Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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三十二話

 ジャックのアーチに相乗りし、ワトソン地区のオールフーズが所有していた工場に向かう。

 隠れ蓑にしやすい工場などはギャングの狙い先になりやすく、抵抗に失敗してアジトに改造される事も少なく無い。

 恐らく此処もそう言った流れで奪われたのだろう。

 アラサカやミリテクなどの巨大企業ならまだしも、中小企業ではギャングに立ち向かう事なんて出来やしない。

 ……それに、アラサカに所属していたから分かるが、メイルストロームは実質アラサカの指先の爪だ。

 彼らのクロームの大半がアラサカ製であり、乳白色の専用オイルが動かぬ証拠だろう。

 今回のミリテクコンボイの襲撃も、アラサカとミリテクの水面下の争いの一端と思えてくる。

 でなければただでさえミリタリー色の強いミリテクに手出しなんかしやしない。

 もう一人の依頼人ことアンソニー・ギルクリストの一件は、アラサカの引き抜きによってミリテクを売った結果だろう。

 ……まるで他人事だな、俺も随分と馴染んだらしい。

 

「よぉし、いっちょやるかぁ」

『ステルス班潜入かんりょー、コンボイはあっさり見つけたけど……裏手の搬入口で子供の落書き帳みたいなパンクな事になってんね。ひっどいセンスー』

『続いて内部に潜入して追加のエディーを拾ってくるわ。あ、ヴァニー、アレ』

『はぁーいーよっと! アッハハ! ミンチよりひっどーい!』

『……こっちに飛ばさないでよね、汚いし』

 

 

 監視の一人、と言うよりも偶然遭遇した奴を潰したらしい。

 ヴァニーの細腕にしか見えない両腕はゴリラアームではなく、リトルボス謹製のゴリアテアームと言うらしい。

 瞬間威力はNCPDの装甲車を一発で貫通させる程だと聞いているので、見つかった奴は……赤と白の花火になった事だろう。

 コンボイを見つけられた事で、俺たちの仕事は簡単になった。

 ジャックに目配せし、頷いたのを見てアーチを入り口から離れた場所に止め直し、逃走方向に向けておく。

 

「んじゃ、買いに行くか」

「あぁ、不意打ちに気を付けてな」

 

 道路側から続いている正面入り口に歩いてゆき、インターホンを押して数秒待つ。

 するとブースター焼けした声の男が要件を尋ねてくる。

 

「買い付けに来た。既にブリックから聞いていると思うが、コンボイの中身の一つだ」

『……ちっ、少し待ってろ。…………おぅ、確かに予約が入ってるな、名前は?』

「エヴリン・パーカーだ」

『……オーケー、正面から歩いてきな、奥深くまで』

 

 正面のシャッターが上がり始め、奥へ続く道へ灯りが灯っていく。

 ジャックに目配せし、互いに頷いてゆっくりと歩を進めていく。

 道中のタレットやミリテクの感知地雷などにおっかなびっくりしながら、ヴァニーたちの時間を作るために恐る恐るの体で歩みを進める。

 

「そこだ、乗りな」

「あぁ、どうも」

「……ふん、気を付けるこったな」

 

 モノアイが浮かぶ異形な頭をしたメイルストロームの組合員にエレベーターに乗る様促されたので、律儀に頭を軽く下げておく。

 すると、ややぽかんと口を開いてから肩を竦められた。

 今の俺の格好はコーポ時代に使っていた私用のスーツであるし、コーポの人間にも見えたりするだろう。

 基本的にメイルストロームは、ギャングたちはコーポから見下される存在だ。

 故に、蔑みの無い純粋な儀礼的な行動は彼らの自尊心を満たしてしまう、今の様に無意識に、だ。

 恐ろしい相手に思わず、と言った遣り方だと逆に見下されてしまうので、あくまで対等を貫くのが吉だ。

 エレベーターに乗り込むと自動で、遠隔操作されて地下へ降りていく。

 

「今のが処世術って奴か?」

「あぁ、舐められず見下されず、真正面から対等に渡り合う術みたいなものだ。覚えていて損は無いが、格好が様にならないと駄目だな。ジャックには合わん遣り方さ」

「まぁ、確かにな。随分と経つってのに抜けないよな、その苦労顔と死んだ目」

「……余計なお世話だ。リトルボスが前の上司よりも上司してるから抜けねぇんだよ社畜精神がよ……」

「……終わったらうちでビール、いや、テキーラでも飲むか」

「そうだな、そうしよう。ママ・ウェルズの手料理が久方に食いたくなってきた」

 

 談笑しつつ、エレベーターの降り具合から階数を憶測しつつ、地下三階か二階相当の場所へ降り立つ。

 開けられた入り口から進んでいくと、元は休憩場所か何かだった場所に陣取ったメイルストロームの野郎共と対面する事になった。

 

『……ヴァニー、進捗は』

『あ、ごめ、伝え忘れてた。もう引っこ抜いてコンボイに乗ってるよ。いつでも出れるよん』

『ごめんなさいヴィット! 私が報告しておけば良かったわね。タイミングは其方に任せるわ』

 

 内心で溜息を吐きつつ、ジャックに目配せしてから前に出る。

 すると弾薬チョッキを素肌に直に着た男が前に立ち、額の巨大な瞳と三対の小瞳を赤く灯し、眼前に顔を近付けた。

 メイルストロームは入団の儀式と称してサイバーウェアを麻酔無しで移植する様な、度胸を重要視するギャングだ。

 ちょっと眩しいなと思いつつ、無機質に見つめ返せば、へっと笑って下がってテーブルに座り込んだ。

 

「へっへっへ、中々の胆力じゃねぇか、コーポ野郎にしては気に入ったぜ。俺様はダム・ダム。ロイスは野暮用で部屋に居るから代わりに話を聞こうか」

「そいつはどうも。座って良いか?」

「……あっはっは! 面白い奴だなお前! ほらそこの護衛も座れ座れ! 不意打ちなんざダセェ事しねぇさ。一服どうだ? 中々キマるぜ」

「悪いが、薬物はうちのリトルボスが嫌っててね。残り香ですら拙いくらいだ」

「ん? あぁ、あのドラゴンタトゥーの使いなのかお前。ぁー、ならこっちはどうだ。薬物系じゃないが、鼻とか喉がスッキリする個人的に好きな奴だ」

 

 ポケットから取り出された吸入器を受け取り、口元に触れない様にスイッチを入れるとミント系の爽やかな味と匂いが射出された。

 ……これは、良いな。

 もう一度使って良いか聞いてから、了解を取って再度使う。

 眠気覚ましにピッタリだ、アラサカ時代に欲しかったなこれ……。

 

「あんた、良いセンスしてるな。これ、何処で売ってる奴だ?」

「はははっ、何だお前知らないのか部下なのによぉ。デラマン医療サービスの奴だ、鼻炎で行ったら処置されたんだそれを。聞いてみれば処方じゃなくてもオンラインストアで販売してるらしいぜ」

 

 ダムダムに吸入器を返し、差し出された右手を掴み取り力強く握手を交わす。

 ジャックを見やれば肩を竦めていた。

 

「さて、商談に入ろうか。ブリックに取り置きして貰ったフラットヘッド、そいつを売って欲しい」

「へぇ、アレの買取手だったのか、おい! 持って来てやれ! へへへ、こいつぁ良いもんだぞ。光学迷彩を搭載したハッカー涎もんの代物だ。使い方は制御チップを使って操作するだけだ。ちょっと待ってろ、見せてやる」

 

 ダムダムは別の男に持って来させたケースを開いてみせ、中に入っていた制御チップを首元に差し込んだ。

 すると四足歩行で立ち上がった首の無い犬めいたフラットヘッドが初期動作確認をして、消えた。

 いや、よく見やれば景色が歪んでいて注視すればその存在を見抜ける。

 

「こいつの凄い所は光学迷彩の持続時間もそうだが、特殊な脚部パーツで壁を天井を這い回れる点だな。機体が入る場所での作業を熟せる。どうだ、良いブツだろう?」

 

 実際にフラットヘッドを床から壁へ、壁から天井を掛けてぐるりと一周させたダムダムは笑みを浮かべ、ケースに制御チップを戻して閉じた。

 

「本来なら値段を吊り上げるところだが……、お前が気に入った、元値で売るぜ。一万エディーだ」

『……はぁ、ウイルス抜きの方を渡してやれ。まったく、お前って奴は……』

 

 ジャックの許しも出たのでクレジットチップの方をダムダムに手渡した。

 スキャナーに差し込み、中身を確認したダムダムが良い笑顔で、まるで俺に託す様にフラットヘッドの入ったケースを渡してくれた。

 受け取る際にダムダムへ連絡先を送り、メッセージを送る。

 ――コンボイの件でミリテクが来てる、上手く逃げろ。

 メッセージを確認したダムダムは数秒沈黙した後に、俺にさっきの吸入器を投げ渡してきた。

 

「此処だけの話だが、ロイスは……駄目だ。バイオテクニカの残したブツを売って成り上がろうとしてやがる。ドラゴンタトゥーがした事を鼻で笑ってな。……酒の好みが合う奴だったが、それ以外が悪過ぎた。……ブリックは此処に監禁されててまだ生きてる。回収して行くから安心しろブラザー」

「おまっ、い、良いのか?」

 

 他の奴らを思わず見やれば、口笛を吹いたり耳を掃除し始めた。

 ……ロイスの人徳の無さにジャックも額に手を当てていた。

 となると、だ。

 ロイスだけ仕留めて帰った方が後味良いな。

 ダムダムを見やれば親指で後ろのシャッターを指差した。

 シャッターに耳を当てて聞き耳してみれば、自慰用のマシーンがガチャガシャしている音が聞こえる。

 ……野暮用ってお前、とダムダムを見やれば既に撤収準備をし始めたようでサムズアップだけが返された。

 

「はぁー……。変な感じになっちまったな」

「まぁ、良いじゃねえか。明確に恩が売れたんだからよ、さっさとオナニー野郎を始末して帰ろうぜ」

「それもそうだな……」

 

 久々にやるか、近くの監視カメラにクイックハックを仕掛け、ブリーチプロトコルをぶちこんで掌握する。

 椅子に座ってガチャガシャとシテいるロイスらしき人物に回路ショートのデーモンを放つ。

 すると、粗末な息子を雷撃で焼かれながら無様な姿で痙攣するアホのオブジェが完成した。

 こいつの始末はミリテクに任せよう、手柄の土産くらいは欲しいだろうしな。

 

『えーっとぉ? ドンパチは無し? 裏口の下水道から逃げてくんだけど、背中撃って良い?』

『良くないわよ。はぁ、穏便に済ませられたならそれで良いでしょ』

『あぁ、ヴィットがメイルストロームの奴と仲良くなって円満にお終いだ。ミリテクに後を任せて撤収だ』

『はーい、ならコンボイも置いといて良さそう?』

『そうだな。分かりやすいようにライトでも点灯しておいてやれ』

『それならヴィットにこれ送っておくわね』

 

 サーシャからメールログが纏められたデータを受け取る。

 後はこいつをメレディスに渡せば依頼は完了だな。

 

『あ、ヴァニー、一回こっちに来てくれ。フラットヘッドを持って出てくれ』

『りょ』

『あぁ、そういやこれ盗品だもんな……』

 

 ジャックのぼやきに頷き、ぴょんぴょんと跳んで来たヴァニーにケースを手渡し、来た道を戻っていく。

 エレベーターは正常に動き、道中もタレットなども停止されたまま何事も無く、入り口へと戻れた。

 すると、突如としてミリテクの強襲部隊が空から降り立ち、俺たちを無視して中へ突入して行った。

 彼らの背を見送ると輸送車が一台目の前に停まった。

 後部座席から、眼光の鋭い女性が降りて俺を見やり、笑みを浮かべた。

 

「前菜は逃したが、メインディッシュは残ってる。アンタがメレディス殿で宜しかったかな?」

「……ふむ、土産を貰えるか、ソルジャー」

「あぁ、手荷物にするには忍びないから、纏めておいた。確認してくれ」

 

 サーシャの纏めたデータをメレディスに送ると、心底安堵した様な息を吐いていた。

 ……もしや、今回の件で責任を擦り付けられてたのだろうか。

 うっわぁ、俺も最近味わったから共感できてしまった。

 眼尻の吊り上げを緩めたメレディスは俺にウインクしてから、豪勢な報酬を送ってくれた。

 ……ん? メレディスの個人的な連絡先も一緒だな。

 今回の件で中々に気に入られたようだ、依頼が舞い込むかもしれないな。

 

「流石の成果だ、私はきちんと評価しよう。助かったぞソルジャー。……ちゃんと報酬に色を付けよう。では、またいつかに」

 

 何処か歳上の色気を感じる柔らかな笑みを浮かべ、メレディスは再び後部座席に戻って行った。

 ……ふむ、割と脈ありか?

 コーポ時代に割とロマンスした事もあってその手のサインには見慣れている。

 性欲を秘めた熟れた身体、か。

 少し楽しみにしておくか、ラブコールが来ると良いんだが。

 受け取った報酬をチーム預かりの口座に入金し、ジャックのアーチに相乗りして事務所に向かう。

 

「ほんと、口が上手いなヴィー」

「ははは、これだけが頼りだからな。独り身の特権さ」

 

 懐かしい遣り取りをして、夜風を切る感覚に身を委ねる。

 ……はぁ、今日も何とかやり切ったな。

 概ね良い感じに纏められてラッキーだ。

 にしても……、俺の勘が囁いているが、今回の一件が導火線の先端に思えるのは気にし過ぎだろうか。

 最近、リトルボスの様子が変なのが気に掛かる。

 デラマンとの提携どころではない強固な協力態勢と言い、何かに備えている節が見える。

 元バイオテクニカの巨大ワーム農場に物資が運び込まれている様で、建材を見るに鉄鋼が多い。

 土地の精査と同時に地下施設の建造を行なっているようだった。

 デラマンと、だ。

 デラマンタクシー、デラマン医療サービス、デラマン製薬、デラマンファームと来て、次は何を作ろうとしているのか……。

 デイビッドたち、《エッジランナーズ》も水面下の動きに移行しつつあり、まるで俺たちを目立たせようとしている様にも見える。

 エヴリン・パーカー、か。サーシャに調べるよう伝えておくか、リジーズ・バーに何らかの……。

 あっ、あ、あそこって確か《モックス》のシマで、シノギって違法スレスレのBDと……ご機嫌なドラッグ……だった様な……。

 ……見た目が少女なリトルボスに刃向かった可能性は高いなぁ。

 ただでさえタイガークロウズの一件で作られたあそこはセックスワーカーの労働組合の様な場所だ。

 タイガークロウズと関わりがある綺麗な顔に身体をした少女に物申されて、高圧的に言い返したりしたら、それどころか手を出そうとしたら……。

 代替わりも有り得る、か。

 ジャックと偶に酒を飲みに行ってた場所だが、最近行っていないし様変わりしててもおかしくねぇな……。

 スザンナとの刺激的な火遊びは意外と楽しかったんだがな、プライドの高さが仇になったか。

 明日にでも行ってみるか、リジーズ・バー。

 情報交換も兼ねてメインやデイビッドも誘ってみるか。




【Tips】

・コーポVこと今作のヴィンセントは上からではなく下から吐く事でストレスを処理していた。
割とロマンスが多かったようで、実はジェンキンスの裏切りの理由の一つに愛人にする予定だった部下を先に取られたから、と言うのがあったりする。
後に語る予定が無いので暴露すると、ジェンキンスはもう既に何処かの湾で海中遊泳中(重り付き)。

・メレディス・スタウト。
歳上のおねーさん(ry
初見のVのロマンス処女を粗方奪ったであろうミリテクのエージェント。
今回R18版を書く気は無いので暴露すると、モーテルでにゃんにゃんした(未来形)。
原作では大分切羽詰まっていたようで、邂逅した時のヒス気味な態度はストレスと自身の命が掛かっているが故の八つ当たりである。
本来の彼女は、ミリテクに与した際に出口で会った時の強気な方なので誤解しないであげて欲しい。
PC版だと、ACT2で極太で硬くて長いディルゲフンゲフンのアイコニック武器が貰えたりする。
屈しのネタ武器だが鈍器武器では最良の分類、こいつでオダやアダム・スマッシャーをペチったブロウラーVも多いのでは。
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