Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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四十五話

 けたたましい警報音と物々しい重量級の音を立てながらガチャガチャと開錠されていく様を見せ付けられた俺は、思わず拳を握り締めて固唾を飲み込んでいた。

 な、なんて格好良い開き方なんだ……っ!!

 先程までジャグラが発していた雰囲気を吹き飛ばす様なサプライズに俺の中の男心が拍手喝采を送っていた。

 隣を見やればジャグラが美人面で可愛いドヤ顔を晒しており、俺の反応を見てニッコニコだった。

 重い音を立てて開かれたゲートの先に通路があるようで、その先には部屋に取り付ける様なドアがあった。

 

「因みにヴィープ音とかって意味あんの?」

「無論、無い。格好良いかなっと思って付けただけだ。割とマジで何の意味も無い、ただの賑やかしだ。だが、良いだろ?」

「めっちゃくちゃ良かった。もっかい見せてくれ」

「ふふん、良いだろう良いだろう。閉まる時も格好良いんだぞぉ!」

 

 深夜テンションレベルでボルテージがぶち上がった俺たちは計五回も開け閉めを繰り返し、浪漫の一端を噛み締めていた。

 途中で何しに来たんだっけと正気に返らなきゃそのまま帰ってたところだったが。

 部屋の扉には施錠されていないようで先に歩いていたジャグラがドアノブをあっさりと開いて中へ俺を誘った。

 さぁ、何が出るのやら、とドキドキわくわくしながら扉をくぐると、そこには大型輸送トラック程はあろう巨大なエアリアル・ビークルらしき物体が鎮座していた。

 

「おぉー……、これは、エーヴィーか?」

「いいや、エアリアル・ビークルじゃない。少し惜しいな」

「ふむ、……変形する?」

「ドッキングはするが五つ揃って合体シーケンス処理をし始めたりはしないな」

「じゃあ、エーヴィーに取り付いて武装化するとか?」

「しないな、武装化自体はされているが外部パーツじゃない」

「んー、空は飛ぶだろうし……、海を潜れる?」

「これは潜れないな、別室に空陸海全様仕様のならある」

「じゃあ、これは宇宙のだったり?」

「ふふふ、正解だ。こいつはスターシップ。銀河系を旅する車両の雛形だ。中身はすっからかんで、ガワだけ造り込んである。ジェネレーターの開発が上手く行ってなくてな、半永久的に稼働する仕組みは流石に思いつかん」

 

 まさかのまさかだった。

 宇宙船だなんて浪漫の塊みたいなものを開発しているだなんて……。 

 こだわりを見せているディテールの造り込みもとてもよく、この剥き出しのパイプラインとかめっちゃ良い。

 見た感じ最新鋭の新進気鋭な宇宙船と言う訳ではなく、サイバーパンクらしいごてごてとした外装がまた目立つ。

 だが、それが良い! めっちゃくちゃ格好良い模型みたいなもんだが、すっげぇ浪漫に溢れている。

 

「いつか、銀河系をこれで遊泳して世界一周ならぬ銀河一周旅行をしてみたいな、と思ってるんだ。月やら火星やらにはもう誰かが足跡を付けたからな、足跡が何処にもない未知の星を見つけて、そこをテラフォーミングして拠点にするんだ。宇宙ステーション宜しく交流もできるようにしてな」

「それは……随分と浪漫に溢れた話だな」

「だろ。百年後の事を思い浮かべられるか? 今、この時代に宇宙船が一隻でもあれば、百年後に増えていない理由なんてない。オレが全ての始まりで、第一人者の名前として教科書に載っていたら最高だな。実に浪漫があるだろ?」

 

 スターシップと名付けられた船の前でジャグラは満面の笑みで俺に問い掛けた。

 俺は勿論だと頷いて即答し、それを聞いたジャグラは増々笑顔に華を咲かせた。

 その可愛らしい姿をずっと見ていたくて、意気揚々と設定を説明し始めるジャグラを眺める。

 

「宇宙世紀0079。ジオン公国の独立戦争で劣勢に陥った連邦軍は新鋭モビルスーツの開発を」

「待て待て待て、どっから出てきた宇宙世紀!? 何年後の話だよ!? 何処だよジオン公国!?」

「冗談だ、ロボットアニメの一話のあらすじだ。宇宙環境での生活に適応したニュータイプだなんて、百年後には本当に居るかもしれない。まぁ、サイバーパンクに解決されてるかもしれんが。クイックハックあるのにモビルスーツだなんて機械の塊に乗ったら鋼鉄の棺桶呼ばわりされそうだ」

 

 苦笑しつつジャグラはガンダムやらザクやらとモビルスーツと言う概念を教えてくれた。

 ……成程、巨大二足ロボットか……、浪漫だな……。

 ジャグラの発想の柔らかさはジャパニーズアニメーションが元になっているのかもしれないな。

 

「脊髄を改造して機体に直接接続する阿頼耶識システムなんてどうだろう。サンデヴィスタンの延長みたいなもんだ」

「速攻でサイバーサイコ化するだろそんなシステム……。入れ替えただけで発症リスクがあるってのに、直結なんてさせたら大変な事になるだろ」

「じゃあ、脳波で動かせるサイコミュシステムはどうだろう」

「戦闘中にそんな事してたら棒立ちにならないか?」

「先ずは訓練からだな……、と言う事でデイビッド、このデバイスを付けてくれ」

「もうあるのかよ……、行動力の化身かお前は。はいはい、テスターしますよ、博士」

「ふふふ、優秀な助手が居てくれて助かったよ、モルモ……おっと」

「モルモットって言おうとしたか今っ!?」

 

 だなんて茶番も挟んで、前にデバイスをアップデートして貰った時の様にはしゃぐように遊び始めた。

 殺伐とした戦いの世界から離れて、のほほんと遊びに没頭できる時間に俺もジャグラも大はしゃぎだった。

 試作品のテスターをさせられたり、やけにリアルなコクピットを模したシミュレーションでバトルしたり、理想的なロボットとは何ぞやとリアル系とスーパー系で意見が激突したり、浪漫溢れる時間を過ごした。

 

「……腹減った」

「……忘れてたけど、今もう夜だもんな」

「よし、デイビッド、肉を食おう」

「何処かに食べに行くのか?」

「いいや、《機龍》経由で密輸入した天然の牛が居るから一頭転がして焼き肉パーティしようぜ。本当は繁殖用に買ったんだが、農場が未完成だから口減らしに減らさないといけないんだよな」

「……今、なんて?」

「ん? だから《機龍》経由で……、あっ」

 

 最近散々依頼でぶち殺した相手のスポンサーをやっていた事を知ってしまい、先程自身をナイトシティの良心だなんてと笑い飛ばしていた意味を察してしまった。

 てへぺろ、だなんて可愛い顔をされてしまったので俺は許してしまった。

 普段がクールなイケメン女子なので、お茶目なギャップ萌えは大量破壊兵器と言って過言では無い程の威力がある。

 

「と言うか、スポンサーしてるのに何でアラサカの依頼を受けてるんだ?」

「え? アラサカの依頼は実入りが良いからな、お前らを食わすためにも仕事を斡旋しなきゃだろ。正直、サブロウをぶち殺してくれた事であいつらの使い道はもう殆ど終わったようなもんだしなぁ」

「そんな理由で殺されてるのかよあいつら……」

 

 近くの休憩用のスペースに移り、別室の物置から色々と運び出す。

 折り畳みの机と椅子を用意しながら、サイバーパンクの業の深さと儚さを噛み締める。

 携帯コンロに鉄板を乗せて机の真ん中に設置し、デラマンたちが無言で持ってきてくれた皿や箸、タレなどを配膳する。

 そして、ジャグラが徐に右手を上げてフィンガースナップすると、左右からデデドンッと大皿が置かれ艶々とした赤くてピンク色な薄い何かが置かれた。

 

「ジャグラ、これは?」

「何って肉だよ、牛肉。新鮮な生の天然肉だ。市販の肉もどきとは比べ物にならないくらい美味いぞ」

「マジかよ、初めて見た……。これが肉……、牛肉って事はウシって言う家畜の奴だよな。実在したのか……」

「海外では割と居るらしいぞ。ただ、餌代に金が掛かるから富裕層向けのファームとかだが。盗まれない様に要塞化されてて見た目プリズンらしいぞ」

「へぇ……、少し見てみたいな」

「海外に遊びに行く予定があれば行ってみるか。さて、主役の白米も来たし、焼くか……っ!」

 

 ジャグラはコンロに火をつけ、四角い脂を焼きながら全体に塗りつけた。

 そして、艶々した牛肉を鉄板に横たわらせると段々と美味そうな匂いが漂い始めた。

 ……やばいな、肉の焼ける匂いもそうだが、目の前に座っているジャグラの興奮して火照った色っぽい顔がやばい。

 なんつーエロい顔してんだこいつ……。

 思わず光学インプラントのカメラ機能を使用した。

 それを察知したのかジャグラが顔を上げて此方を見たが、焼いた肉を撮っているのに巻き込まれたと勘違いしたのか、したり顔で頷いて視線を戻した。

 ジャグラがトングで肉をひっくり返すと凶悪な一面を晒した。

 お互いに顔を見合わせて、良い感じに焼けた肉をタレを使わずにそのまま口に運ぶ。

 もっちゃりとした感触なんで其処には無く、あっさりと歯で噛み切れる様な柔らかさと語彙を失う様な旨味があった。

 二人して黙々と肉を焼いては白米と食べ、時折サラダとキンキンに冷えたビールを挟んで堪能しまくった。

 

「へへ、因みにこれ、コーポな富裕層でも食べられる奴が限られるレベルだからな」

「マジかよ……。俺ら今カーストトップの食事してるのかよ……」

「安心しろ、後でお土産に牛肉包んでやるからな」

「ありがとうジャグラ……! 母さん喜ぶだろうなぁ」

「ただ、これのデメリットが一つあってな」

「……嫌な予感がするんだが」

「一度食べると自分の中の美味しい物ランキングが軒並み圏外になる」

「……あ゛っ、マジじゃん、今後一生これと比較して食わなきゃなんねぇのかよ……」

 

 本気で頭を抱えた俺にジャグラはふっと笑い、ゆっくりと親指を上げてサムズアップした。

 

「言ったろ、繁殖用の一匹を使っただけだって。今後こっそりと増やして毎日豪勢な焼肉できるくらいにする予定だ」

「一生ついて行くわ」

「うむ、末長く頼むぞ頼れる助手君よ」

 

 ふへへ、と二人して悪い顔で笑う。

 お腹がいっぱいになり、ビールも飲んだ事で頭がふわふわし始める。

 それはジャグラも同じだった様でデラマンに後片付けを投げて、仮眠室と書かれた場所にふらふらと歩いて行き、俺を手招きした。

 

「此処掘る途中で温泉も掘り当てたんで、掛け流しのお風呂を設置してあるんだ。試しに入ったが、温泉は良いぞぉデイビッド」

「へぇー、そんなのもあるのか。凄いな此処」

「もう眠いし今日は此処に泊まって明日帰るぞ。ふぁぁ、ねっみ……、ほらさっさと入って寝るぞー……」

 

 ……ジャグラもしや酒に弱い?

 酒弱な証である赤ら顔を晒してふわっふわな口調からしてガチ酔いをキメてらっしゃる。

 しかも、……手を握られたんだが、引っ張られて風呂に連れて行かれているんだが、もしや一緒に入ろうとしてらっしゃる???

 

「よくそーはなー、ひのきだぞーひのきー。いいにおいでなー……」

 

 舌ったらずな口調で説明してくれたジャグラはもう今にも寝そうな顔でとろんと瞳を溶かしており、普段のギャップとは違った新たな一面を知れてしまった。

 ……据え膳食わぬは男の恥と言うが、これはアウトでは?

 溺れられると困るし、見守った方が良いな……。

 理性の奥から本能が鉄格子を掴んで叫んでいるが見ないふりをした。

 そんな形で結ばれてもなぁ……、ジャグラの内面に惚れた事もあって色々と反すると言うか……。

 だなんて考え込んでいたらデラマンが水着を持って来てくれていた。

 助かった、と思うべきか、惜しい事をした、と嘆くべきか、それが問題だ。

 デラマンたちの身体で遮られる形で仕切りが出来たので、木製の棚に脱いでトランクス型の水着を履く。

 振り向いて見れば、ぽわぽわ顔なジャグラがスポブラとスパッツめいたスイムウェアに着替えていた。

 ……真っ白な肌が眩しくて目が焼かれる。

 あまり見ているのも悪いので、その小さな掌を手に取ってエスコートの真似事をーー。

 

「んとと、あっぶね……」

 

 ふらっと倒れ掛けたジャグラは俺の右腕をギュッと抱き締める型で体勢を直した。

 小さくも柔らかな感触が薄い水着越しに感じてしまい、下半身に血が巡る感覚が走った。

 ……ジャグラの視線に入らぬ様に半身になって、奥歯を噛み締めて理性を保った。

 危なかった……、前にレベッカが似た様なハニトラ仕掛けて来た経験が無ければやらかしていたかもしれない。

 

「ほら、デイビッド、いくぞ」

「あ、あぁ、足を滑らせない様にな」

 

 ……保ってくれよ俺の理性ーーッ!!




【Tips】

・スターシップ・ビークル(SV)
ジャグラくんちゃんがこっそりと建造していたやべーもの。
原作云々の繋がりも要因も何も無く、ただ、純粋に作りたかったから作った代物。
サイバーパンクはもうお腹いっぱいだからサイエンス・フィクション(SF)でも摘まんでおくか、ぐらいのノリで作られている。
作って八割くらい満足したので、今度は見せる事で二割の満足を得ようと画策し、デイビッドが連れて来られた。

・焼肉
焼肉を食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。
だなんてセリフが聞こえてきそうな程に食べて飲んだ。
割と長々と食べ飲みしたのでジャグラくんちゃんは完全に酔い潰れた。

・据え膳食わぬは……
この後普通に温泉を楽しんでから仮眠室の畳に敷かれたふかふか布団でぐっすりと寝た。
朝、目を覚ましたデイビッドは、隣の布団に居る目眠れる美少女の寝顔に見惚れて、起き上がる意思を砕かれた。
結局朝帰りでは無く昼頃の帰宅になり、二人の様子が変わっていない事から色々と察せられた。
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