Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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三十六話

 バルコニーでぼけーっと煙草の紫煙をくゆらせて早数時間が経って夕方に近い時刻になった。

 今回の依頼がノーキルノーアラートが望ましいと分かっているが故に、慎重に慎重を重ねて作業した結果だった。

 フラットヘッドによるサブネットの制圧が完了し、ヨリノブのペントハウスへの道が開けた事で俺たちの休憩も終わりを告げた。

 エレベーターに乗り込み、本来アクセス権限が無ければ向かえない場所のボタンを点灯させる。

 

『確認するぞ、エレベーターでヨリノブの部屋に向かったら左奥にある《Relic》を回収。その後、再びエレベーターで地下駐車場から脱出の流れだ』

『随分と休憩したからね、英気はばっちりよ』

 

 音声の記録を警戒してホロでの会話に切り替え、ヴァリーと共に最上階へと向かって行く。

 電子音と共に何とも言えない匂いのするヨリノブルームへと辿り着く。

 光学インプラントに浮かぶマーカーに従って、床に収納されているらしいケース保管場所にアクセスする。

 床に仕舞われていた冷蔵保管庫が露出し、ヨリノブの生態認証と誤認させてロックを解除した。

 保管庫に仕舞われていた大型のケースを取り出すと、側面のモニターに非損傷率を示す数字が浮かんでいた。

 全く問題無しの100%が浮かんでいる、後はこれを回収すれば――。

 

『嘘だろっ!? 地下駐車場にヨリノブが戻って来やがった! 苛立ってて足が速い! そっちに行くぞ!』

『『はぁっ!?』』

 

 依頼人からのスケジュールによれば外出後に宴会だった筈だろうが。

 苛立っていたと言う事は、交渉か何かが決裂してそのまま喧嘩別れでもしてきたのかもしれない。

 拙い、此処から降りるための場所はあのエレベーターしかない。

 リトルボスのカスタムデラマンが脳裏に浮かぶが、関与を疑われる様な物を呼び出せない。

 

『サーシャ! 隠れる所は無い!?』

『えっと、えっとぉっ、あった! テレビの裏! マークする! 急いで!』

 

 ヴァリーと顔を合わせて頷き、一時的な避難場所としてモニターの裏に入り込む。

 丁度薄型のモニターの間にはメンテナンス用にか成人した大人が動けるだけのスペースがあった。

 《Relic》の入ったケースを床に下ろし、慌てて忘れていた冷蔵保管庫をハックして元に戻しておく。

 

「糞っ、糞っ!! 俺はお前の人形じゃねぇってのによ!! あのクソジジイほざきやがって!!」

 

 数十秒後にエレベーターから姿を現した青年の様に見える人物こそが、アラサカの次男であるヨリノブだ。

 頭を両手で掻きまわしてから椅子にどかっと座った事から、此処に来たのは不本意な理由だった様に見える。

 ……問題は其方じゃない、ヨリノブと一緒に入って来た護衛が一番の問題だ。

 この街には伝説がある、その中に未だ入らない生きた伝説の二人の片割れ、アダム・スマッシャーが其処に居た。

 そして、同時に危機感知のサイバーチップによってアダムの輪郭が赤く浮かぶ。

 このチップは此方に気付いた者を検知するチップであり、ステルスを行う際の必需品だった事もありその性能は理解している。

 それが、今、奴に対して反応している。

 その事実に俺は背筋を引っこ抜かれたかのような心地だった。

 ……しかし、アダム・スマッシャーはモニターを、俺たちを一瞥するだけで仁王立ちのままだった。

 どうしてだ、と思うさなか、屋上からの階段から降りてきた人物に顔が引き攣る。

 

『サブロウ・アラサカだと……、本当に生きてたんだな。初めて生で見たぞ……』

 

 サブロウの付き人である日系の護衛がヨリノブのペントハウスをぐるりと回り始め、飼い主を守る番犬が如く睨み付ける。

 しかし、サブロウの一言で渋々とながらも一礼し、一番の脅威だったアダム・スマッシャーも一緒にエレベーターに乗り込んでその場を離れた。

 ほっと安堵の息が漏れるが、まだ窮地を脱した訳じゃない、まだ気が抜けない。

 ヴァリーを見やれば口元に手を当てて此方を見ていて、お互いに思う事は同じの様だった。

 

「随分とヤンチャしているようじゃないか。……どうしてアレを盗んだ」

「はっ、随分とお困りのようだな糞親父。アンタの生涯の成果であるアレを売ってやればその顔が歪むと思ったからだ! アンタは! アンタはいつもそうだ! 澄まし顔で何もかも分かった顔で俺たちを見下ろしやがる!!」

「……それが、本音か。ヨリノブ。……そうか。……では、教えてやろう。お前の盗んだアレは失敗作のプロトタイプだ。半死人を使って実験した産物であり、ただのサンプルに過ぎない。あんなものを欲しがるなら、幾らでもくれてやるつもりだった。……だが、何処の馬の骨か分からん輩に売り払うとなれば話は別だ」

「………んだと、ヘルマンの野郎っ、法螺吹きやがったなぁッ!! クソッ」

「滑稽だな、ヨリノブ。愚かな者たちとつるんでいた結果がそれか。……お前の反骨心には期待していたのだがな。家出は終わりだ、家に帰って貰うぞヨリノブ。お前にはして貰わねばならない事があるからな」

「――知った事かぁっ!! 俺はっ、俺はぁっ!! 俺も、ハナコも、お前の奴隷じゃねぇぇええええ!!!」

 

 サブロウの言葉に激昂したヨリノブは懐から取り出した拳銃を――サブロウではなく窓へと向けて発砲した。

 弾丸は強化窓を砕く事しか出来なかったが、罅割れて亀裂が走った窓は外から見れば真っ白に見えた筈だ。

 ――俺は咄嗟に自身の経験を信じてヴァリーを抱え込む様に床へと伏せた。

 瞬間、ペントハウスの内部が真っ白に染まった。

 窓を見やれば、巨大な武装ヘリがサーチライトを使って内部を探り出そうとホバリングしており、巨大なガトリング砲の先を向けていた。

 そして、回転をし始めた砲身の先がサブロウ、そして、ヨリノブにも向けられていた。

 二人の顔は唖然としており、どちらのシナリオでも無い事が起きているのが見て取れてしまった。

 ペントハウスを薙ぎ払う様にして掃射されたガトリングの銃弾が内部を切り裂いていく。

 

【我々は反アラサカ団体《機龍》である! 我々の生活を、平和を、幸せを踏み潰したアラサカのゴミ共に鉄槌を下さん!! ヨリノブ! 信じていたんだ! 俺たちは! お前の言葉を! なのに! なのに! 貴様は我々を裏切った! 元凶諸共死んでしまえ!】

 

 これまでの恨みをぶつけるかのようにめちゃくちゃに掃射された銃弾の一つが俺の左腕を抉り飛ばす。

 鋭い痛みと灼熱の様な感覚に、奥歯を噛み締めて意識を保ち、懐からマックスドクを口に当てて吸入する。

 瞬時に痛みが晴れる様な心地となり、痛み止めの役割を果たす。

 リトルボス謹製の止血包帯を巻いて応急処置を終えた俺は、状況把握のために辺りを見渡した。

 ガトリングの甲高い音はもう聞こえておらず、サーチライトの明かりも無い事から既に離脱したようだった。

 床を見やればヴァリーが後頭部を抱えて倒れており、壁の一部が剥がれ落ちた事で頭を打ったらしかった。

 それ以外の外傷は見当たらないのが幸いか、と安堵の息を吐いたが、近くでバチリと紫電の音が聞こえてハッとする。

 ケースを見やれば二発程当たったようでモニターには非損耗率が70%と減ってしまっていた。

 

『ぐっ、リトルボス、聞こえるか、リトルボス!』

『これは……オレにも読めなかった展開だ。ヴィット、ヴァリー、生きてるか?』

『ヴァリーは頭をぶつけて気絶してるだけだ。俺は左腕を持ってかれた。応急処置は終えてる。じゃないっ、ケースが破損したんだ! どうしたら良いんだ!?』

『……その《Relic》を神経ポートに刺し込め。そうすると生体チップが初期動作を行い安定する筈だ』

『分かった!』

 

 片手でケースを抉じ開けて中の《Relic》を神経ポートに刺し込む。

 ……特段、変わった様子は無いな。安定状態に入ったんだろう。

 目の前のモニター越しに見える瓦礫の山を一瞥し、ヴァリーを抱えてエレベーターへ向かう。

 流石に窓から飛び降りるのは無しだ、この傷だし流石に死ぬ。

 意識の無い成人した女性一人を抱えての移動は流石にきついな。

 意識が朦朧としながらエレベーターを見やると、俺が押していないのに関わらず登って来ているのが見えた。

 まっずい、さっきの護衛が戻って来てるんだろう。

 逃げ場は、逃げ場は何処だっ!?

 

『こうなったら依頼どころではないからな、オレが直接支援に入る。ヴィット、窓から隣へ滑り落ちろ。そちらの逃走経路から脱出するんだ』

『くっ、了解っ!』

 

 視界に鮮明に映ったマーキングポイントに沿ってヴァリーを抱えて、バルコニーへと向かって進む。

 後ろから死神が歩いて来ている様な心地で、何とかマークポイントへと辿り着き、下を見て絶句する。

 流石にこのアトラクションは怖いんだが!?

 だが、命に換えられないので奥歯を噛み締めてヴァリーを強く抱き締めて背中からダイブする。

 屋上の設計で付けたのだろうお洒落な斜めの壁を滑り下りていき、階下の屋上へと降り立つ。

 っ゛ぁっ!? 着地の際に左腕をぶつけた、くっそ痛ぇっ、だが、それどころじゃない!

 

『大丈夫かヴィット!』

『あぁ、デイビッドか、すまん、ヴァリーを頼む。頭をぶつけてるんだ』

 

 清掃員服のデイビッドとルーシーと合流を果たし、ヴァリーを渡してエントランスへと目指す。

 先程の武装ヘリによって引き起こされた惨劇によって、マックスタックやNCPD、アラサカの保安部も総出で来ているらしく、内部は酷い事になっていた。

 襲撃場所が場所であるために俺たちの怪我を理由にその場を抜ける事はできない。

 ヨリノブのペントハウスに居れる様な奴に俺らが見えないからだ。

 俺とデイビッドは襲撃者と間違われないようにステルスを強いられながら、奴らの合間を縫って脱出路を進んでいく。

 テイクダウンでクリアリングし、やっとの思いで地下駐車場へと向かうエレベーターに乗り込む事ができた。

 

『酷い怪我だな……、意識はあるか?』

『あぁ、なんとか。しっかし、何があったんだ』

『《鋼鉄の竜》改め《機龍》がアラサカに宣戦布告したんだ。アラサカの《空母くじら》を鹵獲したらしくて、反アラサカを掲げてテロに走ったみたいだ』

『成程な、さっきのが正しく号砲だった訳か。ふぅー……、流石に旧式とは言えガトリング砲の掃射は血の気が引いた』

『生体チップはどうしたんだ?』

 

 デイビッドの言葉に応えるように右手で首を叩いてやれば、理解できたようで頷いていた。

 はぁー、とんでもない事になったもんだ。

 《機龍》とか言うテロリストグループに、アラサカのトップの死だなんて、ナイトシティが揺れるぞこれは……。

 電子音が鳴り、地下駐車場に辿り着いた俺たちはそれぞれ車に乗り込もうと――。

 瞬間、駐車場の壁がぶち抜かれ、気炎に塗れた全身テックの見たくない顔が現れてしまった。

 車に乗ろうとしていた俺を見つけたアダムはその双眸を輝かせた。

 そして、俺は誰かに突き飛ばされ、倒れるまでの間に後ろからの恐ろしい金属音に怖気が走った。

 見れば、微かに見えるデイビッドがカタナを片手に、同じ速度のアダムと切り合いをしているようだった。

 サンデヴィスタンを起動した者たちの戦いに巻き込まれちゃ堪らない、そう思って車のドアを支えに立ち上がった。

 

『逃げ――』

【遅い】

 

 声の方を思わず見てしまい――、自分の胸に風穴が開く瞬間を目撃してしまった。

 いったい、な、にが……、アダムの右腕が、デイビッドのカタナを。

 受け止め、ていて、余った左腕が、俺に向けられていた。

 プロジェク、タイ、ルランチャー、先が、煙噴いて……。

 

『Vーッ!?』

 

 ジャックの声が、遠く、聞こえて……、意識が、千切れて、あ、し、死……。

 

【悪いが依頼なのでな。見せしめは此れで良いだろう、それを拾って帰れ。……あの娘を頼むぞ】

 

 デイビッ、ドを振り払った、アダム、の声を最後に、俺は……――。

 

 ――《Relic》の起動条件を確認。シーケンス処理を開始、適合数値概ね良好、《Relic》を起動します。

 ――内部に保存された人格コンストラクト“ジョニー・シルヴァーハンド”を発見、対象に移植します。

 ――ナノマシン充填率10%、……30%、……50%、規定値の注入完了。

 ――人格形成及び肉体形成を開――エラーが発生しました。

 ――エラーが発生しました。移植データに破損データが含まれています。

 ――セーフティコードを起動、破損データの処理を行います。

 ――破損データを速やかに排出してください。

 ――排出処理が一定時間内に行われませんでした、移植プロトコルを規定に従い強制終了し、再起動を行います。

 ――再起動開始……、対象の心肺停止状態の解除を確認、《Relic》プログラムを続行できません。

 ――《Relic》を停止し、スリープモードへ移行します。

 

【はっ、何の冗談だ、この俺が居眠りだなんてな。にしても……、煙草が吸いてぇのに動けねぇ、どうなってやがる……?】

 

 




【Tips】

・ヨリノブ・アラサカ
今作ではもっと感情を出していくキャラへ。
多分自分を慰めてたドラッグが切れ始めたんじゃないっすかね、誰のせいだー?
こんな面白い奴を使い捨てとか勿体無いよね精神で色々と動いて貰う。
死体、見つかって無いってよ。

・鋼鉄の竜改め《機龍》
タイガークロウズが半ば味方になったので敵を増やしておきました(ニッコリ
ワトソンの沿岸部に出没するようになるとか。
大規模MODか何かかな?
決して作者の頭がルビコンの火に焼かれた訳じゃないです、信じて!
原作通りにマックスタックのタレット受けるんじゃつまんねぇなと言う理由とか色々な理由でぶちこまれたオリチャー。
まーたフラグの玉突き事故してんよ……。

・《Relic》の行方
予定通りヴィンセントにパイルダーオンしました。
原作と違って損傷も少ないのでジョニーもにっこり。
サブクエ進めてからのメインクエをやると変な温度差あるのもこれで解決、やったね。
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