Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
二十二話
「ハロー、ナイトシティッ!! 昨日の死亡者数クイズは、まさかの大穴――」
いつも喧しいスタンのナイトシティ速報が流れるラジオが、無慈悲にもクイックハックでルーシーに切られた。
普段ならそのまま垂れ流す様な雑音であるが、今の雰囲気には空回りの様な色物サウンドは必要無い。
次報を待て、と言われてから一週間も経った事で、各々が自由に待機するのに飽きていた頃の事だった。
ホロコールも電子メールも通じず、クリニックに行ってみれば臨時休業しており、入る事も出来ず。
心配になりそわそわとしている所を、気晴らしに、とレベッカに誘われ遊んだりして過ごしていた事もあって若干薄れていたもののやはり心配だった。
何せ、素っ裸なキーウィが神妙な顔でその噂を共有した物が気がかりで仕方が無かった。
あの日の翌日、この街の伝説が眠る場所《アフターライフ》でジャグラが注目を浴びたらしく、しかもその後アラサカのエアリアル・ビークルに乗って去って行った事もあり、若手の最年少フィクサーリパーアラサカ所属か、だなんてゴシップがばら撒かれたのだ。
真相を知ろうにもなしのつぶて、連絡が来るのを待つ事しか俺たちにはできなかった。
元々、ジャグラは正式なフィクサーでは無い。
タイガークロウズの、と言うよりかはジャパンタウンを代表するフィクサー、ワカコ・オカダの依頼を卸してくれていた中間管理職の様な立場だった。
そのため、他のフィクサーからの依頼を受けて生活を保っても不義理にはならない。
……ならないのだが、メイン曰くフィクサーとは路地裏のラーメン屋の様な物だ、と言う。
色々な癖の強い味があり、美味くもあれば不味かったりもするため、リピートするかどうかは客次第。
まぁ、何が言いたいかと言うと、以前は普通に受けていた依頼も、ジャグラの依頼と比べると杜撰でしょっぱい物に見えてしまった。
つまり、舌が肥えた、と言う事だ。
あの味と比べると……、だなんて事を無意識に思うようになり、メインは頭を抱えた。
ジャグラは俺たちのチームに対し、最大限の優遇をしてくれていたのだと萎れた様子で言っていた。
他のフィクサーの依頼では詳細なMAP情報も無ければ確かな裏取りも無く、そのくせ成功報酬の額もしょっぱければこれといったメリットも感じない糞依頼に見えて仕方が無いそうだった。
それを隣で見ていたドリオは青い顔をしつつも頷いてしまうくらいに、ジャグラは質の良い取引相手だった。
「……それじゃあ、用件を聞かせて貰おうか。態々こんな場所まで来た理由とやらを」
俺たちのコンテナハウスで久しぶりに対面したジャグラは、まだ冬には早いと言うのにヴィンテージ品のジャケットを羽織っていた。
何処かが変わったと言うよりかは、以前まで張り詰めていた雰囲気が減っている……、いや、空気の抜けた風船の様になっていた。
今後の話をしたい、と言う名目で此処へ来たジャグラは大分憑き物が取れた様な表情をしており、特に俺を見る目が大分優しかった。
「先ずは謝罪からだな。暫く放り投げてしまって申し訳なかった。此方としてもそう言うのをやっている気分ではなかったし、優先事項的にお前らの事が下から数えて早いくらいに事態が落ち着いたからな……」
「……受け取ろう。うちのチームはあんたの払いの良い仕事で潤ってたからな、以前と比べると札束でお釣りがくるくらいだ」
「なら良かった。して、本題だが、今後オレは正式にフィクサーとして動く事にした。今まではワカコさんから貰った依頼を割り振っていたが、オレ個人でも依頼を受けて吟味する事にした。これまで《エッジランナーズ》に優先的に割り振っていた形になるが、此処で正式な対談をしておきたい」
「と、言うと」
「以前の通りにオレの受け子のチームとして働き続けるか、それとも一般と同じ扱いをした方が良いのか、だな。聞いているかは知らないが、《アフターライフ》の一件でオレの注目度は上がった。故に、その子飼いとして働く場合、オレに関する事で被害を被るかもしれない可能性がある」
「ある程度聞いているが、一体何をやらかしたんだ?」
メインの問いに、言うまいか少し悩んだ様子だったが、ジャグラは軽い様子で口を開いた。
「ファラデーと言う小物フィクサーを隠れ蓑にアラサカの万年窓際糞コーポの年増ババアのゴミカスがオレに圧力を掛けていたようでな。此方も相応の報復措置を取るぞ、と軍用テックと言う札を晒して手先のファラデーを《アフターライフ》で晒し者にして分からせた」
「おいおい……、所持している事をバラしちまったのかよ」
「二つのテックを移植している事を教えてやったら、あのエセコーポ、ビビりにビビッて椅子から転げ落ちてガクブルと震えていたからな、見物だったぞ」
「「「「「「「「……なんて???」」」」」」」」
《エッジランナーズ》総出のツッコミにジャグラは気ままな猫の様にきょとんと首を傾げていた。
おま、お前、あれ程メインに軍用テックの恐ろしさのご高説してなかった?
てっきり、死蔵するものとばかり思っていたが、まさかあのサンデヴィスタンを付ける様な真似をするだなんて思いもしなかった。
てん、てん、てん、と数秒程思案顔を浮かべていたジャグラだったが、何かに思い至った様に口を開いた。
「あぁ、言っていなかったか。と言うか、あの日にデイビッドがホロを掛けてきた時に移植の真っ最中だったんだが……、そう言えばあの時言って無かったな」
「はぁ!? お前普通にホロに出たよな!? 俺がワープダンサーを付けて貰った時は全身麻酔で意識を一瞬で失ったのに、なんで意識を保ってられたんだよ?!」
「……? そりゃ、部分麻酔でやらなきゃ施術できないだろう? オレ以上のリパーなんてこの街に居ないのに、他の奴にオレの身体を任せる訳無いだろ。ましてや脊髄部位の施術だぞ?」
然も此方が可笑しい事を言っているかのような口調で言うジャグラ。
それに対して、信じられないモノを見たと言う感じで顔を両手で覆ったキーウィは真相を悟ったらしかった。
そして、全員の視線が集まったの察して自ら説明をし始めた。
「……リパードクの施術台で、ハイグレードなものだと補助のための副義腕が付いてたりするんだけど……。まさかと思うけど、それを遠隔操作して自身の施術を行なったの?」
「だから、そう言っているだろうが」
「言ってないわよぉっ!? どんな精神力してるのよ貴女ッ!? ネットダイブ用のインプラントをした私が言うのも何だけど、脊髄部位の処理なんて意識を保ってられる痛みじゃないでしょう!? ましてやサンデヴィスタンの取り付けだなんて脊髄を丸ごと交換する施術じゃないの!!」
「……と、言ってもだな。痛みを受容する大脳皮質までの神経に至る生体電気を止めてしまえば、痛覚は感じないだろう? 首に装置を付けて、頭から下の神経伝達をカットすれば誰でも施術できると思うんだが……」
「普通そんな発想に至らないわよ!? せめて信頼のおけるリパードクに身を委ねるものでしょうそこはっ!?」
「……? オレがそのリパーなのだから、オレがやれば良い話なのでは……?」
「あぁもうっ、完全で完璧な人間不信の天才めっ!!」
「何で褒められながら罵倒されたんだオレは……?」
本気でキーウィの困惑を理解していない様子のジャグラは首を可愛らしく傾げ続けていた。
何処となく年相応の表情をしており、これが素の顔なのかもしれない。
……の割には母さんにはその顔を見せていたような、もしかして父性や母性に飢えてたりするのだろうか。
首を傾げつつ、ジャケットを脱いで背中を見せたジャグラ。
其処にはあの時母さんがメインと取引する筈だった軍用サンデヴィスタンが……。
「なんかでかくね?」
繋がった鱗の様な形をしていたかつての軍用サンデヴィスタンだったが、元々のごつさをパワーアップしたかのように大きさが膨れ上がっていた。
平べったい感じだったのが拳一つ分ずつ膨らんでいる様に見える。
「ん? そりゃ、あのまま使う訳無いだろ。オレ専用にチューニングして、改良して付けたんだから形が違うのは当然だろう」
「……因みにどんな改良を?」
「軍用試験モデルのサンデヴィスタンは中に人工脊髄神経が入ってるって言っただろ? アレの中身を新しいのに入れ替えたついでに量も増やして、今までオレが使ってたサンデヴィスタンからデータ取って神経へ送る信号速度やらを整えたり……とか? 割と色々と弄ってたからなぁ、後何を変えたっけ……?」
そう言ってアレだっけコレだっけと、小首をこっくりこっくりと左右にゆっくりと振りながら説明し始めた。
正直言って俺にはさっぱり分からなかった。
ピラルも途中まで頷いていたが、段々と身体ごと首を九十度以上に横へ曲げて困惑を深めていった。
まぁ、専門家に素人質問をぶつけてしまったのが悪かったのだろう。
忘れていたが、ジャグラは生粋のテッキーであり、メカニックだ。
テックの事に詳しいからリパードクをしているだけで、本来は此方の姿の方が正しいと言うべきか。
居候してた時も、休日に高級なクロームテックを分解して中身を見たりして、文字通り遊んでたもんなぁ……。
そうか、アラサカの軍用試作品と言う最高峰のテックも、ジャグラの手に渡るとただの教材で素材なんだな……。
「ジャグラ専用サンデヴィスタン……か」
と言うか、発想もしなかった。
確かに市販で売っているインプラントをリパードクの所でそのまま取り付けるのが常だ。
しかし、その人物に適したテックを、適した状態で、適した取り付け方で……、とそいつ専用にしてしまった方が性能が上がるのは間違い無い考えだ。
つまり、ジャグラは軍用テックを持っていると吹聴したものの、それを素材に専用テックにしてから取り付けている事になる。
なので仮にジャグラからそれらを引っぺがしても軍用試作品のそれでは無い、と言う訳だ。
……なんか、すっごいオチが見えてしまったんだが、……聞くべきか……聞いてみようか。
「なぁ、ジャグラ」
「そもそも神経に作用する筈のサンデヴィスタンを脊髄を取り換えて取り付けるデザインの時点でナンセンスと言うかそれやるくらいならサンデヴィスタンに最適化させた人造脊髄を作って取り換えてより過剰に適応させられる素体の資質を底上げして……、ん? なんだ?」
「因みにそのジャグラ専用のサンデヴィスタンを誰かに移植したらどうなる?」
「んー……、大半が免疫反応の不適で拒絶反応が起きて脊髄が使い物にならなくなるな。サンデヴィスタンにオレの細胞を培養して造った脊髄神経を使ってるからな。次点で、オレの生体電気の波長と酷似していなければ異常数値のパルスが流れるから脳が多分、その、凄い事になる? サイバーサイコ化は免れないだろうな。流石に非人道だし、結果が分かり切ってるからするだけ無駄だろうし」
「……うっわぁ」
「そりゃそうよ、専用化するって事は他に売れない代物にするのと同じ。……だからこそ、何で私のサイバーテックの性能が上がったのか分からないんだけど」
「そりゃ、健康診断の時にお前の身体スキャンデータ取ってあるから、そこから逆算して適合具合の高いものに入れ替えてやっただけだよ」
「テックの専門家たるリパードクに、医療技術が搭載されるとこんなにやばいのね……」
キーウィはもうお手上げという感じで、本当に両手を上げて降参していた。
マシンガンどころか話が分からな過ぎてヘヴィマシンガンを掃射していたジャグラのテキキチ具合をよぉーく思い知った俺たちは質問を変える事にした。
と、言うよりも主題へと話を戻した。
「……で、何の話をしてたっけか。……あぁ、んで、メイン、子飼いになる? 因みに、ならない場合は月の健康診断はそっち持ちだし、依頼の裏取りも自分でやって貰うし、MAPとかも用意せずに住所の番地だけ教える感じになるけど」
「謹んでお受け致します、と言うかお願いですからさせてください……」
「お、おぉ……、良かった。先行投資が無駄にならずに済んだな。使いたい時に使えない道具とかある価値無いしな」
ソファの上できっちりと腰を曲げて頭を下げるメインに対し、若干引き気味のジャグラだったが最後の言葉が全てなのだろう。
今回の一件でジャグラにちょっかいをかけていたファラデーやら糞のゴミカス……、じゃなかった、コーポの窓際と決着を付けたジャグラはナイトシティで更に名前を知られる存在になった。
つまり、その有名税を払うかの如くジャグラに依頼が舞い込んでくる可能性は非常に高い。
そして、その処理に俺たちが使われるとなれば、ある程度の拒否権を失う事になる。
……まぁ、ジャグラの事だし危険な依頼だったら、相手の情報をすっぱ抜いて机に並べてから対処法と共にやる事を教えてくれそうではあるが。
基本的にジャグラは身内に優しいからなぁ。
タイガークロウズのお兄さん方に割と辛辣な言葉を投げるが、彼らは思春期な妹に言われたかのように受け止めている。
ジャグラの言葉が自身に対する発破であり、心配も兼ねていると察しているからだろう。
……時折新人っぽいのが首絞められてたりするけど、次に来る時は礼儀正しいしな。
タイガークロウズはナイトシティでも巨大なギャング組織であるが、上下関係やら日本のギリニンジョーとか言うルールなどで統制されている珍しい分類に入る。
強い者が全てのメイルストロームやアニマルズ、秩序を重んじるヴァレンティーノズ、歪んだ愛国精神のシックス・ストリート。
ジャグラからの依頼で一通りはドンパチしたが、やはりと言うべきか一番厄介なのはタイガークロウズだった。
何せ、彼らは即死で無ければジャグラのクリニックで復活されるからだ。
昨晩の依頼でぶっ潰した相手が、翌日のバイトの日に患者の一人として運ばれて来た時は何とも言えない心地だった。
お互いに神妙な顔してたし、んなもん知るかと言わんばかりにジャグラはさっさと診察して治療して送り出すし。
……なんだかんだ、今の生活を気に入っている俺からすればタイガークロウズは親近感のある存在になりつつあった。
まぁ、違法な事や組の意向に逆らった思い上がりの馬鹿みたいな奴らは潰してもお咎めが無いから助かるが。
V編までの幕間の章でござい。
盆休み終わったので、ぼちぼち不定期になるやも。
この暑さで肉体労働はね……、暑くってぇ……、疲れちゃってぇ……。
帰っても眠くて頭回らなくってぇ……(ry