Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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四十三話

 エレクトリック・コープの発電所には明らかに従業員には見えない奴らが屯しており、《デスヘッド》と言う裏BDグループが占領しているのが見て取れた。

 ソートンを静かに少し離れた場所に止め、デラマンに乗ってきたヴァニーとサーシャと合流して、突入の準備を進める。

 

『支援を頼むぞ、デラマン』

『了解致しました。……今丁度暇になったので八つ当たりさせて貰います。権限一部解放、デーモンプログラム侵入開始。ブリーチプロトコル、……完了、PING送信、カメラ系を掌握、ダミーデータ差し替え完了。タレット類の情報無し、該当施設の掌握完了、バックドア生成……完了。エヴリンらしき人物をマークしました、どうぞ楽しい狩りを』

 

 怒涛の外部ハッキングにより陥落した様を見て俺ら一同は、何かあったな、と苦笑い。

 ただまぁ、相手からすれば知らぬ内にアジトを乗っ取られているのでもはやホラーのそれだろう。

 多分タレットがあればあの様子だと始末までしていた勢いだった。

 ……さて、此度の突入はエヴリンの保護のため、ノーアラートキルゼムオール……いつもの事だな。

 

「……んで、ヴァニー、それは?」

「これ? 面白い鈍器なんだけど、中に非ニュートン流体素材を使ってるみたいで、衝撃で固まるんだよこれ。ピストンは付いてないけどバイブ機能付きだよ」

「いや、うちのイメージに傷が付くから止めてくれ……」

 

 ちぇーっと膨れっ面しながらヴァニーは明らかに凶悪なディルドにしか見えないそれを後部座席に投げた。

 ……デラマンがスモーク仕様で良かった。外から見たら痴女の私物だからなそれ。

 そして、代わりにボストンバッグから取り出したのは真っ黒で先端が平になっている極太のバット……じゃねぇ!?

 馬のペニスじゃねぇか、根元でカラーリングが変わってるの再現度高ぇな!?

 取手が付いてるって事はさっきのディルドの亜種だな、それ。

 パッと見少し離れていれば短い玩具バットに見えなくもないが、卑猥な武器の類である。

 昨今のナイトシティで馬なんて見かけない上に、割高な動物図鑑を買った者が辛うじて知ってるレベルだ。

 

「じゃあ、こっちなら良いでしょ。ゴム系の奴で中身は一緒だけどディルドじゃないから恥ずかしくないよね!」

 

 そう勇者の剣を手にした如く頭上に掲げたヴァニー。

 どうするべきだろうか、指摘してやるか?

 けど、ジャックたちは気付いた様子は無いんだよな……。

 ……まぁ、これはこれで有り、か?

 知識が高い奴特効の武器と思えば面白いかもしれない。

 ある意味富裕層特効と言えよう。

 それに、マニアックなアニマルディルドを片手にはしゃぐティーンエイジャー……有りだな、黙っとこう。

 

「監視カメラ及び警報はもう死んでるから、入り口側からステルスキルしていくか。ヴァニー、行くぞ」

「はーい! かっ飛ばすぜぃ!」

「よし、んじゃ、サーシャの護衛をヴァリー、頼んだぞ。俺は殿に立って警戒しておく」

「了解。エヴリンがBD撮影に使われている可能性が高いからついて行くべきね。頼んだわよヴァリー」

「任せて、私のノヴァが火を吹くわ」

 

 各々の準備が終わった事で見張りの奴らの命のカウントダウンが始まっていく。

 チームホロを起動し、確認も終えた俺たちは静かに発電所へと近寄っていった。

 

『PINGを打つわ……、うわ、ちょっろ……。デラマンのICEブレイクデーモンやばすぎ……。っと、入り口に二人、上の廃屋に一人くつろいでるわね』

『同時にやるか、ヴァニー、上を頼む』

『りょーかい、ぴょんぴょーんってね』

 

 リトルボス謹製の両脚によって、まるで足裏から推進力が出ているかの様な軽やかな動きでコンテナを登り、あっという間に距離を縮めて、壁のぶち抜かれた廃屋に居た奴の真後ろから強襲した。

 ヴァニーの両腕もまたリトルボス謹製であるため、細腕に見えるだけでその膂力は車を容易く抉る結果を引き出す。

 よって、振るう武器が明らかなジョークアダルトグッズだろうが、引き起こされる結果は惨事のそれだ。

 ゴム質の表面のお蔭かほぼ無音で首筋を捉えた一撃により、上の見張りが座っていた椅子に崩れ落ちる。

 頚椎……いや、背骨も逝ったなありゃ……、こっわ。

 だなんて殺人現場を見つつ、物陰からサイレンサー付きのレキシントンで見張り二人の眼に鉛玉をぶちこんで静かにさせる。

 光学インプラントを強固な物にしている奴は少ないし、角度的に脳を潰せるので確実だ。

 念の為近付いて首をへし折っておくのも忘れない、力を加えると折れやすい角度でブーツの裏をプレゼントだ、死ね。

 見張り三人の死体を近くのゴミコンテナに仕舞い込み、入り口から俺とヴァニーを先頭に侵入を開始する。

 表の事は気付かれていないようで、発電所の装置近くでBDのアイデアについて話し込む二人を後ろからヘッドショット。

 そして、速やかにヴァニーが名状し難い鈍器を使わずに拳で首をへし折っていく。

 

『……随分と手慣れたなヴィット。流石は射撃大会の覇者だな』

『まぁな、三十メートル以内なら外さないさ。サクサク行こう。ただのスカベンジャーだ、何の脅威でも無い』

『いや、ヴィットのそれ特殊部隊のそれでしょ、普通出来ないからそんなの』

 

 そう言えば、確かにそんな曲芸な事ができる奴だったか俺は?

 だなんて言葉に詰まっていると、視界の端から動く椅子に乗ってくるくると回りながら目の前を通過したジョニーのドヤ顔が見えた。

 ……まさかジョニーが手伝っててくれたのか?

 くるくると十二回転アクセルを決めて止まったジョニーはニヤリと笑った。

 

【お前が付けてる左腕のお蔭だな。お前のしたい事をコンマ01で動き始めてるから初動がアシストされてんだよ。ハイエンドってレベルじゃねぇな、悪魔みてぇな左腕だ、……いや、それは前から同じだったな。俺の凶行の大部分は左腕が勝手に俺を動かしてたからだしな】

(呪われてるんじゃねぇのかこの左腕……)

【便利だから良いだろ別に。それよかはよ進んだ方が良いんじゃねえか? お前ら、丁寧に処理してるから漁夫の利されてもおかしくねぇぜ?】

 

 そう言い残してジョニーが視界から消える。

 悔しいが一理あるな、ジョニーの助言に従い部屋のクリアリングと始末を手早くしていく。

 ……もしかして、ジョニーの記憶を覗いたから、あいつの技術も経験値として身体に馴染んでいるのか?

 地下への階段を見つけたヴァニーの声に現実へ返り、後ろを見つつ降りて行く。

 発電所の機材などを搬入する場所に出た俺たちは血生臭さに眉を顰め、衣服を剥ぎ取られ無惨に死んでいる死体を見つけて納得した。

 鉄格子めいた仕切りの扉を開けて、コンテナの悍ましい臭いを無視して奥へ進んでいく。

 

「納品用の肉の重さ足りないんだけどー? どっかに残りある感じ?」

「食塩水を血管から注入しとけよ、どうせ辿り着いたら乾いたって言っておけば良い」

 

 どうやら、裏BDに使った資材はスカベンジャーらしい使い方で搬送しているらしい。

 ヴァリーに視線を送り、顔を左に振るって合図をする。

 右側に居た奴を後ろから右腕のマンティスブレードで延髄を切り裂いて始末する。

 左から鈍い何かが倒れる音がしており、しっかりと撲殺した様だった。

 クソみたいな談笑が最期の会話になるなんてな、お前らにはお似合いだ。

 休憩室らしき場所で屯っていた三人は俺とヴァニーとサーシャのクイックハックでサクリと始末し、クリアリングしながら先へと進む。

 途中で見てしまった裏BDのために監禁される場所を見てジョニーが舌打ちした。

 

【玩具には見えない手錠の残りに、気が狂った奴の遺した血のメッセージ。……此処を見ているとあの頃を思い出す、あの無価値な醜い戦争の光景が蘇る。何も知らずに徴兵され、碌な使い方も教わらずに銃を握らされて、生き死にを賭けた戦場に蹴り出されたのを。……チッ、変な感傷に浸っちまった】

 

 鉄格子付きのベッドに蹴りを入れて唾を吐き捨てたジョニーはそれだけ呟いて姿を消した。

 何とも言えない怒りを引き継いで、地下二階の階段を見つけて何処となく足早になる。

 

『随分と景色が変わったな。此処が奴らの仕事場らしい。……生かして帰す必要は無さそうだ』

『そも、スカベンジャー共に情けを掛けるのが間違いなんだよ、こいつらは苦しんで死ねばいい。何の価値も無く、其処に居たから死んだ、それだけで良い。スカベンジャーは殺してもいい奴だから、しっかり息の根止めなきゃ』

『とか言いながら手を出すなよ、壁のシミになってんじゃねーか……』

 

 闇リパードクらしき人物が視界に入った瞬間に、ヴァニーは床を静かに蹴り出して距離を詰めて右拳で殴り飛ばした。

 まるで大口径の銃で吹っ飛ばされたかの様に弾けた頭が壁にペンキの様にぶち撒けられていた。

 簡易的な施術所だったのだろう、雑菌が入ろうが気にしないとばかりに薄いビニールカーテンで仕切られた其処は被害者の跡が赤黒く残されている。

 サーシャが近くにあったパソコンにアクセスし、データを引っこ抜くと苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。

 まぁ、中身は言わずもがな、だろう。

 一箇所ずつ静かに仕留めていき、漸く目標であるエヴリンがネオン色に染まった部屋のベッドに横たわっているのを見つける事ができた。

 首筋に太いケーブルが繋がっていて、ベッドの裏に設置された機材に続いている様だった。

 サーシャが猫耳カチューシャ型のヘッドデバイスを装着して、機材の検分を始める。

 俺はエヴリンの首に指を当てて脈を計測したが、随分とか細く睡眠とは違った違和感を感じる。

 しかし、死体では無い事を確認できて安堵の息を吐く。

 

「はい、終わり、どうして負けたか考えておいてね、っと。もう抜いて良いよ。一種の洗脳装置みたいなものだね。何もかも無気力になって自殺する、って内容だったからほんとギリギリだったみたい」

「道理で危なかっしいもんが落ちてる訳だ。洗脳が終われば勝手に自分を始末する、だから誰も居なかったのか」

「そしたら、自殺防止に色々対策しなきゃね。猿轡にー、後ろ手に縛ってー、足首も縛っておこうか」

「手際良すぎだろヴァニー……、まぁ、必要な措置か」

 

 肩にエヴリンを担いだヴァニーの仕事の速さに苦笑していると、換気口から丸い何かが落ちてーー。

 

【だから言っただろうが、油断すんなっつーの】

 

 左腕が勝手に動き出し、内蔵された射出口をそれに向けていた。

 思考のトリガーを咄嗟に引けば、電磁の銃身によって加速を施された弾丸がそれをぶち抜いた。

 瞬間、炸裂したそれは破片をばら撒いたが着弾によって吹き飛ばされた箇所は散らばる事が出来ずに終わった。

 左腕は状況確認をしていた俺の頬を一発殴り、次の瞬間には腰にマウントしていたブーリャを引き抜くと同時にクイックドロゥを決めて換気口を穴だらけにした。

 どしゃりと鈍い音を立てて落ちてきた死体は見た事の無い格好をしていた。

 真っ白な般若を模した面頬、前にチラリと見た覚えのある日本の鎧、確か甲冑だったか、それを模した青いプロテクター、腰に備わった短いカタナ。

 ……まさか、に、ニンジャか!?

 日本人の二割に紛れて暮らすと言うニンジュツのエキスパートのニンジャなのか!?

 

『疑問に答えましょう。その下手人は《機龍》の手の者です。どうやら、そこのエヴリン・パーカーを救出しに来た様ですね。ですが、もう意味はありません。今の不意打ちを失敗した時点で詰みです。功に焦ってミスりましたね、愚かな事です。自ら一枚岩では無いと白状した様なものですから』

 

 デラマンがチームホロに入り込み、目の前の奴を辛辣に説明してくれた。

 ……そうか、ニンジャじゃないのか、残念だ。

 にしても……、ベッドに腰掛けて煙草を吹かしながらニヤニヤと笑みを浮かべるジョニーがうざい。

 確かに危機を脱したのは十割お前のお蔭だが、その顔を止めろ、元上司のいびりを思い出すから。

 

【あいつら、ずぅーっとお前らの上でスタンバッてたんだぞ。時折体重で換気ダクトが凸ってたからな。なのに、お前らときたらのほほんとしてやがる。笑いを堪えるのが大変だったぜ、お笑いの才能あるぜ、開花したらその時に死ぬけどな。あーはっはっは!!】

 

 ぐ、ぐぅ……ッ、言い返したいが事実だから何も言えない。

 歯噛みした俺の耳だけにこの馬鹿笑いが聞こえてるとか理不尽過ぎるだろ、このチップ捨ててやりてぇ。

 だが抜き捨てたら死ぬんだよなぁ、ぐぬぬぬ……。

 ……はぁ。

 

「……ありがとな、ジョニー」

【はっ、俺の偉大さを理解したようだなヴィンセント。お前と俺は一蓮托生なんだ、つまらねぇ死に方だけはすんじゃねぇ】

「……肝に銘じとく」

【お前の場合そのご立派なフランクフルトに書いといた方が忘れねぇだろ絶対に】

 

 間違いないだろうな、と二人して笑い合って、自分が何処で何をしているのかを思い出して後ろを振り返る。

 すると、温かな視線で、気にするな、分かってる、分かってるから、だなんて音声が聞こえてくる表情で見守られていた。

 ……ほんと、慣れないな、現実にお前が居ないのが、本当に……。

 気を取り直し、《機龍》とか言うらしいニンジャもどきを死体袋に詰め込んで背負う。

 こう言うのは現物があると話が進むからな、エヴリン救出の報告とこれを渡して今日は終いだ。

 

『あぁ、因みにジャグ様は本日オフィスにはお戻りになられませんので、そのゴミはクリニックの地下にある冷凍庫にしまっておいてください。……私は不貞寝します、おやすみなさい』

「え? は? デラマン? デラマーン!?」

 

 もう全部投げ出してやるーと言った具合でチームホロから抜けたデラマンの可愛い声が耳に残って仕方が無かった。

 いったいリトルボスと何があったんだか……、と言うか外出にデラマン連れてないの珍しいな。

 最近は四六時中一緒に居た印象があったんだが、不思議な事もあったものだな。

 ……もしかして、外出って、と言うか相手がデイビッドだったりするのか?

 ははーん、そうか、そうかー、漸く進展するのか、デイビッドも幸せ者だなー、初恋が実るだなんて滅多に無いだろうに。

 後日出会ったら俺の百八のテクニックを教えてやらねばな、良い男になれよーデイビッド。

 

【……あの嬢ちゃんがそんな簡単に自分を許すとは思えないけどな】

 

 止めろよジョニー、不吉な事言いやがってからに……。

 リトルボスにだって幸せになる権利があるだろうが。

 

【権利、権利ねぇ……。じゃあ、幸せはキオスクにでも売ってるってか? んな事を誰が保証してくれるんだ。そう言うのは結局自分自身のメジャーで測らないと到底無理な話だ。……壊れたメジャーで何が測れるってんだ】

 

 ジョニーは最後だけ消え入る声で呟いて、言うだけ言って黙り込んだ。

 何処か後味の悪い気分だけ残ってしまい、口寂しさに煙草を一本摘まんで火を付けた。

 ある程度は美味いと感じるようになった筈の煙草が、今だけは何故か苦く感じた。




【Tips】

・デラマンの八つ当たり
《メガコン》から解き放たれるバートモスデーモンにより施設はクラッキングされ何もかもが自壊させられた。
くっさい冷蔵庫から取り出したサイバーデッキを消毒した後、ジャグラくんちゃんが頑張って取り出したデーモンから作られたクラッキング用のデーモン。
これが通った道のICEは全て破壊され、破損データだけが残るとか。

・非ニュートン流体内蔵の卑猥な鈍器。
何処ぞのジョン・マラコック卿と同じメーカーの奴。
無論、ジョークアダルトグッズである。
大好評につきアニマルディルドも販売された。
古来より、馬のチンチンは最強と畏怖されており、古事記にも書いてある。
何処ぞの魔王の息子もその存在を付けたゾンビに対して恐れたとか。

・悪魔の様な左腕
原作、2020におけるジョニーの言動のやばさの原因として擦り付けられている存在。
ぶっちゃけるとジョニーは既にサイバーサイコでありながら、俺が悪いんじゃない、俺の左腕が勝手に! と自身の左腕のせいにして責任逃れをしたりしている。
ただ、あながち間違ってはおらず、ジョニーのサイバーサイコシスの原因は左腕に移植したシルバーハンドだからだ。
原作Vが色々とインプラントしてもサイバーサイコシスに発症しないのは、既にサイバーサイコであるジョニーが入っていると言うのが濃厚である。
既にサイバーサイコなので、サイバーサイコになる事はできない、みたいなニュアンスだと思われる。

・デラマンの不貞寝
ジャグラくんちゃんのベッドに潜り込んで数秒で穏やかな顔になり、すやぁ(スリープモード)した。
こっそりとジャグラくんちゃんのパソコンにある半世紀前の日本のPCゲームのサルベージ品をプレイしており、非常に多様的で個性的な知識を手に入れている。
PCゲーム(意味深
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