Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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三十五話

 神宮寺で仕立てたパリっと仕上げの高級スーツに身を包んだ俺とヴァリーは、安値で買い叩かれたのだろうそこそこなタクシーに乗り込んでいた。

 運転席にはタクシー運転手に扮したジャックが座り、ヴァニーが助手席でナビゲート役に扮していた。

 家族経営のタクシーと言う設定なのか、前の二人は陽気なアロハシャツに身を包んでいて温度差が半端無い。

 

「しっかし……、またヨリノブか。イグアナの件と言い、やけに縁があるな」

「ヨリノブ・アラサカ。現社長のサブロウの息子で次男。長男は第四次企業戦争中に亡くなったみたいだね、年若い次男らに任せられなかったからサブロウが復帰したみたい。その頃のあれこれでアラサカの経営方針のせいで喧嘩別れしてたみたいだけど、ナイトシティに呼び戻されたみたい。トウキョウで《鋼鉄の竜》って組織を作ってたらしいよ」

「放蕩息子だった訳か。あんな立派な後ろ盾があってやる事かねぇ」

「それは立場の違いだろう。親が凄ければ凄い程、息子娘へのハードルは高くなるだろうし、求められる水準も高かった事だろう。自分だけで組織を率いた期間があるってのはプラス要素だろう、少なくとも操り人形にはならないと言う意志に見える」

「ほぉー、なら、すげぇ親父に認められたかった感じか、自分は人を率いる力があるんだぞって。なら、割りかし気骨のある奴だったんだなヨリノブは」

 

 《鋼鉄の竜》、か。アラサカに居た頃にちらりと聞いた事のあるノーマッドクランの名だ。

 反アラサカを掲げた過激派集団であり、俺がコーポ落ちした理由とも言えるフランクフルトでの情報漏洩に関係していたとかなんとか。

 噂は噂に過ぎないが、そのタイミングでヨリノブがナイトシティに来たのも事実だ。

 関係性が無いとは言い切れない。

 息子のヤンチャに親父がキレたのだと考えると腑に落ちるんだよな。

 その慰めのために買ったイグアナを横取りされてたのかと思うと……、まぁ、ご愁傷様、だな。

 車の中で談笑しつつ紺碧プラザへの道を進んで行く。

 既にデイビッドたちは清掃員に成りすまして、フラットヘッドを予約した部屋に搬入までしてくれたらしいので、俺たちは若い投資家カップルとして客の立場で入り込む。

 ……人数が居るから役割分担が楽で良いな。

 これが俺たちだけなら俺とジャックで正面から武器商人として潜入していたに違いない。

 

「さて、そろそろ紺碧プラザだ。お客さん、帰りはどうします?」

「そう時間は掛からない予定だから、駐車場に居てくれると有難いな」

「あいよ、ご武運を」

 

 肩越しに向けられた拳に、拳を当て返してからヴァリーと外に出る。

 ……久々に来たな、紺碧プラザ。

 アラサカ時代に後輩ちゃんを連れ込んだ思い出が浮かび、ピンクな思考が侵す前に首を振って気分を変える。

 

『紺碧プラザ前だ。予約の名前は?』

『貴方は、ハリー・コンウェル。ヴァリーは、ハンナ・コンウェル』

『……カップルって設定じゃなかったか?』

『そうだっけ? まぁ、良いんじゃ無い、指輪嵌めてるか否かってだけだし。二人で一つのスイートに居る理由には十分でしょ』

『まぁ、そりゃそうだが……』

 

 チラリと隣を見遣れば、分かりやすいくらいに目の前の高級ホテルに気押されていた。

 まぁ、ノーマッド出身だもんな、お上りさんめ。

 一つ息を吐いて、ヴァリーの右手を左手で取り、指を重ねてやる。

 すると此方を見たヴァリーは突然の事に驚いた様だが、俺の意図を悟ったのかしなだれ掛かる形で腕を絡めた。

 ……まるで女優だな、スイッチ一つで夫婦の振りに入った。

 今回、紺碧プラザには武器を持ち込めないため、万が一の時は俺のマンティスブレードが頼りだ。

 ヴァリーはインプラントをあまり好まない様で、ほぼ生身である事から警戒を外せる。

 さて、俺も仕事モードに入るか。

 普段下ろしている髪を撫で付けてオールバック風にし、表情をコーポ時代の頃に戻す。

 紺碧プラザの入り口、セキュリティゲートを通り過ぎる。

 このゲートはナイフや銃と言う分かりやすい武器を剥がすための口実でしか無い。

 今時身体にインプラントしていない奴はほぼ居ないため、律儀に金属探知をしていると全員が引っかかる。

 そのため、明らかに凶器である筈のマンティスブレードもクロームテックとして処理され、素通りを許される。

 ……あ、アラサカ社製ってのも関係してるかもしれないな、此処はアラサカの系列店であるし、アラサカの人間が利用する機会なんて多々あるだろう。

 中級幹部以上に色々とサイバネティクスを優遇してくれるアラサカだからこその抜け穴とも言える。

 

「チェックインをしたい。ハリー・コンウェルだ」

「ようこそ、紺碧プラザへ。ハリー・コンウェル様ですね。……はい、確認が取れました。生体認証をお願い致します。……お手続きはこれで完了です。お客様のお部屋は四十二階のラピス・ラズリスイートとなります。どうぞ、ごゆるりとお過ごしくださいませ」

 

 受付嬢が深々と頭を下げたのを尻目にヴァリーに合図してエレベーターへと向かう。

 向かう途中でラウンジバーがあったのでチラリと見やれば、……マジかよ、超大物な人物が居るじゃないか。

 次なる新作を誰もが待ち望むブレインダンスディレクターのヒデヨシ・オオシマが談笑しているのが見えてしまった。

 話を少ししてみたかったが、依頼の事もあり後ろ髪を引かれつつその場を後にする。

 エレベーターで四十二階へと登って行き、予約していた部屋へと手早く入る。

 デイビッドが今回の成功率を上げるべく、サンデヴィスタンを起動してクローゼットの中に入れてくれていたらしいフラットヘッドのケースを取り出した。

 

『チェック完了、部屋の鍵も……閉めた。一応窓も閉めておくか』

『フラットヘッドの電源入れてくれる?』

 

 フラットヘッドの首裏にあるスイッチを押して電源を入れて起動すると、キーウィとサーシャが協同して無線接続したようで動作確認を終えてから動き出した。

 音も無く床を歩いて行ったフラットヘッドが換気シャフトの螺子を取り外し、中へと入って行く。

 暫く待機だな、とソファに座るとあちこちを見回っていたヴァリーが外の景色を見て興奮していた。

 まぁ、ノーマッドだとこの高さからの景色は見た事は無いだろうしな、二十代前半らしい喜び方を微笑ましく見ていると共有しているホロに進展が届いた。

 

『えぇと、サブネットのテックルームに侵入完了。ドゥウェラーも確認したけど……』

『この規模のホテルにワンオペって……、何と言うか同情しちゃうわね、本当に可哀想』

 

 そりゃ、一人で頑張って仕事している時に無力化された挙句、フラットヘッドに内蔵された爆弾によって吹き飛ばされるんだから可哀想にも程がある。

 しかし、そう言った事で甘さを見せていると仲間の命に関わる事態になってしまった時に痛い目を見る羽目になる。

 まぁ、運良く生きてれば良いな、と来世方向にバイバイしつつ、続きを待つ。

 

『んー、ICEが分厚いなぁ。ちょーっと慎重にやるなら時間掛かるね』

『何と言うか、元のICEに別のICEが乗っけられててスパゲティコードみたいになってるのよね』

『アイスのダブルって感じ。雑にやると混ざっちゃうから、上から片付けないとだね』

『暫く掛かるから高級ホテルで休憩してて』

 

 ……ワンオペの弊害が出てないか?

 今回は良い方向に作用したが、見つかったら上司に怒られる奴だろうなこれ。

 だとさ、とヴァリーに肩を竦めると、景色を堪能し尽くしたのか隣に座って苦笑していた。

 

「車弄りは得意だけど、ネットに関しては分からないわね。パラボラ付けて漸くって感じなのよ?」

「企業はバッドランズに意味を見出さなかったからな。中継場は作ってもノーマッドには恩恵を与えなかった。無理も無いさ」

「……ねぇ、バッドランズってこっちの人たちからするとどんな印象なのかしら。暫くナイトシティに居るけど、あんまり実感が無くて」

「そのまんまの通りさ。無いも同然、暮らしに欠片も関わらないからな。……コーポからサイバーパンクとして活動してきて、ナイトシティが閉鎖された環境であると痛いくらいに感じる。企業は俺たちを野畑から生えた螺子やギアにしか思っちゃいない。……そう考えると、企業はノーマッドを嫌ってたのかもしれないな。何処までも自由意思を尊重する者たちだ、支配して働かせたい企業からすれば指に噛み付く鼠みたいなもんだろう」

「……成程ね、自由、無さそうだものね。地獄の沙汰もエディー次第って奴?」

「まぁ、そう言う事だ。……リトルボスは、そんな世界を見て嫌になったのかもしれないな」

「と、言うと?」

「こいつらに任せてられないから自分でやるしかない、だなんて正義感を掲げても可笑しくない」

「ぷっ、それもそうね。実際、市長ですら無理だったドラッグ根絶に一役買ってるものね」

 

 だからこそ、眼の上のたん瘤である筈のリトルボスを企業の奴らが狙わない理由が見えてこない。

 ……いや、それは嘘だ、分かってる、分かってるけど言いたくないだけだ。

 リトルボスは今までのギャングとは違う、本当の闘争を行える人物であると最大限に警戒されているからだ。

 企業に使われて水面下で代理闘争を行なうギャング共たちと違って、リトルボスは企業を作り上げてそれをぶつけようとしている。

 しかも、デラマンの関連企業によってナイトシティ全体の幸福度を上げて市民の誇りを取り戻させようとする動きをしている。

 これに対して企業は対抗措置をしたいが、リトルボスのやっている事は全て慈善事業であり、クリーンな医療に、クリーンな食料だ。

 市民からの支持を受けない訳が無い、彼女にやる気が無いから次期市長の名に上がっていないだけだ。

 そんなリトルボスの事業に難癖を付けたら最後だ、企業に対して食料封鎖と医療封鎖を行うに決まっている。

 しかも、戦争を行なうために必要な食料物資と医療物資を握った上で、この街最大勢力のタイガークロウズが動くんだぞ、どんな悪夢だ。

 ……リトルボスはやる時にはやる少女だ。

 一切の制限を取り払ってこの街を焼き払うような戦争を企業相手に仕掛ける事だろう。

 いや、こっわ……、コーポに居たからこそ、めっちゃくちゃ厄介な集団が出来上がっていると分かってしまう。

 俺にも分かるくらいだ、現にコーポな奴らも死んだ目で知らんぷりしたい事だろうよ。

 悪意の無い戦争商人だなんて、信じたくても信じられないだろうにな……。

 本人は燻ってる奴らを見て気に入らねぇと気炎吐いて、お節介焼いてるだけだからな。

 

「リトルボスが、本当にナイトシティのボスになる野望を持ってたらどうなってたんだかな……」

 

 自分で言ってて恐ろしい事を口にしてしまったものだ。

 ……バルコニーでニコチンでも摂取して大人しくしておくか、この後が本番な訳だしな。

 




【Tips】

・リトルボスの野望
ただのコーポVの妄想の産物である。
ジャグラくんちゃんそこまで考えてないと思うよ。
(作者もそう思います(ワイトAA))
彼女はあくまで原作Vの様な、死神なんて怖くないルートの様な伝説を、色々と頑張って生かした人たちを添えて盛大にしたのを見たいだけである。
食料インフラや医療インフラを握るつもりなんて全く無かったが、成り行きで手にしてしまったので過労死し掛けている。

ぶっちゃけると作者がプロットを碌に作らずにその場のノリで書き連ねてる弊害。
(唐突のオリチャーぶっこみ玉突き事故とも言う)
感想を見てた時に思い付いたのもぶっこんでたりもする。
二次創作ってそんなもんだしね!の精神でなにとぞ。
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