Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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三十一話

 バイオテクニカの一件から一週間程が過ぎた。

 今日も今日とてリトルボスからの依頼を二チームが連携して捌いて行き、俺ら《ジャッカルズ》の名前も通る様になり始めていた。

 何せ、このチームは非常にバランスが良い。

 前衛を張れる面子が多く、ネットランナー枠のサチこと本名に戻したサーシャも最低限の近接戦闘を行える。

 やろうと思えば、俺も防諜部仕込みのハックを仕掛けられるし、ヴァニーとサーシャのコンビネーションは拙速を尊ぶサイバーランナーとして相性が良い。

 ジャッキー? ジャッキーは……船長だからな、どっしり構えてくれれば良い。

 居てくれるだけで安心できる存在が居るのは、精神安寧に効果があるからな。

 

「……集まったか」

 

 ちゃぶ台に肘を突いて指を重ねたポーズのリトルボス。

 俺ら《ジャッカルズ》を招集するような重要な案件が来た証左だろう。

 普段の《ジャッカルズ》宛の依頼はサーシャに投げられていて、こうして集まれと面向かって依頼される事は最初のうちだけだった。

 

「おぅ、ジャグ。チーム《ジャッカルズ》、全員揃ってるぜ。何かどでかい依頼が来たんだろう?」

「……あぁ、そうだ。だからこそ、お前らを呼んだんだ。《エッジランナーズ》は別件で後から合流する手筈になっている。バランスが取れていて臨機応変に対応できるお前達を軸に依頼を組み立ててある。……今、詳細を送る」

 

 ……?

 普段のリトルボスとは思えない沈痛な雰囲気に違和感を覚える。

 よっぽど高難易度な依頼が来たのだろう、と固唾を飲む。

 送られてきたのはミリテクのコンボイの失踪を追う依頼で、行き先の予想地がメイルストロームのアジトである事に誰もが度肝を抜かれた。

 普段の殲滅依頼でも精々がコンテナハウスから事務所程度でアジトの一つを目標とするのは初めての事だった。

 俺たちの緊張を理解したのだろう、リトルボスはシリアスな表情を作り口を開いた。

 

「ミッションの説明をしよう。此度の目標はメイルストロームのアジトに強襲し、構成員を皆殺しにする事……ではない」

 

 全員が揃って梯子を外され、リアクションを取った。

 そんな俺らの十人十色なリアクションに、リトルボスは肩を竦めて柔らかな笑みを浮かべた。

 

「冗談だ。やけに肩に力が入ってるようだったからな、直々に解してやっただけだ。お前らには依頼人の代理で連中からあるブツの買取りをして貰いたい。このミリテクのコンボイは本来もう少し丁寧に姿を消す予定だったが問題が起きた。依頼人は何としてもその商品だけは手に入れたいようでな。名称フラットヘッド。軍の特殊工作部隊が使う様なテクニカルな玩具だ。今回の件はどうもメイルストロームのヘッドの入れ替わりによって引き起こされた事故らしい。本来ならいつもの横流し品の様に荷物の受け渡しがされる予定だったが、新ヘッドはおつむが悪いのかコンボイごと奪取。しかも手際は最悪でミリテクにばっちりバレている」

 

 リトルボスは心底呆れた口調で言い放ち、新しいデータ……連絡先の様だな、これは。

 

「ミリテクからも依頼が入っており、何故か襲撃されたコンボイを取り返して欲しいそうだ。あぁ、中身では無く、コンボイを、だ。奴ら商品の箱の方が大事な様でな、目敏い奴に事が知られる前に無かった事にしたいらしい。何とも健気な事だな」

「つまり、フラットヘッドを買い取ってからコンボイを奪ってくれば良いって事か」

「この連絡先は?」

「ミリテクの依頼人の番号だ。必要であれば使うと良い。または、牽制に一言伝えておくのも良いだろうな。判断は一任する」

「……どんな奴なんだ? その依頼人ってのは」

「アンソニー・ギルクリスト。ミリテクのエージェント、今回の件の仲介人をやっていたようだな。相当後ろめたい事があるんだろう。オレを殺し屋とでも勘違いしてるのか、ミリテクの別部隊が来たら殺してくれ、だなんて頼みやがった。と、言う事でもう一つ連絡先を送っておく。コンボイの輸送責任者、まぁ、依頼人の上司だな。どちらを選ぶかはお前らに任せるよ、お前らの仕事だ、したいようにしろ」

 

 そう言ったリトルボスは新たな連絡先、メレディス・スタウトを送ってきた。

 ……いや、一人足りないな。

 何処か疲れた様子のリトルボスへ問いかけるべく口を開いた。

 口を開いた。

 

「リトルボス、購入代理人の方の連絡先は無いのか?」

「……あるにはある、だが、必要か?」

「フラットヘッドの受け渡しはどうしたら良い」

「オレが運ぶからこの事務所に持って来てくれ」

「……ジャグがか? デイビッドに任せりゃ良いだろ」

「そうしたいのは山々なんだがな、ご指名貰ってんだよ。相手はリジィズ・バーの主人、エヴリン・パーカーだからな。目の前で解体して元に戻して欲しいんだろうさ。慎重な奴だが、抜けてもいる。まぁ、水商売の女主人だ、荒事の経験も薄いんだろうよ」

 

 成る程、ならリトルボスの領分か、口出しは余計だったな。

 護衛にデイビッドが付くだろうし、問題は無さそうか。

 今回の依頼を纏めると、メイルストロームからフラットヘッドを代理購入してくる事、そしてミリテクのコンボイをどちらかに受け渡す事だ。

 仲介人の裏切り者か、苦労してそうな上司か。

 ……心情的には後者だが、はてさて。

 

「ジャック、どちらに与する?」

「いや、後者一択だろ……。裏切り慣れてる奴に背中を預けられるかってんだ。それに、明らかに泥舟じゃねぇか、無理だろ色々と」

「だよねー。ぶっちゃけ、そいつチクって報酬に色付けて貰った方が良くない?」

「……同感ね、メイルストロームとやらの一件で損切りされるのが目に見えてるわよ」

「それにミリテクはアラサカに次ぐメガコーポだから、後々の活動を見据えたら良い顔しておくべきだと思うな」

 

 哀れアンソニー・ギルクリスト。

 裏切り者の末路だなんてそんなもんだ、悪徳が栄えるナイトシティなら尚更に。

 全会一致でメレディス・スタウトに与する事が決定し、連絡する事になった訳だが……。

 まぁ、うん、分かってた、俺だよな、そうだよなぁ。

 分かったから見つめるな、談笑でもしてろ。

 

『……誰だ、この番号は秘匿されている筈だ』

『ジャグラ・カグラの使いだ、と言えば通じるか。メレディス・スタウト殿?』

 

 やや歳上な声色の女性の声だが、ミリテクのエージェントらしく軍属らしさのある強さが秘められていた。

 此方の窺い方は正解の分類だったようで、張り詰めていた空気を抜く様に息を吐いて、幾らか柔らかくなった声が返ってくる。

 

『……ふん、賢い選択をしたようだな貴様。貴様が我が社のコンボイ奪還任務に就いてくれるソルジャーと認識して良いか?』

『ああ、貴殿との連絡役をするヴィットだ、宜しく頼む』

『……ふっ、それは貴様らの成果次第だ。それで、愚かにも我が社の物資を懐に隠し込んでいた奴は誰だ?』

『報酬に色を付けてくれたら喜んで売り飛ばすぞ』

『……まぁ、良いだろう。顔合わせしてから考えてやる、前向きにな』

『オーケィ、下手人はアンソニー・ギルクリストだ。こいつもリトルボスの所に依頼を持ち込んだらしい。しかも、追っ手が来たら殺してくれだなんて宣ったそうだぞ』

『……はぁ、呆れて何も言えないな。コンボイの場所はもう確認してあるのか?』

『行き先はメイルストロームのアジトだ。前のボスと商売していた様だが、頭が代わって遣り方が杜撰になって発覚したってオチだ』

『……ほぉ? それはまた……。ソルジャー、追加依頼だ。アジトでギルクリストとの遣り取りを確認できるデータがあれば回収して欲しい。報酬額に色を付けると約束しよう』

『それはまた有難い話だ、と言いたいがリトルボス次第だな』

 

 割と良い報酬になりそうだなと思っていると、メレディスは口を閉じた。

 数秒の沈黙の後、溜め息に押し出された様な声が聞こえる。

 

『……本当に齢十五の少女とは思えんな。何処まで先を読んで、いや、見ているのやら……。それに関しては問題無い、既に織り込み済みだ。疑うなら聞いてみるが良い』

 

 思わずリトルボスを見やれば、ニィッと笑みを浮かべた。

 ……つまり、俺らの性格を知ってるから先んじて話を進めておいてくれたのだろう。

 となれば、先のアレは茶番に過ぎず、人物紹介も兼ねていたと言う事になる訳だ。

 ……用意周到が過ぎる。

 一歩毎に給水所がある気分だ。

 

『……みたいだな。確認が取れた。他にもあるか?』

『いや、それくらいだ。コンボイを確保した貴様らの脱出後、ミリテクの精鋭部隊を向かわせる。コンバットハイで手出ししてくれるなよ、以上だ。健闘を祈る』

 

 スッパリと切られたホロコールに、随分と強気な性格だな、と苦労の臭いを感じて溜め息が出る。

 ……まぁ、ミリテクだしな、文字通りの意味だった訳だ。

 

「交渉は終わった。ギルクリストの証拠を回収すればボーナスが付くってよ」

「ふむ、思った通りの展開だな。ヴィット、こいつを渡しておく、ウイルス入りの空手形だ。ネットに接続した瞬間にデーモンが悪さしてPINGを放ち、自動的に感染型化学汚染のデーモンがアップロードされる。ドンパチして帰りたいならおすすめだ、先手を打てるからな。もう一つは依頼人から受け取っているクレジットだ。フラットヘッドの金額は一万エディーだ、吊り上げも予想されるから注意しろ。ま、後は任せるよ」

 

 リトルボスから受け取った二枚のクレジットチップを懐に仕舞う。

 どうやるかはこれから考えるが、このジョーカーは有難い。

 ソファや椅子に座り、情報の精査をサーシャが始めたのを機に作戦を考える。

 ……まぁ、この面子だし、最終的にドンパチしそうだな、いつもの事だし。

 ただ、今回はフラットヘッドとコンボイの場所を見つけてからだがな。

 

「ん、メイルストロームの前任はブリック、割と人格者で、電波に頭やられてる奴らの中でも比較的まともなリーダーだったみたい。それをロイスって奴が簒奪したみたいね。メイルストロームの中で事実は浸透していて、一部のブリック派が抗議の声を上げてる」

「そうなると二手に分かれるか。コンボイの場所を探るステルス組と、時間稼ぎにフラットヘッドを買取に向かう正面組で」

「なら、アタシがステルスかな。物探しはトランスミッションの十八番だし」

「そうね、そうなるとコンボイが帰りの足になりそうだから私も同行するわ」

「よし、ならこうだ。俺とヴィットが正面から客に扮してフラットヘッドを手に入れる。ヴァニーとヴァリーで裏から回って、コンボイの場所が支払いまでに見つからないようなら正規のチップで、見つかればデーモンチップで一網打尽にする。どちらにせよ、ミリテクの後詰があるんだ、手間の駄賃くらいは貰わなきゃな」

「りょーかい、決行は夕方?」

「そうだな、闇に紛れた方が片付け易いだろう。追加報酬の件もヴァニー、任せていいか?」

「勿論、データのぶっこ抜きは呼吸みたいなもんだしね」

「だからと言ってまた変なBD拾ってきちゃ駄目よ? ウイルスチェックさせられるの私なんだから。と言うか自分でやりなさいそんなの」

「えへへ、つい拾っちゃうんだよね、面白そうだし。レア物引けたら儲かり物だしさ」

 

 ストリートチルドレン出身らしいヴァニーの悪癖に、サーシャが肩を竦めた。

 何でも仕事現場からこっそりBDを拾うのが趣味になっているようで、この前スカベンジャー謹製拉致用BDを事務所で見てアババババと痙攣していたのをサーシャが見つけて叱った様だった。

 それを見かねたサーシャは、依頼が終わる毎にヴァニーの拾い物を預かり、片手間でウイルスチェックをしてあげているようだった。

 口では酸っぱく言っているサーシャだが、仮にヴァニーが自分でやり始めたら面倒見を発揮して結局付き合うんだろうな。

 リトルボスはBDに関しては何にも言う事は無いようで、セーフティ付きのBDデバイスを作ってあげるくらいが精々……、いや、暗に言ってるなこれ。

 裏BDに関しては、裏モノビデオみたいなもんだろ、依頼があれば潰すがオレから手を出す理由はねぇな、と肩を竦めていた。

 リトルボスはそもそもBDを見るのを好んでいない様で、そう言った姿を見た事が無い。

 ……もっとも、常に仕事をしているようだからそんな暇が無いだけかも知れないが。

 まだ齢十五の女の子なのだし、気にかけてやれれば良いんだがな……。

 レベッカ嬢には悪いがデイビッドを焚き付けてやるべきか……?

 何故だか知らないが、リトルボスはデイビッドに対して一定以上の信頼を置いているようで、《エッジランナーズ》のデイビッドと言うよりか、護衛を兼ねた用心棒の印象が最近強い。

 出掛ける時は取り敢えずデイビッドを連れて行けば良いか、みたいな安心感を抱いている様だった。

 ……まぁ、恋愛感情が欠片も見えないせいでデイビッドの頭が焼かれてるんだがな、実際可哀想ではあるが役得なのは間違い無いから何ともな。

 だからこそレベッカ嬢もヤキモキしつつも生来の生真面目さで遠慮しちまって、嫉妬心や罪悪感で頭を焼かれてるんだが。

 デイビッドはレベッカ嬢の気持ちを察しているようだが、脳に焼き付いた初恋の人の危ない雰囲気が見逃せないのか過保護になりつつあるし……。

 バイオテクニカの一件で手に入れた事業の色々が片付くまでは無理そうだな、処置無し、だ。

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