Hello,Goodbye,Night City‼   作:不落八十八

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四十六話

 二階のオフィスで俺はデイビッドと向かい合う様にして座っていた。

 重苦しい雰囲気の中、俺は意を決して口にした。

 

「夜にデートに誘って昼に帰って来たのに成果無しってマジ?」

「……マジだよ、クソが。酒に酔って前後不覚のジャグラに手を出せるか馬鹿野郎っ!」

「あー……、なら、しゃーないな」

「……うん」

 

 朝帰りどころか昼帰りを果たしたデイビッドに激励と茶化しをしてやろうとしていたのに、死んだ目でソファに項垂れる姿を見てまさかやらかしたか、と相談に乗ったのが先程の事だ。

 下でリトルボスは満員御礼なクリニックの客を片付けている真っ最中であり、普段のそれと変わらなかったし、デイビッドへの態度も特段変わり無いので皆して首を傾げたものだ。

 まさか、なんにもなかったとはなぁ。

 いやまぁ、今の叫びを聞いて改めて思ったが、こいつの恋愛感が純情過ぎるんだが。

 

「……はぁ。あぁ、そうだった。アンタにジャグラから伝言を預かってる。エヴリンの確保ご苦労様、ジュディのところで依頼の裏にいた奴との会話をBDに焼いて貰え、だってさ」

「いっつも思うが、リトルボスって未来予知でもしてるのか? どれもこれも用意周到と言うか、先を見て必要な物を御膳立てされてるっつーか……」

「あー……、それな。昨日焼肉してる時に聞いたんだが、未来を知るためには二種類あって、一つは予測、もう一つは傾向なんだってさ。予測は事実を全て並べ立てて線を引けば自ずと分かり、傾向は起き得る全てにメタを張ってその場の最善を掴むだけ、らしい。ジャグラは両方で、傾向した後に予測で選択肢を減らして先手と後手を同時に打って誘導するって言ってた」

「第三の方法あるじゃねーか……。資本とデラマンを握ってるリトルボスだからこそ出来る遣り方だな……」

「ははは……、まぁジャグラだし。そんで、これが渡されてるブツな。ケースの中にはエヴリンのサイバーウェア一式と請求書のチップが入ってる。一応支払いはエヴリン名義だけど、誰が支払っても良いってさ」

 

 ……サイバーウェア一式って言ったか今?

 恐る恐るケースを開いて見れば緩衝材に守られたサイバーウェアが鎮座していた。隣には決済用の振り込みチップがあり、中身を確かめて見れば三万エディーの支払いとサイバーウェアのリストが記載されていた。

 

「サイバーウェアが此処にあるって事はエヴリンは今どうなってるんだ?」

「昨日昼に帰ってからジャグラが総取り替えしてたな。それ、デーモンに侵されてたらしくて、既に除去済みだけど壊れて摩耗してるから付けてても仕方がないだろってさ。取り替えたリストも入ってて、支払い拒否するならロハでその汚染ウェア入れ直してやるって言ってた。絶対におすすめしないけどな、なんて言ってたからマジで止めた方が良いぜ」

「って事は健康体な訳か?」

「おいおい、忘れたのかよ。ジャグラは脳と薬物だけは……あー、バイオテクニカ製ならワンチャンあるか。集中治療状態で既に処置済み、フラットラインから戻って来れるかはそいつ次第だとよ。大分無茶なもんを打たされたみたいだな、顰めっ面してたよ。あ、ジュディって人なら面会を許してるらしいから伝えてあげたら?」

「そうだな……。直ぐに死ぬリスクは無いって感じではあるのか。ならまぁ、概ね依頼は成功か」

「あー……、そう言えば保護依頼だっけ。なら成功で良いんじゃ? 死んでないし、治療も済んでて時間が解決してくれる問題程度だし」

「……それもそうだな。あの状況で生きてるだけ温情か……」

「助けに行った依頼で、そいつが依頼受ける前に殺されてバラされてたなんてよくある話だしな」

「だな。ああ言うの依頼人に伝える時めっちゃしんどいんだが、リトルボスが死亡推定時刻と死因の診断書を用意してくれてるから許されてる感はあるよ」

「だよなー。だから事あるごとにデータ引っこ抜いて来いって付け加えてるし」

 

 デイビッドからの言伝でエヴリンの容態は大体知れた。

 取り敢えずこれを届けてくれば今回の件は終わりだな。

 ケースを持とうと手を伸ばしたら横合いから白魚の様な指が先にケースの取手を掴んでいた。

 隣を見遣ればヴァリーが居り、俺の代わりに行ってくれるらしかった。

 

「傷心中の女の子に貴方は激毒よ。私が穏便に伝えてくるから別アプローチの方をやりなさいな」

「良いのか? 今回の結果は最悪では無かったけど、伝えるの大分辛いぞ?」

「分かってるわよ、だから同性の私が行くんでしょうが。異性には見られたくない顔もあるのよ女性には。デイビッドくん、話はそれで終わり? 他にもあるかしら?」

「えぇーと、いや、さっきので全部だな。記憶インプラントからBDを取り出すのを忘れずに、それが本来の目的だからな。最後の念押しも確かに伝えたからな」

「ありがとう。それじゃ、行ってくるわ」

「あぁ、宜しく頼むよ。任せた」

「えぇ、これぐらいはしなきゃ給料泥棒よ」

 

 そういや、発電所じゃヴァリーは殆ど活躍してなかったな。

 前衛の俺らが強すぎたってのもあるが、ヴァリーは運転手がメインだからなぁ。

 つい心配になって視線を向けたら、茶目っ気のあるウインクを返されてしまった。

 ……はは、うら若き乙女の慰めは大人のお姉さんに任せるか。

 さて、次のプランか……。

 

「次ってーと、ヨリノブを追うか開発者を追うかだったな。ヨリノブの行方はマジで分からんが、《機龍》が関係してそうではあるよな」

「あぁ、デラマンが《機龍》の工作員を見た時に言ってたしな」

「あー……《機龍》の方は俺が行こうか?」

 

 対面のデイビッドが何処か疲れた様子で言ってくれた。

 だが、デイビッドは《エッジランナーズ》の所属じゃないのか? 勝手に決めて良いんだろうか。

 だなんて此方の疑問を察したのか、苦笑いで言葉を続けた。

 

「勘違いされがちだけど、俺の肩書きってジャグラのリパ助手だからな。あっちのチームに入ってるのはサイバーパンク研修の……、あれ、この研修いつまでやるんだ? 大分サイバーパンクとして小慣れた覚えがあるんだが……」

 

 首を傾げたデイビッドが光学インプラントを瞬かせてホロを繋げたようだった。

 数十秒後に、疲れと呆れが混じった苦笑いを浮かべたデイビッドは止めた会話を続けた。

 

「あー、すっかり忘れてたらしい。今日付けで助手に戻ったから暇な時間なら動いて良いってさ。だから、ヴィット、《機龍》の件は俺が預かるよ。……いや、ほんと、俺が預かった方が良いと思う……」

「そ、そうか? なら頼めるか?」

「ああ、ヴィットに入ってるチップについて調べてくれば良いんだろ。ヨリノブ・アラサカがサブロウから盗んだチップで良かったよな?」

「ああ。一応サブロウ暗殺事件の一部始終を俺は見てるから、そっちの材料でも何かに使えると思う」

「映像残ってるんだっけ、貰っていいか?」

「勿論、サーシャ」

「はいはーい、送信完了だよ」

「ありがとサーシャ。……けどおすすめの店の恨み忘れてないからな」

「あ、あはは……。こうなる未来が見えてたらしなかったよ。デイビッドくんが純情少年だって事忘れてたよ、ごめんね。頑張ってね」

「……うす。まぁ、そう言う事で、ジャグラに色々聞いてから動くわ。じゃ」

 

 サーシャに揶揄われながら応援されたデイビッドは、そそくさとエレベーターでクリニックに降りて行った。

 あのリトルボスと昼帰りだもんなぁ。

 内容はまだ聞けてないが甘酸っぱい青春な感じが匂うし、良い酒の肴になりそうだ。

 

「さて、なら残るは……」

「《Relic》の開発者探しか。……誰だ? 確か公表はされてなかったよな」

「そうね……、調べてもアラサカ社生体部門としか出ないわね。案外、チップの側面に書いてあったりしないかしら」

「死ぬ覚悟で確かめろって? 無茶言うなよ。これは流石に取っ掛かりが無いな……。ん?」

 

 だなんて思っていると知らない番号からのホロコールが掛かってきた。

 取り敢えず出て見れば、あの時のサブロウの護衛をしていた日系の男の顔が映った。

 

『お前がヴィンセントだな。あの日、サブロウ様の暗殺事件の際に現場に居た事は分かっている。色々と聞きたい事がある、ヘイウッドのリトルチャイナにあるトムズ・ダイナーに来い。出来るだけ早く』

 

 そう伝えるだけ伝えてホロコールは切れた。

 ホロの履歴を見ればタケムラと書かれてあり、どうやらあの場に居た事がバレたらしい。

 ……え゛、タケムラ? あの警備主任のタケムラか!?

 工作部隊のオダと対を成す超人と噂のあのタケムラ?

 噂だけしか知らずに居た人物だが、もしも本当なら行かないとまずい。

 冷や汗ダラダラになった俺はジャックに経緯を説明してから足早にオフィスから出た。

 トムズ・ダイナーは俺が住んでいるメガビルディングから直ぐ其処の軽食屋だ。

 パンケーキが絶品でグルメ雑誌にも掲載経験のある場所だ。

 成る程、確かにそんなところにコーポの人間が居るだなんて思わないだろう。

 昼前で客席もまばらなトムズ・ダイナーに辿り着くと奥の席に、その見覚えのある人物が居た。

 ……特盛のパンケーキの前に。

 一口食べては頷いて大分お気に召した様子に、店主も腕を組んで静かに頷いていた。

 そして、俺の視線に気付いたのか、すっと右腕が上げられた。

 ……やっぱりお前がタケムラだよなぁ、そっかぁ。

 疲れてるのかな。

 ツワモノの老兵の様な渋さのある溜醤油顔の無骨な武士、それがタケムラの印象だった、だったんだがなぁ……。

 呼ばれてしまったので重い足取りで席に向かうと、顎で座る様に促されたので対面に座り込む。

 タケムラはパンケーキに向かう俺の視線に気付いたのか、ふっと笑みを作り、小皿に取って俺の前に置いてくれた。

 いや、催促したつもりは無いんだが……、いただくけども。

 

「すまないな、俺の方で時間を取れるのがこの時間だけだった。来てくれて感謝するぞ、ヴィンセント。そして、あの文言で来たと言う事はやはりあの左腕はお前の物だったようだな」

 

 ですよねー……、しっかりと残ってるからなぁ。

 しかもアラサカのマンティスブレード付きだ、バレない理由が無い。

 

「あぁ、ばっちり残ってるだろうから誤魔化しはしないよ。それで、アラサカから蹴落とされた元コーポのサイバーパンクに何の用だ? 依頼の話なら悪いがリトルボス、ジャグラ・カグラを経由してくれ」

「それは……そうだな。あの子はマサヒロさんの娘だ。そんな不義理な事はできんな」

「リトルボスの親父さんか。仲が良かったのか?」

「……先輩、後輩の関係だったな。部署は違えど、面倒を見て貰った事がある。事あるごとに愛娘の可愛さについて語っていた生粋の親馬鹿で、さり気無く誰かのフォローをするのにあれ程自然に出来る人は居なかった。……何せ、全身テックのアダム・スマッシャーの親友だ。表面からでは無く、内面から物事を理解しなければ友人関係なんて続きやしない」

「へぇ……、義理堅いんだなアンタ」

「……こほん、依頼内容はアンダース・ヘルマンの捜索、可能ならば確保も願いたい。奴は先の一件でヨリノブと共謀し、《Relic》を盗み出した余罪が判明した」

「余罪?」

 

 俺の問いにタケムラは眉を絞って忌々しそうに口を開いた。

 

「あぁ、あろう事にカン・タオに研究成果を売って、それを足掛かりに亡命を目論んだ。この件に関しては《アフターライフ》の女王、ローグに話を付けてある。お前には俺の代わりにローグから情報を受け取り、そのまま確保に向かって欲しい」

「他のフィクサーを挟むのか?」

「頼んだのは情報だけだ。確保までは依頼していない。今の内容でジャグラ殿に話を付けて欲しいが、構わんな?」

「あぁ、報酬額は直接交渉してくれ、それは俺の領分じゃない」

「あぁ、分かった。で、本題だが、あの件は《機龍》のテロだったと判明しているが、モニターの裏で何をしていたんだお前は」

「……ぁー、その、件の《Relic》を盗み出す様に依頼されていたんだ。ヨリノブの恋人のエヴリンに。彼女、高級ドールで其処から恋仲になったらしいが、裏で脅迫されていたみたいでな。その発端があの《Relic》らしくて、恋人が危ない目に遭って欲しくないから原因を取り除こうとしてたんだ。後はまぁ、あの通りだ。ヨリノブとサブロウの口喧嘩の後に、《機龍》がガトリングを掃射して、俺は左腕を失いながら逃げたんだ。二人の安否は確かめてない、お前らがエレベーターで登って来てたからな」

「……それだけか? お前が《機龍》に属していて、お二人を亡き者にするために……、いや、筋が通らないか、要らん言い掛かりだったな、すまない」

「受け取るよ。それに、俺はリトルボスの子飼いだぜ? んな事してたら殺されてるよ、バラバラにな」

「……お前らの存在がジャグラ殿に悪影響を齎してるんじゃなかろうな」

「勘弁してくれ、俺らは子飼いチーム二号だぞ、一号チームに言ってくれそれは」

「……そもそもタイガークロウズとやらの影響が強いか。……先輩の忘れ形見であるジャグラ殿に免じて、お前の居た痕跡は俺で止めておく。感謝しておけ」

「肝に銘じておく。先ずはローグとやらの所に行けば良いんだな?」

「あぁ、このクレジットチップを渡せ。俺の名を出し、ヘルマンの行方を追ってくれ。頼んだぞ」

「あぁ、リトルボスにも宜しく言っておくよ。それと、ご馳走様」

 

 絶品なパンケーキの礼も言ってその場を去る。

 トムズ・ダイナーから少し離れた場所で、壁を背に付けてずるずるとしゃがみ込む。

 くっそ緊張した、問答無用で黒い車に連れ込まれるかと思っていたが、リトルボス様々だ。

 ……いや、あの暗殺からサブロウを守れなかった事で警備主任の座から落ちている可能性はあるか。

 そうなると降格してから、先の一件についての追求の手足になっていると見るべきだな。

 となると、この依頼の成果でタケムラの今後を左右しかねない、か。

 ……失敗したら追手に殺される前に俺を殺しに来そうだな。

 頑張って成功させないとだな……、チームに共有するか。

 運の良い事に《Relic》に関する事柄に触れられる良い機会だ、情報をすっぱ抜いて足しにしなきゃな。




【Tips】

・何の成果も得られ(ry
ヴィット視点ではそうだが、思春期なデイビッド視点ではてんこ盛りであるのは言うまでもない。
主にジャグラくんちゃん画像に秘蔵物が増えた。
辛い時に眺めると幸福感をキメれるとかなんとか。
好きな子が弱っている時に手を出すのは同人誌だけの世界である事を忘れてはならない。
相手に好感情が無い限りレレレである、つまりウッドマンと同じである、悔い改めて。

・ジュディのアフターケア
カモがネギと昆布と肉と野菜を持って行ったようなものである。
異性に対しての煽りムーブは得意なヴァリーだが、同性に対しては……フヘヘ。
もっとも、原作ではこのタイミングでロマンスは入らないので今作も入らない。
しかし、ジュディにロックオンされたのは言うまでもない(キマシタワー

・パンケーキ好きのタケムラさん
この人、ナイトシティの美食ガイド買う程のグルメなんすよ。
ぶっちゃけ、タケムラルートが無いとヘルマンに繋がらないので、突貫工事です。
今作のタケムラは、ヴィットに対し、アラサカのマンティスブレードを付けていた事(過去に社員だった経験有)、ジャグラの子飼いである事(九割此処で信用)、美味しいパンケーキを食べていた事(残りの一割)のお蔭で好感的な感情を抱いています。
決して《機龍》の案件で日夜ドンパチしてて疲れ切っている時に甘い物を食べてリラックスしていたから許した訳では無い。
無いのである(念押し
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