Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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二十六話

 ナイトシティにおけるフィクサーと言う肩書きは、オフィサーに近い意味を含んでいる。

 それ故にソロ、チーム、問わず傭兵と言う生き方をしているエッジランナーたちはフィクサーからの連絡に期待してしまう生き物だ。

 ナイトシティのワトソン地区の一角、手狭な通りにあるエソタリカ。

 そこで占い屋とスピリチュアルグッズの販売を営むミスティの施術を受けていたジャッキー・ウェルズはホロコールを受け取った。

 

『よぉ、ジャック。今日も元気にタフガイしてるか?』

『んん、おぉ!! ジャグじゃねぇか! お前さんも元気してるようで何よりだ』

 

 以前、ジャパンタウン近くで依頼の最中にヘマを打ち、腹部の銃弾を取り除いて貰うために駆け込んだリパーの少女の気安い口調に、あの時と変わってねぇなと微笑んだ。

 初対面の人物と打ち解けるのが早いジャッキーは、周囲一帯が家族同然のヘイウッドで幼少期を過ごしている事で子供の相手も慣れていた。

 けれど、そんなジャッキーでさえもジャグラと言う少女は掴み切れない人物だった。

 しかし、身の上話をして、生き方を語り、お互いを知った事で友人となった。

 あれから色々とあり、半年も経っていた事に自身の不義理を感じつつも笑って誤魔化した。

 

『仕事の調子はどーだい、なんか最近色々とごたついているだろう?』

『あー……、そうだな、アラサカの軍用テックだったが、そいつを巡って抗争がフェスティバルみてぇに繰り広げられてたからな。格好良いクロームに興味はあるが、ちょいとばかし厄介だったからなぁ』

『……らしいなぁ。水面下でまだ本当にあるのかも分からないテックを探し回っているって話だ』

『おぅ、サンデヴィスタンとモノワイヤーは何処かで見つかったらしいが、詳しい話までは届いてねぇんだよなぁ。T-バグの奴がチームから抜けやがったもんだから拾える情報が減っちまってなぁ』

『…………は?』

 

 少女の素っ頓狂な声色の困惑にジャッキーは、肩を竦めつつ、そういやチームを作った事を言ってなかったと思い出した。

 半年前はまだまだ駆け出しサイバーパンクであったジャッキーだったが、パドレの下で依頼を熟すうちに色々と足りない事に気付いて仲間集めに奔走した。

 依頼で知り合ったリトルチャイナのチップショップ店員からの伝手で、ネットランナーのT-バグを仲間に迎えた時は良い風が吹いて来たと確信していた。

 ……が、最近になってデクスター・デショーンがナイトシティに戻って来た事で、T-バグは暇潰しは終わったと言う様にあっさりと脱退してしまったのだった。

 と、数ヵ月の出来事をジャグラに語ったジャッキーは肩を落としながら溜息を吐いた。

 

『ってのが最近の事でよぉ、これから仲間を集めてもっとビッグになるぜ、って時に梯子外されちまった訳だ』

『……ソッカー、そいつぁ……ヘヴィだったな』

『おぅ、分かってくれるか。だからよぉ、チームジャッキーでは仲間を絶賛大募集って感じなんだが、良い奴居たりしねぇか?』

『えっとぉ……、悪いが居ないなぁ。仲間は斡旋出来ないが、依頼なら斡旋出来るぞ』

『は? そりゃどう言う……』

『最近、若手のフィクサーとして副業を始めたんだよ』

 

 その言葉にジャッキーは純粋に驚き、そして、止んだ風が再び吹いて来たと笑みが浮かんだ。

 目の前でチャクラヒーリングをしていたミスティがその笑顔に首を傾げていたが、良い方向に体内の気が向かい始めた事で良い事があったのだろうと口出す事はしなかった。

 

『マジかよチーカ! すげぇじゃねぇか! んで、肝心の依頼は集まってんのか?』

『ふっふっふ、これでも新進気鋭なんでね、どさっと来たが、ばっさりと吟味して幾つか残してあるぞ。ソロ向きの依頼もある、良かったら受けてみるか?』

『勿論だ、よしよし、良い風が吹いて来たぜ。ミスティの調整のお陰だな』

『恋人さんか?』

『ああ、お互いにガキの頃から知り合いではあったが、依頼をヘマした日に自棄酒してた時に窘められて話をしてたら意気投合してな。そっから段々と……って具合だ』

『へぇ……、ナイトシティで愛と友情は得難い物だからな、幸せそうで何よりだ』

『へへっ、だな』

『他に何かあったりしないか? 困っているようなら手を貸すぞ』

『そうだな……、あぁ! フィクサーって言うならちょいと相談事があってな』

 

 ジャッキーはエソタリカで働く一人の従業員の方を見やる。

 ピンクの上着にシャツにジーパンと言うラフな格好で店の掃除をしているその女性が視線を感じて振り向き、ボブカットの黒髪を揺らして蒼い瞳を向けた。

 

『大分前の話なんだがよ、従弟の引っ越しを手伝ってた時の事なんだが、俺が運転していた車に女性が落ちて来てよ。上に括り付けてたマットやらにぶつかって命の別状は無いんだが、どうも記憶喪失らしくてな。探せるなら探してやりたいんだが』

『そりゃぁ……、随分とラッキーな事だな。今日日上から落ちるのは酸性雨と自殺者と瀕死の馬鹿くらいだからな。どんな特徴だ? 調べてみよう』

『助かるぜ。ヴィクが言うには……、あぁ、ヴィクターって言うエソタリカの近くでリパーを営んでる俺の行き付けのところで見て貰ったんだが、どうも手首の神経アクセスコードが根元からブチっと切れた衝撃で脳にショックが行っちまったようでよぉ。黒い短髪に蒼い瞳、猫っぽい可愛い系の面をして、そん時はネットランニングスーツを着てたな。年齢は……フルインプラントしてなければ十代後半から二十代前半ってところだな』

『ふむ……ふむ……ふむ? どっかで見たような気が……。クロームは何を入れてるんだ?』

『へへっ、ネットランナー用のサイバーテックに、珍しい事に大分古いテックハンドを付けててな。指先からチタニウムクロウが飛び出るアサシネイトハンドって奴を付けてる。他のインプラントはぱっと見じゃ分からんな』

 

 顔を映す設定のホロコールであれば、ジャグラの百面相の様な思い出し顔を見れた事だろう。

 首を振ったジャッキーに会釈をした女性は床の掃除に戻った。

 

『んー、思い出せそうで思い出せない……、顔写真くれるか?』

『おぅ、正式に依頼する形で良いか?』

『あぁ。初回割引付けといてやるよ』

『恩に着る、今送る。……こいつなんだが』

 

 記憶喪失の女性――サチと呼ばれている女性の顔写真を送ったジャッキー。

 受け取ったジャグラがその写真を見て漸く誰かを思い出し、再びフリーズし掛けたが先に口を開いた。

 

『ぁー……、うん、そいつにちょいと聞いて欲しい事あるんだが、メインに伝えて欲しいか、ってだけ聞いてくれる? そいつ割と訳ありなんだよね……』

『お、ぉう? まぁ、良いが……』

 

 そうしてサチにそっくりそのまま伝えたジャッキーは、返って来た返答に首を傾げながらジャグラへ伝えた。

 

『死期を悟った猫は家出中、だとさ』

『うーわぁ……、そっかぁ。取り敢えず依頼報告だけしておくが、そいつの名はサーシャ・ヤコヴレワ。バイオテクニカの機密情報をN54にタレ込んだ後に失踪した行方不明者だ。問い掛けにそう返したって事はそのまま潜伏っつーか、身を隠しておきたいんだろうからそのままそっとしておいてやれ』

『……ぉぅ、道理で記憶喪失の割りには所作が手慣れてるなって思ったぜ……。チームに誘うのは止めといた方が良いか?』

『んー、バイオテクニカにバレなければ問題は無いがおすすめはしないなぁ。まぁ、表に出さずに後方支援に徹するとかなら?』

『そうか……。なら、このままエソタリカの従業員のままで居て貰うか。ミスティがお気に入りみたいでな』

『まぁ、それが無難だろうね。オレも今回の件は聞かなかった事にするから依頼なんて無かったって事で』

『すまねぇな』

『構わんよ。しっかし、そうなると困っちゃうなぁ、……色々と。ストリートとかに知り合いとかは居たりしないのか?』

 

 ジャグラの割と切羽詰まった脳から振り絞った助言に、ジャッキーは頭を掻きながら当てを思い浮かべる。

 そういや、自分の当ては無いが、身近な人物の当てを聞いて無かったな、とミスティに視線を向けた。

 

『今のところはねぇな。だが、ミスティにまだ聞いてなかったのを思い出した』

『そっか、そっか、なら、早い所探さないとねぇ、困った時は遠慮無く頼ってくれて良いからな』

『おぅ、わりぃなチーカ。そんときゃ宜しく頼むぜ』

『野暮な事を言うなよチューマ。それじゃ、割とマジで何かしら進展あったら近況報告宜しくな、心配だし』

『へぇへぇ、分かったよ』

 

 そうしてホロコールを切ったジャッキーはエソタリカの椅子に座ったまま、施術を終えて道具をしまっているミスティに声を掛けた。

 

「なぁ、ミスティ。ミスティの方でチームに入りてぇとかぼやいてる奴とか居たりしねぇか?」

「なぁに、ジャッキー。うーん……、あ、一人居る。私の所に偶に転がり込んでくる子が一人、金欠だーって騒いでた」

 

 ジャッキーの恋人であるミスティは頬に手を当てながら、苦笑するように溜息を吐いた。

 随分と訳ありと言うか、問題児の様だなとジャッキーが思いつつも猫の手も借りたい状況だった事から文句は言えなかった。

 

「あん? 転がり込んでくるってのは、此処にか?」

「ううん、借りてるアパートの方。こっちに泊まるのはそういう結果が出た日だけだから。話を付けてみる?」

「あぁ、頼む。そいつはどう言う奴なんだ?」

「えぇと、ネットランナーって言うよりもハッカー。サイバーハッカーを自称してて、自動販売機の中身をこっそり抜いてたりするくらいには器用。出身は……ワトソンの何処か、多分、ストリート。パルクールが好きでよく街中を走ってたりするみたい」

「へぇ、実働に使えそうな奴だな、名前は?」

「本名はもう捨てたって言ってた。Vって呼ばれてる」

 

 その名前を聞いてジャッキーは友人のコーポの青年を思い出した。

 そう言えば、あいつもVってあだ名だったな、と懐かしい名前を思い出す。

 そいつとの出会いはジャッキーの母親のママ・ウェルズが経営する酒場で、今にもこの世の終わりと言う辛気臭い顔でテキーラを飲んでいた時だったな、と思い出して笑みを浮かべた。

 随分と沈んでいたからちょっかいを掛けてやり、酒のノリで意気投合し、後からコーポ所属と聞いておったまげた楽しい思い出だ。

 

「意外と流行ってるのかね、一文字のあだ名って奴は」

「ジャッキーにも居るの?」

「ああ、元気にしてると良いが。随分とストレスでくたびれてたからな。コーポにならんで良かったと思ったぐらいに」

「ふぅん……、取り敢えず此処に呼んだから会ってみて」

「おぅ、ありがとうなミスティ。俺ぁもっとビッグになるからよ、楽しみにしててくれよな」

「……うん、今のジャッキーは金運が巡ってるみたいだから楽しみにしておくわ」

 

 そう言って肩を竦めたミスティはジャッキーを案ずる様に抱き締め、頬にキスをしてから店番へと戻った。

 お客であるジャッキーの施術が終わった事もあり、次なるお客を待つために。

 そのまま椅子に座って待つべきか、それともヴィクターの所で暇を潰すか、そう考えていたジャッキーであったが、待ち人は超特急で来た。

 

「エディーの話があるって本当!?」

 

 左側に剃り込みを入れたパンクな髪型は赤と紫に染められており、ストリートらしいジャケットとズボンにTシャツと言うラフで動きやすい恰好。

 擦り傷や派手に開いた穴から古着であると一目で分かるくらいの懐具合が滲み出ており、溌剌とした活気溢れる若者と言った様子だった。

 もっとも、開口一番がお金の話な事から大分現金な性格である事が見て取れた。

 勢い良く現れた女性に面食らったジャッキーであるが、これまた面白い風が吹いたな、と笑みを浮かべて歓迎した。




次章、V編突入。
(※転生者はジャグラだけですのでご安心ください)
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