Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
なぁ、誰か教えてくれよ、正解って奴を。
目の前で和気藹々と行われている《エッジランナーズ》と《ジャッカルズ》の交流会とヴァリーの歓迎会が合体した宴会を見ながら、オレは若干燃え尽きた気分で眺めていた。
ジャッキーからT-バグが抜けただなんて悲報を聞いたその翌日に、四肢欠損しながら必死に生きようとしている女の子を見つけて助けてやったら後日Vを名乗り始めた。
……そう、Vだ。
オレがデラマンに乗って無かったら気づかなかったNCPD案件で、ストリートVらしき人物が死に掛けていたと後から知った時は本気で震えたからな。
まぁ、後出しでジャッキーがコーポV拾って来やがったけどな!
草臥れた青年で名前はヴィンセントだとよ!
ならストリートVがヴァレリーかと思えばヴィクトリアだし、ならノーマッドVが居てそいつがヴァレリーじゃねぇか!?
原作ブレイクどころじゃない事態にオレは考えに、考えて、夜にぐっすりと寝て、冴えた状態で考えたのだ。
デクスポジに就いて舵取りして原作風味にしよう、と。
一番の問題はジョニーである事は間違い無く、最悪V′sの誰かに入ってくれたらいいや、と半ば思考を諦めた。
自分に入れて節制ルートも考えたが、コーポよりもコーポしてるオレと反りが合うかと言えば怪しいところだ。
父さんの隠しチップの中身は《Relic》の設計図だった事もあり、アフターケアで寿命を伸ばしてやれる事だけが救いである。
そのために、ジャッキーにこれでもかとフル支援してVたちを集めたのだから。
健康診断と称して生物マップと全身スキャニングデータを取っておけば、ジョニーに変容した細胞と入れ替えて治療ができる。
悪魔ルートの最後で《Relic》摘出後も生きている描写があった事から、ジョニーが抜けた物であれば抜いても問題無い可能性が高い。
「……もういっそ、此処で消えるか?」
全てを運に任せて身投げしてしまえば、この未来予知めいた苦悩を処理できるに違いない。
……だが、それをするには関わり過ぎたな。
それをやると確実にヴィクトリアが病む。
……既に病んでる様な気がするが、変な方向にぶっ飛びかねない。
それに、力が欲しいか、だなんてイベントをノリでやっちまったのだ。
だって仕方が無いだろ、話聞いてみたらやってる事が蜘蛛能力の無いスパイダーマンなんだもの。
生憎放射線を浴びた奇妙な蜘蛛は用意出来なかったので、バットマン路線に鞍替えして貰うために両腕と両脚をプレゼントした訳だ。
……軍用試験モデルのゴリラアームとマンティスブレードを改造した奴を。
試しに試験してみたら普通に適性あったし、なら付けてあげるよねって話で。
まぁ、後日ヴィクトリアの名前を捨ててVを名乗り始めた事で腑に落ちたけどな色々と。
そりゃ肉体に全振りのVなら耐えられる訳だ、と改めて我らが原作主人公のヤバさを思い知ったのだった。
「ジャグラさーん! 何食べますかー?」
「……サラミスパイスの奴」
「了解でーす!」
この街で食べられる様な物は少ないが、ピザだけは生き残っていたようで普通に美味い。
乾物やチーズみたいな保存食系は輸入品が安定して手に入る様で、一番恩恵を受けているピザはナイトシティでも幅広く好まれている。
バーベキューの代わりにピザパーティが流行ったらしく、うちの宴会もピザのタワーが積まれている。
ヴィクトリアが嬉しそうな顔で持って来てくれたピザを頬張り、咀嚼してから二コーラで流し込む。
多分小麦粉が悪いんだろうなぁと思う硬さをしているので、飲み込むのが大変なのである。
正直どんぐりの背比べレベルであるが、食べられる物と、食べても良いけど好んで食べないかな、ぐらいの差異はある。
まぁ、デラマン医療サービスで儲けた金で熱核に侵されていない地域の探索資金に変えて、天然食糧の生産の目途を付けていきたいな。
増やしやすいジャガイモ辺りが残ってくれていると嬉しいのだが、はてさて、こればっかりは博打になるので長い目で見なければ。
スラム出身っぽいファラデーくんの貧困層救済計画の草案が送られて来たら色々と忙しくなりそうだ。
「にしても、謎肉の正体がワームだったとはなぁ……」
バイオテクニカ・フラッツと呼ばれるバッドランズ南部に存在する、ノーマッドVルートで爆走するあのビニールハウス群も所有権を得てしまった事で知りたくなかった事実を思い知らされた。
単細胞有機タンパク質、略称SCOPの製造ラインだったようで、買い取ってから中身を見てみれば、……うっぷ、思い出したくない。
イナゴやバッタを食べる風習のある地域住まいでは無かったので、虫食は非常に抵抗のあるタイプだった事もあり、金輪際食べる物に気を付けようと決意を新たにした。
どうやらナイトシティに卸される分だけを此処で作っていたようで、大手のフードメーカーたちがお得意様だったようだ。
……本物、まぁ、本物ではあるよ、生き物だしな、肉だな、うん、確かに肉だわ……。
本物70%の謳い文句を何処かで聞いたらフラッシュバックするなぁこれ。
だが、実際問題第三次企業戦争時代の爪痕は非常に大きく、熱核によって汚染された土壌はバッドランズを見れば分かるが痩せ細っている。
汚染除去には時間が掛かる上にコストも高い、故に代替品としてワーム栽培が行われたのだろうと憶測するには難しくない。
……第三次企業戦争やらかし過ぎでは???
やっぱ戦争は悪だな、滅ぼさなきゃ。
デラマンファーム作らなきゃ……、ローコストなワームをローコストに育ててローコストに出荷する訳だから儲からない訳が無い。
ぜってぇ儲かった金で熱核に汚染されてない場所の探索資金にすっからなぁ、ジャガイモあたり生き残っててくれマジで。
「……ま、取らぬ狸のってな。人工土壌の開発しなきゃなぁ、……やる事が、やる事が多い……」
確か栽培に必要な化学肥料があれば作れるんだっけか?
そうなると……、成程、そう繋がるのか、だからアラサカは月を、宇宙に目を向けたのか。
この地球に無ければある星から取ってくれば良い、と言う考えだったんだろうなぁ。
かつてバイオテクニカが開発したCHOOH2と言うバイオ燃料によってこのナイトシティは動いているようなもので、もしもこれのライセンスを持ち続けたままならオレも潰す気は起きなかった事だろう。
しかし、既にCHOOH2のライセンスは石油企業のペトロケムなどに移っているため、バイオテクニカのナイトシティ支社を潰しても問題は無い。
どうせ、デラマンの“機”海戦術によってバイオテクニカがやっていた事の肩代わりをするので今直ぐに問題は起きないしな。
「……違う、分裂するじゃねぇかデラマン」
ウイルスでもハッキングでもなく、何らかの理由で人格が分裂するデラマン。
これを追うミッションが存在している訳だが、破壊、統合、解放のいずれかを選べる。
……待てよ、こいつらに未開発地域の探索をして貰えば良いのでは?
確か解放したデラマンズってメールで海外の画像やらを送って来てたよな。
と言うか、むしろ先んじて分裂させてやれば良いのでは???
よーし、デラマンのヒューマンボディの開発ちゃっちゃと進めるぞぉ。
肖像権の問題はオレの顔をモデルにすりゃ良いな、流石に青白のっぺり顔は受けが悪過ぎる、サーカスじゃねぇんだからよ。
んで、パーツは……どうすっかな。生体パーツを今のうちに開発しておくべきか。
デラマン医療サービスにサイバーサイコシス研究の後釜置こうと思ってるし、どっちにしろ作っておくべきか。
「……やる事が、やる事が多い」
これ、デイビッドやVたちの生きた伝説を見る前に過労死するのでは???
手を少し広げ過ぎたな、この小さな掌にはナイトシティは大き過ぎるな……。
だが、今生のオレの思考に付いて来れる奴がいねぇんだよぉぉぉぉ!
あぁ、分かってるよ、昔ながらの平和ボケした頃の記憶なんざ持ってるのオレだけだろうからな!!
改革したいって気持ちに具体例が無いから動けてない奴らもきっと多い事だろう。
「いや、待てよ? ならいっそ、生体部品開発の会社を起ち上げた方が早いか……?」
逮捕されたバイオテクニカのマッドに篩を掛けて、それなりに常識的で善良的な奴を拾って仕事させるべきでは?
もしそいつらの中から人体実験がしたいって奴が現れたら男女のペアを作って子作りさせて、その子供を実験材料に使わせてやると言えば流石に考えを改める事だろう。
……んな事よりクローン技術進めさせて完成させた方が人道的か?
倫理的な問題はあるが、逆に言えば目を瞑れば有用である事は間違い無い訳で。
誰が生めと頼んだ、誰が作ってくれと頼んだ、だなんて逆襲されないようにしなきゃならんだろうけどもな。
正直言ってこの街の、いや、世界の倫理的な日常と言う物が既に狂っているからこそ、受け入れる土壌ができてしまっているんだよな。
「世知辛ぇ、つか生き辛ぇわ、この街……。なんでこう、上流層ってのは短絡的なんだ。足元に両脚突っ込んで固定するよか整えて立ちやすくした方が良いだろが……」
ぶっちゃけ、今のナイトシティは、この世界は、管理するコンピュータ様が居なくなったPARANOIAの世界の様な壊れ方をしている。
誰もが縋り付く物を探して迷子になって、誰もが明日の未来の正気を信じられていない。
だから、考えなくて楽な階級層によるカースト管理が罷り通ってしまう。
貧困層の奴らだってこの支配からの卒業を望んではいるが、進むべき進路を誰も考えていない。
オレの大雑把でありながら海賊めいた荒っぽい仕事に文句を言う奴が少ないのは、道理を弁えて調整しているからだ。
バイオテクニカを追い払ったからと投げっぱなしにせず、金の卵を産むとまではいかないが銀の卵を作らせる鶏卵場を計画し実行しているからだ。
他の企業がブチ切れない様に綱渡りしながら、保険の綱をこっそり増設しているに過ぎない。
バイオテクニカ支社が甘い汁を吸っていた分の半分くらいを他の企業との摩擦のための緩衝材として塗り付けている。
win-winを徹底しており、下手にも上手にも立たないフラットな仕事を心掛けているから出る杭を打たれていないだけだ。
……何でこんなに疲れるんだろうな、何もかも面倒になってくる時がたまにある。
ヴィクトリアを呼び寄せて硬い腿に頭を乗せて横になる。
「ジャグラさんがデレた……!」
「……いや、単に枕扱いしただけじゃね? アンタの太腿割と細いし、猛反発枕的なサムシング?」
「い、言ったなぁレベッカちゃん!? ならムチムチ太腿なレベッカちゃんはデイビッドくんにしてあげたらぁ? 喜ぶと思うよ男の子だしぃ」
「は、はぁーっ!? そりゃデイビッドは初心な初心初心ちゃんだがよぉ、いきなりされたら困惑するだろうがよ。……それに雰囲気もあれだしよぉ」
……仲良いなぁ、若い子ってほんとそう言う話好きだよなぁ。
チラリと壁側を見やれば髪先をくるくるしながら嬉しそうにホロ通話してるキーウィの姿があるし、ピザの好みであれこれと物議を醸してるデイビッドとルーシーも仲良しそうだ。
メインとドリオはビール片手にサチことサーシャと涙ながらに話していて、ピラルはいつもの大道芸を披露して賑やかしを楽しんでいた。
ヴィットとヴァリーも昔話に花咲かせてジャッキーと笑い合っている。
……良いなぁ、オレもそっちに行きたい。
頭空っぽにして目の前の事だけを頑張って、仲間や友人と和気藹々と楽しく生きたいなぁ……。
……オレ、大分頑張ってるんだぜ、この尊い光景を見れたのは全てオレのおかげだろ、……言ってて虚しくなった。
疲れてんだな、オレ……。
もう今日はこのまま寝ちまおう、ぐっすり寝れば、きっといつものオレに戻れる筈だ……。
――いつものおれってどんなおれだっけ……?
浮かんだ疑問は泡の様に弾けて意識と共に失せた。