Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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二十一話

 ファラデーを《アフターライフ》で分からせてやった事で、エッジランナーズ完ッ!!

 ……と、なれば御の字だったのだが、そうは問屋が卸さない様でアラサカからの招待状が来た。

 それも態々高級なエアリアル・ビークルで駐車場に乗り付けてのお誘いだった。

 

「どうぞ、お乗りください」

 

 有無を言わさぬ雰囲気が出ており、この場で乗らないとスッゾコラーな様子であったので穏便に済ませるために乗り込む。

 原作におけるサブロウやらVやらが乗っていたものと比べて量産型なのかシャンパンをくれる機能は付いていなかった。

 エッジランナーズにおける最大の障害こそがこいつら、アラサカの存在だ。

 しかしながら、アニメの情報を紐解くに当たって勘違いしてはならない部分がある。

 あの一件はあくまで出世のためのポイントを稼ぎたいアラサカ役員の一人の独断である、と言う事を。

 アラサカのネットランナーを殺し回る鼠の排除をファラデーが請け負い、その一件を通じてデイビッドの軍用テックがバレ、元々予定されていたミリテクとの抗争にサイバー・スケルトンを付けさせてテストをさせる。

 そのまま人間性コストを消費して死ねば良し、死なずとも廃人になって何れは死ぬ。

 と、言うのがコーポの女の筋書だったのだろう。

 デイビッドの類稀なるクローム適正を見誤り、ファラデーとの会合の場を襲撃された事でアダム・スマッシャーとの闘いの火蓋が切って落とされる、と言うのがアニメのクライマックスシーンと言う訳だ。

 

「飲み物貰えない?」

「……ミネラルウォーターで良ければ」

 

 キンキンに冷えたボトルの蓋を開けてグビリと飲み、若干酒でくらくらする頭を冷やす。

 で、だ。

 今回の一件はファラデーから情報を根こそぎ聞き出した事で裏側が分かったが、概ね似たようなものだった。

 そもそもの話、オレが軍用テックを二つ手に入れている事をとっくの昔にアラサカは察知していた。

 何処で情報が抜かれたのかと思えば、何て事は無い非常にアナログな方法だった。

 単純に裏に流された軍用テックを常々見張っている暇人が雇われていたと言うだけで、足が付かないように何処ぞのブルー・アイズ宜しくキロシの望遠機能を使って肉眼……、肉眼か?

 まぁ、四六時中監視をしていた、と言うだけだ。

 アラサカから盗まれたテックの噂が流れていたのも、コーポの女役員がファラデーを出汁にオレを憔悴させて接点を作ろうとしていただけで、まったくもってオレの早とちりだった。

 てっきり、ファラデーが番外戦術でオレを消耗させようとしてきたのだと思っていたのだが、取り越し苦労で過大評価し過ぎた弊害だった。

 紛らわしい事をしてくれたものだ、絶対に今度しばく。

 女役員は何らかの理由があってオレと話し合いの場を作りたかっただけで、自分に有利な状況に置くために、先手を取って圧力を掛けていたに過ぎなかったらしい。

 ファラデーはアニメ通り、噛ませ犬に過ぎず、良い様に使われていた哀れなわんちゃんだった、と言う訳だ。

 んで、コーポ女がオレと話したい理由なのだが、……まぁ、うん、想像は付いている。

 これに関しては正直言って予想外と言うか、昔知ったけど使い道無さそうだったから放っておいたものが今更になって必要になった、ってぐらいのレベルで忘れていた置き土産だった。

 ……オレの父親、マサヒロ・カグラの前職とは、と言うクエスチョンに対し、昔と違い今のオレは答えられてしまう。

 いや、うん、デイビッドたちが居候してた頃に、父さんの衣服を貸そうとして箪笥漁ったら出てきちゃったんだよね……。

 アラサカ研究員の社員証が、それも、割と上位のセキュリティプロトコルを閲覧できる主任級のが。

 

「……この水、天然水じゃん、道理で美味い訳だ……」

 

 そりゃー、医療について詳しい訳だ。《Relic》開発の医療系アドバイザーとして雇われていたとなれば。

 何処ぞの開発者がカン・タオと言う組織に亡命していた様に、父さんもまた倫理的な道徳観でアレを直視して吐き気を催して逃げ去ったのだろう。

 んで、オレの母親がジョイトイだったっていう話も多分嘘、詮索されないようにしただけだ。

 そして、社員証の近くの煎餅の空き缶の中に、どうしても処理ができなかったのだろう幸せそうな若い男女の写真があった事もあり、どうやら逃亡の際に命を落としたと言う推理が濃厚だった。

 そんな父さんが残した、と言うよりも墓まで持って行こうとしていたのであろう意味深なチップ。

 多分、これこそがアラサカが、女役員がオレに目を付けた理由に違いなかった。

 そりゃまぁ、恐らく《Relic》と同時期、または試作の段階で作られていた時の設計図の入ったものが流出している可能性があったとなれば血眼になって探す事だろう。

 ワカコの庇護下にあった事が幸いして強硬手段を取れなかった、と言う線は薄い。

 正直言ってアラサカはこの街の天下を握っている、比喩では無く現実的に、だ。

 となれば、問題が噴出するきっかけがあったとかだろうか。

 例えば、不出来な息子が《Relic》を掠め取ろうと算段を付け始め、今後のシナリオを描こうと精査していたら見つけてしまった、コピー痕跡、とか。

 ……父さんはテッキーであったがネットランナーでは無かったからなぁ。

 

「そろそろ到着致しますので、御心の用意を」

 

 《アフターライフ》で軍用テックを二つ移植している事をアピールしたのは、一度出会っておきたかったからだ。

 此度のコーポ女の護衛を行うであろうアダム・スマッシャーに。

 自殺行為めいた移植を行っているオレとの対面に、保険を置かずにあのコーポ女が出てくる訳が無い。

 奴に取り付けられているであろう完成品のサンデヴィスタンとほぼ同等の出力を出せる試作品に、天敵とも言える高出力モノワイヤーを装備している奴と仲良く対面だなんてする訳が無い。

 そうなると、確実にアダム・スマッシャーを視界に入れたまま交渉を行なうと見て良い筈だ。

 今回はあくまで顔合わせであり、欲しいならオレの付けている二つのテックのデータをくれてやっても良い。

 アダム・スマッシャーは作中において、アラサカ保安部の銃を奪取したデイビッドの射撃からコーポ男を身を挺して守っていた。

 アレはそれくらいでは自身の装甲を貫けない、と言う絶対の自信が無ければできない行為だ。

 加えて、ブラックウォールの向こう先に行かせる実験体としてネットランナー能力を鍛えられたルーシーのクイックハックを遮断した実績もあった。

 ……のだが、原作Vに多種多様な方法でフルボッコにされて達磨になるのがアダム・スマッシャーの末路でもある。

 ぶっちゃけ、差異があり過ぎるんだよっ!?

 何処ぞのパシフィカで行うチャンピオン戦の如く、テックを新調した事で脆弱性が出てたから負けたのか?

 それとも、プレイヤーが操るVのインプラントがアダム・スマッシャーに迫る程の代物だったのか?

 アニメだから、ゲームだから、そんな都合の良い情報を当てにしてあいつらを送り出して良い訳が無い。

 

「……さぁ、Chippin’ Inだ」

 

 ビルの屋上には正直モブコーポな男女の姿があり、保安部からも一部借り受けたのかマックスタック並みの重武装な護衛も居た。

 そして、そんな有象無象の後ろにどっかりと佇むクロームが眩しい機械の怪物が居た。

 成人男性であろうコーポ男を優に超す身長、……オレの倍くらいはありそうだ。

 ガン・タレットに用いられるヘヴィマシンガンを軽々と片手に持っていた。

 ジョニー・シルヴァーハンド、デイビッド・マルティネスを屠ったプロジェクタイルランチャーを内蔵した両腕。

 アラサカタワー上空から地面に着地できる強化クロームレッグに、頭へと背から伸びる太いコードケーブル。

 ……ああ、そう言う事か、現実にその姿を直視して漸く分かった。

 この時点でのアダム・スマッシャーはまだ未完成であり、原作Vとの決戦の日こそ最盛期だったのだ、と。

 あの日、今から四十九年前にモーガン・ブラックハンドによって圧倒され、残った生身を削って全身クロームの体にならざるを得なかったアダム・スマッシャーは日進月歩のテックの進化に沿うようにしてアップデートされ続けた。

 Vとの決戦の際にオルトによってアラサカタワーが陥落している事実も含め、外部からのハッキングではなくオルトによるアラサカのシステムを通して内部からのハッキングを受けて抗いながら戦っていたとなれば……。

 アダム・スマッシャーを殺すためにはオルトの支援が必要不可欠であり、そのためにもVが、ジョニーが必要であると再認識できた。

 で、あれば、それを逆算して奇跡的なストーリーに仕上げなくてはならない訳だが……。

 デイビッドの死の回避以上に複雑怪奇で困難な課題を受け取ってしまったものだな、と本気で苦悩を覚えた。

 

「初めまして、オレの名はジャグラ・カグラ。ジャパンタウンの一角でリパードクをしている」

「……口の利き方がなっていないわね。まぁ、あんな場所で育った泥棒猫にそんな期待するだけ無駄よね」

「最強の傭兵の威を借りてないと小娘の前にも立てないのがコーポ育ちだもんな、自己紹介もできないようだし、さっさと要件を言いなよ万年窓際女」

 

 売り言葉に買い言葉、オレの悪態に部下であるコーポ男が噴き出し掛けていたが、人徳も無いらしい。

 赤外線みたくギラギラとした視線をぶつけてくるコーポ女だったが、鈍くも甲高い金属音を奏でて立ち上がったアダム・スマッシャーの事を思い出したのか余裕そうな表情で口を開いた。

 

「……ふんっ、薄汚い溝鼠め……。要件は一つ、お前が付けている我が社のテックのデータを寄越しなさい。それは本来お前みたいなものが付けていて良いテックではない。……だが、レジェンドの鶴の声で取り上げる事はしない。感謝するんだな」

「ああ、お前みたいな小じわをインプラントで隠さないとおばさん臭さの抜けない年増と違って、オレは若くて美人な上に軍用テックの後輩でもあるからな。何処らへんがお気に召したか知らないが、ありがとうとだけ言っておく」

【……お前の父親に一度救われたからな、その時の礼を返しただけだ。次は無いぞ、マサヒロの忘れ形見】

 

 嘘だろマイファザー、あんた歳幾つだったんだよ。

 と言うか本当にマイファザーで良いのか?

 オレ、医療関連の非人道的な実験で産み出されたコーディネーターだった可能性がある訳?

 

「……父さんを知っているんですね。あの人は過去の事を何も語らなかったので、知っている事が少ないんです。……因みに、四十九年前だったりしますかその借りって」

【ああ、あの頃の俺はまだ完全足り得なかった。モーガン・ブラックハンドにしてやられた。もっとも、あいつは仲間に殺されたがな。ピーピー喚いていた、ジョニー・シルヴァーハンドの最後っ屁でな】

「……あの、もう一つ尋ねても良いです? オレって本当に父さんの娘です?」

【……ああ、確か若い研究員に押し倒された末にお前が産まれたと言っていたな。悔いは無いが、情緒も無かったと愚痴られたな……】

「そうでしたか……」

 

 知りたくなかったなー、両親のそんな生々しい情報。

 もしかしてインプラントが少ないと思ってたけど、精巧なフルインプラントだったりしたのか父さん。

 取り敢えず、聞きたい事は聞けたのでポケットから予め用意していた二つのテックのデータログの入ったチップをコーポ女に放り投げた。

 咄嗟の事で慌てふためいてチップを受け取った時には、オレはもうエアリアル・ビークルに乗り込み、椅子に座っていた。

 その場で地団駄踏んだコーポ女はオレに向かって盛大な舌打ちをしてから、ビルの内部へとコーポ男を連れて去って行った。

 そして、行きと違ってオレ一人のフライトになったエアリアル・ビークルが発進し、ジャパンタウンの方へと向かい始めた。

 

「……アダム・スマッシャー殺しにくくなったんですけど???」

 

 あぁもう、予定が狂いっ放しだ。

 親戚の叔父さんみたいなノリで父さんの話をしやがってからに!

 絶対にそれ以上の関わりあっただろお前ら、明らかに長年の友人を語る時のそれだったぞお前!

 何ならオレが知る中で一番に人間らしい姿を晒してたぞお前ぇ!!

 ……最後の最期で達磨になったアダム・スマッシャー持って帰るか、戦利品として。

 うがぁーっと頭を搔き乱しながら一人じたばたとしてから、オレはくたびれた気分で背凭れにぶっ倒れた。

 あーもう、さっさと帰って寝よう。酒も回って何とも言えない気分だ、不貞寝してぇ。

 と言うか、父さんのあのチップまったく関係なかったな、今日は空回りし過ぎて頭が痛いぜ。

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