Hello,Goodbye,Night City‼ 作:不落八十八
んー……、久々の休日なのに疲れが抜けねぇ……、デラマンの膝から抜け出せねぇ……。
もう足腰疲れちゃってぇ……、動けなくってぇ……、と夕暮れの今まで畳の上でごろごろしていた。
ジャッキーたちの居場所を作るためにクリニックの二階にオフィスを作ったのは正解だったな。
バイオテクニカの一件のせいで認知度が市民にまで広がってリパードク業がパンクしてしまった事もあり、逃げ出す場所があるのは非常に助かる。
どいつもこいつもオレに診て貰おうと何となくで来やがるせいで毎日満員御礼、タイガークロウズ以外のギャングも来たりでもはやカオスと化したが何とか捌き切った。
『耳かきでも致しますかジャグ。リフレッシュで検索した結果、ASMR式耳かきが上位にランクインしていました』
「んー、……頼むわ」
『分かりました、高性能な精密耳かきパーツに換装、では、失礼しますねぇ~……』
「何処のASMRを参考にしたのか知らんが、間延びはしなくて良いぞ、お前らしくで良い」
『……ふふふ、AIに個人の個性を求めるとは、ジャグは本当に、機械たらしですね』
ぁあ~、デラマンの耳かき気持ち良いなぁ~。
有名税と言うべきか、外に出ると確実に視線に入れられ、後ろに纏わりつくストーカーもどきも居て疲れるのである。
にしても、デラマンは実に馴染んだなぁ。
こうしてオレと二人きりの時は音声を元に戻して、口調も柔らかなものになっている。
これで感情が無いロボットですってのは有り得ないだろ、常識的に考えて。
……いや、常識的に考えたら機械に感情が芽生えるのは有り得ないと言うか、模倣でしか無いと言うべきなのだが。
はぁー、にしても漸くゆっくりできる環境が得られたなぁ。
Vにジョニーを宿させて、《Relic》を追うように方向性を整えてやれば、後はもう原作に沿ってくれる事だろう。
何となくで支援した《機龍》のせいでタケムラルートは消えたが、ジュディ、パナム、ローグへの流れは変わらないだろう。
……と、思いたいのが切実な感想である。
オレはVやデイビッドが生きたままアラサカをぶっ潰してくれる感動的な伝説が見たいのであって、オレが直接アラサカに手を下してぷちっと潰したい訳じゃない、それは解釈違いなのである。
紺碧の一件でアダムおじさんが札束で殴れば依頼を引き受けてくれるタイプの傭兵だって分かったし、やろうと思えばタワーから引き剥がして《機龍》の相手をさせて、オレがデラマンズを率いてアラサカを汚ぇ花火にしてやる事もできるが、そうじゃないのだ。
「にしても……デイビッドたちはどう動かすかな……、今の所アラサカから来た《機龍》の案件に投げてるけど、出番が無いってのもアレだしなぁ……」
正直言って原作Vがほぼ一人でやってあの結果を叩き出しているので、そのVが三人も居るこの世界ではもはや過剰戦力だ。
かと言って持て余し続けるのもあんまり宜しくない、それはフィクサーとして不誠実だ。
なので、適当に支援して作って、適当な理由で支援カットして、良い感じに弱体化させておいて《エッジランナーズ》の餌にしている《機龍》もいつまで持つか分からないんだよなぁ。
『ふぅー……、はい、では反対を向いてください。……そう言えば《機龍》を用いて家畜を密輸入する件は宜しかったんですか? 《エッジランナーズ》をアラサカの依頼に差し向けているとなると作業が滞るのでは』
「あぁ、それか。そういやそんなんあったな」
『そのためにフードファクトリーの一部を家畜スペースにしていたのでは……。流石にナイトシティを離れると私の制御から外れるので海外での交渉は難しくなります』
「大丈夫大丈夫。そのためにも支援をカットしたんだから。此方から依頼として密輸入を頼んで物資と交換する手筈なんだ。最初の繁殖用が手に入れば後はもう倍々だ、不要な玩具は捨てるに限るだろ」
『……一応、人の命は大切にするべきかと。ましてや、今の貴方はナイトシティでも認知度が高く、不利に成り得るスキャンダルは起こさないに越した事は無いと思いますが』
「…………あぁ、それもそうか。必要だったとは言え、後から考えたらあの番組出演は不要だったな。普通にバイオテクニカ潰しておけば良かった」
デラマン医療サービスだなんて繁盛が目に見えている医療機関の宣伝に使ったが、バイオテクニカが消えれば必然的に独占できるのだから本当に無駄な事だった。
まぁ、MVにだけ出てくるサーシャに恩を売れたし、デラマン関係のタクシー会社での不評を取っ払えたからプラマイ考えたらプラスか。
「あぁ~……、早く天然の肉食いてぇ、虫由来の奴じゃなくて牛とか豚とか鳥とかの奴を。焼肉してぇ……。魚はなぁ……、日本海域辺りが汚染が薄くて食べられる数値だけど輸入費がなぁ……、生け簀でも作ってこっちも増やすか」
『ナイトシティ全域の食料を支える計画でもするつもりですか?』
「いや、オレと身内だけで良いだろ。ナイトシティの奴らには虫食わしとけ、今と変わらないんだ、そっとしておこう」
『そこまでワームミートは不評ですか? 栄養価的には天然の物とあまり変わらない数値が出ていますが』
「……虫を食いたくねぇんだよ、生理的にな。デラマンなら、そうだな、オイルの代わりに錆びた水飲みたいかって話だ」
『あの、私はAIであってロボットでは無いのですが……』
「そういやそうだった。んー、まぁ、人には食べる区分があってだな。美味しい、“美味しい”から味は落ちるがそこそこ美味しい、まぁ普通、食べられはするけど積極的に食べたいとは思わない、食べたくないが食べるしかないから食べる、食べられたものではない、と言う六段階くらいある訳だ。オレにとって虫パウダーは六段階中の二の評価だって事だ」
『ふむ、形状が問題なら何とかできますが、材料がそもそもとなると難しいですね。後で《機龍》に依頼を送っておきます』
「頼んだ。……最近働き過ぎじゃないか? 休みは取れよ?」
両耳の耳かきを終えたデラマンが竹耳かきの先端を吹き飛ばしつつ溜息を吐く器用な事をしていた。
あぁ、そういや、今のデラマンは俺の《メガコン》に移って処理能力が前より段違いになってるんだったな。
自己分析を掛けて原作の八人格に加えて、《メガコン》に居るデラマンと同一の権限を持っていてオレへの癖を拗らせた人格を合わせた計十個の人格に別れてるんだっけ。
デラマンの見立てによれば、八人格はブラックウォールから不良AIが悪さしに来た時にマクロファージ宜しく取っ捕まえてリソースとして取り込んだ事でなんかいつの間にか出来てたらしい。
破棄データなどを食べて、限定的な感情ルーチンを自己修復の要領で作り上げたんじゃないかなってのが予想らしい。
デラマンにしては珍しいふわっとした憶測で、思わず苦笑いを浮かべたのを覚えている。
……あいつらから母上様とかマミーとかママとかお母さんとか御袋とかお母様とか母殿とか母さんだなんて呼ばれた時はガチで困惑したっけなぁ。
お前らを産んだ覚えは一切無いんだがな、膜はまだあるしシた覚えも無いんだが。
オレが好きな執事メイドが慌てふためいてわーわーと顔真っ赤にしてたのはほっこりしたが。
お前がオレをどういう風に見てたか分かっちゃったからな、可愛い奴め。
多分、女性の先生にお母さんと言ってしまうアレのようなものだろう、と空気を読めるオレはそっとしといてやったら、八人格たちはジャグラ様やらジャグラさんやらに呼称が変わってたなぁ。
『……む、ジャグ、本日の予定に来訪はありましたか?』
「いや、無いが……誰か来たのか?」
『はい、デイビッドが来ていますね』
「デイビッドか、なら入れてやれ。何かしらあったんだろ多分」
『……ジャグは、何故かデイビッドには甘いですよね。他の《エッジランナーズ》の方々と比べ、付き合いが長いからですか?』
「んー……? そうか? まぁ、オレの被害者みてぇなもんだし、ちょっとした時に色々使ってるからな。文句言わずに二つ返事でしてくれるから頼り甲斐があってなぁ」
『……そう、ですか。分かりました。入り口のロックを解除します』
デラマンは膝枕を止めて、オレの脇の下に手を入れてちゃぶ台のいつもの位置に座り直させてくれた。
このデラマンは格好から分かる様に執事及びメイド、つまりはお世話したい欲求のド直球のため、収集した知識に合わせ従者ロールをしたいらしい。
随分と感情と言うか個性が育ってんな、と微笑ましく思ってしまう。
重厚な入り口が幾つもの錠を解除して開かれると、何やら思い詰めると言うか緊張した様子のデイビッドが入って来た。
既に依頼は終えたのか、風呂に入った様な清潔感とラフな格好で現れた。
「おぅ、お疲れ様デイビッド。依頼は無事こなせた様だな」
「あ、あぁ、《機龍》のサイバーウェアは幹部あたりだけ良いの使ってるから下っ端に苦戦は無かった」
「そうか、それは重畳」
「それに……、無事に帰って来ねぇと心配するだろ? たかが擦り傷で包帯巻かれた時は驚いたからな……」
「あ、あー……、あん時はヴィットの件で徹夜かつ情緒不安定だったからな……。恥ずいから忘れろ」
「うっす……。んで、その……ジャグラって今日休みだろ? だからその……、気晴らしに遊びに行かないか?」
「……ふむ? まぁ、構わないが……、レベッカたちは良いのか?」
「俺は、ジャグラと行きたいんだ。二人は関係無い」
「お、おぉ、そ、そうか……」
むむむ、ガキっぽい雰囲気が抜けて随分と男前になったもんだなデイビッド。
力強い声色と視線で少し気恥ずかしくなる。
こいつ前から思っていたがオレの事大好き過ぎんだろ。
そのせいで好意を持ってるレベッカとルーシーとの関係も進んでないみたいだし。
ギャルゲーで言うところの非攻略キャラに懸想している様なものだ。
……だがまぁ、最近不甲斐無い姿を晒していたから気にしてくれているのだろう。
「分かった、出掛けようか。最近室内にこもりっぱなしだったしな。エスコートは任せて良いな?」
「あ、ああ! 任せてくれ、楽しめそうな事ちゃんと調べてきたんだ」
「と言う事で少し出掛けてくる。夕飯は……どうするんだ?」
「考えてあるぞ。ドリオおすすめの店だ」
「そうか、なら夕飯の準備は要らない。留守番頼んだぞデラマン」
『……申し上げたい事が色々と、色々とありますが、承知致しました。どうぞ、お楽しみくださいませジャグ様』
苦虫を噛み潰した様な膨れっ面で渋々と了承したデラマンに苦笑しつつ、デイビッドを伴って久方振りに外に出ると夕暮れだった。
……あの時も、デイビッドと出会った時もこんな夕暮れだったな、だなんて感傷に浸る。
店前には黒く染め上げられ、黄緑のカックイイラインがキマっているクアドラがあった。
「へぇ、格好良いじゃないか、黄緑のライン良いな」
「へへっ、この前買ったんだ。こっそり買って慣らしも一人でしたから、助手席には誰も座ってないんだ。……その、最初の一人はジャグラが良いなと思ってたからさ」
「お、おぅ、そりゃ光栄だな……ありがとうよ」
気恥ずかしくなるくらいに初心な表情で照れ顔しやがってからに、何か胸の内にくすぐられる様な感覚覚えちまったじゃないか、まったく、まったく……。
助手席に乗り込み、シートベルトを付けると何処か懐かしい匂いがした。
これは……柑橘系か? 見やれば空気孔にゆずの形をした芳香剤が付いていた。
「さて、何処に連れて行ってくれるんだ?」
「メインから教えて貰ったとこなんだけどさ、車に乗ったまま映画が見られるらしいんだよ。ドライブインシアターってとこで、今はもう其処しかやってないみたいで面白そうだなって」
「……あー、デイビッド? お前、聞いた場所の情報を確かめてないだろ。大分前に閉館になってるし、映画をBGMにカーセックスするヤリ場だぞ、其処」
ギギギと歯車宜しく此方を見やるデイビッドの顔はそれはもう真っ赤に染まっており、明らかにメインに揶揄われていた。
仮に閉館を知らなかったとしても、とてもじゃないが映画を見る気分にはなれないぞ、サブ音声が生々しくてな。
「はい、じゃあ次」
「ピ、ピラルからノーテル・モーテルって言う場所が雰囲気が良いって……、その反応だとこれも、か」
「連れ込み宿って奴だな、HOテルよりも値段が安い代わりに設備も安いから若者向け、または浮気とか殺人現場に使われたりするな」
「あいつらぁ……ッ!! ……って殺人現場? はぁ、野郎共は駄目だな、次はサーシャのオススメだ。リトルチャイナのソドムって中華屋で、裏メニューもしっかり教えて貰って……嘘だろ、此処も?」
「残念ながら、な。そこは近くにゴモラって言うドールハウスがあって、其処と裏で繋がってるんだよ。媚薬を混ぜたもんを出す店だ。表向きはただの中華屋だが、その裏メニューが媚薬料理だ、数日は身体が火照るんだとよ。持て余した性欲を抱えながら店を出ると、目の前に風俗店があるって訳だ、商売上手だな。裏メニューだから頼んだ客の責任だしな」
「……ドリオからはエル・コヨーテ・コホって穴場の酒場、タマレって料理が美味しいって言ってたけど……こ、此処は?」
「まぁ、当たりと言えば当たりだが……。知らなかったのかね、ジャッキーの実家だぞ、そこ」
「……依頼帰りに出会したら気まずいなぁ。ドリオは兎も角、あ、あいつら俺の事を何だと思ってやがるんだ……ッ!?」
ハンドルに額をぶつけたデイビッドは目がグルグルと回って限界そうである。
……いや、これ、レベッカやルーシーを連れて行く前提で教えたんだろうなぁ。
メインやピラルは直接的だが、サーシャに至ってはエロトラップ仕掛けてやがるし、それぐらい焦れてたんだなぁ。
ドリオは割と親切にしてくれたみたいだな。
女心って奴を分かってるみたいだ、生憎オレには分からんが。
まだ、出発すらしていないのに目的地が全滅したデイビッドには悪いが、めっちゃくちゃ笑えてしまった。
「……なら、一つ面白い所になる予定がある場所があるんだ。其処にしないか?」
「……何処?」
オレはデイビッドにチェシャ猫みたく妖しく笑みを浮かべ場所を告げた。
「旧バイオテクニカ・フラッツ。現デラマンフードファクトリーの地下施設だ。今のところ、オレとデラマンしか知らない場所だぜ? お前だけに魅せてやるよ、浪漫って奴をな」
手動でカーナビにバッドランズ南部に向かう進行ルートを表示させ、デイビッドにニッと笑う。
デイビッドは数瞬呆けていたが、同じくニッと笑ってクアドラを発進させた。
……やっぱり根が真面目だから運転も丁寧だなぁ、だなんて思いながら過ぎ去る夜景を見送っていく。
【Tips】
・ジャグラくんちゃんの野望
皆忘れてそうだが、ジャグラくんちゃんは死神ルートに脳を焼かれた厄介オタクである。
アラサカの野望を主人公ズが打ち砕くからこそ意味があり、自分の様な異物が何もかもを知ったチートモードの状態で倒したところで何も感動は生まれないしむしろ虚無る。
それだったらどこからか熱核を拾ってきて自分だけ高跳びしてナイトシティを爆破した方がRTA。
アラサカの野望を打ち砕いた後の生活もフォローするために色々とナイトシティを健全化しているだけであり、市民の幸福は二の次である。
そこらの市民に感謝されようが、お前なんざ知るか勝手に救われてろ、と内心で吐き捨てるだろう。
・《機龍》との関係
ぶっちゃけ、後で捨てる玩具としか思っていない。
密輸入については使えそうだなと思うくらいで、正直ナイトシティをアラサカの植民地だなんだと騒ぎ立てて滅ぼしに来そうな予感がしているので使えるだけ使ってから磨り潰そうと計画している。
ブッキングでキレたのは、お前ら程度がオレの邪魔をするんじゃねぇと言う上から目線のそれである、ヨリノブは泣いていい。
・メイン、ピラル、サーシャ、のおすすめ場所。
ソドム以外は全部ある。ゴモラはリトルチャイナにある。
言うまでも無くデイビッドを巡ってのキャットファイトが段々と目立ってきているので、どうにかしろもどかしい、と言う思考の一致で行われたえげつない行為。
もっとも、タイガークロウズのチンピラ共とのクリニックトークで情報収集しているジャグラくんちゃんには通じなかった。
尚、レベッカは全部引っ掛かり、ルーシーはソドムだけ引っ掛かる。
ドリオは普通にデイビッドの事を思ってデートプランの場所を提供した。
……ぶっちゃけ、デイビッドは根が真面目で直線的なので、よっぽどが無い限りこいつらとくっつく事は無いだろうなぁと察していた。
デイビッドの初恋の子の印象は、生まれと生活を理由に虐められて自棄になってた自分を救ってくれて、唯一無二の母親の恩人な上に生活の面倒も見てくれて、挙句に非常に高価なサンデヴィスタンmk5をくれて自信も付けてくれた女の子である、誰が勝てるんだよ。
ボーイッシュ系で美人ながら笑顔が可愛いギャップ萌えを搭載し、年下の少女である筈なのに頼れる大人のお姉さんめいた雰囲気があると言う性癖トラップ、やばいわよっ!!