Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
ワトソン沿岸部に存在するそれらの宿泊施設、元は夏のバカンスのためにと開発された物だったが熱核に汚染され、企業の垂れ流した違法排水によってもはや汚染された海水に入ろうとするものなんていない。
それこそ、彼らの様に特殊なボディスーツを身に纏わねば著しく身体機能に致命的な後遺症を残す事だろう。
海の方角から現れた彼らは同じ格好をしており、みっちりと気密性に優れたスーツの上に古めかしい防護プロテクターを着て、背嚢や密閉処理されたガンケースなどで着飾っていた。
彼らの顔はVとYが混ざったようなバイザーアイの付いたフルフェイスメットを被っている。
暗闇に微かに溶け込まない光量に絞られた赤い眼差しが夕方に差し掛かった時間帯に溶け込んでいく。
宿泊施設の一つに入り込んだ彼らは、廃棄されていた部屋に入り込んでビールを飲んでいた若者らを静かに仕留めていく。
静かに背後に降り立ち、臓腑へ向けて致死の刺し傷をするりと差し込む。
口に当てられた分厚いグローブのせいで断末魔はくぐもり、命の温かさと共に赤い液体が零れていく。
彼らの得物は短刀に酷似したカーボンカタナであり、腰裏に取り付けられた鞘へと仕舞われた頃には全てが終わっていた。
汚らしい物を捨てるかのように死体を黒いゴミ袋に詰め込み、地下の焼却炉へと放り込んで火を付けた。
「此方、朱雀壱号、拠点候補の制圧を完了」
『此方、玄武零号。……第二地点をマーク、制圧せよ』
「朱雀壱号了解、……行くぞ」
「了」
ナイトシティで聞く機会も無いであろう流暢な日本語で彼らは会話しており、次々と宿泊施設だったモノを占領していき、後続の朱雀弐号、参号の部隊が上陸して拠点を構築していく。
彼らは《機龍》に属する日本人であり、先日の宣戦布告の後にほとぼり冷めるまで沖合より先で《空母くじら》を停泊させて、この日の準備を行なっていた。
《空母くじら》はアラサカ社が他の企業へと武装勢力を送り込むために開発された船であり、その名の通りくじらの如く潜水も可能なステルス空母だ。
アラサカの誤算は日本海域の近くに止めていた頃に、日本の捕鯨団体系ノーマッドによって本当に鹵獲されてしまった事だろう。
日頃の捕鯨の賜物か鮮やかな手際で制圧された《空母くじら》は既にアラサカ社の手から零れ落ち、日本ノーマッド連合が放った尖兵たる《機龍》の母艦として改造を施された。
ナイトシティの企業において海とは不要な物扱いであった。または、幾らでも捨てても良いゴミ箱とでも思っていた事だろう。
故に、海中に潜む《機龍》を彼らは見つけ出す事ができず、恐ろしい程に静かな嵐の前触れに沈黙を選ぶしかできなかった。
数時間で沿岸部に存在する宿泊施設及び商業施設を制圧した《機龍》の特殊工作部隊朱雀はその成果に笑っていた。
彼ら《機龍》に属する者たちは所謂過激派思想の集まりであり、こうしてアメリカの最重要地点であるナイトシティに侵攻を進めている時点で彼らの正気を察するだろう。
侵攻拠点の最前線を構築している間、彼らはナイトシティの眩しい光源群を見て怒りを覚えていた。
此処で起きた第三次企業戦争の余波で日本は熱核により深刻なダメージを受け、一世紀分の社会成長の停滞を余儀なくされた。
天皇を主体とした前時代的な社会が再構築され、第四次企業戦争によってアラサカが国有化された事で著しい発展を遂げる事となる。
しかし、アラサカ主導の成長はブレイクスルーを誘発し、あるべき研究を飛び越えた技術の革新によって中小企業は頓挫しアラサカが当然の様にトップに居座った。
それにより、引き起こされた貧富の格差は著しく、漫画の様なディストピアが目の前に顕現してしまった。
そうして産まれたのが反アラサカ団体《鋼鉄の竜》であった。
旧日本と蔑まれた時代を主軸とした、日本の誇りを取り戻すための活動――反アラサカレジスタンスの始まりである。
アラサカ本部周りでのデモ活動や一致団結した徹底抗戦、荒廃した山野を行くノーマッドたちの功績により、ディストピア形成は半ば失敗し、サブロウ・アラサカはナイトシティ支部へと住まいを移した。
これにより、ナイトシティがアラサカ本部となり、日本の本部は支部へと降格される事となる。
その物語に語られる人物こそが、アラサカ社の人間であった筈なのにノーマッド《鋼鉄の竜》に加わったヨリノブ・アラサカの存在だ。
レジスタンス集団へとアラサカの物資を横流して、情報提供による献身的な助力によって美しい日本の夜明けは守られたのである。
「……そうか、朱雀が上手くやったか。流石だな」
「無論だ、ヨリノブ。いや……ノブナガ、オヌシが戻って来てくれたおかげだ」
「そのあだ名止めろって言ったろ、ミツヒデ」
「それはもうお互い様だろう。ヒデと呼ばれていた頃が懐かしいな、なぁ、ノブ?」
「……それもそうだな」
ヨリノブは《鋼鉄の竜》時代にノブと言うニックネームで呼ばれていて、そこに長、村の長などの意味合いを込めたナガを付け足して、彼の信長公を模してノブナガと呼ばれるようになっていた。
対して、隣に立つ無精な髭が特徴的な青年は《鋼鉄の竜》のリーダーであるヒデマサだ。
今や、圧倒的なカリスマと献身的な助力によって地位を上げたヨリノブの右腕と化しており、それ故にヒデと呼ばれていた名残から信長の家臣としてミツヒデと呼ばれていた。
新興反アラサカ団体《機龍》のリーダーヨリノブ、サブリーダーのヒデマサは《空母くじら》の船長室で二人で語らっていた。
彼らの目的はアラサカナイトシティ本部の完全破壊によるアラサカの排除だ。
ディストピア時代で苦しみに耐えてきた者たちを連れて、こうしてナイトシティの眼前に居る事実に彼らは昂っていた。
「にしても……、あの時はとんでもなアドリブかましやがって、マジで造反されたかと思ったぞ」
「はっはっは、ほら、それがしのあだ名ミツヒデだし、一発くらいなら誤射かなって」
「ざっけんなっ!? ただでさえ、ジャグラのせいで薬品類が足りてないのにんな博打に出るなっ!?」
「まぁ、問題はあるまい。それがしらのゴーグルは最新式だ。射線はオヌシからちゃんと外れていたさ」
「……ジャグラ様様だな、はぁ。と言うか、そのせいであいつとの縁が切れかかってるって自覚あるか?」
「……ううむ、アレは流石にそれがしも驚天動地であったわ。まさか、御嬢の手勢があの場に居たとは……」
「半分くらい削られたからな、提供が。バイオテクニカから奪い取ったあれこれが無ければ飢え死にしてたぞ」
二人の顔色がげんなりとしたものになる。
それも当然だ、彼らに物資提供を行なっているスポンサーこそが、あのジャグラ・カグラなのだから。
以前、ヨリノブがスカベンジャーに横取りされたイグアナを取り返してくれた時に縁を繋ぎ、反アラサカの思想の下、《機龍》設立の大部分の援助をして貰っていたのである。
あの日の目標であるサブロウ・アラサカの暗殺は成功したが、その際に生じた出来事が今も後を引いていた。
ヨリノブとジャグラの間で結ばれていたのは、資金提供及び物資供給に対し、反アラサカの思想を取りやめず武力行使を軸に行動する事、だった。
なので、ヨリノブとしても自身が腹いせに盗んだ生体チップを盗みに入られるとは思っておらず、最悪なブッキングをかましてしまった訳である。
そもそもの話、ヨリノブとしては自身への訪問の際にはガードを緩めるサブロウを釣るための餌でしかなく、丁度良く引っ掛かったから演技をしながら決行したに過ぎない。
ジャグラの描いていたチャートを半ば潰してしまった事で怒りを買った《機龍》は秘密裏に運び込まれる資材の半分カットによって動けずに居たのであった。
「まぁ、それでもスポンサーを降りないでくれるあたり温情だったな……」
「多分、手勢の者が死んでいれば大問題になっていたであろうな……。オヌシの死亡偽装のためにハッスルしたのが仇になったわ」
「反省しろマジで。んで、次の計画はどうなってるんだ」
「ぬふふ、ご心配なされるな、次こそはばっちりだ。……工作部隊には御嬢の手勢のデータを送っているからな、戦闘にはならんだろう」
「……忘れるな、相手はあのジャグラだぞ。《Relic》の正規起動のために部下の心臓をアダム・スマッシャーに依頼してぶち抜かせるような奴だぞ。あんまり派手にやると、アラサカから依頼を受けて敵に回す可能性だってあるんだ」
「……なにゆえ?」
ヨリノブは船長用の椅子に座りながら、深い溜息を吐いた。
それは前にジャグラと語り合った際に、彼女のサイバーパンクの思想を聞いての事があったからだ。
「サイバーパンクとは傭兵であり、私兵ではない。宙ぶらりんになった武力だ。紐付けは金だけで済むし、手切れも金で済む。明日の敵であったり、今日の味方であったりする事は当たり前であるし、当然である故に想定されるべきだ。企業の子飼いであるならまだしも、自由意志を持つ一個人の集団だ。それくらい蝙蝠であっても堂々としていれば歴とした理由になる。オレの存在が良い例だろう、タイガークロウズであろうとも必要なら殺すし治療もするからな、オレは」
その時のサイバーパンク、いや、傭兵と言う者の在り方を説かれた時にヨリノブは感心してしまったのである。
それくらい潔い方がむしろ好感的であったし、何よりもアダム・スマッシャーと言う一例を見ているが故に納得もできた。
アダム・スマッシャーは巷ではアラサカの子飼いの傭兵だと言われているが、その実は年間契約の護衛業である。
故に、割りの良い仕事が入れば断りを入れて其方に向かうし、先の一件の様に札束で少女に殴られて依頼を受けたりもする。
……もっとも、その時のアダムの困惑っぷりは酷かったが。
まさか、恩人であり親友の娘から、人殺しどころか味方殺しめいた依頼を受ける事になろうとは思っても居なかっただろう。
しかも、きっちり心臓をぶち抜いたのにしっかりと蘇生させられている事に驚きすらも越えて唖然としていたそうな。
あの娘は何処まで行くのだろうか、だなんて遠い目をしていそうな声色で呟いていた。
「あ、そうそう、そう言えば漸くオヌシの恋人の居場所を見つけられたぞ。青竜部隊が成し遂げてくれた」
「あ? マジかよ、エヴリンの事だからとっくに高跳びしてたと思ったんだが、まだナイトシティに居たのか」
「それがな……、例の《Relic》の強奪依頼をジャグラ殿に依頼したのが彼女らしくてな」
「……は?」
「何でも、オヌシのアレを狙ってヴードゥーが動いているようでな、それを危惧しての事の様だぞ。オヌシがそれを餌だと軽視していたからこそ、こっそり盗んで依頼金を得るついでに手切れさせようと策略したのだろうよ」
「…………つまり、俺のミスか?」
「さてな、愛する男のために健気な事だが、荒事に女子供は入るべきでは無かったな、と言う教訓にはなろうよ」
「……わりぃ。んで、エヴリンは何処に居たんだ、クラウドか?」
「いや、既に刺客が放たれているようでな、一時的に死に掛けてフィンガーズに送られ、ワカコの預かりとなって高級ドールとして裏に流されたらしい。何でも過激な裏BDを作るメーカーに渡ったとか」
「マジかよ、生きてるのかそれ。と言うか、絶対ヴードゥーが手を入れただろそれ。殺意しか感じねぇ」
「らしいな。今、そのメーカーの拠点を見つけたらしく、潜入する予定だ。場所は――」
ヒデマサがナイトシティの地図を浮かばせ、指差した場所はエレクトリック・コープの発電所の一つであった。
近くにバック・ア・スライスと言う発泡スチロールの様な糞マズピザを出す店があるらしい。
「……何事も無く、まだ無事だと良いんだがな」
ヨリノブがそんなフラグの立ちそうな心配の声を漏らした。
そんな事を知らずにヒデマサはその場所にマークのためのピンを立てた、見ようによっては旗に見えるそれを。
【Tips】
・2077の日本
ぶっちゃけ全部妄想の類。
《鋼鉄の竜》がトウキョウのノーマッドと言う情報から良い感じにふわっと膨らませた。
日本に車で生活する集団が居るって事は荒廃してるじゃないですかやだー、って感じに頑張った。
参考資料となる手元の資料がCYBERPUNK2.0.2.0.第二版(英語)なので読めねぇんだわ、英語……(コレクションとして買った奴)
まぁ、反アラサカの団体なんて生まれてる訳だし、ディストピアしたんでしょって感じで今作は進めます。
・《機龍》
日本ノーマッド連合の一部が決起し、《鋼鉄の竜》を主軸とした反アラサカ過激派集団《機龍》を設立。何故か捕鯨ノーマッド団体が首尾よく《空母くじら》を鹵獲してしまったので母艦にした。
捕鯨団体は「刺身にして喰いたかった、黒くてデカくて潜ってたので間違えた」とへらへら笑いながらコメントした。
ヨリノブがリーダーであり、サブリーダーにオリキャラのヒデマサを設置。
こいつらのニックネームであるノブナガとミツヒデの遣り取りをやらせたかっただけである、ヴィットは左腕の分を怒っても良い。
紺碧の件はヴィットの蘇生が完了後、ヨリノブとヒデマサを正座させ、据わった目をしたジャグラくんちゃんから割とマジな殺意を向けられながら密会を行なって情報共有済み。
ジャグラくんちゃんとしては今生の一番のお祈りポイントだったため、マジキレして殺しに向かおうとしたが、デラマンに一生懸命説得された事でミリゲージが残って二人は生きる事を許された。
もっとも、デラマンの説得内容は「こいつらにアラサカの目を向けさせておけば彼らの行動が楽になるのでは」と言う肉壁に使おうぜと言う提案なのでやっぱりこいつらの未来は暗雲が見える。
・テッキーであり、ドクターでもあり、フィクサーでもあり、オブザーバーでもあり、スポンサーでもあるジャグラくんちゃん
イグアナの時にヨリノブに熱心な勧誘を受けたが、別にプランあるしなぁ、と思いサブプランの外付けサブくらいの優先度でスポンサーになった。
が、紺碧の件で割とマジでキレていたので物資を半分カットした。
アラサカにこの関係を指摘されたら最初はしらばっくれるがやがて、藪蛇突いたなてめぇ、と言わんばかりに本格的な支援を始めて第五次企業戦争の勃発のラッパが鳴る。
オダとタケムラがんばぇー!
・ヨリノブ&エヴリン
原作では何したかったんだこいつと言われるエヴリンに、作者が色付けした結果、ヨリノブの色になった(意味深)
やべー組織に愛する人がやべー事される前に、そのやべー物をやべーところに投げちまおう、と言う作戦だったが《機龍》のブッキングのせいで、全力で逃げる羽目になった(原作通り)
作中ジョニーが言った様にジャグラくんちゃんに助けを求めたが、ヴィットの心臓手術中であったために底冷えした声で拒絶され舌打ちまで聞こえた事で、押し付ける気だった事バレてるわーとすたこらさっさとクラウドに逃げたらブードゥーにお前知り過ぎたなビーム(遠隔ハック)されて脳をチンされそうになった。
ついでに廃人になりかけている所にウッドマンにレレレされた挙句、フィンガーズにポイされた。
原作だと恐らく自殺デーモンをぶち込まれたんじゃないかと思われる。
ドールのチップと命令が不具合を起こしてああなったんじゃないかなーと。
・エレクトリック・コープの発電所。
つまりはそう言う事である。(フラグの立った音