Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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四十四話

 俺には好きな人が居る。

 その人は、男勝りと言うよりも女の子の身体に男の子が入っているかのような人だった。

 男の子と言うには女らしくて、女の子と言うには男らしくて、どちらにも偏っていない天秤の様な人だった。

 きっかけは、いつだっただろうか、いや、今でも鮮明に思い出せる。

 俺に向かってはにかむようにして美人な顔から生じた可愛い笑顔に胸をやられたんだ。

 その人は、俺にとっての恩人でもある。

 底辺でありながらトップカーストのアカデミーに通っていた俺に待ち受けていたのは、どうしようもない理由の差別と理不尽な虐めの日々だった。

 やり返してしまえば楽になれたが母さんの頑張りを否定するようなもので耐え忍ぶ事しかできなかった。

 その人と出会うまでは。

 俺にお金をくれた、同情ではなく対等な給金と言う形で。

 俺に理由をくれた、強く無ければ生きていけない世界なのだと。

 俺に力をくれた、背骨に移植されたこれで何でもできた。

 なのに、君はそれ以上を求めなかった。

 所属しているギャングに入れとも、高価なテックの代金を払えとも言わなかった。

 

「困った奴が居るのに助けない理由なんてないだろ、それが友人なら尚更にな」

 

 その言葉にどれだけの衝撃を受けたと思っているんだ。

 俺は、俺は……、君に救われたんだ。

 だから、俺は君を救える俺になりたくなった。

 そしたら、君はサイバーパンクを学んで来いだなんてメインのところに俺を投げたっけ。

 そして、スパルタな依頼を投げて君は俺を試したよな。

 人を殺す覚悟があるか、だなんてサイバーパンクだなんてアウトローに憧れた俺に区切りを付けてくれた。

 態々自分を悪者にして、俺の心を軽くするために手配してくれたんだもんな。

 母さんを救う時に知ったつもりだったんだ、けれど、君はどうしようもなく醜くて汚くて悍ましい世界を俺に突き付けた。

 けどさ、そんな事は関係無いんだ。

 俺が、サイバーパンクになる事を君は喜んでくれていた。

 だからこそ、俺はサイバーパンクになったんだ。

 赤く染まる左目の反対側、肉眼である筈なのに濁った様な黒い瞳を晴らしてあげたいと思ったんだ。

 ……けれど、君はそれすらも許してくれないんだよな。

 

「……デイビッド?」

「ん? なんだ、ジャグラ」

「いや、何処か上の空の様に見えたんだが……、気のせいか、すまんな」

 

 いつだって君は俺の事を見ているのに、俺じゃない誰かを見ていたよな。

 その理由を聞こうだなんてできやしなかった、恐ろしかったんだ、今の俺が否定されてしまうんじゃないかと思ってしまって。

  ……それをどうにかしようとデートに誘ったのに、遊びに行こうだなんて日和ったし。

 …………挽回しようと思ってチームの奴らに聞いた場所はどれもこれも酷い場所だったし。

 ………………挙句の果てには結局ジャグラに先導される形になっちまったし。

 男らしさってどう学べば良いんだろうな、わかんねぇよ、誰か教えてくれよ。

 ちらりと隣を見やれば、流し目で俺の視線に気づいたようで小首を傾げるイケメンな女の子が居る、タスケテ。

 

「ぷっ、あはは、なんでそんなに緊張してるんだお前。オレとお前の仲だろうに」

「そりゃそうだが……、二人きりだなんて久しぶりだろ、調子が狂っちまってさ」

「ふむ……、そう言えばそうだな。……ふふふ、くふふ、駄目だ、笑えてくる」

「な、何が面白いんだよ……」

「いやなに、お前がオレの事を大好き過ぎるな、って思ってさ」

「あqwせdrftgyふじこlp;@:」

「……なんて?」

 

 こいつ、こいつぅっ!? 

 まさか、気付いてて今までその近さで接してたのか!?

 俺の気持ちを、恋心を知っているのにそれを弄んでたのか!?

 ……解釈一致だな、ジャグラらしいや、そっちの方が。

 

「なぁ、覚えてるかデイビッド。あの日、アラサカタワーの前で出会った時の事を」

「……覚えてるよ。小さい子がチンピラに囲まれてるから助けようと思ったんだ。まぁ、必要無かったけどな」

「あはは、そりゃそうだ。あの頃が一番オレは尖ってた頃だからな、今じゃこんなに丸くなっちまった」

 

 ……凹凸は変わって無さそうだが、なんて口にしたら殺されそうなので黙っておく。

 正直、俺の好みは出るとこ出ているムチムチボディだが、ジャグラには中身に惚れたので関係無いんだよな。

 ジャグラがどんな姿になったとしても、俺はきっとこの初恋を忘れられないし、諦めたくないと思ってしまうだろう。

 それぐらい俺にとってのジャグラは大きな存在になっていた、それこそ、命を賭けても良い程に。

 ……まぁ、下手するとジャグラの方が物理的に強い可能性が高いんだよなぁ。

 サイバーパンクとして依頼を受けて来て思ったが、モノワイヤーずる過ぎるんだよ。

 切ろうとすれば切れるし、受け止めようとしたら受け止めれるし、頑丈だから紐にもなるし、オプション次第で付与効果付けた上で伸ばして攻撃できるって破格だろ。

 ましてやジャグラの右腕にあるモノワイヤーは魔改造な代物で出力がやばい代物だし、貸して貰っている《白虎》ですら切り裂かれそうなんだよなぁ。

 受け止めれないから避けるしか無いんだが、紐状だから不可思議にしなってえぐいコースを描いて来るんだよな……。

 

「俺は今のジャグラの方が好きだけどな。前よりも明るくなったし」

「そうなのか? 自分では分からないな。まぁ、多分、人に囲まれる事が増えたからだろうな」

「デラマンじゃね、一番の理由」

「あぁ、かもな。あれが元は青白いのっぺら顔の堅物AIだったなんて誰が信じるんだってくらいにハジケちまったけどな」

「ハジケ過ぎだろ、生体ガイノイドになった挙句、何人居るんだよ」

「10+100+αってとこだな。便利だからって増やし過ぎた感はある」

 

 そんなに居たのかよデラマン。

 ケラケラと笑うジャグラだが、良い装備構えて百人以上居るってのは割と脅威だからな。

 時折ジャグラのナビゲートの声を聞きながら、車をバッドランズ南部へと走らせていく。

 H4メガビルディングが遠目に見えて、懐かしい生活を思い出す。

 ……カツオに出会したら鼻で笑って無視してやろーっと。

 治安の悪いパシフィカを迂回する形でバッドランズ南部へと辿り着き、大量のビニールハウスとドローン、そしてデラマンの子機が警備している場所が見えてきた。

 

「目的地はビニールハウス群の真ん中のコンテナだ。彼処が地下への入り口になってる。そのまま車で向かってくれ」

「了解」

 

 此処がナイトシティの食糧を支えているんだよな、しかも隣の少女が持ち主だ。

 新米サイバーパンクからそこそこのサイバーパンクになれた俺とは段違いの出世、出世で良いのか? 兎も角凄い事になっている事実に常識が焼かれる。

 アスファルト舗装された真新しい道を通ってコンテナに辿り着くと、長辺の側面が開いて上に持ち上がっていく。

 ……徹底してるなぁ。上から見えない様に工夫しているらしい。

 地下への下り坂が現れ、デラマンたちの一糸乱れぬ敬礼に見送られ、奥へと進んで行く。

 緩やかな螺旋状になっているようで十回程グルグルしてから、核シェルター並みの重厚な大型扉に出会した。

 入り口付近に待機していたデラマンがタッチパネルに触れると重々しい音を立てながら扉が開いて行く。

 

「……警備半端ないな」

「そりゃそうだ。クリニックのテックガレージで出来ない大きさの物を此処に運んでるからな。一応機密って奴だが、デイビッドになら見せても良いだろ。裏切る気無いだろ?」

「一ナノも無いな」

「そうやって即答してくれるから信頼してんだよ」

「……そーかい。てか、今のデラマン大丈夫なのか? あんな暗いとこを警備してるとか精神やられないか?」

 

 話題を変える為に先程チラリと居たデラマンを引き合いに出す。

 ジャグラはその意図が分かっているようでニマニマしながら説明してくれた。

 

「そもそもの勘違いをしてるみたいだから訂正すると、《デラマンズ》は胴体部分を生体化している奴とそうじゃ無いのが居る。今のところ九人が生体パーツ使ってて、残りは全て機械の身体だ」

「その《デラマンズ》ってのがあの子機なのか。あぁ、警備用ボットを可愛くしただけなのかアレ」

「まぁ、そう言う事だな。やっぱり見た目は大事だろ」

「角張った機械然としている奴よりかは見た目の圧迫感は無いな。メイド服とか着せて豪邸の警備に付けたら新しいサービスになりそうだな」

「デラマン警備サービス、か。確かに儲かるだろうが、オレに情報筒抜けになるのに雇う奴居るか?」

「視点の違いだな。今やジャグラはナイトシティの良心だなんて言われてるんだぞ? 逆に身の潔白の証明になるだろ」

「はぁ……? オレが? ナイトシティの良心? 何だそりゃ、平和ボケでもしてるのかよ。子飼いのチームに命じたキルスコア幾つになったと思ってんだ。一人殺せば殺人者、十人殺せば殺人鬼、百人殺せばテロリスト、千人殺せば英雄だ、ってかぁ?」

「自身に対する被虐が過ぎるだろ。バイオテクニカのやってた事業が丸っとデラマンの管理になって、どれだけ改善されたと思ってるんだ。殺した人数を数えるよりも、救った人の人数の方が多いに決まってんだろうに。もう少し自分を褒めてやれよ」

「……褒める、ねぇ。随分と昔過ぎて褒められた時の事忘れちまったよ」

 

 そういや、ジャグラの両親はもう亡くなってるんだっけ。

 去年に一緒に墓参りに行った覚えがあるな。

 ……よし、覚悟を決めろデイビッド。

 俺は意を決して右手をジャグラの頭に持って行き、不思議なくらいサラサラな短い髪を撫でた。

 撫でられたジャグラは野良猫みたいに目をパチクリしていたが、やがて瞑目して黙って撫でられ続けた。

 

「……嫌だったか?」

「いや、不思議と懐かしい気分だった。……父さんが生きてた頃を思い出したよ。何かと理由を付けては頭を撫でてくれる人だった。今思えば、それがあの人なりのスキンシップだったんだろうな……」

 

 消え入る様な声色で穏やかな表現を浮かべたジャグラがしおらしくて、庇護欲が込み上げてくる。

 この笑顔を護らねば、だなんて決意が胸に刻まれる。

 もう大丈夫だ、とそっと頭を捩ったのを機に右手を離す。

 ……両腕にゴリラアーム付けなくてほんと良かった。

 右手に残る柔らかくも暖かな感触を隠しつつハンドルを握り締めた。

 そして、少ししんみりとした雰囲気の中、ジャグラの誘導に従って車をゆっくりと進めていく。

 資材搬入口は別箇所にあるようで、誘導案内された場所はありきたりな駐車場だった。

 其処にクアドラを停車して外に出ると地下だからかひんやりとした空気が漂っていた。

 

「此処からは少し歩くぞ。まだ区画整備して打ちっぱだから見た目はアレだが、相当な広さで面白いだろ」

「これまだ完成じゃないのか?」

「最低限の配管しかしてないからな、空調と発電機はこさえたが、水回りと断熱がまだだ。流石に一ヶ月程度じゃ終わらなかったな」

「何処か業者を……入れてる訳ないか。めっちゃくちゃドローン……見た事ないのが飛んでるしな」

「あれは作業工作用ドローンだ。プロペラにジェネレーターと腕部だけの精密級、四脚ローラーに四腕の重量級、資材運搬用のレシプロドローン。そして細かい作業に《デラマンズ》。まぁ、オレが設計だけ引いてデラマンに投げて作って貰ってる訳だな。ぶっちゃけ、此処は産業施設じゃなくて趣味で作ってるし」

 

 趣味で大型地下工房か……、いったい何を作る気なのやら。

 基本的に廊下は高く広く作られており、巨大な壁とレールが敷かれていて運搬経路になっているようだ。

 壁の横に備え付けられた移動用足場に乗り、横に流れていく景色に少しわくわくしてきた。

 辿り着いた先に重厚なゲートがあり、もはや金庫の入口めいた光景だった。

 

「此処のパスワードは7083だ。なのはさんで覚えておけ」

「なんか思い入れが?」

「んー、アニメの主人公だな、好きだったんだ映画含めてな。中々サルベージできなくてなぁ。中古の外付けのHDD辺りを日本から買い付けて、手作業で中身を見てるんだが懐かしいゲームとかばっかりで漫画やアニメが見つからないんだよなぁ」

「随分とアナログなやり方だな……。と言うかジャグラのその半世紀前推しは何か理由があるのか?」

 

 俺の問いにジャグラは即答する事なく、逡巡して言葉を探している様だった。

 前にも似た様な素振りを見せた時があったな、確か、どうして俺をそこまで信じてくれるのか、と言う出会った当初の頃だった筈だ。

 

「……きっと、口にしちまえば楽になるんだがな。十三階段を登ってる気分だ、他殺めいていて自殺的な衝動に身を任せるべきか……、悩みものだな」

 

 そして、あの時と同じ様にはぐらかした。

 だが、あの日と違って分かりやすい嘘を吐かなかった。

 それを信頼の証として噛み締めて良いのか、俺には分からなかった。

 秘密はあるべきだ、無理矢理に暴かれるものでは無い。

 俺だってジャグラに知られたくない事幾つかあるしな。

 ……こっそりと寝顔を撮って、パスワード付きのフォルダに入れてあるのはマジでバレたくねぇなぁ。

 だからきっと、これで良かったんだ。

 ……其処に土足で上がり込んで勢い余って床を踏み抜いたら大惨事だろうからな。




【Tips】

・デイビッドの初恋
原作のデイビッドがサイバーパンクになる理由は、見たくもない目の前の現実と掛け離れた世界に逃げたかったからだった。
母親の死、ルーシーとの出会いを経て、足りなくなったものを埋めるためにチームの一員になった。
しかし、今作のデイビッドはジャグラくんちゃんに救われ、母親を亡くさず、欠けるどころかこれでもかと過保護に過積載されて満ち足りていた。
だからこそ、この溢れた気持ちをありがとうに乗せて返したかった。
……が、ジャグラくんちゃんが受け取り拒否したので拗れた。
ぜってぇーこの溢れる気持ちを受け取って貰うからな、と気持ちを握りしめていたら、いつの間にか形が変わっていた。
歪で繊細なハートマークを渡したいお年頃、可愛いね。
尚、レベッカたちの好意に気付いているが、ジャグラくんちゃんへの想いが段々と大きくなってしまい、やんわりと断っている。
……が、ジャグラくんちゃんとの会話で色々と学んだデイビッドのスパダリムーブや無邪気な男子ムーブに脳を焼かれて二人の恋心は拗れている。最近、共闘戦線を築いたとかなんとか。
 
・デラマンフードファクトリー地下
ジャグラくんちゃんの玩具箱になる予定地。
数キロに渡る巨大地下施設であり、掘り出した土砂から金属等を取り出して後々の資材に変換している。
基本的にエコ。ジャグラくんちゃんはこれをDIYのノリでやっている、とても楽しそう。

・ジャグラくんちゃんの半世紀前推し
言うまでもなくホームシックの様なスピリットシック、感傷である。
帰る事なんてできやしないのに、今の生活が殺伐とし過ぎて癒しを求めて足掻いてしまう。
ネットに直接繋いでいたものは軒並み死んでいるだろうから、外付けならワンチャンあるだろとガチャ感覚で漁っては消去データを復元している。
死んだらハードディスクを壊してくれ、だなんて遺言を残さなかった奴らの遺品ガチャ。

・リインカーズ・ギルト。
何処ぞのサバイバーズ・ギルトめいた精神疾患であり、転生者は軒並み先天的に得やすい。
原作がある世界なら尚更に発症率は高い。
原作を知っていたからできた事だ、と自身の功績に自信が持てず、卑下する傾向にある。
罪を告白し、罰を受けて楽になりたい気持ちから転生者COしがち。
ジャグラくんちゃんはしっかり発症済み。
デイビッドの存在は死の運命を覆して救えた功績にして象徴であり、彼が幸せであればある程に、許された気分になれる。
故に、ジャグラくんちゃんは近くにデイビッドを置きたがるのである、無意識に。
 
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