で作られたカーボン製裏布とか、戦車でも使われている素材で作られた鉄鋼シートのアルマジロとか。おすすめはこれだね、アルマジロ。何ならオレが作って売ってたりもする」
「マジか、いくらぐらいするもんなんだ?」
「取り回しがしやすいタンクトップ型のインナーでSSから5XLまで、一律5000エディーってところだね。鋼鉄シートのアルマジロ製で、腹部と背中を分厚くしてあるからノヴァくらいの口径までなら貫通しないな。それ以上は流石に死ぬけど、致命傷が重症くらいに軽減されるかもしれないね」
「くぁーっ、良い値段するなぁ。だが、着るだけでリパー要らずって考えるとなると、うぅむ、少し欲しいな」
悩みに悩む様子のジャッキーだが、ソロでやっている事から万年金欠と言うところだろうか。
場所によっては100エディーで中古車が買えるが、都市部となると五桁はざらになるのがこの街の物価だ。
5000エディ―と言うと安物の銃が買えるくらいの値段なので、インナーに出すお金として見れば高いが、武装として見れば安い分類だ。
「ふむ、見た目相応財布が薄いか。治療費払えるのか? 知っての通り、腕前確かな施術が売りな店でね。ツケにする事は出来ないから、借用の形になるが」
「げぇっ、……いくらするんだ?」
「500エディーってところだね。別にオレの腕前なら容易い事だし。追加でインプラントの修理や取り換えをしている訳でもないしね」
「……暫くは実家に戻るか、はいよ、これで良いか」
くしゃくしゃの紙幣をポケットから出して一瞥してから、此方に手渡したそれを受け取る。
ひふみのよの……、うん、足りてるな。
可能ならデジタルエディーで払って欲しかったが、まぁ、仕方が無いかジャッキーだし。
「ま、ご立派なメジャーリーガー目指すならもう少し身嗜みを整えなよ。オレは見ての通りか弱い少女だが、タイガークロウズの野郎どもには姐さん呼びされてる看板背負った凄腕リパードクだ。相手を騙すために恰好してるってんならアレだが、考え無しにしてるんだったら考え直す時期だと思うぜ」
「おぅ、そうだな……。こうも穴だらけの恰好してたら色男もモテやしねぇしな」
「ふっ」
「おい、お前今鼻で笑いやがったな? 良いだろう、俺がどれだけのモテ男か教えてやろうじゃねぇか」
「ははは、オレの名はジャグラ・カグラ。親しい奴はオレをジャグと呼ぶ。あんたは?」
「俺か? 俺はジャッキー・ウェルズ。親しい奴らにはジャックと呼ばれてるぜ」
小さい掌とがっちりとした掌での握手をして、連絡先を教えてやった。
可能ならオレを頼りにしてくれれば良いが、小娘だからと遠慮されても困るんだよなぁ。
それから身の上話やアドバイスなどをして三十分程安静にさせ、すっかり顔色の戻ったジャッキーを送り出す。
まぁ、良いタイミングだったのかもしれないな。
ヴィクターには悪いが、お節介を焼くリパーとして関係を繋がせて貰おうじゃないか。
可能ならば、あの紺碧を越えて、《Relic》で死に掛けたVを支えて欲しいものだ。
……あれ、その場合死神なんて怖くないルートだとジャッキーが付いて行ってアダム・スマッシャーにスマッシュされる役に抜擢されちまうんじゃ……。
はぁ、何にせよただのリパードクの小娘がそこまで介入できる程人生ってのは甘くないか。
……と言うか、待てよ、あの日ジャッキーが死に掛けたからVに《Relic》が渡った訳で。
あの紺碧プラザの一件を生き延びたらジャッキーがジョニーの相棒になるんじゃないか?
いや、いやいや、違うな、短小デショーンの一発で《Relic》が目覚めちまったから問題なんだ。
となれば、万が一の選択肢としてオレの所に来て摘出なんて話が舞い込むかもしれない。
「……したくはねぇが、アラサカ漁るかぁ?」
口にしておいてなんだが、アラサカはこの街のトップを走る大企業だ。
末端から取れる情報なんて友達の家の薄いカルピス並みに薄っぺらいものだ。
そうなるとVの様にローグやパナムと言ったカチコミ特攻に追従してくれるような奴が一人は欲しい。
そんな奴居るかぁ? と思ったが、割と良い奴が居たのを思い出した。
原作主人公Vがアラサカタワーに襲撃をかまし、《神輿》をぶち壊す一年前に伝説になったとある少年。
デイビッド・マルティネス。サイバーパンクエッジランナーズの主人公。
こいつとVが組めばあの糞スマッシャーもぶち殺してくれるに違いない。
そうなると……、エッジランナーズから一年前に当たる今だと何してるかっつーと……。
あぁ、件のアラサカ・アカデミーでお勉強してる時期か。
今、接触しておくべきか、と言われると否、なんだよなぁ。
ルーシーと出会って、色々と経験してからのデイビッドでなければ誘う意味が無い。
となると……、可能性の種を撒いておくだけが吉かね。
「ま、今直ぐに出来る事でもなし、次の客を捌くか」
待合室に声を掛け、入って来たタイガークロウズの鉄砲玉くんから鉛玉を摘出しつつ、世間話の体で情報を抜く。
こいつらにとってはただのドンパチであるが、それも積み重なって山となれば立派なビッグデータだ。
多方面からの視界で何が起こったのかを察するのは容易な事だ。
故に、とあるフィクサーの名前が上がるのも当然の事だった。
サントドミンゴのとあるフィクサー、ファラデー。
ミリテクとずっぷりな関係らしいが、どうもやり方が変わり始めているとの事で。
サントドミンゴの主なギャングはシックス・ストリート、ウェスタン気取りの元愛国者、帰還兵の成れの果て。
ワトソンのフィクサー、パドレ神父もまたヴァレンティーノズだけではなくシックス・ストリートにも依頼を割り振り始めたと言う事もあって、フィクサー間の水面下の抗争がバチバチし始めているとの事だった。
……ファラデー、って誰だっけ。
あ、あぁ、あの右眼に三つのキロシ入れてるエセコーポ野郎か。
デイビッドの死因ってアダム・糞スマッシャーだけれども、結局のところ、アレがルーシーやデイビッドをアラサカに売り飛ばそうとしていたのが原因だったんだっけか。
それの元々の理由もルーシーがアラサカのネットランナーを暗殺しまくってたからってのが皮肉だよなぁ。
と言うか、それを阻止しておけばデイビッドの生存ルートが見出せるか?
と、なると……後、やれる事があるとすれば……。