Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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三十八話

 紺碧プラザでの一件から九日が経った。

 リトルボスと会話した時には既に三日経っていたようで、後の一週間は療養で過ごした。

 場所はクリニックの地下だったようで、普段は其処にサイバーサイコの患者を置いていたようだが、デラマン医療サービスの本格運営により其方に移された事で空きがあったそうだった。

 

「……正直言って見てられなかったよ。ジャグラさん、ずーっとヴィットの事を心配してて、仕事も全然進まなかったみたいだし」

「ヴィットが目を覚まして漸く睡眠を取ったって話だしね。心臓ぶち抜かれた患者第一号だった事もあって、予断を許さないって感じだった」

「でもまぁ、こうして生きて立ってられるだけマシだわな。ジャグに礼を言っておかねぇとな。ヴィクとミスティにも顔を出してやれよ」

「デイビッドも守れなかったって悔やんでたみたいだけど、ジャグラさんに尻を叩かれて漸く立ち直ったみたい。だから後で連絡してあげてね」

 

 クリニック二階のオフィスで《ジャッカルズ》の面々と再会した時はめちゃくちゃにされた。

 ずぅーっとリトルボスが深刻そうな顔をしていたから、俺が生死の狭間を漂っているものだと勘違いされてたらしい。

 大分迷惑を掛けたな、と言う心境であるが、相手があのアダム・スマッシャーだった事もあって許される様子だった。

 わちゃわちゃから漸く解放されて、疲れた心地でソファに座る。

 

【へぇ、良い奴らじゃねぇか。お前には勿体無いくらいだ】

(アンタの場合は突っ走り過ぎなんだよ、人間歩くぐらいが丁度良いだろ)

【はんっ、どいつもこいつも鈍間で仕方が無ぇ。もっとスリルとロックを突き詰めろってんだ】

(……そう言う意味でのロックはもう死んだも同然だ。今聞けるロックはただの模倣でしかない)

【……そぉかよ、ちっ、軟弱な奴らめ、もっと派手に生きろよ、人生楽しく死ぬまで遊べって習っただろうが】

 

 この一週間煙草が吸えずに苦しみに苦しんだジョニーは、なんと俺の記憶から物質を取り出す術を作り出したようで。

 今も美味そうに煙草を吹かしておちゃらけていた。

 こいつもこいつで大分切羽詰まっていたと言うか、時代に翻弄されてた奴だから久方の自由を味わっているのだろう。

 もっとも、今の自由はその頃と違って大分緩くて刺激の無いもので、炭酸の抜けた強炭酸水の様なものだろうけども。

 この一週間で暇過ぎて話すに話したので、十年来の友人みたいな立ち位置だが仲良くやれている。

 ……まぁ、お互いにこいつが異性だったら良かったのに、だなんて思ってたみたいだけどな、笑っちまうぜ。

 

「さて、と。ヴィットが復活した事だし、今後の《ジャッカルズ》の方針を決めていくぞ」

「んな事言っても既にもうジャグラさんから貰ってるじゃん。ヴィットの《Relic》について情報を集める、でしょ?」

「そうね、私はその時無様におねんねしてたから、その分の借りを返さないといけないのよね……」

「その、あんま気にするなよヴァリー」

「……ごめん、切り替えるわ。ふぅ、それで、どう言うアプローチでやるかよね」

「取り敢えずアイデア募集してみようか。何かある?」

 

 サーシャの言葉に全員が腕を組んでから、数秒後に首を傾げた。

 だーめだこりゃ、全員テッキーじゃないから《Relic》の名前しか知らないってオチだなこれは。

 

「リトルボスから幾つか案を貰ってる。一つ、《Relic》強奪の依頼を出したエヴリンに聞き出す。二つ、《Relic》をアラサカから盗んだヨリノブの情報を辿る。三つ、《Relic》を作った人物を探し出して問い質す」

「四、引っこ抜いて調べてみる、とか?」

「……ナノマシンで癒着してるから抜いたら俺が死ぬから却下だ」

「と言うか、そもそもそれが何なのかってのを一度共有した方が良くねぇか? アラサカの秘密裏な生体チップとしか知らないんだが」

 

 ジャックの言葉に一理あるな、とリトルボスから聞いた情報を全員に共有した。

 《Relic》は今のところ大別して二種類あり、一つは表向きに謳われている会話ツールの《Relic》で、もう一つが俺の《Relic》。

 俺に入っている《Relic》は試作品と言うか、プロトタイプで会話ツールの方には使われていないナノマシンが使われている事。

 ジョニー・シルヴァーハンドと言う人物の記憶痕跡が入っていて、脳内の住人と化していて見る事も喋る事も俺だけが出来る事。

 それらを踏まえた上で、《Relic》に用いられている最先端のナノマシンについて詳しい事が分かれば、リトルボスの手でこれを外せるかもしれない、と言う希望が見えている事。

 情報共有を終えると何とも言えない空気になった。

 そりゃまぁ、脳内に知らん奴が住んでると聞かされてそっかーと流せる奴はそう居ないだろう。

 不可能が可能になり始めた昨今で唯一不可能とされているのが不老不死だ。

 ……なのだが、リトルボス付きのデラマンことディーヴァを見ていると既に解決してそうな感じがするんだが。

 でもまぁ、リトルボスなら、テセウスの船を知ってるか、だなんて聞いてきそうだ。

 前と後で同じ形をしていたとして、それが生命の延長線にあるかと聞かれれば、どうなんだろうな。

 あの様子じゃリトルボスは不老不死足り得ないと一蹴するんだろうなぁ。

 

「一先ず、生体チップ強奪の依頼をしたエヴリン・パーカーを追うべきじゃないか? 依頼を失敗した形で正直会い辛いが、取り外した《Relic》を交渉材料にするってのはどうだ」

「そうだな、それが安牌か。リトルボスにエヴリンの連絡先を貰ってみる。ヴァニーとサーシャは《機龍》の情報を追ってくれ。未だにニュースでヨリノブの死を報道していないとなると、古典的なミスディレクションかもしれない」

「どゆこと? 実はまだ生きてて、クローズドサークル宜しく殺人者側に回ってるって事?」

「……まぁ、似た様な意味合いね。犯行声明にヨリノブの事は書いてなかった。紺碧でヨリノブを糾弾していたのが演技で、死亡偽装を行った可能性があるって事。あの場面で態々真横の窓に威嚇射撃ってのが怪しいのよね」

 

 俺の光学インプラントに残っていた記憶データを共有した事で、不可解な点が幾つか出てきた。

 明らかにヨリノブはサブロウに殺意を抱いていた。

 しかし、強化窓を罅割れさせる威力の拳銃と言うのがそもそもおかしい。

 あれは明らかに外の奴に合図を送るために用意された武器だ。

 あの口径で強化窓を一発? 合図のために専用の弾を用意したと言われた方が腑に落ちる。

 ……ただ、ガトリングを向けられた時の表情が嘘だったとも思えないんだよな。

 土壇場で裏切られた、そんな顔だった。

《機龍》を率いる誰かのアドリブか、それともヨリノブが役者だったのか、どちらにせよ死体が上がってない事が奴の生存を裏付けているのは間違い無い。

 

『……あぁ、ヴィットか。エヴリン・パーカーの連絡先でも欲しいのか?』

『あ、あぁ、そうだが……よく分かったな』

『単純な消去法だ。それに、目の前の事から片付けるタイプだろお前らは。まぁ、いいか……。連絡先だったな、既に破棄されたらしく、先の失敗をニュースで知って逃げ出したんだろう。リジーズ・バーの地下にブレインダンスメーカーが居る。そいつがエヴリンと親しい間柄の様だ、聞き出すと良い。名前はジュディ・アルヴァレス。見た目十代後半の女だ。進展があれば報告しろ』

 

 リトルボスから貰った情報を共有し、早速リジーズ・バーへと向かう事にした。

 ソートンをガレージから引っ張り出し、ヴァリーを運転手に助手席に俺が座り、ジャックが後部座席にどっかりと座った。

 

「しっかし、逃げ足が速いな。随分と危ない綱を渡ってたみてぇだな」

「相手がアラサカの社長の息子だしね。共有したデータを見るにエヴリンは高級娼婦としてヨリノブと知り合った可能性が高いわ」

「そして、それを理由に誰かの策謀の片棒を担いだ訳か」

「もしかしたらチップじゃなくて保護の方がウケが良いかもな」

「だったら最初からリトルボスのところに駆け込むだろ」

【案外お前の手術に手一杯で、助けてと伸ばされた手を振り払った可能性もあるぞ。何せあの嬢ちゃん、戦場で腐る程見たPTSDで錯乱した奴みたいな瞳をしていたからな。厄介な奴に魅入られたなヴィンセント】

(何でそんな……あぁ、俺の意識が無くても外の情報を拾えてたんだったな。そんなに酷かったのか?)

【……酷いってもんじゃねぇ、もはや憐れみの類だあれは。随分と俺たちの今後に期待してくれてる様だな、何もかもチップインしたギャンブラーみてぇだった】

 

 ジョニーも歳下の少女に対して思う事があるのか酷く同情的だった。

 ……空いた時間でジョニー・シルヴァーハンドの事も調べても良いかもしれないな。

 リジーズ・バーの前に車を止め、三人で中へと向かう。

 

「あら、ヴィンセントじゃない。また来たの? 左腕新調したんだ、カックイー!」

「ねぇねぇ、アフターの予定ある? あるならシようぜ、良い酒あるんだ」

「少し窶れたんじゃない? もっと食べなきゃ駄目よー?」

 

 露出の強い《モックス》の女性たちにちやほやされながら入り口を潜ると、隣から視線が、ヴァリーのもはや睨み付けの様な視線が突き刺さっていた。

 コーポ時代にご機嫌なドラッグで良い感じになって、ね?

 先んじて現れたジョニーはサムズアップしてから、もう片方の指で輪っかを作り卑猥なジェスチャー。

 うっせぇ、笑ってんじゃねぇ、お前も大概だろうが。

 

【いやいや、お前には負けるぜヴィンセント。……人数多過ぎだろお前、依存症か何かか?】

(勝手に人のログを漁るなファックロッカー。ストレスが溜まって、ついでに溜まってたのを出してただけだ。お互いにwin-winなんだ、別に良いだろ)

 

 こちとら英才教育で、使用人で精通と童貞捨てた元坊ちゃんだからな。

 生臭い魚は嫌いだが、日本産の魚は不思議と寿司でも美味かった覚えがある。

 ……それが今じゃサイバーパンクか、笑っちまうぜ。

 受付嬢の顔がよく見える様に、カウンターに寄り掛かり、ニヒルな笑みを浮かべて流し目を作る。

 

「やぁ、キャサリン、調子はどうだ?」

「アンタんとこのちっちゃなボスが来てから不思議と良いよ。……多分、ドラッグの副流煙だったんだろうね。ぼちぼち抜けて来たけどたまに手が震えてる」

「なら良かったな、元気な方が色々と具合が良い」

「もぉー、いつの話よ。それで、何を聞きたいの? 私の上がりは十六時よ」

「依頼の進捗次第だな。エヴリン・パーカーに会いたいんだが、まだ居るか?」

「エヴリン? ……あぁ、代理オーナーなら暫くお休みよ。店の営業自体は問題無いけど、いつ帰ってくるのか分からないのよね。あ、ジュディなら何か知ってるかも」

「何処に居るんだ?」

「店の奥よ。うちで取り扱ってるオリジナルの方はジュディが編集してるの。専用の部屋が従業員通路を行った先にあるわ」

「ありがとうキャサリン、このお礼は必ず」

「えぇ、期待してるわ色男さん?」

 

 頬に可愛らしいキスを貰い、受付を後にすると再び冷たい視線が刺さった。

 ジャックを見遣れば、知らね、と肩を竦めやがった。

 

「交渉術の様なもんだ、実際難無く情報を得られたろ?」

「相手が男性でも似た様な事をするのかしら?」

「俺はノーマルだ、野郎の尻に興味なんざ無いさ。酒か煙草か娯楽の話題で仲良くして、最低限気に入って貰うのさ。防諜部に転属される前の営業部では好成績だったんだぜ俺は」

「あ、そ。ならジュディって子も口説き落としてくださる? 色男さん?」

「あぁ、任せとけ。俺が落とせない女は割と居るが大抵何とかなるもんだ」

 

 顔馴染みの従業員たちに軽く接してから目的である地下へ、たまに此処らでシた事あったなだなんて思い出しつつ奥へ進む。

 分厚いテックルームは閉まっていたが、肩を怒らせた片腕宙吊りのスザンナが飛びだして来たので咄嗟に腕の中に捕まえる。

 

「やぁ、スザンナ。綺麗な顔を怒らせて何があったんだ」

「アンタ……、ヴィンセントじゃない。久しぶりね。今は駄目、やる事があるから」

「そうか、そりゃ残念。久しぶりにお喋りできたらと思ったんだが」

「はぁ、私の代わりをしてた筈のエヴリンが失踪しやがってね。デラマンに無理を言ってギプス付けて貰って戻って来たのよ。案の定ジュディも知らないみたいだし……、って、まさかアンタらがエヴリンを?」

「いや、確かにその手の依頼は多いが今回は違う。エヴリンが依頼主の仕事をしていてその後処理って感じなんだ。俺らも突然トンズラされて困ってるって訳だ」

「そう……。多分、ジュディは何か隠してるわ。私に迷惑を掛けないように黙ってるみたいだけど、それが問題だって分かってないのよね。……お手柔らかにね、ヴィンセント。あの子、レズ系で捻くれた性格してるから気をつけて」

「あぁ、ありがとう。なるべく力になるさ、相談はいつでも、な」

「……ふふふ、変わらないわね。宜しくね」

 

 スザンナが潤んだ瞳で見上げてきたので額にキスをして安心させる。

 ……まーた、後ろからブリザードだ、寒くて敵わんね。

 女の敵って指差される様な扱いはしてないんだがなぁ。




【Tips】

・デラマン医療サービス
続々と店舗を開店させており、バッドランズ以外の地区に最低でも一つはある。
現代社会における総合病院を圧縮させた様なクリニックであり、青白い顔をしたデラマンが出迎える――だなんて事は無く、ショートヘアの純白ナース服を着たディーヴァが対応してくれる。
初診の際に会員登録され、会員カードを手渡される、年会費は無料。
他の人の会員カードを持って来たところで受けられるサービスは同じである。
やっている事は現代のそれとあまり変わらないが、やっている内容は最先端の医療。
バイオテクニカ系列の糞病院が軒並み消え、デラマン医療サービスに入れ替わった。
地域住民のアンケートによると概ね好意的な評価を貰っている。
……因みに、退会処理を受けると今後の利用を禁止される。
どれだけインプラントで姿かたちを変えても必ず拒否されるため、絶句した者も居たとか。
基本的に清潔誠実安心安全の充実サービスであり、ナイトシティにおける駆け込み寺と化した。
尚、NCPDスキャナーと提携しているため、犯罪者はその場で取り押さえられ、健康にされてからNCPDに搬送され罪を償う事になる。
そのため、デラマン医療サービスを受けるために、チンピラを辞めた者も多いとか。
現市長ルシアス・ラインに名誉ナイトシティ住人として表彰を受け、デラマンはナイトシティ限定ではあるが戸籍を得たとか何とか。

・天音ディーヴァ(複数の姿)
クリニックなどで見かける彼女らは《デラマンズ》と呼ばれるデラマンを親とする子集団である。
《デラマンズ》を統括する特別個体のディーヴァが八人居るらしい。
どいつもこいつも個性が濃いが、目の前の仕事に一生懸命働いているとか。
タクシー会社の奥に居たデラマンはセキュリティの更新により、ジャグラの《メガコン》に移った。

《メガコン》デラマン→《デラマンズ》特別固体八機→《デラマンズ》沢山
          ↓
  ジャグラ専属執事メイドタイプ一機
ディーヴァ=生体機人、またはガイノイド。
(男性模倣機体はアンドロイド、女性模倣機体はガイノイド)
因みに執事メイドタイプのディーヴァはアンドロガイノイドである、お得。

一般販売はされておらず、鹵獲防止のため自爆機能が取り付けられている。
そもそも、人の数倍の力を発揮できるので鹵獲が不可能に近い。
一機攫うためには百機以上の猛追を振り切る必要がある。
彼女らが振るう長ネギっぽい武器は装甲車を容易くへこませる性能をしているとか。
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